79 リッチィさん、魔王様を捕獲する
本日2話目です。
「んみゃあ?」
魔王様、みーつっけた!
この異世界に来て一番の笑顔だったと思う。
口にべったりとクリームをつけた魔王様は私の顔を見て一瞬固まり、『しまったのじゃ!』と再起動して逃走を試みたのだが――
「逃がしませんよ?」
私はすかさず固有スキル、土魔法を発動させた。
「うひゃああああああ!?」
目の前にあるテーブルを素材にコネコネし、魔王様をウネウネと絡めとる。
逃げようとした片足を絡めとり、とっさの判断でチョップでテーブルを破壊しようと試みようとする魔王様の片手も絡めとる。
「な、なんじゃと!? ――こんのッ!!」
一瞬驚き動きが止まるも、『甘いわ!』とした魔王様が『ビリビリ』っと攻撃魔法らしきものを発動させた。
「させません」
ここでもう一つの固有スキル、チラシを発動してオリハルコンを取り出し、魔王様がテーブルに絡めとられた手足のウネウネを壊した瞬間を狙ってぐるぐる巻きに拘束する。
「ば、バカな、ワシより発動速度が速いじゃと!?」
そんな馬鹿なと驚愕したように此方を凝視する魔王様。
隣では宰相様も信じられないとした顔で此方を見詰めている。
そう言えば確か、モンスターの襲撃の際に魔女のお姉さんが私の土魔法を見て『あり得ないわ』と、キレ気味で話してたのを思い出す。
もしかしなくても私の土魔法は若干、おかしいのかもしれない。
詠唱も必要なければ発動までのタイムラグもないみたいだし、ちょっとぶっ壊れスキルだと思う。
まぁ改めて考えてみれば、私の土魔法のスキルって何故か固有スキルに分類されてるんだよね。
普通はただのスキルに分類される土魔法なのに、何故か私の土魔法は固有スキルに入っている。
うん、これ前から思ってたけど、絶対に土魔法じゃないよね。
発動がコネコネしろとか意味不明だし。
そう考えると私の土魔法はユニークスキル、意味不明のスキルに分類されるんだろうか。
てかそもそも、1億だ。
この土魔法のスキル取得するのに1億も掛かってるんだよね。
ぶっ壊れスキルで当たり前だった。
「なんじゃこれは!?」
少し思考に耽っていると、魔王様がオリハルコンでぐるぐる巻きに拘束されながらも必死に魔法を発動して抵抗を試みていた。
しかし、それは無駄な抵抗である。
「無駄ですよ。それはオリハルコン製なので簡単には破壊できませんから」
テーブルの素材になっていた木材は簡単に魔法で壊せても、オリハルコンはそうはいかない。
「……オリハルコン、じゃと? なんでそんな物がここにあるのじゃあ!?」
オリハルコン。
これは言わずもながら、私の前世の世界でもファンタジーな金属、伝説の金属と知られた有名な物質である。
性質に関しては小説やゲームで様々な設定で語られてはいるが、そのどの小説やゲームでも必ずある共通点が『硬さ』であり、破壊が最も困難とされているのだ。
「おかしいじゃろ!? なんでオリハルコンがこんなにウネウネしとるのじゃあ!!」
それは私の土魔法スキルでコネコネしているからである。
「いやいやいやいや、これ絶対に土魔法じゃないわい!?」
私もそう思います。
改めて実感しました。
まあ、それは今はどうでもいいとして……
「この魔王様、どうしてくれようか」
本当に、どうしてくれようものか。
魔王印を一方的に私に押し付けてとんずらかますとか、絶対に許されない。
無駄な抵抗と分かったのか、ぷるぷると震えた魔王様は涙を浮かべて言い訳してきた。
「ぜ、ゼブルが悪いのじゃあ!! あやつが半年分も執務をためこむからワシは仕方なく避難しておったのじゃあ!!」
「それは魔王様が半年も家出しておりましたからでしょうが……。それに、魔王印は魔王様しかお持ちでないのですからな」
「こんのあんぽんたんがぁ! あんなアホみたいな量の執務が終わるわけないじゃろうが!!」
「開き直っても駄目ですぞ。……それに、魔王様が始めに家出していた半年分の執務はもうあらかた片付きましたからな」
「はみゃあ? そうなのかや?」
「ええ、リッカ殿のお陰で、ですな。この3日間、徹夜で頑張っておりましたぞ」
ようやく話し終わったのか、魔王様が『本当かや?』と私に視線を向けて来たので笑顔で頷く。
すると何を血迷ったのか、魔王様は見惚れくらいの笑顔で言葉を吐いた。
「ご苦労じゃったな」
「泣かす」
くらえ!!
オリハルコンの新技、ぐりぐり攻撃!!
「うひゃあああああ!! つ、潰れる、ワシの頭が潰れるのじゃぁあああああ!! 放してくぅひゃああああ!! あ、謝るのじゃ、謝るからワシの頭を!! ワシが悪かったのじゃあああああ!!」
説明しよう。
いや、説明しなくても分かるか。
ぐりぐり攻撃とは、頭ぐりぐり攻撃だ。
とりあえずはと、魔王様がちゃんと謝ってくれたしぐりぐり攻撃をストップさせる。
当初の目的だった『魔王様絶対に泣かす』も無事に達成したしね。
「ゆ、許してくれるのかや?」
「まぁ、満足したのでとりあえずは許します」
とりあえずはと忠告し、私は魔王様を許してあげる。
しかし、宰相様はそうではなかった。
「魔王様、言っておきますが、リッカ殿が片付けたのは半年分……魔王様が逃げ出した3日分の執務はまだ残っておりますからな」
「なんじゃと!! 騙したのかや!?」
「騙してはおりませんぞ。私はちゃんと魔王様が始めに逃げ出した半年分と言いましたぞ」
「うぐぐぐっ!!」
そう、実は宰相様は魔王様が逃げ出した分の3日間の執務は残していたのだ。
なんでも『執務が終わればひょっこり帰って来ますぞ』との事で、全部を全部こちらでやってしまうのは魔王様の為にならないからと。
私もそうだと思ったので納得した。
「それによいのですかな? 魔王様が逃げ出してはまたリッカ殿が苦労するのですぞ」
「…………」
無言の魔王様が私をチラリと見る。
そうだ、魔王様が逃げたらまた私が3日分の執務を肩代わりしないといけないことになる。
私は魔王様に近寄り、目線を合わせて魔王様に微笑みかけて話す。
魔王様は逃げたりしませんよね、と。
飴と鞭で優しく諭したのだ。
すると魔王様も分かってくれたのか、
「ワシ、やっぱり執務はイヤなのじゃ」
突如として現れた魔法陣が魔王様を包み込む。
この魔王様、反省したと大人しくしていると思ったら、魔法を発動させる時間を稼いでいたのか。
しかもこの見覚えのある魔法陣はまさか――
「油断したのぅ。転移魔法ならばオリハルコンなど関係ないわい!!」
やっぱり転移魔法か!?
しまったと宰相様に目をやれば、『やられた!』と打つ手がないとした顔をしている。
魔法陣が螺旋を描くようにして輝き始める。
うっすらとした幻想的なまでの光が魔王様を包み込み、魔王様の姿が半透明になる。恐らく、もう転移するのに数秒もないだろう。
ぐるぐる巻きに拘束していたオリハルコンが魔王様の体をすり抜けて私の手元に戻る。
魔王様は申し訳なさそうに私に口を開いた。
「許してほしいのじゃ」
「許さん」
絶対に許さん。
今度は泣いて謝っても許さない。
私の怒りが魔王様に伝わったのだろう。
魔王様の顔が引きつっている。
魔王様が転移するのはもうどうにもならない。
後悔しながら見守るしかなかった私と宰相様に、魔王様は『じゃあね』と手を振っている――
その時だった。
パシャッと魔王様目掛けて液体が降り掛かる。
それと同時に、パリンとした音と共に螺旋を描いていた魔法陣が砕けた。すると『はみゃあ?』と呆ける魔王様の姿が、半透明からはっきりとした姿に現れる。
「――っ」
もしかしてと、私はすかさず土魔法を発動させオリハルコンで再度拘束を試みる……成功。
やはり転移魔法陣は何故か失敗したようだ。
魔王様も何がなんだか分からないとしている。
宰相様も何が起こったのだとしてる所をみるに、此方も何もしてないのだろう。
私も勿論、何もしてない。
そうなると、
「遅い」
聞き慣れた声が突然、私の隣で聞こえる。
いつの間にか現れたその姿は、銀髪の獣耳を生やした半目で此方を覗き込む少女、言わずもながらソラである。
ソラの手には中身が空のポーションの瓶が握られており、何らかの液体を掛けて魔王様の転移魔法をキャンセルしたのはソラの仕業だと分かる。
「な、なにが起こったのじゃあーー!!」
何がなんだが分からないとあたふたしている魔王様。
どうやらソラの姿が視認出来てない様子からして、ソラは自身の固有スキル《幻術》を使って姿を消しているのだろう。
ぐいぐいと私の服の裾を引き、『帰る』と急かすソラに『ちょっと待ってて下さい』と声を掛け、ゆっくりと魔王様に近寄る。
「り、りっか?」
これからまた私に執務を押し付けてとんずらかまそうとした魔王様に判決を下さないといけないのだ。
「ワシ、どうなるのかや?」
「死刑ですね」
万死に値する。
読んでくれてありがとうございます。
久々の2話更新でした!
正月休みで書けたので投稿しました。




