第16話「転校生の笑顔が怖い」
朝、ブリーフィングルーム。
いつもの灰色の空気を裂くように、明るい声が響いた。
「おはようございますっ! 今日からお世話になります、如月カナタですっ!」
その瞬間、室内の空気が凍った。
歩夢は、まばたきを忘れた。
凪沙は、視線をすぐにそらした。
瑠璃は、口角だけで笑った。
透は、まるでそこに人がいないかのように資料を見続けていた。
そのどれにも動じることなく、カナタはニコニコと笑っていた。
栗色の髪をゆるく結び、制服も着崩さず、姿勢もいい。
表情豊かで、声に抑揚があり、目をしっかり合わせて話す──
完璧な陽キャだった。
「いや、え、待って……」
瑠璃が珍しく小声で本気のトーンを漏らす。
「本物じゃん……。陽キャ、ついに機関に実装されたの……?」
凪沙は一切目を合わせようとしなかった。
それどころか、席を少しだけカナタから遠ざけていた。
「……無理。うるさい。まぶしい。生理的にキツい」
歩夢も、どこか落ち着かない気持ちで言葉を探していた。
「……なんで、ここに……? ていうか、ここって、そういう……場所じゃないだろ……?」
その疑問に、葉月教官が答える。
「検査の結果、如月カナタには“適性値”があったわ。
コア反応率は基準クリア、共鳴波形も合格」
凪沙が呟いた。
「嘘でしょ。あんな……まともな人が……“こっち側”なわけない……」
瑠璃は少しだけ笑ってみせた。
「いやでも、逆に怖くない? 笑顔の裏に“ガチの闇”持ってるパターンとか」
カナタは、それらの視線や空気をまったく悪意なく受け止めて、
明るく、自然に、こう言った。
「……うん、最初はちょっと怖いかなって思ったけど……
それでも、みんなと一緒に戦えたら、嬉しいなって思うよ♪」
その「♪」のついた言葉に、誰も返せなかった。
言葉じゃなくて、感情が追いつかなかった。
まるで異物のように明るい笑顔。
まるで別の世界から来たような“理解者”。
──怖いのは、拒絶ではなく、「受け入れようとしてくる」ことだった。
その夜。
モニター室にて、葉月が別の担当官と会話していた。
「如月カナタの精神評価、やはり数値が不安定ね。
“意識的ポジティブ”と“潜在的否定衝動”の乖離が大きすぎる」
「レゾナンス適性は本物ですが、極めて危険なタイプです。
“自己欺瞞型”──笑顔の裏に、誰も踏み込めない深い空白がある」
葉月は、意味ありげに言った。
「彼女の“陽”は、あまりに不自然。
たぶん──今いる誰より、壊れるのが早いわね」




