38 リッチィさん、炎竜を煽る
「おい、リッチの嬢ちゃん、いい加減諦めて檻から出て来て来んねぇか?」
「嫌です」
小型化し過ぎてしまったせいか、コロコロと転がされまくったオリハルコン性の檻。しかし、今は対策をしてオリハルコンの一部を地面にアンカーとして打ち込む事で固定化に成功した。
「そうか、じゃあ仕方ねぇなぁ。……おい、やれ」
「へい、兄貴」
兄貴さんの命令で何やら動き出す賊の仲間達。一体何をするのかは知らないが、全て無駄だと言わせてもらお……え?
「兄貴、用意できました」
「よし、じゃあ火をつけろ」
ちょいちょい!
正気、正気なの!?
「安心しろ、お前を直接燃やす訳じゃねぇ。おい、やれ」
「へい、兄貴」
何だ、何をする気だ!?
ま、まさか……
「煙を焚いて浴びせてやれ。そしたら自分から出てくるだろう」
「成る程、流石は兄貴っす!!」
ちょっ、待って!
エグい、エグ過ぎるよ!
「けほっ! ちょっ、ちょっと止め、げほげほっ!!」
「あぁ、何だって?」
「げほっ! 煙たい、止め、げほげほっ!! 苦し、げほほっ!!」
「聞こえねぇなぁ。もう少し大きく言ってくれないと」
「げほっ、げほげほっ…………あ、そう言えば私はアンデッドなので呼吸は必要ないんでした」
「……野郎」
あはは、忘れてたよ。
私はリッチだったよ。
「なぁ、とっとと出て来てくれねぇか。リッチの嬢ちゃんももう流石に分かってんだろ? これがただの悪あがきだって」
「…………」
「籠城戦って言うのは味方が駆け付けてくるのが前提だからするもんだ。嬢ちゃんがもしも味方が駆け付けてくるのを待ってるんだとしたら、それは無駄だ。俺達はプロだ。ここまでの足取りは全て消してるし、まさか炎竜の縄張りの災厄の森を進んでいるとは誰も思わねぇよ」
だからいい加減諦めろとする兄貴さん。決して悪い様にはしないからよと。
「ふふふ」
「何だ、どうして笑うんだ」
「いえ、そろそろ来る頃かなと思いまして」
「……は? だから言っただろ。此処には誰も来ねぇって、俺達はそんなヘマはしない」
何が可笑しいんだと私を睨む兄貴さん。
「そんな事は最初から分かってますよ」
「んならよぅ……」
「だが断る」
「……はぁ、嬢ちゃん、俺も手荒な真似はあまり──」
突如、ズドォォンとした音が辺り一面に響き渡る。
「あ、やっと来たみたいですね」
バキバキと森が薙ぎ倒される音が近付いて来る。
「……おいおいおいおい、まさかだろ!!」
「まさかじゃありませんよ?」
「正気か!?」
「ええ、初めからこうするつもりでしたから」
この森が災厄の森だと知った時からこうするつもりだったのだ。
「なっ!? だがどうやって……お前はそこから身動きが出来なかった筈じゃあ!?」
「あー、以外と簡単ですよ。実はゾンビを500体用意してまして、その内200体はここを襲わせ、残りの300体を別の場所──炎竜の住みかに向かわせたんです」
「5、500体だと? ……どうやら本当に嬢ちゃんを甘くみていたようだな」
流石は伝説のアンデッドリッチだと、畏れるいるぜと兄貴さん。
『──GyaoOOOOO!!』
炎竜の唸り声が聞こえた。
「だがあれはやり過ぎだ!! どうすんだよ、全員死ぬぞ!!」
流石の兄貴さんも炎竜が迫って来るとあって慌てている。
「え、私は最初からそのつもりでしたが?」
「んなっ!?」
このまま売られて性奴隷にされるくらいなら死んだ方がマシだ。私は一応は不死という事なのだから、下手したら一生奴隷という可能性がある。それに一度は地獄に行ったことがあるし、何となく、何となくなのだが私の称号『わぁれの娘だぁ』のせいで地獄の運営を手伝えとか言われそうだ。
「ちっ、最初から覚悟していやがってたって事か。大した嬢ちゃん……いや、女だな。ちっとばかし格好いいと思っちまったぜ」
「え、今なんて言いましたか?」
「あ? 格好いいと言ったんだが、女は可愛いって言われた方が良かったか?」
「いえ、格好いいはそのままで、出来れば女を男に変えて下さい」
「何を言ってんだよ、お前……」
言っている意味が分からないとする兄貴さんだが、此方は大真面目だ。日々知らぬまに精神が女性化してるのだがら本当に気を抜けないのである。
「あ、そう言えば私は不死、リッチなので死にませんでした」
「おい、ふざけんなよコラ!」
刹那、満天の星空が真っ赤に染まった。
『GyaoOOOOOOOOOO!!』
炎竜の咆哮。
体の心臓処か、魂の奥底までビリビリと震えるような感覚。
ヤバい、これはヤバい。ガチでヤバい。
真っ赤な燃えるようなその赤い体と深紅の瞳。鋭い爪には妖しく光る宝玉を握り締めており、体長は優に100メートルは超える立派な体格……ん、あれって炎竜? どっちかと言われたら炎龍じゃないかな? 西洋竜じゃなくて東洋の龍みたいな? いや、どっちでもいいんだけどさ、何か怒ってない?
「おい、俺の気のせいじゃなかったらあの炎竜めちゃくちゃ怒ってんぞ!! 嬢ちゃん一体何をやらかした!」
「んー、どうでしょうか。私はただゾンビに炎竜を見付けたらここまで誘き寄せるようにって命令しただけなのですが……」
まだこのスキルは完全に使いこなせてないのであまり複雑な指示はしていなかった筈……
「あ、そう言えば、炎竜が見付かっても見付からなくても自爆せよとは命令しましたね」
流石にもし炎竜が見付からず、永遠と森をさ迷っていては色々と後で迷惑になりそうなので保険をうっておいたのだ。一定時間経つとブッぱするようにと……あれ、もしかしてそれが原因?
眼をよくよく凝らして見ると、真っ赤な燃えるような赤い体に何か肉片のような塊がこびりついているような……
「で、では、私は前もって作って置いたこの檻に隠れているんで、それでは皆さんさようなら」
私は何も見なかった。
うん、何も見てない。
「おい待てコラ! 一人だけなにちゃっかり避難してんだよ。俺もそっちに入れろ!!」
「すみません、これは一人用なのです」
「嘘つけ!? そっち詰めればまだ一人分はあるだろうが!!」
「えー……やだぁ……」
何で好き好んで私を拐った賊を助けにゃあならんのか、煙で燻された恨みは忘れてないぞ?
「はぁ、仕方ないですね、今回だけですよ」
「本当か!?」
「ええ、ですが……先程も言った通り、これは後一人分しかないので誰が入るかはそっちで決めて下さい」
兄貴さんの後方に視線を向けて見れば、そこには賊の仲間達が血走ったような眼で此方を睨んでいる……あれ、もしかしてこれはバトル・ロワイアルのパターンか?
兄貴さんが危険を感じたのか、腰から剣を抜き、ガチな感じで構えている。うわー、ないわー。
「ごめんなさい、やっぱり無理です」
「お前マジふざけんなよコラ! どうすんだよこの空気!!」
いや、だって皆の顔が怖すぎるんですよ。仲間割れとか見たくない。
「本当にごめんなさい。最悪、皆さんが死んだら後で私がアンデッドとして蘇らせて上げますからそれで我慢して下さい……私の命令には絶対服従ですけど」
「お前さらりと本当に怖い事言うんじゃねぇよ! 特に最後に何て言った」
いや、もうね、本当にそれが最大限の譲歩なんですよ。
「所で、先程から炎竜の口が徐々に光っていっているのですが、逃げなくていいのですか?」
「んなっ!? 野郎共、全員バラバラに逃げろ!! ブレスが来るぞ!!」
仲間割れしそうになってもそこはやはり兄貴さんなのか、賊の全員が一斉にバラバラに散りだした。
「《クリエイトアンデッド》」
恐らくは炎竜のヘイトを一番集めているであろうゾンビを作り出し、兄貴さん達が逃げ出した方向とは逆の方向に向かわせる。
これで少しは時間が稼げるだろう。
私にはこれで今は精一杯だ。
炎竜のブレスが放たれようとした瞬間、私はオリハルコン性の檻を完全に箱状へと錬金して地面に潜った。
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