第12話「四人目の静寂」
夕刻。地下訓練区画、第七隔離ドーム。
月丘透の訓練記録が、次々とスクリーンに映し出されていた。
ターゲットロック:0.2秒。
反応速度:人間限界域ギリギリ。
感情干渉:極小。
副作用:精神共鳴“拒絶”特性。
「……数字だけ見れば、最強」
葉月教官がため息混じりに言った。
「ただし、彼には“自己保存の本能”が決定的に欠けてる。
彼が死ぬことを、彼自身がまったく重要視していない」
その証拠に、訓練中、透は幾度も“致命領域”に踏み込んでいた。
回避せず、避けず、ただ前に出る。
攻撃ではなく、“静かに破壊されること”を選んでいるような動きだった。
「……この人、怖い」
訓練記録を見ていた凪沙がぽつりと呟いた。
「なんか……なにも感じてないみたいで……
生きてるのに、生きてないみたい」
「……でも、俺も……一時期はああだった気がする」
歩夢が言った。
誰にも必要とされないと感じていた頃。
消えてもいいと本気で思っていた時期。
今、透の姿を見ていると、自分の過去を遠くから眺めているようだった。
「ふふ……」
瑠璃が笑った。だが、どこか虚ろな響きだった。
「……みんな違って、みんなやばいってことね。
一ノ瀬くんは無力型、凪沙ちゃんは拒絶型、私が演技型、で、彼が虚無型。
なんか、陰キャ界の属性図鑑でも作れそう」
誰も笑い返さなかった。
その日の夜、作戦室にて4人が集められた。
葉月がモニターの前に立ち、任務を告げる。
「本日深夜、太平洋プレート上にて大型ヌル反応を確認。
名前は《リグレット・ハウル》──共鳴型多層体。
あなたたち4人で、初の連携迎撃に当たってもらう」
任務コード:【G-04:負の四重奏】
誰も、派手に反応はしなかった。
ただ、透が一言だけ呟いた。
「壊すことに、意味はない。
でも──“残す価値があるのか”を、確かめることはできる」
歩夢はその言葉を受けて、静かにうなずいた。
「……俺は、いま、残ってることに……少しだけ意味があると思ってる。
だから、行くよ」
凪沙は一歩前に出て、
瑠璃は肩をすくめて、
そして4人は、出撃ゲートへと向かった。
静寂が、背中を押していた。
それは不安でもなく、勇気でもなく。
“どうせなら一緒に終わってみようか”という、ひとつの同意だった。




