83 リッチィさん、やっかいなお仕事を押しつけられる
「はい、人間族の奴隷の件です」
神妙そうな顔で話すオガちゃん。
先日、仕事上の都合で凄く仲良くなったオークのオガちゃん。確かその時、親愛なる魔王様直属の側近でもある秘書官の私に、一つ相談があると言われ話した事がある。
――魔王城で働く文官の人手不足を解消するにはどうしたらいいのでしょうか、と。
「此方でも色々と真剣に検討させて頂きまして……ひとつリッカ様の案を試してみようと言う事になりました」
「そ、そうですか」
やっべ、忘れてた。
そう言えば、その件で一つアドバイス? をしたのを思い出した。
私は冗談を交えて、軽はずみで答えたのだが……真面目に検討しちゃったのかぁ。
「リッカ様が教えてくれた――『いないなら他から連れて来ればいい』、あまりの斬新なまでの発想と考えに、私共一同、リッカ様に驚愕と感謝の念に堪えません」
そう言って、ペコリと頭を下げてお礼を伝えてくるオガちゃんだが……凄く気まずい。まさか私のあの言葉を鵜呑みにしちゃったのかぁ。やっべ、どうしよう。
「そ、そうですか? 私はたいした事は言ってないような気がするのですが……」
「とんでもありません。リッカ様が仰られた『魔族は頭が脳みそ筋肉ばかりなので、人間族の方が頭はマシなので使えそうですね。あ、人間族の奴隷を仕込めば良く働きそうです』――この言葉に、自分は目からウロコが落ちそうになりました」
「そ、そんなこと、言ったかなー」
「はい、リッカ様は仰られました。人間族の奴隷も『そう言えばまだ、人間族と境界線で戦争中なんですよね? 捕虜とか取り放題じゃないですかー』――と。人間族ならば文官としての適正もあるだろうし、自分で捕まえた捕虜ならタダだし一石二鳥ですと」
嬉々として語るオガちゃん。
ひっでぇなおい。
誰が教えたんだよ、これ。
あ、私です。
やっべ、どうしょう!?
「つきましては、試験的に一人、魔王城に勤める人間族の奴隷の選定をと思って宰相様にご相談した所、リッカ様が一番の適切であると言われました」
そう言ってオガちゃんは一枚の書類を渡してきた。その内容は――
「奴隷商にいる人間族の中から一人、文官に適正のある人物を選んで連れて来い――要約するとそんな感じですかね」
「はい、宰相様がリッカ様ならば大丈夫だろうと、人間族を見る目は誰よりもあるからと」
宰相様、あなたは私になんちゅうもんを押し付けて来てるんですか。
私が元勇者だと言う事はとっくにバレてるのは知ってるし、それを見込んで私が適切だと言ってるのも分かるんだけど……これはちょっとないわー。
いくらなんでも、前世が人間だった私にはキツいです。魔族の巣窟、その中心とも言える魔王城……ブラックなまでの過酷な職場に一人だけ人間を放り込むとか……鬼畜過ぎて色々笑えないです。
「ちなみに宰相様からは、その結果次第では報酬に色を付けて出すので期待して下さいとあります」
「仕方ありませんね、これも魔王城で働く皆さんの為です。引き受けましょう」
「はい、リッカ様、どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、お願いされました」
仕方ない、これは仕方ない事なのだ。
これも魔王城のブラックな職場環境を改善する為にも必要な事なのだから。
私はアンデッドリッチ、もう人間じゃないのだからいい加減に意識を切り替えよう。ここは涙を飲んで真面目に優秀そうな人間を選ぼう。決して報酬に目が眩んだわけではない。
そうして私はオガちゃんと経理課の皆さんに挨拶をし、その場を後にしたのだった。
◇◇◇
「あら、リッカ様、どちらに行かれてたのですか? 魔王様が酷くリッカ様を探しておいででしたよ」
経理課からの帰り道、地上へ帰ろうにもソラが一向に自分の研究室から戻らないので、私は魔王城をぶらぶらと散歩してると、メイドの天使さんにバッタリと出会った。
「魔王様がですか?」
「はい」
何だろう。
魔王様ならさっきお風呂で会ったばかりなのに。ちょうど今は暇だし、魔王様にもう一度会いに行ってみようかな。
「魔王様は今は何処にいますか?」
「執務室で宰相様と一緒に詰めてます」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
やっぱり止めとこう。
大体で私を探している理由が分かった。
流石にまた魔王様の執務を手伝うのは勘弁してほしい。本当に火急の用があるならば、宰相様が直接言ってくるだろうしね。放置でいいや。
メイドの天使さんにお礼を言い、魔王様の待つ執務室とは反対方向へと足を進めると、天使さんから『あれ?』とした顔をされたので『いいんです』と説明をし、ついでに魔王城で働くメイドさん達全員分の差し入れのお菓子を渡す事にした。
「本当によろしいのでしょうか?」
「はい、どうそ皆さんで食べちゃって下さい」
天使さんも美味しそうなお菓子に、恐縮として聞いてくる。
「それでは遠慮なく、頂きますね」
「はい、遠慮なくどうぞ。もしメイドさん達だけで足りなさそうなら言って下さいね。まだまだお菓子はありますので」
「いいのですか? これは貴重な物なのではないのでしょうか。本当に、本当によろしいのでしょうか?」
「あ、はい。もう少し追加しときますね」
「――っ!! ありがとうございます、リッカ様」
ぐいぐいと寄って来る天使さんにお菓子を増し増しで渡すと、何だか凄く良い笑顔でお礼を言われた。
天使さんが住む天界には、こういったお菓子は無いのだろうか。地獄では普通に3時のおやつとして毎日出されてたけど……そう言えば、あれってお供え物がどうとか言ってたような覚えが……。
「ふふふ、リッカ様の故郷のお菓子は天界でも人気なんですよ。天使はその身分がら、地球には滅多に地上に降りる事がありませんからね」
「……あの、また私は顔に出てましたでしょうか」
天使さん、何かサラッと私の正体を当てて来たんですけど……
「いえ、顔には出ていませんが、仮にも私は天使ですので。リッカ様を一目見た時から、何となくそうなのかなと思っていただけですので」
そ、そうだったのか。
流石は天使さんです。
初対面の時には既に見破っていたのですか。
「確かな確信を持ったのはリッカ様からこのお菓子を頂いた時、ですけどね」
「あはは……良かったらもう少し追加しときますね」
「ありがとうございます、リッカ様」
そうしては私はアンデッドなだけに自ら墓穴を掘り、口止め料として天使さんに大量のお菓子を渡す事になってしまったのだった。
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