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リッチ(金持ち)を願ったらリッチ(アンデッド)にされたんだが?  作者: キヒロ


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74 リッチィさん、魔王様と対面する

 

「どうすんですかね、これ」

「どうだろうな、私は知らん。飯はまだか」


 現在、私とギルド長は魔王城の謁見の間にて暇を持て余していた。


「宰相様、出て行ったっきり戻ってきませんね……」


 やはりと言うのか、その通りだったと言うべきなのか……謁見の間には魔王様は不在であった。というか逃走していた。


 私とギルド長が謁見の間に入るなり、半年ぶりに姿を拝見した宰相様は一言『申し訳ございません、少々お待ち下さい』と、額に井形を作りながらその場を後にした。

 どうやら宰相様もギルド長と同じで、私と魔王様が交友があると勘違いしていたらしい。


 それからどれくらい時間が経っただろうか、謁見の間にて待機する私達の後ろ、扉の向こう側から騒がしい声が聞こえてきた。


『こ、こら、はなせ、はなすのじゃクソ爺!!』

『駄目ですぞ、放せばまた魔王様は逃げてしまいますからな』

『こんのあんぽんたんが!! ワシは、何度も、言うとる、じゃろうが!! ワシはアンデッドはムリ、本当にムリなのじゃ!!』

『やれやれ、あまりわがままばかり言ってはなりませんぞ、あなたは魔王様なのですからな』

『あんな、ワシ、本当にムリなのじゃ。アンデッドは腐っとるからな……ワシ、ちと生理的に不可能なのじゃ。お主もよくわかっておろう。じゃからな、あとはお主が勝手にやっておいてくれんかや?』

『魔王様が職務を放棄してどうなさるのですか』

『ならワシは辞める、魔王なぞ辞めてやるのじゃあ!!』

『ほほほ、またご冗談を……ささ、リッチ殿がお待ちしておりますぞ。大丈夫です、リッチ殿は臭くありませんからな』

『う、ウソじゃ、ウソっぱちじゃあああ!!い、嫌じゃ、ワシは会いとうない!! は、はなすのじゃぁあああ!! 臭いのはいやなのじゃぁああああああ!!』


 ……あの、私、帰ってもよろしいでしょうか。

 こんなの聞かされたら心が砕けちりそうです。

 しかもあの可愛いらしい容姿の魔王様に言われるとか……ご褒美でもなんでもないですね。私はドエムではなく正常なので本当に辛いです。


 ガッチリと私の腕を掴んで放さないギルド長と私を後目に、謁見の間の扉が鈍い音をたてて開いていく。


 ゆっくりと開いていく扉からは、凄く嫌そうな顔をした魔王様が恐る恐ると、鼻をツマミながらちょこんと顔を覗かせていた。つらい……


「はみゃ?」


 キョトンした黒い瞳が此方を捉える。

 それはまるで珍獣を見たかのような瞳で、『何故こんなところに田舎者がおるのか』とした顔をしている。


 私は半年ぶりに会った、黒髪の似合う可愛いらしいお人形さんのような姿の魔王様に、親しみ込めて微笑みこう答えた。


「どうも、お久しぶりですね。田舎者改め、私はアンデッドのリッチ種、リッカ・エンマと言います。ちなみに私は臭くない方のアンデッドなので、嫌いならないでくれたら嬉しいです」


 その直後、魔王様の『うひゃあああああああ!!』とした悲鳴が謁見の間に轟いた。



 ◇◇◇



「そうかや、お主がリッチであったのか……どうりで、前回お城をうろついておったわけじゃな」


 納得じゃと顔を恥ずかしそうに赤く染めた魔王様が頷いている。多分、初めて魔王城のテラスで出会った時のことを思い出して言ってるんだろう。


「すみません、私もあの時は後になって気付いて……その後も本当のことを言えずに申し訳ございませんでした」


 私もまさか幼女が魔王様だと思っていなかったので、とりあえずはと前回のモンスター襲撃事件前の出会いを含めて謝っておく。

 目の前の幼女改め、魔王様なら気にはしないと思うが、不敬であるとか言われたらとんでもないので一応はだ。なでなでしまくったからね。


「う、うむ。そうか、や……」


 私の謝りの言葉に何故か言葉を詰まらす魔王様。どこか落ち着かないその様子は、私にチラチラと視線を向けては反らし、なにかを言いにくそうにモジモジしている。


 私の頭の中を嫌な予感が走る。


「私は死刑ですか?」

「なんでそうなるのじゃあ!?」


 良かった。

 どうやら私の勘違いだったようだ。


「不敬であるのじゃと言われたらどうしょうかと思いました」

「ワシはそんなことでいちいち死刑にはせんわ」


 ですよね。

 私が知ってる魔王様はそんな人じゃないと分かってました。

 じゃあなんでそんなに言いにくそうにモジモジしているのか……はっ、おトイレか?


「それも違うわい!!」

「あれ、私声に出してましたか?」

「お主はいい加減、顔にでることを学んだらどうじゃ?」

「チクショウ」


 本当にチクショウだ。

 悔しそうに黄昏れる私に魔王様は『はぁ』と、毒気を抜かれたようにため息を付いて此方に近寄って来る。


「……あんな、ワシ、知らぬかっとはいえ、お主に……リッカに酷いことを言ったのじゃ」


 魔王様は心苦しいと私を見詰めながら続けた。


「すまんかった。ワシはリッカのことをなにも知らずに臭いと、おぞましい存在じゃと、口にしてもうたのじゃ……」


 その言葉は先程の騒ぎで口にしていたことだけでなく、前回に魔王城のテラスで口にしたことを含めて謝っていた。


 ……改めて思い出したら泣きそうになる。

 生理的に受付けないとか、おぞましい存在とか、絶対に腐ってて臭いとか……うぅぅ。


「な、泣くほどかや? そんなに気にしておったのかや? す、すまん、ワシはどうしたらいいのじゃあ!?」


 まずい、どうやら思いっきり顔に出ていたみたいだ。頬から流れるような水気を感じる。

 本当にこの体は感情がダイレクトに来ますね。別の意味で悲しいくらいに涙が出る。


 とりあえずはと、私は目の前でわちゃわちゃと慌てる魔王様に視線を合わせるようにして屈み込み、優しく話した。


「大丈夫ですよ、私はそれくらいのことで怒ったりも泣いたりもしません」

「いや、お主、泣いとるぞ?」

「……泣いてませんよ?」

「いやいや、お主、思いっきり泣いとるんじゃが?」


 泣いているかは置いといて。


「私は魔王様にとても感謝しているんです」


 私は感謝込めて話す。


「初めて魔王様と出会ったとき、暴漢に襲われている私を助けてもらいましたよね」

「う、うむ。そうじゃったな……」

「それに道に困っていた私を冒険者ギルドまで案内してくれました」


 あの時は本当に助かった。

 魔王様とあの時に出会えなかったら、今の私はいなかったと思う。きっと色々と大変な目に……貞操とか失っていたかもしれない。本当に、ありがとう、ございます!


「固有スキルのことや一般スキル、魔法のことも教えてくれました」


 固有スキルの仕組みや反転スキル、その他諸々が一般常識なんだがなと呆れられたことも含め。私の《チラシ》のスキルがユニークスキルに分類されることも教えてもらった。


「そしてあれからも色々と私を気にしてくれていたようですし、困ったことがあれば頼ってくれとも言いました」


 まぁ、本当に借金で困って魔王城に連絡を入れたら『只今、家出中です』と返ってきたけど……もともと幼女にお金を貸してなんて言えないですよね。


「あの時も――炎竜に食べられそうになった時にも、魔王様に助けられました」


 魔王城からの特大魔法光線。

 あれは本当に間一髪だった。

 いくら私が不死といっても、炎竜に食べられて腹の中で溶かされ生き続けるとか嫌すぎる。最悪は腹の中でオリハルコンをぶちかましますけど……やっぱり好き好んで腹の中は入りたくない。


「ん? 待て、お主、まさかあの時、炎竜と直接戦っておったのはリッカじゃったのか?」

「はい、そうですね。ほとんどスキルで生み出した者達が、ですけどね」

「そ、そうか、あれはお主の仕業じゃったのか……」


 なんだろう。

 魔王様が若干引いている気がする。

 まぁ、いいか。


「それも含めて、全て全部、魔王様に何度も助けて頂きました。私はとっても感謝してますし、凄く嬉しかったです。魔王様は私の命の恩人です。ありがとうございます、魔王様」

「う、うむ……」


 今出来る精一杯の感謝を込めて、魔王様に笑顔でお礼を伝える。ここで頭に手を伸ばしそうになったけど……ギリギリ耐えた。相手は一応、見た目は幼女でも魔王様なのだから。

 だから私は素直な気持ちを言葉で伝えたのだ。


「わ、ワシは、そこまで言われるほどのことはしとらんと思うのじゃが……」

「そうですか? 私は本当に魔王様に感謝してますし、凄く凄く嬉しかったです」

「そ、そうかや? じゃがしかし、ワシは……」


 どうやらこの魔王様は本当に素直な性格のようだ。私に失礼なことを口にしたのを本気で気にしている。

 でしたらと、私は魔王様が気にやまないようにと、


「じゃあ、私は魔王様が気にしていることは全部許します」

「ゆ、許してくれるのかや?」

「はい、だから魔王様も私のこと許してください」

「許す? ワシはとくにお主に無礼をされた覚えは……」

「頭を何度も撫でましたからね」


 その他にも、チョコレートを餌付けしすぎて中毒になりかけたとか。


「それくらい、別にかまわんぞ?」

「そうなんですか? じゃあそれでは――」


 許可がもらえたので頭を撫でる。

 あー、この触り心地、癖になるかも。

 ソラもサラサラとモフモフしてたけど、魔王様も負けないくらいにサラサラモフモフだ。


「……いや、ワシもなでてもかまわんといったが、ここで普通はなでるかや?」


 そうだった。

 ここは謁見の間、公式の場所でやることではなかった。不敬でした。


「私、死刑ですか?」

「じゃからなんで直ぐにそうなるのじゃあ!? お主は一体ワシをどんなやつだと思うとるのじゃあ!!」


 すみません、正真正銘の魔族の王、魔王様だと思ってました。

 実は素直な可愛い魔王様でしたけど。


「お前ら、イチャイチャするのはかまわんが……私らのことを忘れてはないだろうな」

「そうですぞ、いい加減此方にも気付いてほしいですな」


 あ、そっちも完全に忘れてました。

読んでくれてありがとうございます。

2021年も残り僅かになってきました。

8月に投稿してここまで続くとは、自分でも思いもしませんでした。ここまで読んで頂いた読者や応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

それとすみません、今年いっぱいは週一更新になりそうです。 本当にごめんなさい。

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