91 リッチィさん、お皿を洗う
連投です。
「リッカちゃん!?」
その場からそっと離れようとしたのだが、アリアさんに見つかったしまった。
給仕の途中であったはずなのに、手に持っていた食事を放り出したアリアさんが飛び付くように迫り、正面から羽交い締めにするように抱きついた。
「やっぱりリッカちゃんだわ!!」
「うぐっ……く、苦しいですアリアさん」
ミラさんと同じ獣人ということもあり、中々に力が強い。ギシギシと私の体が締め付けられるが……ぶっちゃけ、柔らかい二つの山が顔に当たり幸せな気分でもある。よかった、私はまだまだ男を失ってなかった。体は♀だが、心は♂のままだ。閻魔大王のばっきゃろー!!
「いい匂いがすると思ったら案の定ね。絶対にリッカちゃんだと思ったわ!!」
私を抱き締めたままクンクンと匂いを嗅ぐアリアさん。
……あの、恥ずかしいので止めてくれないでしょうか。いや本当マジで。食堂のお客さんが一斉に注目してる中でのこれは本当に恥ずかしい。てかいい匂いって、私は一応はアンデッドなんだけど、大丈夫なんだろうか。ギルド長や魔王様は旨そうだったり芳ばしいと言ってたけど。
ジタバタとなんとかアリアさんを引き離そうとするも、私の貧弱ボディではピクリともしない。うん、諦めてしばらくはされるがままにされよう。
そして落ち着いてきたのか、アリアさんが力を緩め、此方に目を合わせて問い掛けてきた。
「もう、本当に心配したんだからね。あれから一度も顔を見せに来ないし、ミラからはリッカちゃんが死んじゃったって聞かされて……」
「うぅっ、ごめんなさい……」
本当に申し訳なくて頭が上がらない。
もう少し早く顔を見せに来たかったのだが、あの時は地獄から帰って来ては直ぐに魔王城に呼び出されては3日間お城に缶詰め状態にされたのだ。主に魔王様のせいだけど……
「本当に大変だったんだからね。ミラはリッカちゃんが死んじゃったのは私のせいだって、泣いて取り乱していたのを落ち着かせるのに凄く苦労したんだから」
本当にごめんなさい。
ミラさんが冒険者の受付嬢として、私情を抜きに冒険者の私に危険な防衛戦を依頼したのは知っていた。再会した時も涙ぐんで生きてたのを喜んでくれていたが、まさかそんなに悲しんでいてくれてたなんて……
「もちろん、私や旦那も凄く悲しかったし、いっぱい心配したんだからね」
「ご、ごめんなさい……」
謝る言葉しか言えない。
アリアさんから伝わる素直な気持ちに、自然と強く感情が揺さぶられる。ヤバい、泣きそうだ。なんでこんなに涙もろくなってるんだろう。きっと閻魔大王様のせいだ。この体を造った閻魔大王様が悪い。私は悪くない。
「うぅっ……」
胸の奥から溢れて来るこの感情に、私はぐちゃぐちゃになっているであろう顔を無理矢理隠すようにアリアさんの胸に押し付け、謝り続けたのだった。
◇◇◇
「は、恥ずかしい……」
あれから暫くして、私が泣き止むまで抱き締め待っていてくれたアリアさん。
……そして、それを静かに見守ってくれていた食堂のお客さん達。
「死にたい……」
本当に死にたい。
不死だから死ねないけれど、本当に死にたくなる。
食堂のお客さんの中に、知り合いの冒険者が数人混じって見えたのは嘘だと思いたい。あの顔は絶対に後日、めちゃくちゃ弄ってきそうだ。おのれ……
あの後、ほんわかとした空気になりながらも静かに食堂の仕事に戻ったアリアさん。
食堂はなにもなかったかのように元に戻り、先程の忙しさがあった。
アリアさんはどうやら厨房で料理も兼任しているようで、物凄い早さで調理しては料理をお客さんのテーブルまで運んでいく。他の雇われた給仕の人達もいるのだが、それでもギリギリのようでアリアさんが自分で料理を運んでいる。
落ち着いた私も恩返しのつもりで、料理を運ぶの手伝いますと言ったのだが、『んー、ちょっとその顔では色々な意味で人前に出せないわねぇ』と、アリアさんに真剣な顔で断られた。なので私は厨房の裏で皿洗いだ。
「お前、なんちゅう顔してんだよ……」
おじさんと一緒に。
二人仲良く皿を洗っている。
「な、泣いてませんよ!」
「いや、思いっきり泣いてただろうが。目が真っ赤だぞ」
チクショウ。
どうやら、おじさんにも先程の恥辱を見られていたようだ。
ていうか、何でおじさんがここで皿洗いしてるんだろうか。
「今日は仕事が休みなんだよ。だからいつも皿洗いだけは手伝ってるんだ」
「そうなんですか、凄いですね」
手伝いでも、休みの日まで働こうとするのは本当に凄いと思う。
おじさんは家族だから当たり前だろうとは言ってるが、日本のお父さん達は基本ぐうたらしてるのだから本当に凄いと思う。
「そう言えば、おじさんからアリアさんが私に話しがあるって聞いてここに来たんですが……」
「あぁ、他の門番のヤツらから聞いたんだな。実はアリアがお前に――」
「リッカちゃん、これもお願いしますねー!」
「あ、はい」
おじさんとの会話の途中だった。お客さんの食べ終えたお皿を持って現れ、此方に渡してくれた給仕の娘さん。
名前はクロエというらしく、アリアさんの宿屋兼食堂で雇われている、閻魔大王様設定上16歳の私と同い年くらいの桃色髪ショートの元気っ娘美少女だ。
先程出会って直ぐに『クロエでーす! よろしくお願いしまーす!』と挨拶された。
「えへへ」
お皿を受け取ったのだが、何故か毅然とこの場から去ろうとしないクロエ。
食堂のホールからお客さんの呼ぶ声が聞こえるんだけど……
「な、なんですか、クロエ?」
「なんでもないですよー」
ちなみに最初に『クロエさん』と呼んだら、『ク・ロ・エ・と呼んで下さーい』と言われたので呼び捨てにしている。
「リッカちゃんはダスクさんと仲が良いいんですねー」
「そ、そうですね。おじさんとはとても仲良くさせてもらっています。まぁ私の大切な人ですから」
「……え」
「おい、だから言い方!! 言い方に気をつけろ!! お前は俺を社会的に殺すつもりなのか? アリアに聞かれたら………って待てクロエ、勘違いするな、俺とこいつは決してそんな関係じゃないからな!?」
「えぇー本当にー? 怪しいですねー」
「本当に違うからな!! 信じてくれよ!!」
怪しむクロエに必死に説得するおじさん。
軽口を叩く二人は気軽な仲なんだろう、クロエがニヤニヤしながらおじさんをからかっている。
うん、おじさんには本当に悪いと思っているのだが、これは本当に素直な気持ちなので仕方がないのだ。とっさに言葉が出てしまう。文句なら閻魔大王様に言ってくれ。顔にも口にも出るとかバグってる。
「だから信じてくれって!」
「えー、でもー」
二人を見守りつつ皿洗いを続ける。
おじさんとクロエが話しサボっている間にも、だんだんとお皿が運び込まれているのだ。まったく、仕方ないなぁ……全部私のせいなんだけども。
それにしても、クロエが先程からチラチラと此方を見てくるのはなんなのか。まるで魅力するような目で微笑んでくるんだけど……どうしてだろう。
この娘の視線に私のなにかが微妙に反応している。こんなにも無邪気な女の子なのに、どうして警戒してしまうんだろうか。え、てかこの感じというか気配、少し前に感じた覚えが……あ、
「く、クロエ?」
「なんですかー、リッカちゃん」
まさかと思いながらも問い掛ける。
「私に魅了の魔法は効きませんよ」
「あ、バレましたー?」
えへへと謝ってくるクロエ。
おい、お前まさか……
「そうですねー、サキュバスですよー」
やっぱり淫魔だったのか!?
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