37 リッチィさん、籠城する
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「生きてますかー?」
ピクピクと痙攣して気絶する太めの男性を檻越しにスプーンでつつく。
この人は一体何がしたかったのか。
私のご飯を横取りしたかと思えば急に気絶するとか……本当に意味不明だ。
遠くで焚き火している賊の一味の皆さんもこっちには全然気付いてないようだし、もしかしてこれはチャンス?
今なら気付かれずに逃げ出せる?
「いや、そもそも檻に閉じ込められている時点で……あれ?」
鉄格子に手を掛けて気付いた、ちょっとした違和感。
「もしかして……」
固有スキルを発動して触れてみる。
「おおう!」
鉄格子の柵が簡単にグニャリと曲がった!
「使えるじゃないですか、土魔法スキル!!」
てっきり土や石をコネコネするだけの使えない魔法かと思っていたら、まさかまさかのどんでん返し。
土に属するものなら何でもコネコネ出来ちゃうんですか! これは凄い、鉄格子がまるで粘土をコネコネしているようだ。あはははは、もう誰にも私が非力だとは言わせない!!
私の手に掛かればこんな鉄格子なんてほら……グニャリと、ね。
……だが疲れた。トンでなく疲れた。土や石をコネコネするよりも数十倍は疲れる。
やはりこの土魔法は使い勝手が難しい。
「ふむ、しかしこのまま逃げはせる事が出来るでしょうか」
正直に言うと、私の物理的なステータスはかなり低い。冒険者ギルドからも直々に子供レベルとお墨付きをもらっている。
恐らくこのまま逃げ出した所で、気付かれて再び捕まるのが目に見えている。
「ふむ……」
だからといって何も行動しなければこのまま奴隷として売買一直線。
「一か八か賭けに出るのもいいかもしれませんね」
そう小さく呟いた私は、静かに固有スキルを発動させた。
◇◇◇
「ぞ、ゾンビだぁ!!」
時間帯でいえば丑三つ時といったところか、賊の一味が夜営するキャンプ地点で叫び声が大きく響いた。
「何だ、モンスターの襲撃か!?」
「馬鹿な、ここは炎龍の縄張りだぞ!! 低ランクモンスターがここに近寄る訳がない!!」
見張り番の賊が叫んだ事で、賊の皆がゾロゾロと起き出した。
「じゃああれは何なんだよ!? 大量のゾンビの群れに囲まれているぞ!!」
「んなっ!? 何だ、このアンデッドの大群は!!」
夜営地点を囲むかのように包囲するアンデッドの大群、ゾンビ。数にして凡そ200体といったところか。
「狼狽えるな馬鹿野郎共!! 相手はたかがゾンビだ! 落ち着いて対処すれば問題ねぇ!!」
一瞬大量のゾンビに賊の多くが怯むも、髭の兄貴とは呼ばれる男性の一括で統制が戻りだした。
「あ、兄貴……でも、しかし何でこんな所にモンスターが……もしかして炎龍が近付いていて来て逃げて来てるんじゃあ」
「馬鹿野郎!! モンスターをちゃんと見てみろ! あれはアンデッドモンスターのゾンビだ! こんな森の近くにゾンビが湧くわけがないだろうが!!」
「じゃ、じゃあどうしてこんなにもゾンビが──ぐはっ!?」
髭の兄貴が八つ当たり気味に弱気になった仲間をぶん殴る。
「……やってくれたようだな、リッチの嬢ちゃん!!」
ギロっと私を睨む兄貴さん。
あ、やっぱり気付きました?
「一応、妙な真似が出来ねぇように見張りを付けといた筈なんだがなぁ!」
「……? 太めの男性ならそこでピクピクしながら気絶してますよ」
「……何してんだ、こいつ」
「さぁ、私のご飯を横取りして全部食べ終わったら勝手に気絶しました」
「おいおい、そんな筈はねぇだろ。自分で薬を盛って置いて自分で食う馬鹿が何処にいるってんだよ」
「え?」
「は?」
「何それ、怖い」
「……マジか、自分で薬を盛って自分で食ったのかよコイツ」
哀れ過ぎる、てか馬鹿過ぎる。
兄貴さんの太めの男性を見詰める目は、一周回って哀れみを帯びている。
「それにしても油断してたぜ、ギルドから入手した情報ではレベル1で特に目ぼしいスキルもステータスは無かったからなぁ」
あー、それは二日前の古い情報ですね。
「一体どういうカラクリだ? たった一日そこらでスキルが増えるわけもねぇし、何をしゃがった」
増えるんですよ。
一日で二つも増えました。
「企業秘密です」
まぁ教えないですけど。
「くははははっ!! 良い度胸だリッチの嬢ちゃん。伝説の種族の割りにはレベルが低すぎて見世物程度か性奴隷でしか売れないと思ったが……これは中々高く売れそうじゃねぇか、おい」
「うげっ……」
やっぱりこの賊は私を奴隷として売り飛ばすつもりだったのか。ギラギラとした目で私を見詰める兄貴さんの顔は、面白れぇとした表情でやる気満々だ。
「だがな、リッチの嬢ちゃん。ちょっと俺達を舐めすぎじゃねぇか」
「……どういう事ですか?」
「確かにこの大群のアンデッドであれば普通の賊は壊滅するだろう。普通の賊、なら……なっ!!」
不意討ち気味に攻撃させるも、あっさりと兄貴さんに切り飛ばされた。
「あいにく、俺達は普通の賊じゃあねぇんだ。聞いた事がねぇか? 『漆黒の傭兵団』って名前を」
「すみません、今初めて聞きました」
「……その顔はマジで言ってんのか。これでも魔族領は勿論、人間領でもかなり有名な筈なんだがなぁ……ちょっと自信無くすぜ……」
「な、なんかごめんなさい」
「謝んな! 知ってる思って格好付けたのに余計こっちが惨めになるわ……っと、油断も隙もねぇ嬢ちゃんだなぁ、おい」
くっ、落ち込んだ隙に不意討ちを付いたのに又もや簡単に切り飛ばされた。この兄貴さん、本当に強い。
「オラッ! お前等も陣形を組んでゾンビを蹴散しちまえ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
んー、不味い。
あれだけいたゾンビの大群があっという間に減っていく。これは先に兄貴さんから始末して置けばよかった。
「どうしたリッチの嬢ちゃん。これでもう終わりか?」
「《クリエイトアンデッド》」
「おいおいこらこら、サラッとゾンビを増やすんじゃねえよ!!」
「《クリエイトアンデッド》」
「止めろってーの!!」
「《クリエイトアンデッド》」
「お、おい、お前等!! 先にあの嬢ちゃんを止めるぞ、このままだと拉致があかねぇ!!」
「《クリエイトアンデッド》」
「だから止めろってーの!!」
「《クリエイトアンデッド》」
「……マジかよ、まだ増えるのか?」
「《クリエイトアンデッド》」
「くはははは、本当に化け物じゃねぇかよ、なぁリッチの嬢ちゃん」
「《クリエイトアンデッド》」
「これは売るのは止めだ。なぁ、よかったらうちの傭兵団に入らねぇか?」
「《クリエイトアンデッド》」
「どうだ、お前程の力があるなら優遇するぜ?」
「《クリエイトアンデッド》」
「……少しは話を聞けよ、おい」
「《クリエイトアンデッド》」
「……にしても妙に目のやり場に困るゾンビばかりだな。嬢ちゃん、もしかして痴女か?」
「痴女いうな」
私だって本当はまだ使いたくなかったんですよ!!
「おい、先にリッチの嬢ちゃんを抑えるぞ! どうせ檻からは出られねぇんだ」
「《錬金》閉じよ!!」
ここですかさず土魔法スキルを発動。鉄格子の隙間を小さくして小型化していく。つい《錬金》とか叫んじゃったけど、見た目コネコネしている所は似てるので此れからはそう呼ぼう。
「おいおい、こりゃあ何の冗談だ? オリハルコン性の特注の檻を変化させるたぁ……規格外にも程があるぜ」
え、オリハルコン?
この鉄格子ってオリハルコンなの?
鉄だと思ってた、どうりでコネコネするのにトンでもなく疲れる訳だ。後で切り取って持って帰ろう。高く売れそうだ。
「おい、止めろよ!! そのオリハルコン性の檻はめちゃくちゃ高いんだからな! 今回、伝説のリッチを捕まえるってんだから無理して借り入れたんだぞ!!」
おおう!
やはり高く売れるのか。
お持ち帰り確定だよ。
「お前、後で絶対に元に戻させるからな……覚えてろよ」
怒りながらも呆れる兄貴さん。
「てかお前、さっきから何してんだ? そこまで変形させる事が出来るんならとっとと逃げ出せただろうが……」
そう言う兄貴さんはいつの間にか、私の目の前で呆れたように佇んでいた。ま、当然か。コネコネしてたらゾンビを作れないからね。気付けばあっという間に全滅していた。
「……まぁいい。とりあえず大人しくしてな、悪いようにはしないからよ」
「嫌です」
「……お前、この状況が分かってねぇのか? 既にゾンビは駆逐されて全滅、お前はその檻……妙に小さくなった檻の中で囲まれてんだぞ? てかお前、本当に後で檻もとに戻させるからな!!」
「嫌です」
「こいつ……おい、誰かリッチの嬢ちゃんをこの檻から出してやれ!!」
ピクピクと瞼を痙攣させながら私を無理矢理外に出そうとする兄貴さん。しかし、甘い。そんな事は想定済みである。
「あ、兄貴、この檻、入り口が有りません!!」
「何だと!?」
「しかも格子の隙間が小さ過ぎて腕が入りません!!」
「なっ!?」
ふふふ、どうせ走って逃げたって何時かは追い付かれるんだ。ならば籠城戦で徹底的に抵抗してやる!
「《クリエイトアンデッド》」
「おいこら、馬鹿止めろ!!」
この隙間ない完璧な迄に小型化したオリハルコン性の籠城戦用の檻。壊せるものなら壊してみろ!! 弱点などないわ!! あはははは!!
「《クリエイトアンどぇえええ!!」
「揺らせ!! 攻撃が効かねぇなら揺らして揺らして揺らしまくれ!!」
な、何だと、そんな弱点が……うぷっ、気持ち悪い……
「や、止めろーー!!」
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