19.それぞれの寮
「うわぁっ!ルーナ様と同じ部屋で過ごせるというだけでも嬉しいのに、こんなにお部屋が広いなんて学園寮は何て素晴らしいんでしょう!?」
廊下を進み、魔方陣を使いながら寮の5階の自室にやってきた。正直、部屋よりも階を上がるために使われる魔方陣のほうが個人的に気になる。
だって階段上ればいいところを魔方陣だよ?私、魔方陣を生で見たのは初めてだった。いや、正確には二回目かな?学園に来るとき通ったあの大きな門は魔方陣が関係してたみたいで、あれも一種のワープだ。それに比べてここの魔方陣はエレベーターのような感じ。ただ、少し浮遊感を感じるけど…。
「ほら、お嬢様!早く休みましょう!荷物はもう届いているので片付けますね」
「いいえ、一緒に片付けるわ。1人じゃ大変でしょ?それが終わったら一旦お風呂はいりましょ!」
アンナが絶賛する寮の部屋だが、アンナの言うとおり中々に豪華だった。寮で2人部屋と言えば二段ベッドだろうと勝手に想像していたが、全くもって違った。1つはダブルベッド、もう一つはシングルベッドとかなりしっかりしている。布団もしわ1つなく、もこもこだ。ベッドのサイズは公爵邸と比べると確かに小さいけど寝るぶんには問題ない。
更に部屋の一角は勉強のスペースになっており、机と椅子、それから棚が設けられていた。隣の部屋は洗面台に風呂場。また別の扉を開ければ物を収納する大きなクローゼットだった。前世と比べるとびっくらこく大きさのクローゼットだが記憶を思い出してから公爵邸で1年ぐらい過ごしたせいかだいぶ、ああこのぐらいかぁ。と、済ましてしまうほどに驚きが薄れている。
「お嬢様、この部屋って最高級部屋なんですかね?」
「最高級?部屋ってランクがあるの?」
アンナの質問に対し質問で返す。最高級って何だ。部屋が場所によって違うのか。
「寮棟や階層によって部屋が変わるそうですよ!成績で判断されて割り振られるって聞きました。部屋の移動は1学期末ごとにあるんだとか」
へぇ、ここは学園の校舎から近めにある5階。この寮は7階建てらしいし最高級の部屋って言うわけではなさそうだ。第一、入学試験何て私は受けていない。一般は受けて合格したら通えるらしい。けど、貴族は免除で入学が決まる。
そんな事全く知らなかった。生まれのところで判断してたんだ。それなら全員試験して実力あるものを集めればいいのに……。でも、それじゃあ文句を言ってくる奴がいるんだろうな。貴族ってそういうのうるさいから。
この学園もタダで動いているわけではない。やはり国や貴族の支援があってこそだ。
「ルーナ様なら直ぐに最上級まで上れます!」
「分からないわよ?すっごい賢い方がいらっしゃるこも知れないし、それに先輩方もいるでしょう?」
「確かに。でも、ルーナ様は本当に賢いですから」
プレッシャーをかけないで欲しい。確かにこの世界の知識は前世の地球と似たところが多くある。それに、公爵邸でも学んだため、多少は大丈夫だろう。でも、魔法になると話しは変わる。知識で理解出来ても実践する力がなければどうしようも出来ない。そこはセンスの問題だと思うけど。
ただ、私が魔法にかける興味はその程度ではない。なにがなんでも魔法を使えるようになる!そして前世では出来なかった青春を謳歌する!!
「ルーナ様、荷解き終わりました!入浴の準備を致しますね」
「ええ、ありがとう」
元々、アンナの荷物は少なく、私の荷物が多かった。流石は長年公爵邸で勤めてきたメイドなだけ合って手早くクローゼットに私の服を掛けていった。学園では基本制服だから私服は四着、念のためのドレスは二着しか持ってきていない。他には化粧品や下着類などでクローゼットの中は完璧に整えられている。私も一緒に片づけていたものの殆ど役立たずだった。
アンナは片付けが終わるやいなや足早に風呂場へいき、準備をしてくれている。寮の部屋1つに風呂ってどうなんだろうと今更ながら思ったが、もういいやと思考をやめた。いくら前世の知識と比べても圧倒的にこちらが凄いのだ。それに、ルーナとして生きていく中でこの世界のスケールの大きさは分かっているつもり。
じゃばじゃばと浴槽にお湯を溜める音が微かに耳まで届いたが私が行ったって出来ることはほぼない。逆に邪魔になりそうだ。それより、さっきアンナが言っていた事が気になるなぁ。先輩方がいるとはいえ、私も公爵家の1人。良い成績を残してこの学園を出たいという気持ちは少なからずある。それに、日頃のありがとうという気持ちも込めてアンナに良い部屋で過ごして貰いたい。勿論今も凄いけど…。
女子棟はさておき男子棟はどうなのかしら?一緒ぐらい豪華なのだろうか。男子が女子棟に来るのは禁止されているが女子が男子棟に行くのはオーケーだそうでレイト達を見に行こうと思えば行ける。流石に今日は私も疲れたし、レイト達も荷解きがあるだろうし行かないけど、暇ができたら行きたい。
「ルーナ様!用意出来ました!」
「はーい、一緒に入りましょう!」
アンナの呼びかけに返事をすると着替えを持ってお風呂へ小走りで行く。ホカホカとお湯を立てるお風呂からはハーブの香りがした。
「やっとついた……………………。」
廊下でポツリとルイスがそう零す。レイトやテスターは疲れ切った様子でアーサーは1人平然としている。
時はルーナ達と別れる頃に遡る。同期であるアンナの案内の元廊下を進んでいた俺達だったが急にアンナが別れを告げてルーナの手を引いて女子棟に進んでいった姿に呆然とした。だが、驚いたのはルーナもだったようでアンナの行動に目を大きく見開いていた。それでも別れ際にこちらを向いて手を振って声をかけてくれる優しさがともかく可愛かった。
そしてルーナが見えなくなったところでアーサーが地図を俺たちは持ってない事に気がついた。この学園はともかく広い。ぶらぶらと歩いていて目的の場所に着くようなところではない。それを知っていてアンナは俺たちに地図を渡さなかった。
「…アンナの奴……!」
俺たちの困る姿が見たかったんだろうな。自分は学園に通っている間、ルーナと一緒にいれる癖に!とかいう理由だろう。昔からルーナ一筋のアンナのことだから俺たちに嫉妬したんだろう。
まぁ、ルーナ一筋と言うなら俺も負けないけどな…!
「んで、どうする?」
「そうだな、誰か人でも見つけるか…?」
「校内にも地図があったと思いますよ!」
テスターの問いにレイトとアーサーが意見を出し合う。ルーナの前では大人しい坊ちゃんとテスターもルーナがいないとなると態度が一変する。テスターはルーナがいると少し精神的に幼く感じる。だが、中身はもう12歳。あのテスターでさえルーナの前ではころっとしてしまうのだ。
「あら、貴方達新入生?可愛いわね!女子棟になにか用事?」
そう言ってやって来たのは上級生と思われる女だった。4年生のようで制服の胸元のラインが青色だ。その女は舐め回すように俺達を見るとクスッと下品に笑った。
正直、気色悪い。パーティーの時もだったがルーナ以外皆どうでもいい。そんな風に思っているのは俺だけじゃないようでちらっと隣を見れば全員目が死んでいた。アーサーもかわいそうな生き物を見るかのような冷たい視線で女を見ていた。
「ねえ、私と遊ばない?」
その発言に坊ちゃんのこめかみに青筋が立った。
ああ、この女そんな坊ちゃんの反応にも気がついてないしどんだけ阿呆なんだ。そろそろ坊ちゃん達の限界も近いようだし。色々蓄積してんだろうな。特に坊ちゃんはルーナとクラスが離れたし…。かわいそ。
だからって放っておいて事件に発展したら公爵に怒られるからそろそろ止めに入らなければ。
「初めまして。私達は今年入学してきたものです。地図を持っていなくて自室が分からず困っていたんです。すみませんが、先輩は地図を持っていますか?持っていたら譲って欲しいのですが……。」
「地図?そうねぇ、私が案内してあげましょうか?生憎持ってないのよ。多分今週中に習うだろうけど魔法で持ち歩いてるから複製出来ないのよね」
そう言って女は手から地図のスクリーンを出した。スクリーンには地図が確かに記されている。これは複製出来ないな。だが、この女に送って貰うというのも頷けない。
「お嬢様、少し地図を拝見しても?」
アーサーが胸に片手をあて騎士の礼でお願いすると「ええ」とポッと頬を染めた女がおずおずと手の中の地図をアーサーへ向けた。それをアーサーがじっくり見る。
何する気だ??そう全員が疑問を浮かべた所でアーサーが両手を叩いてにこやかに笑った。
「覚えました!ありがとうございました、お嬢様。それでは、案内はいいので僕達は行きますね!」
「はっ?」
アーサーの脳天気な発言に目を疑う。軽々と言っているがそんな事並大抵に出来るわけはない。地図は相当細かいし棟の数だってえげつない。それをこの一瞬で覚えたと…!?
「えっ、覚えたってこの量を!?そんなの無理よ!私に案内させて!」
「お気持ちだけ受け取って置きます。それに覚えたのは事実ですので」
やばい。今までアーサーは剣術に長けたただの騎士だと思ってたのに伊達に護衛騎士に選ばれただけはある。凄い武器持ってたなんて……!
「さ、行きますよ坊ちゃま達!」
レイトとテスターの背中を押して強引に連れていく。俺もアーサーに続いて女を尻目に廊下を進み出した。
そして現在に当たる。何度か道を間違えたもののしっかりとついた。驚きで言葉が出ない。ルーナの暮らす棟からはけっこう遠い。いや、でも学園の敷地面積を考えると近いような気もする。
ともかく着いて良かった。今日はゆっくり休もう。




