第30話「戦えない人間に、意味はあるのか」
訓練区域Bブロック。
今日の演習は、陰影機関の他部隊との合同訓練。
そこには、明るく快活な雰囲気を纏った“陽のチーム”がいた。
彼らは明確に異質だった。
発声が大きい。動きが鋭い。
そして何より、“自信を持っている”ことを隠さない。
「おーい、そっちのチーム、まだ準備できてないのかよ」
「やっぱ壊れてんな、“負の感情チーム”って」
「メンタル壊してまで兵器動かすとか、マジやばくね? 倫理感どうなってんだよ」
その瞬間、凪沙の顔が歪んだ。
バチン、と音がするように空気が張り詰める。
「……あんたたちに、何がわかるの?」
陽キャの一人が軽口を返す。
「え、なにキレてんの? 本当のこと言っただけだし?」
バンッと床を踏み鳴らし、凪沙が前に出た。
「壊れてんのはあんたたちの“共感力”でしょ。
人のこと“使い物にならない”ってラベル貼って、
自分の優位性確かめて、そんなの、ただの暴力じゃん……!」
歩夢が、彼女の肩を押さえた。
その表情は、怒りと迷いが混じっていた。
「俺たちは……“このままじゃダメだ”って、ちゃんと分かってるよ。
でも、“変わっちゃいけない”って強制されてるんだ。
負の感情がないと戦えない。でも、負の感情を手放すと戦えない……」
彼の声は、かすれた。
「そんなの……おかしいよ。おかしいだろ……」
陽キャの隊員は、言葉を失った。
笑っていた顔が、少しだけ引きつる。
沈黙の中、葉月の声が飛ぶ。
「訓練中止。状況が“感情干渉レベル3”を超えました。
双方、いったん冷却を──」
その夜、歩夢たちはそれぞれの個室に戻ったが、
どこかに共通した思いが渦巻いていた。
「壊れてるのは……本当に、俺たちだけなんだろうか?」
モニター越しに、陰影機関の幹部たちは議論していた。
「負の適性が崩れ始めている。兵器としての持続可能性に問題が出るかもしれん」
「いっそ、陽キャタイプとの融合型を模索するべきか」
「だが、“共鳴爆発”のリスクが高すぎる」
その中で、葉月はただ一言だけ、メモを残した。
「“戦えないこと”に意味を与えない限り、この子たちは……本当に壊れる」




