第35話「それでも、僕たちは陰を背負って立つ」
発令所は静まり返っていた。
システムは沈黙している。上層部は出撃を命じていない。
だが、歩夢たちは勝手に機体に乗り込んでいた。
「起動コード入力完了。……おい、マジでやるのかよ」
整備班が呆れる声を漏らす。
「命令違反ね。いいわ、どこまでやれるか見せてもらいましょう」
教官・葉月は肩をすくめながら、誰よりも早く起動シーケンスにアクセスしていた。
敵――《グラン・ヌル》。
ヌル群の中心核より派生した、“絶望の演算体”。
あらゆる感情共鳴を反転・吸収し、攻撃に転化する能力を持つ。
「感情なんか、武器にならないんだよ」
敵が発する擬似音声は、まるでかつての歩夢自身の言葉だった。
出撃直前、歩夢はコクピットの中で目を閉じる。
かつてのような“自己否定の渦”はもうない。
ただそこにあるのは、「自分の弱さを、もう否定しない」という覚悟だった。
歩夢:「自己否定は、動力だった。けど今は違う」
歩夢:「俺は俺のままで、前に進む。
そのために、今だけでも“後ろ向きなまま”でいい──!」
その言葉とともに、五機の人型決戦兵器が、同時に光を放った。
新共鳴モード:
《リカレント・リンク》――悲しみと希望の両立を基盤とする、反転共鳴の安定形態。
五色の脈動が空中で重なり、光と影が共にあるリング状のフィールドを形成。
《グラン・ヌル》の干渉波が入り込むたび、それを“歪み”として受け流し、逆に反転させる。
凪沙:「あんたの“全部ダメだ”って声、もう聞き飽きた」
瑠璃:「うちら、ダメなままでも、ちゃんと前向いてんだよ!」
カナタ:「壊れてても、生きてる。……それが、今の僕たちだ」
透:「矛盾こそ、人間の証明だ」
そして、歩夢が静かに言う。
「俺たちは、陰を背負って立ってる。
その重さごと……未来を、睨んでるんだよ」
五機、同時共鳴最大解放。
《グラン・ヌル》のコアに、“否定を否定する”共鳴波が叩き込まれる。
機体の内部温度が警告域に達するが、誰も止まらない。
最後に歩夢が叫ぶ。
「これが、俺たちの“今”だ――!」
爆発的な共鳴の閃光の中、《グラン・ヌル》は消滅。
だがその場に立つ彼らの姿は、倒れもせず、歪みもせず──
ただ、立っていた。
戦闘後。格納庫。
歩夢たちは無言のまま、背中合わせに座り込んでいる。
「……また、やっちゃったな」
瑠璃がぽつりとこぼし、カナタが微笑んだ。
「でも、ちゃんと“自分で選んだ”よ。……それだけで、十分だ」
凪沙は小さくつぶやいた。
「私たち、もう“陰キャ”ってだけじゃ動けないんだね……」
歩夢は、空を見上げるように言った。
「でも、陰を背負って生きることは、たぶん変わらない。
だったらその陰ごと、誰かを守れる力に変えたい。
それが……俺の選んだ“生き方”だから」




