88 リッチィさん、悪魔に勝利する
連投です。
「そ、それまで……」
静寂な空間の中、苦い声で決闘の終わり告げる宰相様。
勝負は一瞬でついた。
初手からお互い全力でぶつかり肉薄し、タコ足イカ足を剣で弾き返され迫るイケメンさんに私は打つ手がないと、一か八かで私もろともの自爆技――アイアンメイデンを発動させようとした。
結果、勝ちを確信し剣を振り下ろしたイケメンさんが 丸裸 で地面に倒れ伏し、私は 無傷 で立っている。
そう、何故かイケメンさんが丸裸で倒れ伏しているのである。
頭の角や背中の翼が全て根元から切り取られ、何故か衣服までもが奪い去られている状態だ。
原因は分かっている。
それは私の隣でとても嬉しそうに 採取 した素材、角や翼を処理し『素材、うまー』としている銀髪の少女、ソラである。
あの一瞬、突然イケメンさんの背後から現れたソラが恐ろしい早業でイケメンさんの素材を刈り取った……と思われる。私は速すぎて見えなかったよ。
「な、なにが起こったのじゃ。ゼブルは分かるかや?」
「魔王様、私も何がなんだが……」
しかもこの子、自身の固有スキル《幻術》で念入りに姿を消しているもんで、未だ誰もがソラを認識していないみたいだ。私以外は……
「ぉごっ……」
それはそうと、魔王様と宰相様がドン引きしながらも話している横で、色々と丸裸にされたイケメンさんが白目でピクピクっと反応しながら痙攣している。
「うわぁ……」
ひっでぇなこれ、ガチで瀕死じゃないか。
そろそろ誰か助けてやれよ。
にしても大変よくやってくれました。
ありがとうございます、ソラさん。
あのままだと私も今頃は地面に穴だらけで伏してました。死にはしなくてもあれ、めちゃめちゃ痛いんです。リアルで体に風穴が空きますから。
ソラの頭を『助かりました』と撫でる。
「ん」
相も変わらず無表情でマイペースに素材の処理する手を止めないソラだが、感謝の気持ちは伝わっているようで小さく頷いてくれた。
ソラにはいつもお世話になっているな。いつかお礼をしないといけない。
「本当?」
声には出してなかったのだが、ソラには私の心の声が伝わったらしい。てか顔に出てるんだろう。
「欲しい」
ん? ソラが此方に手を出してきた。
「目玉、欲しい」
ヤバい、やぶ蛇だった。
というかまだ覚えてたのか。
「前にも言ったけど、眼球はちょっと……」
「お礼する、言った」
「言ってない! 思ったけど言ってない! それと体以外の事にして下さいお願いします!」
ジリジリとソラが迫ってくる。
「あの、ソラさん? そんな事よりも、そっちの素材の処理をした方がいいんじゃないですか?」
久々のサイコパスワールド全快のソラの興味を反らすべく、イケメンさんの残骸に目を向ける。
若干、迷いに迷いながらも私を選びそうだったソラだったが、『鮮度が落ちますよ』と言ってあげれば急いでイケメンさんの素材の処理に戻ってくれた。
ふぅ、助かった。
今度からはひっそりとお礼をしよう。
そしてそんなやり取りを『まさか……』とした顔で此方を凝視する宰相様。
側目には私が何も無い空間を撫でては騒いでいるようにしか見えないだろう。
宰相様はそれを見て一番に察したのか、顔を物凄くひきつらせている。そこに我が孫がいるのかと。
それから魔王様も遅れて私が何も無い空間を撫でて騒いでいるのに気付き、宰相様から小声で耳元に囁かれ『はみゃあ!?』と叫ぶと、ぷるぷると震えて此方を警戒し始めていた。
魔王様、あなたもソラが怖いのですか。
流石は魔王軍一のサイコパスだな。
歴代魔族最強の魔王が歴代魔族最恐のサイコパスに恐れを抱いている。
ソラさん、あなたは魔王様に何をやらかした。魔王様がガチで泣きそうで震えてるんだが……え? 幼なじみ? 玩具? 魔王様が? ……聞かなかったことにしよう。
それにしても、魔王軍の幹部の一人でもあるイケメンさんを瞬殺か。
ソラも同じ魔王軍の幹部の筈だけど、明らかにレベルが違いすぎる。この娘って、本当に何者なんだろうか。
まぁ、それはともかくだ。今は目の前の事を片付けよう。
現状、イケメンさんが地に伏し、立っているのは私だ。即ち私の勝ちである。それでいいですよね、宰相様?
「そうですな、私の目にはリッカ殿しか写りませんからな。全く問題ないですぞ」
丁度、目撃者も我々しかいませんからなと微笑む宰相様。
どうやら自分の孫娘はこの場にいないものとして進めるようだ。
わーい、勝ったー。
凄く助かります、ありがとうございます。
「のぅ、一つ聞いてもいいかや?」
宰相様の後ろにびくびくと隠れるようにしていた魔王様が恐る恐る此方に尋ねて来た。
「もしや、リッカには見えとるのかや? あやつ……ソラの……あほんだら……が……」
疑心暗鬼になりながらも尋ねてくる魔王様。
私は『もちろんです』とソラのいる空間に視線を移す。
「はわわわわわわわわわわわ」
魔王様は何かしらの方法でソラの魔力を感知したのか、しっかりと捉えたソラの存在にガタガタと震えだした。
すると、ソラの手がピタリと止まった。
あぁ、やめて下さい、魔王様。
そんな怖がり方をしたらソラが凄く反応して困ります。
手を止めたソラは採取した素材と魔王様の姿を見比べ、一瞬迷ったが素材の処理の方が優先だと判断し作業に戻った。良かった良かった。
「ソラ、《幻術》を解いて姿を現しなさい」
宰相様がソラのいる空間に向かって声を掛ける。宰相様はソラの親族でもあるからして、ソラの固有スキルでもある《幻術》の事をちゃんと把握しているようだ。
しかし、肝心のソラはガン無視で素材の処理をもくもくと行っている。
いくら声を掛けても反応しないソラに、宰相様のどうにかしてくれとして視線が此方に向いた。
「ソラ、宰相様が呼んでますよ」
「……誰?」
「あなたのおじいちゃんですよ」
「じぃじ?」
「はい、何でも姿を見せてほしいみたいです」
此方の呼び掛けには直ぐに反応を示してくれたソラだが、宰相様の方を見ると凄く面倒くさそうだとした雰囲気を晒し出し『いや』と答えた。
「いやと言ってます」
「リッカ殿、どうか説得願いますぞ。ソラがまともに表へ姿を現してくれたのは100年ぶりなんです。何とぞお願いします」
「えぇぇ……」
土下座でもしそうな勢いで頼みこんでくる宰相様。
そんな事を言われても、凄く嫌そうな雰囲気を晒し出しているソラが私の言う事を聞くとは思えないんだけども。
「ソラ、私からもお願いします。少しだけ姿を見せてやってもらえませんか」
「ん」
あれ? すんなりと頷いて《幻術》を解いてくれた。宰相様と魔王様がめちゃくちゃ驚いた顔で私を見てるが……私自身が一番驚いてるよ。だってこの娘、自分の興味がない事は絶対にやらないし。
「なに、じぃじ」
「久しぶりですな、ソラ」
「ん」
「今はリッカ殿の方でお世話になってるそうですが、元気にやってるみたいで安心しましたぞ。リッカ殿にご迷惑をかけてはいませんな」
「ん」
「ご飯はちゃんと食べてますかな。野菜ばかりではなくお肉もきちんと食べ、夜はちゃんと寝るんですぞ」
「ん」
「それにしても100年も姿を見せないのは、おじいちゃん心配しましたぞ。全く、研究室に籠りっきりは駄目だとあれほど忠告したのにも関わらず。魔王軍幹部としての自覚をもっとちゃんと認識して貰わねば、おじいちゃん困ってしまいますぞ。そもそも――」
「じぃじ、うるさい」
「んなっ!? じぃじはソラの事が心配で言ってるんですぞ!!」
「じぃじ、やかまし」
うん、二人の会話を聞いてると何かとても安心した。
ソラは凄く鬱陶しそうにしてるが、宰相様は本当にソラの事を自分の曾孫として大切に思ってるんだな。
魔族の内でのソラの評判があまりにも酷すぎるので、もしかしたらソラは親族からも見放されて一人ぼっちなのかと心配したよ。
「良かったですね」
「……ん?」
思わずソラに近寄り、頭を撫でてしまった。
密かにずっと心配していたので、本当に良かった。ちゃんとソラの事を心配してくれる家族がいたんだね。
心がほんわりとしながらソラの頭を撫で続けていると、不思議そうにしていたソラも『ん』と、まぁいいかと受け入れされるがままだ。
さりげなく宰相様もソラを撫でようと手を伸ばしたが……ペシッと弾かれた。凄く悲しそうだ。
「ごふっ……」
それはそうと、いい加減そこで倒れて死にそうになってるイケメンさんを手当てをしないとヤバそうだ。
顔が先程よりも真っ青になってきている。
宰相様も流石にマズイと思ったのか、メイドさんを呼んでイケメンさんを医務室へと連れて行くようにと指示を出していた。
「帰る」
くいっとソラが私の服を引っ張ってくる。
どうやら用事も済んだようで、ダンジョンに帰ろうと言っている。
「そうですね、帰りましょうか」
此方の用事も済んだことだし、私も早く帰りたい。
いいですよねと宰相様に聞いてみれば、『ソラをよろしくお願いします』と言われた。
魔王様はなんとか私を引き留めようとしていたが、ソラと目が合うと『はよぅ帰れぇぇ』と悲鳴をあげて了承してくれた。残りのお仕事頑張って下さい。
そうして私は数日ぶりに地上へと帰るのだった。大量の謎の荷物を抱えたソラと一緒に…………おい、なんだその荷物は。
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