97 リッチィさん、アリアさんに誘われる
連投です。
ミラさんからお許しをもらった。
ダンジョンでの野菜作りは前代未聞の事らしいけれど、冒険者ギルドと商業ギルドの双方に利益があるので問題ないだろうとのこと。
私が事前に商業ギルドのギルドマスターに話を通していたこともあるけれど、それと私以外でダンジョンの管理と野菜作りが不可能なのも大きいらしい。恐らく私が持つ《ダンジョンマスター》の称号のお陰だ。
そしてやはり、メリー商会を潰すことが出来るかもしれないというのが一番重要だそうだ。
メリー商会には冒険者ギルドと商業ギルドも散々苦汁をなめさせられているようで、この前のモンスター襲撃の防衛戦でもポーションや武器防具の買い占め等をされて、本気で頭にきていたらしい。
「ですから、リッカさんも野菜作りの件は誰にもギリギリまで言ってはいけませんよ。勿論、私達冒険者ギルドにもです」
「え、冒険者ギルドにもですか?」
冒険者ギルドに話してなかったので、明日にでも話しに行こうと思っていただけにミラさんからの忠告に驚いた。
「メリー商会は冒険者ギルドや商業ギルドにも耳がありますからね。商業ギルドのギルドマスターも恐らくはそれを分かっていて、此方にはギリギリまで報告しなかったんでしょう」
どうやら冒険者ギルドと商業ギルドに、メリー商会に通じる職員が混じっているそうだ。恐らくはお金を積んで懐柔したか、弱味を握って操っているのか。
私とミラさんが話を進める横で、アリアさんは我関せずと食事をし、おじさんは聞きたくないと無心で料理を食べている。クロエはニヤニヤと面白そうに聞き入っているが……ミラさんが後でちゃんと『消去』するそうだ。南無南無~。
◇◇◇
話しがある程度済んだので、私もようやく食事にありつく。
うん、めちゃくちゃ美味しい。
アリアさんの料理はどれも凄い美味しい。
特にこのナスのカリッと焼いてるのが旨い。醤油の香りもするが、普通にナスを焼いてもこの味は出せないと思う。なんだこれ、日本でも食べた事のない旨さだぞ。
……これ、本当に私って料理する必要なかったな。あまりの調理の腕の差に申し訳なくなる。
その様子を察したのか、おじさんが励ますようにと、
「まぁ、落ち込むな。アリアは《料理》スキル持ちだ。比べる相手が悪いだけで、お前の料理もかなり旨いぞ」
そうなのだろうか。
私の作ったとん汁はかなり適当な男料理なんだけど……というか、アリアさんって《料理》スキル持ちだったのか。凄いな。どうりで美味しいわけだ。固有スキルと違って、普通のスキルは取得するのにめちゃくちゃ大変らしいからね。本当に凄い。
アリアさんの料理を食べ進めながら、私のトン汁も一口飲んでみた。
「……ん、あれ?」
普通にめちゃくちゃ旨いぞ?
なんだこれ、日本にいた頃に作ったとん汁よりもかなり旨い。アリアさんの料理には負けるけども。
「どうかしたんですか、リッカさん?」
自分で作ったトン汁に混乱していると、ミラさんが不思議そうに聞いてきた。
「あ、いえ、自分で作った料理が予想以上に美味しくて、驚いてました……」
自画自賛してる訳ではない。
本当にビックリして訳が分からないのだ。
「リッカちゃんもなの? 実は私も、自分の料理の味が予想よりも美味しくて不思議に思って考えてたの」
「アリアさんもですか?」
どういうことだ?
二人して訳が分からず頭を捻る。
「確かに、今日のアリアの料理は特に旨いな」
「お母さんの料理はいつも美味しいですが、これはいつにも増して美味しいですね。勿論、リッカさんの料理も美味しいですけど」
おじさんとミラさんもいつもよりも美味しいと言っている。
すると、大人しく料理を食べていたクロエが口を開いた。
「そりゃそうですよー、だってこれー、モンスターですよねー」
モンスター?
クロエのその言葉が少し引っ掛かる……あっ、
「野菜のモンスターとかー、意味が分からないですねー」
思い出した。
これ、一応はモンスターだった。モンスターでしたよ。
ソラが『りっか汁』を使ってモンスター化したんだった。
「僅かにリッカちゃんの味がしますー」
おい止めろ。
洒落になってない。
実際に私の一部が使われているだけに、本当に嫌だ。
クロエ以外の三人の視線がじっと私を見てる。
はい、説明します。
まさかこんな事まで話さないといけなくなるとは……『りっか汁』は墓場まで持っていくと決めてたのに……お野菜売るの止めようかなぁ。
◇◇◇
料理の旨味の謎が解けた。
それはごく簡単な事であり、お野菜がモンスター化し魔力を帯びているからだそうだ。
この世界では魔力も調味料の一つらしく、魔力を帯びた食材やモンスターは大変美味らしい。しかし、全ての魔力を帯びた食材やモンスターが美味という訳でなく、モノによって味が違うとか。そして魔力の味に詳しいクロエ曰く、私の魔力が僅かでも込もったお野菜は『格別ですねー』と、美味しそうに料理を何度もお代わりしていた。
「じゃあ、そろそろいいかしら。リッカちゃんに話したいことがあるの」
一通り話しが済み、食事のデザートに出したドラヤキを食べ終えた頃にアリアさんが話し出した。
どうやら本題の話しのようで、私を探していて宿屋に来るように伝えてあった要件のようだ。
「リッカちゃん、うちで暮らす気はない?」
「ここで、ですか?」
突然の申し出に驚く。
「リッカちゃんさえ良かったらなんだけど、どうかしら」
真剣な表情で話すアリアさん。
どうやら本気で誘ってくれてるらしい。
私は少し考えてから、アリアさんにお断りの答えを出した。
「すみません、実にありがたい申し出なんですが、ダンジョンの方にもう住む家を造ってしまったので……」
「そうなの? ダンジョンで暮らしてるってのは聞いてたんだけど……あそこに住むお家があるの?」
「はい、一応は……とは言っても、土魔法のスキルで造った簡単なお家なんですけどね」
「スキルで? そんなこと出来るの?」
「そうですね……こんな感じです」
そう言って土魔法のスキルを発動し、側にあった木製のスプーンを造り変える。
ミニチュアサイズだが、ダンジョンに建てた和風の一階建ての住宅を再現した。
うん、中々の会心の出来だ。もしかしたらフィギュアとかも造れるかも知れないな。
「凄いわね。こんなことも出来ちゃうなんて……」
アリアさんには鍋を運ぶ際にも土魔法を使って見せたので、これなら納得だと頷いている。
「お前、色々と器用なやつだな……」
おじさんがミニチュアのお家を触りながら感想を言ってきた。
「驚きました。リッカさんの土魔法スキルのことは色々と聞いてましたが、ここまで可能だったなんて……」
冒険者ギルドから聞いていたよりも予想以上の性能に驚くミラさん。
「なんかー、私が知ってる土魔法と違いますねー、おかしくないですかー」
不思議そうに聞いてくるクロエには、固有スキルだと説明しておく。土魔法のスキルといえば、分類上は普通のスキルにカテゴリーされるのだが、私のは完全に別物のユニークスキルなのだ。流石は1億ゴールドのスキル。初めに使えないとか言ってゴメンなさい。
「……そう、残念だわ。せっかくリッカちゃんと一緒の暮らせるチャンスだと思ったんだけど………ダンジョンからここに移らない? いっそここで私と一緒に働きましよう!」
「すみません、出会った頃であれば頷いたかもしれないんですけど……ちょっと色々と事情が出来ちゃって」
初日の無一文状態の時ならば、是非にでもお願いしただろう。
だが、今は無理だ。
冒険者ギルドからダンジョンの管理を丸投げされてるし、ダンジョンマスターの立場としてもあのダンジョンを放置するわけにもいかない。お野菜の栽培やエルダーゾンビさん達のこともある。
お仕事については魔王城から臨時として魔王様の秘書官としての役職と幹部の地位を頂いた……頂いてしまったのだ。
ありがたい申し出だったけれど、私はそう説明してアリアさんに断ったのだった。
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