36 リッチィさん、拐われる
「か~え~り~たい~か~え~り~たい~お~う~ち~へ~」
「うるせぇぞコラ! 何度言わせんだ! 静かにしゃがれ、ぶっ殺されてぇのか!!」
鉄格子越しに怒鳴り声が響いてきた。このやり取りももう数え切れない。だって暇なんだもん。
ガタガタとお尻に振動が走る。
馬車で運ばれること暫く、もうお外は完全に真っ暗な闇に包まれていた。時間帯でいえば深夜12時といったところか。
「異世界の夜空はなんて綺麗なんだろう」
馬車の中、鉄格子の隙間から微かに見える満天の星空に思わず声が漏れる。
「本当に、どうしてこうなった」
タメ息を吐きながら私はつい数時間前の事を思い出す。100万ゴールドェ……
そう、あれは酒場で冒険者達と親睦を深めるという名だけの私持ちの宴会での後の事だ。
閉店時間という事で酒場を叩き出された私と酔い潰れた冒険者一同は、その後、『二次会に行くぞー!!』と言うことでゾロゾロと町を渡り歩いていた。
いや、あのね、『勿論リッカの奢りでー!!』何て言うもんですから『お金はもうないわー!!』と言ったのに『またまた冗談うまいなー』てね。もうめちゃくちゃだったんですよ。このままだと本当に二次会のお金も私の奢りで払わせられる事になると思って『誰か助けてー!!』と叫んだらこれまたゾロゾロと覆面集団が現れて大勢の賊に襲われたんです。
それはもうあっという間、初めから私を狙っていたのでしょうね。一瞬で簀巻きにされて拐われました。
冒険者達は酔い潰れていたという事もあってか、何も出来ずにバタバタと倒されていきましたよ。おい、私へのお礼はどうした。
それからは賊の行動は早く、恐らく前もって計画されていたのか、簀巻きにした私を担ぎ急いで魔王城都から準備していた檻付の馬車で脱出したのだった。
「おら、休憩だ! 降りろ!」
「――あんぎゃっ!?」
ガタッと急に馬車が止まったかと思えば、太めの男性が檻の中にいる私を外に勢いよく叩き出した。
「……あの、売り物なんでしたらもう少し優しくしてくれませんか?」
突然の事で受け身が取れず、思わず地面に顔からダイブしてしまった私は泥を落としながら太めの男性を睨む。
「チッ……口の減らねぇ生意気な女だな。お前は自分の立場を分かってんのか」
「分かってますよ。だからこうして貴方に言ってるのです」
「こ、このアマ……!!」
言い方が癇に障ったのか、太めの男性が腰の武器に手を伸ばし掛けるが……
「おい、止めろ!!」
背後から表れた髭の男性に羽交い締めにされた。
「あ、兄貴……しかしこのアマが……」
「うるせぇ馬鹿野郎! この女は大切な売りもんなんだ。傷を付けたら価値が下がるだろうが」
「す、すみません、兄貴……」
太めの男性よりも上の立場なんだろう。髭の男性が睨むと直ぐ様に謝ってきた。
「おいおい、リッチの嬢ちゃん。自分の立場が分かってんならもう少し大人しくしといてくれんもんかなぁ」
髭の男性が私を見下ろしながら言ってきた。
「分かってますよ。私を奴隷にして売り飛ばすきなんですよね。とりあえずお腹が空きました、ご飯下さい」
私は別に挑発したつもりはないのだが……とりあえずお腹が減ってきた。こっちは酒場で冒険者達を酔い潰すためにお酒だけをガバガバと飲んでいたのだがら何も食べてないのだ。流石にそろそろお腹が空く。
「こ、このアマ、舐めやがって!!」
「止めろ! ……おい、リッチの嬢ちゃんの飯を用意してやれ」
「あ、兄貴、何でこんな女の飯を用意するんですか!!」
おお、ありがたい、髭の男性は中々に話が分かるようだ。
「この場所で騒がれると面倒だからだ。リッチの嬢ちゃんもここで、災厄の森で騒いで死にたくはないだろ?」
「災厄の森?」
兄貴さんと言われる人の言葉に私は改めて回りを見渡して見る。どうやら結構中々に深い森の中らしく、周囲は一面の緑、草木や大木に囲まれた樹海のような神秘的な雰囲気をかもしだしていた。
「ああ、災厄の森はあの『炎竜』の縄張りだ。下手に刺激して怒らせたくねぇ。だからリッチの嬢ちゃんも……」
ドラゴンの縄張り?
てことは、ここで騒げば最悪でも全員道連れに……
「……おい、あのリッチの嬢ちゃんを檻に戻して置け。あと念のため飯に薬盛っとけ。あの顔はロクでもないことを考えていそうだ。この森を抜けるまでは眠らせておけ」
「わ、分かりました、兄貴」
◇◇◇
焚き火を囲むようにして数十人の賊が夜営の準備をしている。
どうやら今夜はここで一晩を過ごすみたいだ。
「オラッ、飯だ。さっさと食え」
太めの男性が乱暴にスープが入った大きいお皿を置いてきた。
「結構豪華ですね」
スープの中身は沢山のお肉がゴロゴロと入っている。お腹が空いてる今はとてもありがたい。
「ちっ、兄貴に感謝するんだな。最後の晩餐かもしれねぇからって用意してくれたんだ」
「ありがとうございます兄貴さん。では頂きます」
手を合わせて感謝をすると、目の前でギリギリと歯軋りを立てながら此方を睨んでくる。何故だ、ちゃんと感謝したのに。
とりあえずお皿に突っ込まれていたスプーンを手にさっそく頂く。
「不味い」
て言うかバランスが悪い。
沸騰したお湯に塩とお肉をぶちこんだだけの料理だ。
「てめえ、贅沢言ってんじゃねぇぞコラ!!」
だって本当に不味いんですよ。
アリアさんの料理と比べたら雲泥の差がある。あ、比べるのも失礼ですね。だけどこれはないわー。
てことでチラシのスキルを展開。
『何だこれは!?』『おい、聞いてんのかコラ!!』と叫ぶ人は放って置いて、今日のチラシを確認。
ふむ、『ナズミヤ』ですか。
確か関西を中心とした大手のスーパーでしたね。チラシの内容がここまで関西よりなのはもしかして私の出身地が関係しているのでしょうか。
とりあえず展開しているチラシを確認していけば……あった!
お醤油と粉末のだしの素。
各258ゴールドとなっているが、どうやら特売期間中らしく二つ同時購入でジャスト500ゴールド!! 安い、これに決めた。
購入ボタンをタップすると目の前にお醤油と粉末のだしの素が現れた。
ちなみに残りの残金は12000ゴールド。何故こうなった。
目の前で何やら叫ぶ太めの男性を無視してお皿に適量混ぜていく。
そして一口、
「あ、普通に美味しいです」
流石は昔からお世話になっていた万能調味料である。劇的に美味しくなった。
「あむっ」
本当に美味しい。
何故かお肉にまで味が一瞬で染み込んだようで、スプーンが進む。
「…………」
そして気が付けば静かに黙り込んで此方を羨ましそうに見ている太めの男性が……
「良かったら一口どうぞ」
「……はっ!? べ、別にいらねぇよ!!」
そのわりにはヨダレが凄い事になってますが……
「私はこんなに沢山は食べられないので、遠慮しないでいいですよ」
「……けっ、仕方ねぇなぁ。お前がどうしてもって言うなら食ってやるよ」
「あ、じゃあいいです。ごめんなさい」
「さっさと寄越せ!!」
ツンデレさんなのか?
私手製の肉入りスープ(改)が奪い取られた。
「へぇ、初めて食べる味だが、旨いじゃねぇか」
太めの男性が一口食べて感想を口にした。ふふふ、どうだ、これが日本の調味料の味だ!
「うま、バカ旨じゃねーか!!」
ガツガツと食べ始め止まらない太めの男性。そうか、そうか、どうやらこの異世界でもお醤油と粉末のだしの素は通用するようだ。
「えっと、あの、そろそろスープ返してくれませんか?」
勢い食べ始めたのはいいが、いや良くないけど。私は一口どうですかと聞いたのに、これでは完食する勢いなんですが?
「は? 知らねぇし。お前が俺に全部寄越したんだから全部俺のだ」
……この野郎。
そもそも貴方が奪い取ったんでしょうが。哀れんで恵んだのに恩を仇で返すとは……おのれ、食べ物の恨みは絶対に忘れないぞ!!
「ぐははははっ、お前の分は俺がきっちりと全部食べてやるよ! 残念だったな、マヌケ野郎が!!」
ぐぬぬっ!!
マジ許すマジ。
「ぐはははは、はははは……はは、は……」
ん、どうした?
急に固まりだしたけど……
「あ、あれ、何で……体が痺れて…………あ」
んんん?
本当にどうした。
「あ、ああああ……お、お前……」
何故か今度はピクピクって痙攣し出し、
「お、お前、はめ………はめやがっ……た、な………パタリ」
そして気絶した。
意味が分からん。
この人は一体何がしたかったのだ?
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