76 リッチィさん、正社員に誘われる?
それから、謁見という堅苦しい名のお呼び出しが無事に終わった。
結論的に言えば、私は無罪放免でした。
元々は闇ギルドは犯罪者集団であり、壊滅しても別に問題はないらしく、しばらくすればまた復活するのでOKらしい。傭兵団も同じ理由で、裏で色々と悪どいことをしていたので問題ないとか。
じゃあ呼び出した意味あるんですか? と聞いてみたら、宰相様に改まって頭を下げられ『ソラの面倒をこれからも宜しくお願いします』と懇切丁寧にお願いされた。なんでも物凄く手の掛かる曾孫らしく、貰ってやって下さいお願いしますと熱望された。
……え、ソラのお爺ちゃんって、そんなにビックなお爺ちゃんだったの? 宰相様とか魔王様に継ぐ権力のNo.2って聞いたんだけど……てか、貰ってくれって……嫁に貰えと? 私、今は女なんだけど……え、問題ない? 権力でどうにかする? 絶対に権力の使い方を間違ってると思う。
どうやら今回の要件はこっちが本命だったらしく、宰相様は長年ソラの扱いには大変に頭を悩ませていたらしい。
曰く、魔王軍幹部に属しながらも平気でめちゃくちゃな問題を起こすソラは、本当に色々と悩みの種だったとか。
そこで現れたのが私だった。
ここ半年近く、魔王城のとある隔離された軟禁状態であった研究所から突然姿を消し、地上へと再び姿を現したソラ。
最初はまたどんな災厄を起こすのかと宰相様も危機感を抱いて厳重に監視していたのだが……蓋を開けてみれば大変穏やかに毎日を過ごしいるという信じられない事が分かった。
その原因が私。
何故か普通にソラと会話し一緒に暮らしている頭のおかしい謎の人物。
詳しく調べてみれば、まさかまさかの伝説のお伽噺のリッチであり伝説の固有スキル《クリエイトアンデッド》を所持し、これまた前代未聞の《ダンジョンマスター》&《炎竜の煽りし者》の称号持ち。
始めは第二のソラが現れたと宰相様も私を警戒はしていたが、監視報告によれば私の評価は比較的善人のお人好しであり、他の冒険者達が擦り付けた借金も律儀に払うという愚直な程の生真面目。リッチという希少な種族なこともあり、トラブルに何度も巻き込まれてはいるが、全て自力で解決する程度の実力は持ち合わせている。
冒険者ギルドからの報告でも同様で、どうやら私は無害認定されているとか。
そしてその人物が、超危険人物と認定されている我が曾孫、ソラを御しているというとんでもない事実が発覚。
その結果を踏まえて、これからもソラの面倒を何卒宜しくお願いしますとお願いされた。
要するに丸投げである。
ふざけるなと言いたい。
まぁ、別にいいんだけど。
嫁にとかは置いといて、ソラと一緒に暮らすのは割りと悪くない。
問題は起こすけど、なにか許せてしまうので問題はない。色々と助けてくれることもあるし。むしろいないと困る。
そう言うと、まるで本物の聖人――勇者でも見るかのような視線が帰って来た。
や・め・ろ!
本当に洒落にならないからな!
「リッカ殿、不詳ながらも我が曾孫を何卒宜しくお願い致します」
「あ、はい。嫁に貰うかは別として、お願いされました」
もはや目の前にいるのは宰相様でなく、曾孫を心配するただのお爺ちゃんが私に頭を下げてくる。思うず面食らって了承してしまった。
それからは何故か、宰相様から冒険者の証を少し預からせて下さいと言われ、水晶のような物に翳しては操作し、直ぐに返された。
はて?
何をしたんだろうかと不思議に思っていると、魔王様から『ステータスを見るのじゃ』と言われたので、冒険者の証を操作して表示する。
「ステータスオープン」
名 前:リッカ・エンマ
年 齢:16
種 族:リッチィ
レベル:26
スキル:秘書官
固有スキル:チラシ(改) 土魔法 クリエイトアンデット
加 護:▲◆◇★
称 号:わぁれの娘だぁ ダンジョンマスター ダンジョン撃破者 炎竜を煽りし者
備 考:魔王城への登城許可証
「魔王城への登城許可証?」
何か新しい欄が増えてる。
備考に魔王城への登城許可証ってあるけど、これって……
「なんだ、お前も貰ったのか」
ギルド長がお前もと言ってきた。
もしかしなくても、これってギルド長が持ってるのと同じやつだ。
なにか私も自由に魔王城へ出入りする資格を得たようだ。
「これって本当に私が頂いてもいいのですか?」
むしろ何故に私が貰ったの分からない。
困った時には役に立ちそうで便利だけど、魔族としては新参者の私がこんな大層な物を頂くのはどうなのか。貰えるなら貰うけども。
「ええ、是非とも頂いて下さい。なに、我が曾孫の婿ならば我が一族と同意ですからな」
いや、嫁に貰うとは言ってないのですが……それは確定事項なのですか? え、返品は受け付けてないと。そうですか、せめてもの罪滅ぼしですか。
「うむ、文句をいうやつはワシが黙らせてやるのじゃ」
此方も宰相様と同様、歓迎すると手招きする魔王様。
「…………」
何故だろう。
凄く嫌な予感がする。
二人が親切過ぎて明らかに不自然だ。
これはあれに似てる。
つい最近、地獄で閻魔大王様にブラックな職場を『もう辞める』『帰りたい』と相談したら、その日の夜に高級料理屋に連れていかれて優しく唆され、何だかんだと引き留められ半年も働くはめになった時と同じだ。
すると宰相様が口を開いた。
「ところで、リッカ殿。先程の話しを聞くに……なにやら金銭面で不自由しているご様子。もしよろしければ……どうですかな、魔王城で働いてみませんかな?」
続いて魔王様が口を開いた。
「そうじゃな。それにくわえてリッカは希少な種族、伝説のリッチじゃ。魔王城でお勤めとならば、他の怪しいやつらも安易に手は出せんじゃろう」
二人共が甘い言葉を囁いて来る。
魔王城で働けることなど、こんなチャンスは二度とないと言ってる。
少し考えてみる。
魔王城でのお勤めは超が付くほどの人気職だ。
しかし、魔王様の人嫌いのせいもあり、極端に働く職員が制限されている。
メイドさんも目につく限り、4~5人くらいしか見なかった。
結論、NOである
「お断りします」
「なん、じゃと……」
「なん、ですと……」
誰がブラックな職場で働くか。
私は魔王信奉者ではないので、メイドとして喜んでワンオペでお世話とかしたくない。
そう説明すると魔王様が、
「待つのじゃ、ワシはメイドとして雇うつもりはないぞ」
メイドではないと言ってくる。
なら軍人としてなのだろうか?
「いえ、軍人は腐るほどおりますので、これ以上はいりませんな」
宰相様から先に否定された。
軍人は魔族全員が軍人といってもいいので、これ以上いらんと。
「それよりも、リッカ殿は素晴らしいスキルを有していますな」
宰相様が突然に誉め出した。
「うむ、《秘書官》のスキル持ちは中々におらぬ希少なスキルじゃ」
なるほど。
二人は私の新しいスキル、秘書官のスキルに目を付けて誘っていると。
「だが断る」
そう言って私は冒険者の証を差し出した。
魔王城の登城許可証はいらないのでと、抜いてくれと。不要である。
つまりは、文官の職員が足りないから働いてくれと言ってるのですよね。
嫌ですよ、面倒くさい。
借金は返したし、私はもう働きたくないのだ。
金銭面に関しても、商業ギルドのマスターであるクマさんと野菜の卸しを約束してるので、クマさんが帰ってき次第直ぐに契約を結ぶつもりだ。
後は、何もしなくてもお金が入る。
野菜達は自分で自分を生産してくれるし、管理についてもソラと田中君が見てくれる。
私はぐーたらなアンデッド人生を寝て過ごすのだ。
あえて言おう、労働とはクソである。
私の断固拒否とした態度を察したのか、宰相様は微笑を浮かべて近づきボソッと呟いた。
「最近、どうやら王国が何やら魔族領に探りを入れて来ております。間者は処分しておるのですが、なにぶん数が多くて……中には誘拐等と強行策に出ている者おります。――意味がご了解頂けますかな?」
「あ、はい……ありがとうございます宜しくお願い致します」
思わずそう返してしまった。
おい、明らかにこれバレてるよ。
私が今代の召喚された勇者だと分かってて宰相様忠告してきたよ。
モロバレじゃねぇか!
てか、私の誘拐を指示してきた黒幕って王国の関係者なの? 私、王国にも正体バレてる?
やだー、私の個人情報ガバガバじゃん。
どうやら私の波乱万丈な人生は暫く続きそうだ……100年くらいダンジョンに籠ってようかなぁ。
それだけ経てば忘れてくれるよね。
あー、本当に人間滅びないかなー。
読んでくれてありがとうございました。
2021年、今年最後の更新になります。
ここまで読んで頂いた皆さま、本当にありがとうございました! 凄く嬉しかったです!
もしよろしければ来年も宜しくお願いします。




