28 おじさん、リッチィさんを心配する
《初のおじさん視点》
「じゃあ行ってくる、ミラ」
「うん、こっちは任せて。それよりもお父さんこそ気をつけてね」
冒険者ギルドへの報告を終え、娘のミラに軽く手を振りながらギルドを出る。
今回は墓場が急にダンジョンになったせいか、冒険者ギルドに全然人がいない。恐らく殆どの冒険者がダンジョン攻略に向かってるんだろう。
ダンジョンが出来たのも今朝方だからか、ダンジョンも未だ成長しきってはいないからモンスターも弱いはずだ。
最奥にあるダンジョンコアはかなり希少で珍しく、売ればかなりの額になる。
いつも金欠の弱小冒険者からしてみれば大チャンスだろう。
有名どころの冒険者は今全員が魔族領と人間領の境界線に留まっているだろし、多分、後数週間は帰って来れない。何時もなら人間達は勇者が倒されれば直ぐに兵を引くくせに、なんで今回はこんなに粘るんだ? 冒険者ギルドからの情報では人間族の王都で王侯貴族連中が何かやってるらしいが……まさか、な。勇者召喚はそんな簡単にポンポンと直ぐに出来るもんでもないし、金も人も魔力も馬鹿にならないほどに掛かるらしい。まぁ、どっちみち召喚されたとしても魔王様に勝てるわけがねぇか。
それにしても幾何人か酒場で酔っばらって『ばっきゃろー! なんでアンデッドなんだよ!!』と不貞腐れていた冒険者達がいたが……アイツら全員獣人だな。しかも狼人から熊人ばかりだ。そりゃあ不貞腐れるわな。アイツら全員、嗅覚が鋭すぎてダンジョンは無理だ。今回のダンジョンは主にアンデッド中心の魔物、ゾンビばっかりだ。鼻が効く獣人にゾンビは鬼門だな。
かくいう獣人の俺としても、本来ならばゾンビが群がるダンジョンなんて行きたくねぇんだが……仕方ない。俺の仕事は墓場の門番、魔族の共同墓地の門兵だから行かないといけないんだ。クソっ! 何で墓場がダンジョンになってんだよ! 只でさえ墓場勤務でキツいってのに、ダンジョンとか本当にどうなってんだよ!
「あら、あなたどうしたの。こんなに早く帰るなんて、確か今夜は遅くなるって言ってなかった?」
仕事場に向かう途中、自宅兼宿屋に立ち寄ると嫁さんが出迎えてくれた。
「あぁ、ちょっとな。今日はもしかしたら泊まりになるかもしれん。お前も墓場の事は噂で聞いてると思うが……まぁ、念のため着替えを取りに来たんだ」
何時もなら着替えを取りに来たりはしないのだが、今回はゾンビが湧いてるからな。戦闘にでもなれば魔法が使えない俺は嫌でも接近戦で戦わなくちゃならん。正直いって服に臭いが移るんだ。本当に臭いんだよ!
ほら見ろ、うちの優しい嫁さんも察してくれたのか笑顔で奥に引っ込んで着替えを渡してきた。三日分も。
……臭いが取れるまで三日は帰るな? おい、汚物を見るような目で俺を見ないでくれ。これも仕事なんだよ。
アリアは俺よりも臭いに敏感だからな、もしゾンビの臭いを付けて帰って来ようものなら洒落にならない。
「あなた、そう言えばリッカちゃん見なかった?」
「リッカ? あいつなら確か魔王城に呼ばれたと聞いたが……」
リッカと言えば昨日会ったあのアンデッド種のリッチだ。まさかあいつがあの伝説のリッチだったって聞いた時は少なからず驚いたが、俺はそれよりもあいつが全裸で墓場を徘徊していた時の方がかなり驚いた。あいつはダメだ。本当にダメだ。無防備過ぎる。自分がどんな容姿をしているのかを全く分かっていねぇ。
もしあの時、墓場の当直が俺じゃなかったら間違いなく誰かに襲われていただろう。特にうちの隊長だったら完全にお持ち帰りされてる所だ。あのロリコンめ! あのロリコン(隊長)がサボって当日俺に当直を押し付けていなかったら本当にどうなってたか。
「ミラが言うには、魔王城から帰って来て直ぐにダンジョンコア討伐に参加したって言ってたぞ」
最初聞いた時はあいつ本当に大丈夫かと思ったが……まぁ、他の冒険者達もいるだろうし問題ないだろう。
それに全裸で墓場を徘徊してたくらいだ、度胸はある。というか神経が図太いんだろうな、あいつなら大丈夫だ。
元々あの場所は墓場と言う事もあって希にゾンビが生まれる事がある。過去に何でも強力なモンスターが生まれ討伐された事があるらしく、その名残なのか、城都と墓場を挟む境目には堅牢な門が立てられ、警戒するために俺達門兵が見張りを兼ねて門番をしている。
まぁ、だがそれも凄い昔の事で現在は月に1~2体ゾンビが生まれる程度だし、基本的にゾンビは遅い。動きが鈍く簡単に倒せる魔物、初心者冒険者でも楽に倒せるくらいだ。
「リッカがどうかしたのか? 用があるなら俺が後で捕まえて来るが、今はダンジョンコア討伐で帰るのが遅くなるぞ」
どうせリッカも墓場にいるんだ、今回のダンジョンコア討伐が終わったら一緒に連れて帰ろう。どうせ文無しだろうから行くところがないだろうし。いや、引きずってでも連れて帰ろう。あいつ妙に遠慮するから黙ってたらそこら辺で野宿でもしかねない!
「出来れば直ぐに聞きたい事が会ったんだけど、仕方ないわね」
「何だ、もしかしてあいつ何かやらかしたか」
今朝は確か一食一晩の恩があるとか言って大量の洗濯物を運んでたが……あいつ、本当は良い所のお嬢様なんじゃないか? 普通の魔族なら絶対にそんなこと言わねぇしやらねぇぞ。本人は田舎者って言ってたが、ありゃ嘘だな。言葉使いや仕草が丁寧すぎる。てか顔に出過ぎていてバレバレなんだよ。
「リッカちゃんに頼んだ洗濯物なんだけどね……見て、これ」
うちの嫁さん、アリアが広げるようにして見せてきたが……ん、妙に真っ白なシーツだな、うちの宿のシーツ新しく買い直したのか?
「結構な量の枚数だが、これ全部買い直したのか? 宿のシーツも汚れたり黄ばんだりしてそろそろ替え時だったが、結構な金額しただろ」
うちの宿屋に泊まる客は基本的に冒険者が多い。そのせいか頻繁にシーツが汚れる。戦って負った血や汗や泥、武器の手入れの油等でベトベトに。勿論その際料金は割り増しで貰うんだが……アイツらあんまり気にしないんだよな。
この宿の料金は割りと他と比べて少し割高なんだが、飯が上手く量が多いのが自慢ということで、高ランク冒険者が定期的に泊まってくれる。高ランク冒険者は基本的に稼ぎが多いから少しの割り増し料金なんか気にしないんだ。
今は境界線の戦いで殆どの高ランク冒険者が引き払っているから替え時だろう。
「買い直してないわよ。私もそろそろ替え時かなぁとは思ってたんだけど……実はこれ、全部リッカちゃんが今朝洗濯した物なの」
「……は?」
「これも見て、あなたが昨日リッカちゃんに貸したローブ。もう何年も使ってすっかり色が変わってた筈なのに綺麗に……ううん、新品同様になってるの」
戸惑いを隠せないでいるアリアからローブを受け取る。
確かに、これは俺があの時貸したローブだ。襟の部分にある俺そっくりのイラストはアリアが昔に縫ってくれたもんだ。間違える訳がない。でも、このローブは何だ? 僅かな解れなどはそのままだが、手触りや服の色が殆ど新品同様だ。
「どうなってるんだ?」
「それを私がリッカちゃんに聞きたかったの。リッカちゃんが今朝洗濯した洗濯物全部がこうなっていて、宿のお客さんも驚いてたんだから。これは本当に自分の服なのかって」
それはそうだろう。
今目の前で見て触っている俺でも本当にこれが自分の物なのかと疑うレベルだ。
「お客さんも自分の服が新品同様になってたから特に問題はなかったんだけど……」
どうやったらこんなふうになるのかしらとアリアが呟く。
「もしかしてあいつ、『洗濯』スキルか『家事』スキルでも持ってたのか?」
スキル持ちは以外と多くない。
元から持ってる固有スキルとは別で、後から取得するスキルは並大抵の事では取得出来ない。剣術や槍術などは小さい時から何年も振り続けて漸く手に入るもんだ。勿論、才能や身体能力のある奴は直ぐに取得することもあるが、多くの奴は努力を重ねて取得するもんだ。
「でもリッカちゃんって16歳って言ってたわよね。『洗濯』や『家事』スキルって結構年齢を重ねたベテランの侍女やメイドの人しか持ってない筈よ」
固有スキルなら話は変わるけどねと囁くアリア。
『洗濯』や『家事』スキルはうちの嫁さん、アリアでさえも取得してないスキルだ。結構長いこと宿屋の仕事で家事や洗濯等は頻繁にしてるアリアだが、未だ取得は出来てはいない。料理に関しては元から才能があったのか、『料理』スキルは取得している、そのお陰でうちの宿屋は、というか食堂はかなり繁盛しているしな。
「リッカちゃんさえ良ければうちで働いてくれたら嬉しいんだけど。あの子、多分あの様子だともしかしたら自分のスキルも何も分かってないと思うの。だから今のうちに……ね」
く、黒い。
うちの嫁さんが黒過ぎる。
他の人に取られる前に、強引にうちの従業員……いや、凄く可愛いし家族にしましょうかと漏らすうちの嫁さん。
あの子、少しバカっぽいから多分簡単よねと囁く嫁さんが黒い。
確かに『家事』スキルや『洗濯』スキル持ちはかなり貴重だ。この魔王城の城下町、都市でも取得している人は恐らく10人はいないし、持ってる奴は大体が高級宿や魔王城に仕えている。
もしリッカが『家事』スキルや『洗濯』スキルを取得しているなら本当に直ぐにでもうちの宿屋にスカウトしたいくらいだ。だが、
「そう簡単に行くとは思えんがな」
「あら、そうかしら」
アイツ、リッカは一筋縄ではいかない感じがする。
確かに世間知らずなバカっぽい奴だったけど、何故か妙な感じがする。大物っていうか、身に纏う気配が人を引き寄せるんだ。親近感が沸く感じか? ミラも何処か目が離せない妹みたいって言ってたし……魔王様大好きのミラがそう言うって俺からしたら異常だぞ。
「どっちみち周りが黙ってないと思うがな。冒険者ギルドでもあのギルド長がかなりご執心だったらしいし、それにさっきまで魔王城に呼ばれてたんだ」
もしかしなくても宰相様が目を付けただろうな。まさか魔王様も……いや、それはないか。魔王様引きこもってるし。ミラに言ったら凄い怒られたがな。
俺が言った事実にうちの嫁さんが少し困ったわとした顔をして俺の肩に手を置いてるが……一応俺も会ったら誘ってみるか。もしかしたら意外とすんなり頷いてくれるかもしれんしな。
だから、だから、それ以上肩を握り潰すのは止めてくれ! あなたが冒険者ギルドなんか紹介するからと言われてもあの時は仕方なかったんだ、本当に仕方がなかったんだって! 分かった、絶対に暫くうちに住むようにお願いするからこれ以上力をいれないでくれ!
読んでくれてありがとうございます。
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