第14話「一人じゃなかった、でも」
朝。隔離された訓練居住区。
凪沙は、久しぶりに部屋のカーテンを開けた。
太陽は眩しくて、すぐ目を細めた。
でも、ほんの少しだけ──「誰かと話した昨日」を思い返していた。
歩夢も、今日の始業ミーティングの前に、
珍しく自分から瑠璃に声をかけていた。
「……おはよう」
「お、おはよ〜。……どしたの、急に陽キャモード?」
「……違うよ。ただ、なんか……朝、声かけたほうが、いいかなって」
歩夢は照れくさそうにうつむいた。
そんな些細な、誰も気にしないような変化が、
彼らにとっては**“自分以外の世界”と触れた証**だった。
だが、それは機関にとって異常値だった。
《適性変動報告:一ノ瀬歩夢 → コア同調率低下》
《鷹津凪沙 → 負性指数:減退傾向》
《原因:外部感情要因「安心」「帰属」》
《評価:戦闘適性 下方》
ブリーフィング室で、葉月が淡々と告げる。
「君たちの“成長”──それは、兵器としての“後退”を意味する」
モニターにはグラフが映し出されていた。
そこには、穏やかな曲線で下がっていく数値。
「友情、信頼、絆……そういうのが芽生えた瞬間、
この機体たちは“動かなくなる”。
なぜなら、君たちは負の感情でしか動かない構造だからよ」
凪沙が顔を伏せる。
「……バカみたい……誰かと話しただけで、戦えなくなるなんて……」
瑠璃は苦笑してみせた。
「ま、私たち、そういう欠陥品ってことでしょ」
そして歩夢は、小さく息を吸い、言った。
「……でも、それでも。
誰かと一緒にいたいって思った。それが……そんなに悪いことなのか?」
沈黙が落ちる。
葉月は無言で歩夢を見つめたあと、静かに言った。
「正しいかどうかなんて問題じゃない。
“戦えるかどうか”がすべてよ。
それが、今の世界で“君たちに与えられた役割”なの」
その瞬間、歩夢の心の中で、何かが少し軋んだ。
「じゃあ……俺が“幸せになったら”、この世界には必要ないってことか……」
それを聞いた凪沙が、小さく呟く。
「……そんなの、ひどいよ」
その夜。
訓練棟のベンチに、歩夢と凪沙が並んで座っていた。
無言。でも、静かに隣にいることが、少し救いだった。
「……俺さ」
歩夢が言う。
「……誰かに“いてくれてよかった”って、言われたことないんだ」
凪沙は、黙っていた。
けれど、そっと歩夢の袖を指先で引いた。
「私も。……たぶん、これからも言われないけど。
それでも、一緒にいるくらいは……してもいいよ」
その言葉は、優しさではなかった。
ただ、“少し壊れた者同士”が、
互いに“壊れることを許せる距離”にいる──それだけだった。
だが同時に、背後ではシステムアラートが鳴っていた。
《感情逸脱、傾向強化中》
《次回任務、精神干渉リスク:上昇》
《制御不能の可能性:レベル3→4》




