78 リッチィさん、魔王様の代理を務める
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ありがとうございました!
宰相様から『私に継ぐNo.3の権力者ですな』と、なんともやっすいNo.3の権力を頂いてしまった。
魔王討伐の為に異世界召喚されたはずが、いつの間にか魔王を補佐する直属の秘書官として雇われる事になっている。
「どうしてこうなった……」
本当にどうしてこうなったのか。
これからはアンデッドとして食っちゃ寝の自由の人生を生きる筈が、何故か魔王軍幹部として雇われせっせと仕事に励んでいる。
それで本当にいいのか魔王軍。
私は元ではあるが、勇者だぞ。
え、知ってる? 全然構わない? 適当過ぎるだろ!
「はぁ……」
そして今日も私は、魔王の証といえる魔王印を必要書類にぺったんぺったんしていく。
これで経理課から急かされていた仕事は終わった。
今度は軍事課からも急かされている軍需物資の補給・輸送の報告書類。技術部門からは研究・開発に関わる超極秘文書等が普通に私へと届けられている。
……あの、これ普通に私が読んじゃいけないやつでは?
「リッカ殿なら全然構いませんぞ」
そうですか。
少しは構ってくださいお願いします。
丁重にお断りして宰相様に返却しようとしたのだが、差し支えありませんと逆に返された。
本当にこれでいいのかふざけるな。
いや、これは適当過ぎるというか、あからさまに私を取り込もうとしている。
ここまで知ってしまったらもう逃げられないよね、と。
逃げたらどうなるか……分かりますなと宰相様の無言の圧力を感じる。
本当に誰か助けてくれ。
このままだとガチで魔王城で死ぬまで社畜として働く事になりそうだ……あ、そうだ私はリッチだった。不死で死ねないから一生社畜だ。クソヤロウ。
そうして私は、今日も逃亡した魔王様の変わりにぺったんぺったんと魔王印をぺったんしていくのだった。
早く帰って来て下さい魔王様。
私はもう限界です。
帰って来たら絶対に後で魔王様泣かします。
◇◇◇
「――《チラシ》発動」
いつまで経っても終わらない積まれた書類の束にいい加減に我慢の限界を超えた私は、『突然どうしたのですかな』と隣で驚く宰相様を尻目に、固有スキル《チラシ》を発動させた。
目の前に展開された半透明状のチラシに目を白黒とさせる宰相様。
スキルばれとかもう知らん。
これは何ですかなと質問する宰相様に固有スキルだと簡単に伝え、私はチラシを操作していく。
今日の広告チラシは――
お菓子のハダダ。
四国等で販売や通販、店舗を行っている和菓子・洋菓子の製菓のメーカー。
前世の頃に四国を旅行した際、栗タルトの手巻き体験でタルトを造ったのは懐かしい思い出だ。
私は久しぶりに目にする和菓子・洋菓子を複数選び、背後で面白そうにチラシを覗き込む宰相様に微笑みながら伝えた。
「一息休憩しましょう」
◇◇◇
「はぁ、染み渡る……」
疲れた時には甘い物が一番。
そう教えてくれた人に花丸をあげたい。
本当に脳が蕩けそうだ。
「ふむ、これは中々……いや、最上ですな」
隣で私とくつろぎ休む宰相様も、私と同意だと頷いている。
「特にこの……ドラヤキといいましたかな。栗大福もそうですが、特にこのドラヤキが素晴らしいですな」
「分かりますか!? 実は私もドラヤキが大好きなんです!!」
地味に嬉しい。
数ある選んで購入した和菓子・洋菓子、その中でも私一押しのドラヤキを選んで美味しいと言ってくれた事が素直に嬉しい。
「えへへ」
優しい甘味のドラヤキに顔が蕩けながらも、宰相様におすすめですと色々なお菓子を食べて貰う。
和菓子ならドラヤキから大福に饅頭、洋菓子ならば定番のシュークリームにマロンプリン、ショートケーキもマロンやフルーツ等をふんだんに使った様々な種類のお菓子を選んで購入していく。
「どれも大変素晴らしいですな、これ程まで完成したお菓子は初めて食べましたぞ」
本当に素晴らしい出来栄えだと宰相様が食していく。
やはりこの異世界ではそれほどお菓子料理が発達してないみたいだ。
前に魔王城でご馳走になった、ランチのデザートとして出てきた杏仁豆腐擬きしかり、ギルド長がいつも持ち歩き食べているお煎餅に商業ギルドで出されたカステラ擬き。
地球のお菓子によく似たお菓子なだけに、何処か物足りない所があると感じていたのだ。
「不思議にお思いですかな」
「……ふぁい?」
突然どうしたのか、豆大福を食していた途中の私に宰相様が問い掛けて来た。
「リッカ殿が此方のデザートを物足りないと思うのは当然ですな。なにしろ魔王城都に出回っているデザートは全て、魔王様が召喚された勇者の故郷、異世界のお菓子を参考にして作られた物ばかりですので」
魔王様曰く、全てが未だ未完成であると勝手に話し始める宰相様。
あの、私はまだ口に出して質問してないのですが……あ、はい、顔に出てたんですね、分かります知ってますそうですよねチクショウが!
流石は勇者殿の故郷のお菓子ですなと呟き誉めてくれる宰相様をスルーすると決めた私は、黙々と目の前に並べたテーブルのお菓子を食べる事にした。
ヤバい、本当に美味し過ぎる。
この体(♀)になってから唯一良かったと思える長所は、やはりなんと言っても味覚だと思う。
前世の頃よりも甘味が物凄く美味しく感じる。
今ならば分かるし理解できる。
女性が甘い物は別腹だと言ってた事が。
えへへ。
久しぶりに味わう甘味に顔が蕩けそう……幸せだー。
「……しかし、リッカ殿」
「ふぁい?」
なんだろうか。
また突然に宰相様が問い掛けて来た。
若干、顔が赤く見えるのは気のせいかな。
「そのお顔を他の人の前でしては決してなりませんぞ」
「…………」
え、あの、もしかして口説いてるんですか?
すみませんごめんなさいムリですセクハラです訴えますよ。
「違いますぞ。決して勘違いなさらずに、私はその顔で他の殿方……いや、同性の方を含めて二人っきりでしてはならない顔だと忠告しているのですぞ」
襲われかねないですからなと宰相様が再度忠告してくる。
はて? そうなんだろうか。
ペタペタと自分の顔を触っていると、ため息を吐いた宰相様が私の前に鏡を……誰だ、このとんでもない美少女は! あ、私です。マジでか!?
「ちなみに私には妻と子、曾孫までおりますのでな」
知ってます。
あなたの曾孫さんが私の家に住み着いてますからね。本当、とんでもない曾孫です。もう少しどうにか出来なかったもんですかね。根は凄く良い娘だと分かってはいるんですが。
ご忠告ありがとうございますと宰相様に返事をして鏡を返す。
しっかし、改めて自分の顔を再確認すると本当に美少女だったな。
分かってはいたけど、あの顔だけは駄目だ。
色々とヤバい。
自分で自分の顔に『ドキッ』とした。
ここまで素直に顔に出るとは……私、恐ろしい娘。
てか閻魔大王様、本当にこれどうしてくれとんのか。
これじゃあ私、人前で簡単に笑えないんですが? 色々な意味でも笑えないですが?
これからは仮面でも装着して過ごそうかと、本気で悩みながらモミモミと顔を解して標準に戻す。
それから少し無言で二人で一息ついていると、宰相様が思い出したと苦笑いをしながら口を開いた。
「魔王様もさぞ残念がるでしょうな。あれほどまでに求め試行錯誤して造り出していた物、お菓子の完成品がここにあるというのに」
「そう言えば、そうですね」
宰相様曰く、魔王城都で出回っているお菓子は全て魔王様が造り出した物で、その殆どが勇者の故郷のお菓子、すなわち地球のお菓子を真似て試行錯誤のすえに造られたお菓子だそうだ。
何でも、魔王様が200年前に魔王に即位した時に掲げた魔族国のスローガン、第一の理想や目的を『勇者・人類の撲滅』から『勇者の故郷のお菓子の再現』と変更したほどだとか。
とんでない魔王様である。
当時、あまりにもふざけたスローガンだと多くの魔族達が反発したが、魔王様が物理的に全員を黙らせたらしい。
本当にとんでもない魔王様である。
そんな魔王様の過去のとんでも話を、宰相様の過去の苦労話をお菓子をつまみ聞いてると――
「あれ?」
気付くと、目の前に並べていた沢山のお菓子がテーブルから消えている。
もしかして全部食べちゃったかなと思っていると、なにやらテーブルの下で『ムシャムシャ』と変な音がしているのに気付く。
先に物音に気付いた宰相様がテーブルの下を覗き込み、何とも言えないとした表情で固まっている。
私もおそるおそるとテーブルの下を覗き込んでみると――
「んみゃあ?」
魔王様、みーつけた!
読んでくれてありがとうございました。




