90 リッチィさん、アリアさんの宿屋へ
連投です。
ダンジョンに着いた。
あれからゆっくりと馬車に揺られながら時間を掛けてやっとお家に帰って来たのだ。
「なんか久しぶりに帰った感じがする」
留守にしたのはわずか三日間だったけれど、ほぼ完徹で過ごしていたので時間の感覚がおかしい。
ソラと二人馬車を降り、御者さんにお礼を言おうとしたら逆に『ありがとうございますありがとうございます』と言われ、颯爽と去っていく馬車を見送ってダンジョンに潜ろうとした時だった。
「リッチィちゃんじゃないですか!? お帰りになられてたんですか!!」
ダンジョンの入口の門番をしていた魔族の青年に呼び止められたのだ。
「あ、はい。ただいま帰りました」
この人は確か、ダンジョンでゾンビが溢れた時に一緒に対処してくれた人だったかな。
ヤバい、記憶があやふやだ。
「何処に行ってたんですか、ダスクさんがリッチィちゃんの事を探してましたよ」
「おじさんが?」
一体何だろうか。
ちなみにダスクさんとはミラさんのお父さんでもあり、私が異世界に来て初めて出会った門番のおじさんだ。
「なんか奥さんがリッチィちゃんに話しがあるとかで、見掛けたらダスクさんの宿屋に来るように言ってました」
「アリアさんが?」
本当に何だろうか。
アリアさんが私になにか用事でもあるのかな、特に見当がつかないけど……あ。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、別に何でもないデスヨ?」
思わず返事が片言になってしまう。
思い出した。そう言えば、結構前からアリアさんが私に会いたがっているとおじさんが教えてくれていたんだ。
色々と忙しくて会いにいけてなかったけど、ちょっとマズイかもしれない。
アリアさんには本当にお世話になったし、直ぐに会いに行こう。
てかここに来た初日以降、アリアさんに会った覚えがないな。うん、マジで私って最低かもしれない。
「ソラ、ちょっと私は行くところができたので、先に帰っててもらっていいですか?」
「ん」
大量の荷物を持ったソラに問い掛けると問題ないと返ってきた。
どうやら早く荷物を置きたいらしい。
今聞いたのだけれど、ソラは魔王城にある自分の研究室をダンジョンに移すつもりのようだ。
何でも宰相様から既に許可はもらっているらしく、魔王城の安全の為にも是非にと大喜びで言われたらしい。
おい、私はなにも聞いてないんだが?
ちょっと必要な物を取りに行くだけじゃなかったのかな? え、全部必要? だから移した? そうか、分かった。後で帰って来たら地下室タイプの研究室でも造ろうか。うーんと深いやつ。10メートルも掘れば十分かな。
「どうかしたんですか、リッチィちゃん」
ソラと長々と話していると、門番の青年が不思議そうに此方を見てる。
あ、これはアレだな。
私は気付かなかったけど、ソラってばまた《幻術》でいつの間にかに姿を消してたな。
色々と反則的に便利なスキルだけれど、今は止めてほしかった。これじゃあ私が何も無い空間に一人話し掛けている危ない人物じゃないか。
現に今も門番の青年が変な目で見てるし、ソラの事を正直に言うとパニックになりそうで話せない。
よし、こうなったら誤魔化そう。
此方を変な目で見ている魔族の青年に顔を合わせ、ニッコリと微笑んでみる。
「――っ!?」
するとどうでしょうか。
門番の青年は赤面してたじろいでしまった。
私は少し距離を詰めて見上げた。
「り、リッチィちゃん?」
「リッカです」
「え?」
「前にも言いましたが、リッチィではなく、リッカと呼んで下さい」
半年前、ダンジョンからゾンビが溢れた時にもここで言ったのだが、何故か皆は私のことをリッチィと呼ぶのだ。
リッチィが珍しいのは分かるのだが、正直、私はあまりリッチィと呼ばれるのは好きじゃない。だって種族名そのまんまだからだ。その名で呼ばれると色々な意味で目立つし、身バレもするので止めてほしい。特に最近はどうも周辺がうさんくさいので尚更だ。
「り、リッカちゃん……?」
「はい、リッカです」
戸惑いながらも呼び直してくれた門番の青年に笑顔で答える。
うん、あざといな。私ってこんなにあざとかったかな? 最近は慣れてきたんだが……いやいやこれってマズイのか? 精神が少しずつ♂→♀に変化してきてるかもしれない。……一大事じゃねぇか!?
「り、リッカちゃん!!」
「ひゃっ!?」
知らず知らずに精神の変化が進んでいたことに、本気で以前魔王城のテラスで掲げた異世界での目標の一つでもある『息子の復活』をソラに研究してもらおうかと悩んでいると、顔を真っ赤に染めた門番の青年が私の手を取ってきた。
「あ、あの、今度オレと一緒に食事にでもいきませんか!?」
ギラギラとした目で食事に誘ってきた門番の青年。
もしかしなくても、これはデートにでも誘われいるのだろう。ヤバい、正直全然嬉しくないんだけど……
「オレ、前々からずっとリッチィちゃんのことが、ずっと……気に……なっ……て……」
あまり聞きたくない言葉を口々に話し始める門番の青年。
だがどうしたのだろうか。
私の手を握る門番の青年が徐々に震えていっている。
それに門番の青年の顔が真っ赤から真っ青へと変わっていき、私の隣の方を凝視していた。
「…………」
あれ? もしかしてソラを見てるのか?
眠そうなジト目でソラが門番の青年を見ている。これは《幻術》を解いたんだな。二人の視線がぶつかっているのが分かる。
それから数秒経ったか、ソラが私の服の裾を掴んだ時だった。
「あ、あああ、ああああああ!!!!」
耐えきれなくなったのだろう。
門番の青年が職務を放棄して逃げていった。可哀想に……まぁ仕方ないか。私は助かったけども。
「ど、どうかしましたか?」
ソラがジッと此方を見詰めている。
何処か不穏な雰囲気を醸し出している気配だが、静かにぎゅっと私の服の裾を掴んでいるだけだ。
それからしばらくしてすんなりと離してくれたが……何とも言えない感じで、ぶっちゃけ少し怖かった。
ソラにお留守番を頼み、アリアさんの宿屋まで急いで向かう。
「確か、ここら辺だったような……」
一度しか行っていないので記憶があやふやだ。
前回訪れた記憶を頼りに街道をうろついているが、中々に見つからない。魔王城都は広すぎて困る。街道は綺麗に整備はされてはいるが、案内板とかが欲しいものだ。
思えば宿屋まで案内してくれたのはミラさんだったかな。宿無しで困っていたところを助けてくれたのがミラさん親子だ。
本当にこの親子と出会ってなければ、私は今頃どうなっていたことか……
「あれ?」
暫く彷徨いていると、そこそこ長い行列ができた見覚えのある建物が目につく。
アリアさんの宿屋だ。
宿屋兼食堂を勤しんでいるアリアさんの宿屋は物凄く繁盛していた。時刻がそろそろ夕方を過ぎた頃であり、沢山の人達が夕飯を食べに来ているみたいだ。
「ちょっとタイミングが悪かったですね……」
大急ぎで来たんだけど、少し間が悪かったかな。
宿屋に入り食堂のスペースを覗くと、アリアさんが忙しなく給仕に勤しんでいるのが見える。今声を掛けたら迷惑になるかもしれない。食堂のピークが終わるまで待ってようと、その場からそっと離れようとした時、
「リッカちゃん!?」
どうやらアリアさんに見つかってしまったみたいだ。
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