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「『もう限界』『あなたの隣にはいられない』と言われたときは、まさか他に好きな男でもできたのかと気が気じゃありませんでしたが、神奈さんも僕と同じ気持ちで安心しました」
ぎゅうぎゅうと自分を抱きしめたまま、弾んだ声でそう言った御幸に、ぽかんとする神奈。
「ちなみに、先ほどの霊力測定は機械に不備があったらしく、絶賛審議が行われている最中です。まあ、僕は神奈さんの霊力があんな格下に劣るわけがないと思っていましたが」
「そ、そうだったのですか……?」
予想外の展開に、いまだ頭がついていかない。
「そんな女性だったなんて」と失望され、ドン引きされることを覚悟して胸の内を曝け出したのに、想像していた反応と随分異なり神奈は戸惑うばかりだった。
(聞き間違いでなければ、今『同じ気持ち』とおっしゃったわよね……? え……?)
すると、体を少し離した御幸と至近距離で目が合った。澄んだ切れ長の瞳は甘やかで、自然と神奈の頬が赤く染まっていく。自分を愛おしそうに見つめながら、すりと頬を撫でる御幸に、ますます胸の高鳴りが激しくなった。
「僕もずっと好きでしたよ、神奈さんのことが」
そう言って、にこりと微笑まれた瞬間、神奈は両手で鼻を抑えながら「なぜですか?!」と一歩後ずさる。
「昔、ご令嬢たちに好みの女性はと聞かれたとき、落ち着きがあって、おしとやかな方が理想だとおっしゃっていたではないですか?! 赤面して鼻血を垂れ流すような女のどこか、おしとやかなんです?!」
神奈の言葉に、御幸はくすくすと笑いながら「あれは虫よけですよ、虫よけ」と言う。
「む、虫よけ……?!」
「周りがうるさいものですから、つきまとわれないようにそう言っただけで本心ではありません。貴女があまりにもそっけないので、僕の方こそ嫌われているのでは、と思っていたのですが」
「そんなこと……え、だ、だったら、御幸様の本当の好みは──」
と、言いかけたところで御幸がまた近づいて、神奈の唇をすっと指でなぞる。
「僕の好みの女性は、最初から貴女でしたよ……神奈さん」
爆発的な色香を纏うその姿に、赤面した神奈は「%$€°〆……っ?!」と、再び鼻を抑える羽目になった。
「……ようやく貴女と心が通じ合っていると分かったんです。これからは容赦なく、行かせてもらいますよ?」
妖艶な笑みを浮かべながら、「容赦なく」などと物騒なことをいう麗しき婚約者。それから上目遣いで、手の甲に口づけ落とされた瞬間、神奈が卒倒したのは言うまでもないだろう。
こうして月灯りの下、赤い薔薇に囲まれた庭園で、その美貌の男は彼女への執着心を隠そうともせず、愛しの婚約者に宣戦布告したのだった。




