第15話「それでも戦う理由」
午前4時、関東郊外。
深夜の街を覆う“気配”が、空間の輪郭をねじ曲げていた。
それは光でも熱でもなく、「存在しないはずの存在」が、そこに“侵入”している証。
「未明4時03分。Eブロックにヌル反応。種別コード:不確定。
避難完了率、64%。一般市民の取り残しあり」
葉月の声が冷たく響く中、4人のパイロットたちは、格納庫で待機していた。
「また……中途半端な時間に」
瑠璃がヘルメットを抱えたまま、ぼやく。
「もうちょっと寝たかったなぁ……戦ってるときのほうが楽って、どうなのよ」
凪沙は無言で機体へ向かう。
透は平然と歩み、まるで“死地に向かう”という意識がまったくない。
歩夢は、一歩だけ立ち止まった。
モニターに映る街の映像。夜のコンビニ。閉まらないシャッター。
逃げ遅れた数人の人影が、震えていた。
(俺が……行かなきゃ、あの人たち……)
拳を軽く握る。
「……それでも。今の俺には……ここしかないから」
自嘲でも、悲壮でもなく。
ただ、“他に行く場所がない”という事実だけが、彼の足を前に進ませた。
出撃。
MD-01 コクーン(歩夢)
MD-03 シラツユ(凪沙)
MD-04 グリムブレス(瑠璃)
MD-07 ヴォイドレイン(透)
4機、編隊モードで空へ。
《全共鳴モード:起動》
《感情リンク:同期率 81%》
《指令コード:防衛戦・都市領域L5》
現れた敵は、“領域型ヌル”。
空間そのものを蝕む、“形のない侵略”。
見た目はただの揺らぎ。
だがその内部では、すべてが“記憶の底”に引きずり込まれる。
「さあて、やりますかぁ」
瑠璃の声がヘルム越しに響く。
「歩夢くん、そっちは任せた! 私は右のへんな触手、ぶった斬ってくるから!」
「了解……頼んだ」
凪沙の声も乗る。
「私は……中核に近づく。あれ、止めないと……終わる」
「援護に入る」
透の声も、寸分の抑揚なく続いた。
4人の感情が──完全にリンクする。
そこにあったのは、友情でも希望でもない。
ただ、“ここでしか呼吸できない”という、個々の弱さの一致だった。
《レゾナンス状態:4体完全共振》
《コア接続率:97.4%》
《増幅開始──各自の負性因子を変換、エネルギーへ》
敵の咆哮。
空間がひび割れ、重力が歪む。
それに呼応して、機体が黒く発光。
「……俺なんかが守れるわけないって思ってる。
でも、それでも……今、俺はここにいる。
この手が、少しでも届くなら──それでいい!」
歩夢の叫びに、凪沙が答える。
「うるさい。でも、わかる」
瑠璃が笑う。
「私たち、ほんと最悪だね。でも、いいよね、それでも」
透が静かに言う。
「“意味がなくても行動できる”という事実だけが、存在の証明だ」
4機、突撃。
中心の“無”に、意思をぶつける。
《敵反応:崩壊開始》
《領域粒子:解除》
《人命確認:生存多数》
《ミッション:完了》
夜が明ける。
空は晴れていた。
だが、彼らの心は──まだ暗いままだった。
それでも。
「また……呼ばれたら来るよ。だって……それしかできないし」
歩夢のつぶやきは、
どこか、ささやかな決意のようでもあった。




