第29話「君の笑顔はもう見たくない」
模擬戦空域。
陽光の下、白銀に輝く機体《MD-Σ スマイルホロウ》が宙を舞う。
カナタの声が通信に入る。
「行こうっか☆みんな〜、今日も楽しくやっちゃおうよぉ〜♪」
その“声”に、歩夢は一瞬、眉をひそめた。
それは、いつものテンションとは少し……違っていた。
異様に明るい。軽すぎる。
そしてなにより──“無理をしている”のが見え透いていた。
作戦は順調に進むかに見えた。
だが、突如としてカナタのスマイルホロウが反転。
《味方認識:錯乱》
《破面モード:異常起動》
《誤射防止処理:無効》
機体が凪沙のMD-03をロックオンする。
「ッ、危ない──!」
回避が間に合わず、凪沙の機体が左腕を損傷。
通信が混線する中、凪沙が叫ぶ。
「やめてカナタ!! ふざけてんじゃないよ!!」
直後、カナタの機体が強制停止。
管制から命令が飛ぶ。
《スマイルホロウ:戦闘停止》
《パイロット・如月カナタ:戦線離脱命令》
《感情制御指数:過負荷域に到達》
帰還後、格納庫。
機体から降りたカナタは、まだ“笑っていた”。
しかし、その笑顔は……ひどく歪んでいた。
凪沙が歩み寄り、睨みつけるように言う。
「……あなた、もうやめたほうがいい。見てて、痛い」
カナタは首を傾げて、それでも笑った。
「だって、これしかないんだ。
こうしてないと、僕は……“僕”を保てないんだよ」
歩夢も言葉を失った。
カナタの笑顔が、もう「表情」ではなく「鎧」になっていることが、
痛いほど分かってしまったからだ。
診断室。
感情制御グラフは臨界レベルを示していた。
《擬陽性指数:108%》
《表情乖離率:98%》
《内部感情統合:崩壊寸前》
教官・葉月は冷静に言い放つ。
「彼の笑顔は、“破面”に入ってるわ。
もう、制御できない。今の状態では、味方を殺すだけ」
そして告げられる。
《如月カナタ、適性保留処分》
《無期限戦線離脱措置:開始》
その夜、個室に戻ったカナタは、
鏡の前でゆっくりと微笑みを作ってみた。
目元は動かなかった。
「ねえ……僕って、いま、どんな顔してる?」
誰も、答えなかった。




