第31話「透、決断する」
昼下がりの管制フロア。
訓練を終えた歩夢たちのチームは、それぞれ沈黙のままデブリーフィングに臨んでいた。
かつて感じた“陰の結束”──「負の感情でつながる」という奇妙な一体感──は、もはや薄れつつあった。
そんな空気の中、月丘透がぽつりと呟いた。
「今のチームは、“陰の結束”を失っている」
誰も、返さなかった。
凪沙が何か言いかけて口をつぐみ、瑠璃が眉をひそめ、カナタは笑わなかった。
透は、続ける。
「この機関の原理は、“絶望を燃料とする”システムだ。
感情が軟化すれば、出力は落ちる。変わろうとする限り、僕たちは“戦えない側”に落ちていく」
葉月が、珍しく言葉を選んで問いかけた。
「……では、どうするのが正解だと、あなたは思うの?」
透は、淡々と告げた。
「“生き残る”ためには、自分の心を完全に殺すしかない。
希望も、共鳴も、理解も、不要だ。
僕が先頭に立ち、すべてを排除して、従来型陰キャ戦術を純化する」
その言葉に、会議室の空気が一変する。
数日後、透を中核とした新チームの構築が発表された。
“第二世代陰キャ部隊”――コードネーム《イクリプス》。
選ばれたのは、かつてよりもさらに感情を欠落させた適性者たち。
歩夢は、訓練室でその情報を見つめていた。
隣には、凪沙が立っている。
「……あの人、本気だね」
「うん。たぶん、誰よりも」
凪沙がぽつりと言う。
「歩夢……もし、あたしが“変わったせいで戦えなくなる”としても、
それでも、一緒にいてくれる?」
歩夢は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「そのために、俺はここにいるんだと思う。
戦うためじゃなくて……変わるために」
その夜、歩夢は透を訪ねた。
格納庫の隅、エイドロスの前で、透は整備を見つめていた。
「……本当に、これでいいのか?」
「何が?」
「“それでも生きる”って感情を、切り捨ててまで、戦う意味があるのかって聞いてるんだ」
透は、しばらく黙ってから答えた。
「意味なんて、初めからなかった。
ただ、君たちがそれを望んだだけだ」
歩夢は、拳を握りしめた。
「……俺はもう、そんなの、認められない。
“死んだまま戦う人間”なんて、俺は望まない」
二人の視線が交差した。
何も言わなくても分かる、深くて遠い“断絶”。
翌朝、透の新型機が静かに搬入された。
その機体は、美しく、静かで、どこまでも“空っぽ”だった。
「これは兵器ではない」
「これは、生のふりをした死」
歩夢の記録ノートには、そう書かれていた。




