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『僕もずっと好きでしたよ、神奈さんのことが』
桐生院神奈にとって、長年片思いをしていた婚約者の芦屋御幸にそう告白されたのは、まさに青天の霹靂ともいうべき出来事だった。
「落ち着いていて、おしとやかな女性が好み」と御幸が話しているのを耳にして以来、自分の本性をひた隠して、彼の理想の婚約者であるべく努力を続けてきた神奈。
会えない日々が続くと、自分の中の妄想を小説にして御幸補給するような「御幸オタク」の人間なのだが、そんな一面は一切見せることなく、エリート退魔師の名家である桐生院家の名に恥じない振る舞いを見せてきた。
ところが、先日の霊力測定会でのトラブルにより、自分を偽ることをやめ婚約破棄を申し出たら、何やらかんやらあり、御幸と晴れて両想いになって今に至る。
「……人生とは、何が起きるか分からないものですわね」
神奈が顎に手を当て、そんなことを呟いていると、「先輩、何黄昏れてるんですか!」と横からツッコミが飛んできた。
隣を見れば、同僚の退魔師、朝霞夏樹が魔鬼相手に刀を振るっているところだった。
黒の短髪に、くっきりとした二重瞼、通った鼻筋と整った顔立ちで、退魔師仲間や町娘からも評判の良い好青年。神奈と組んで、街の巡回をすることが多い相棒だ。
周囲にいた一般市民は、すでに安全なところへ避難するように伝えており、ここには敵である魔鬼一体、そして神奈と夏樹の二人だけである。
「そっちの討伐が終わってるなら、こっちの助太刀も頼みますよ!」
力で押してくる魔鬼相手に、やや押され気味の夏樹。そんな後輩に「仕方ないですわね」と言いながら刀を払って近づいた後、神奈はばさりと一閃。一瞬で、魔鬼を殲滅させてしまった。
「……いつも思いますけど、桐生院先輩って最強っスね」
「桐生院家の退魔師たるもの、この程度の魔鬼で怯むようでは務まりませんもの」
「先輩の実家、どんだけ無双なんですか……」
そんなやりとりを夏樹としつつ、神奈は残存する魔鬼がいないかと周囲に目を光らせたが、不気味な影はもうあらず。ほっと胸を撫で下ろして、刀を鞘にしまったのだった。




