29 おじさん、リッチィさんを心配して待つ
本日2話目です。
《おじさん視点》
「おいおい、何だよこれは」
嫁さんと絶対にリッカを連れて帰ると約束し、ダンジョンもとい墓場に来たんだが……一体どうなってんだこれは。
固く閉ざされた墓場への入り口前、門の側では大勢の冒険者達が倒れ傷つき、冒険者職員らしき奴らが走り回りながら治療をしているのが見える。
「「「ダスクさん!」」」
唖然と佇んでいると近くから俺を呼ぶ声が……あぁ、今日の門番の当番の奴らか。最近ここに配属されてきた若い魔族の奴らだが、あちこち傷だらけ、噛み傷だらけだな。あと凄いゾンビ臭が……あまり近付かないでくれ。
ちなみにダスクとは俺の名前だ。
「おう、すまんな、遅くなった。しかしお前ら大丈夫か? 結構ボロボロだが、一体何があった」
すがるように俺を見詰めるコイツらの目には怯えが混じっているように見える。まだまだ若い魔族だが、確かコイツらはそれなりに腕は立つ方だった筈、冒険者としても中級クラスの腕っぷしはあったと思う。
「だ、ダンジョンコア討伐に参加した冒険者なんですが、全員がゾンビの大軍に襲われ全滅しました……」
「……は?」
何を言ってるんだ?
たかがゾンビの大軍に冒険者が全滅だと?
「冒険者達も初めはダンジョン中層までは順調に進んだみたいなんですが、奥に進むにつれ徐々に増えていくゾンビに押され対応しきれなくなりここまで何とか撤退してきたようです」
おいおい、いくら今は高ランク冒険者が出払っていていないって言っても、相手はたかがゾンビだぞ? 初級冒険者ならともかく、何組か残っていた中級クラスの冒険者達も参加していた筈、そいつらも全滅したのか?
「撤退してきた冒険者達なのですが……その際に大量のゾンビを引き付けてきたようで、ゾンビの大軍が門へなだれ込み混戦になりました。今は何とか門を閉じ落ち着いてますが、応援の冒険者があと少しでも遅れていれば……」
危うく決壊寸前でしたと語る目の前の若い門兵。
「おい、それはマジで洒落になってないぞ。ここを抜かれたら後ろは城都だ、とんでもない被害が出かねんぞ!」
只でさえ今は国境境界線で人間達と睨み合っていて兵が足りないんだ。そんな時にモンスターのスタンピードなんか起ころうものなら……
「ダンジョンの様子はどうなっている」
ダンジョンの特性からか、門を閉めたり此方から手を出さなければダンジョンモンスターが外に出る事は基本的にない……が、例外はある。
ダンジョンとはコアが有る限り成長し続けるものだ。
成長し過ぎればコアはモンスターを永遠と生み出し続け、いずれダンジョン内に溢れ抱えきれなくなったモンスターを大量に外に吐き出す。
野良のダンジョンならまだしも、ここは魔族が住む国の中心、魔王城都だ。都市部の中心でモンスターが湧き出すとかあり得ないぞ。クソっ! 何で城都内でダンジョンが生まれてんだよ。外でやれよ、外で! しかも墓場って、俺達の仕事が増えるじゃねぇか! 何だよゾンビって、もう俺達獣人族に喧嘩を売ってるようなもんだぞ。
「はい、今現在はダンジョン内部がどう変化し成長しているのかを見極めるため、冒険者ギルドが再度偵察を出しているところです」
「そうか。じゃあ偵察が戻り次第、冒険者ギルドと魔王城にも情報を通達しておいてくれ」
「はっ、分かりました!」
律儀に姿勢を伸ばし敬礼する目の前の若い魔族。疲労困憊の筈なのに真面目な、今時の若い魔族には本当珍しい奴らだ。だけどそれは止めろ。俺が隊長に睨まれる。最近は俺がコイツらの面倒を見ているせいか、俺を隊長のように見て接して来るときがある。
「ところで、うちの隊長さんは何処いったんだ? 確か今日は朝からの筈だったよな」
てか、今思えば何でコイツらは俺に指示を仰ぎに来てるんだ? 普通は俺よりも上の奴に指示を仰ぎに行くだろうに。
「あ、いえ、その……」
言いにくそうに言葉に詰まる若い魔族。
「隊長は押し寄せるゾンビの大軍を目にして一目散に『ここはお前達に任せた』と残して何処かに行かれました」
「あのロリコン野郎……」
絶対に逃げたな。
防衛を若いコイツらに任せて自分だけは逃げるとか、どんだけ腐ってるんだあのロリコン野郎は。
「……にしても」
改めて周囲を見渡せば全員が酷い怪我だ。コイツらは勿論、戦い慣れしている冒険者達までもが疲労困憊であちこち傷だらけだ。
スケルトンの冒険者なんか全身バラバラに放置されているし、そこで倒れ伏している男性冒険者なんか酷いリンチを受けたかのように全身ズタボロだ。まれにピクピクと痙攣してるが、生きてんのか?
「お前らは良く無事だったな」
全身の噛み傷はあれど、全員が無事で立っている。
「い、いえ、自分達が無事だったのは……全てあの少女のお陰なんです!」
ん、少女?
「俺なんかあと少しで喰われそうな所を助けられました!」
「自分もゾンビに囲まれ、身動きが取れなく食い殺されそうになった所を助けてもらいました!」
嬉しそうにキラキラとした目で喋り出すコイツらの話を聞いてみれば、コイツら全員、というか冒険者全員がその少女に助けられたとか……少女? まさか、
「流石は伝説のアンデッド、リッチなだけはありますね!」
やっぱりあいつか。て言うかあいつは一体何をやってんだ。
「あのゾンビの群れに怯む事なく突っ込む姿、痺れました……」
「ああ、常に最前線に立ち、ゾンビに呑まれた冒険者を救助して回るあのお姿には敬意の念を感じざるおえません」
あのリッカが?
俺が見た限りではあまり強そうではなかったが……ミラが言うには冒険者としては最低ランクの実力しかないと言っていたんだが、どういうことだ? 周りの冒険者達もコイツらの言葉にうんうんと良い笑顔で頷いているし、冒険者ギルドの職員も何か思案しているような顔をしている。
これはマズイ。
どうやら本格的に周りから目を付けられ始めたようだ。
これは早めにリッカを見付けて話をしとかねぇと――俺が嫁さんに怒られちまう!
「そ、そうか。それでそのリッチの少女は今何処にいるんだ?」
周囲を見渡しても見当たらない。
リッカの容姿は割りとかなり目立つから直ぐに気付く筈なんだが……あいつ自身が自分の容姿に無頓着なのはどうにかならんもんかな。
「リッチの少女でしたら、今はダンジョン内部へと単独で偵察に行っています」
「……何だと?」
コイツは何を言ってるんだ?
単独、一人で偵察に? 中級クラスの冒険者達でも全滅したダンジョンに一人で入ったって言うのか!
「まさか一人で偵察に行かせたのか!!」
「い、いえ、自分達も止めはしたのですが、どうしても本人が行きたいと希望したので……」
だからといって一人で行かせるか!
「それにあの少女、リッチの特性ならば問題ないと冒険者ギルド職員も判断したので」
特性だと?
「はい、リッチという種族からなのか、本人には全くゾンビが寄り付かず襲って来ないということもあり、ダンジョン内部の偵察には一番適していると」
ゾンビが襲って来ない?
そんな馬鹿な話があるのか。いや、確かお伽噺話ではアンデッド種の王、不死王となってはいたが……それは野良のアンデッド、魔物にも通用する話なのか?
「冒険者ギルド職員からも一応は念を押され、無理はせずに途中までで引き返すようお願いはしていますが……」
本人は『分かりました、決して無理はしません!』と言ったらしいが、何でも恐ろしく良い笑顔だったので、もしかしたらこれはチャンスと一人で奥に向かう可能性があると。
……あいつもやはり魔族だったか。
ある一部の人間種よりは酷くないが、己の欲望に忠実なのは魔族の特性だ。まぁ、基本的に魔族の欲は戦闘欲に向かっていることが多いのだが……リッカは金銭欲が強いのか? 確かにダンジョンコアは早い者勝ちで売れば稀少で高く買い取ってくれるが、流石にダンジョンに一人で挑む奴はいないぞ。戦闘馬鹿な魔族でも。
「とりあえずは分かった。ひとまずは怪我をしている奴等の治療に俺達も当たるぞ。ダンジョンの様子は偵察が戻ってから考えよう」
本当は良くないが、もうダンジョン内に入っているのならばどうしょうもない。信じてあいつを、リッカを待つしかないだろう。何かあいつなら大丈夫そうな気がするしな。
「「「はっ、了解しました!」」」
畏まった敬礼をして他の負傷者の治療に当たる若い魔族達。だからそれを俺にやるのは止めてくれ。それは直属の上司、隊長にやるもんだ。
いくらあの隊長が無能だからって、あの隊長は嫉妬深くて粘着質な奴なんだ。仕事は出来ない癖に妙に人の足を引っ張るのは上手いんだ。正直関わりたくない、穏便に仕事がしたいんだよ。
◇◇◇
「よし、怪我人はもうこれで以上か」
冒険者ギルド職員と協力し、負傷者した奴等をあらかた治療し終えた。
今回は相手がゾンビだったからか、そこまで酷い怪我をした奴はいなかったが、皆が全身噛み傷だらけだった。
「くそっ、やっぱり臭うぜ」
ゾンビの侵入を防ぐためとはいえ、冒険者達全員からゾンビ特有の腐った臭いが鼻につく。特にゾンビに全身噛まれた奴なんか、押し倒されて揉みくちゃされたもんだから凄い臭う。
「ダスクさん、怪我人の治療、全員終わりました!」
「そ、そうか」
さっきは敢えて言わなかったが、特にコイツら、若い魔族の門兵が臭う。恐らくコイツらもゾンビの波に呑まれて揉みくちゃにされたんだろうな。
「リッカ、リッチの少女は偵察から戻ったか?」
「いえ、まだそのような報告はありません」
もう日が暮れて来た時間だ。
普通ならそろそろ偵察から帰って来てもおかしくない時間なんだが……あいつ、やっぱりダンジョンの奥まで行ったのか。
「あとは俺が門を見張るからお前達は休んでろ」
「いえ、ダスクさん一人に見張りを任せる訳には……」
「いいから休んでろ。お前らは朝から働きっぱなしで疲れてるだろうが」
て言うか臭いんだよ、あまり近付かないでくれ。獣人じゃないお前らは分からんかもしれんが、本当に無理、きついんだよ。だからそんな尊敬しますとかした目で俺を見るな。さっさとあっちいけ。
若い魔族達を追い返してどれくらい時間が経っただろうか、日は完全に落ち、辺りは闇が包んでいる。
「て言うかあいつ全然帰って来ねぇぞ!!」
あの馬鹿、一体何処までダンジョン深部まで潜ってるんだ! 流石にこれは遅すぎるぞ!
「クソっ!」
門から少し離れた小さな扉に向かう。ひと一人潜れるくらいの扉であり、基本的には普段ここから出入りをする場所だ。
正面の大門なんて滅多に開けるもんではない。余程の大荷物を運び込むくらいしか開けないってのに……何で正面の門を開けて冒険者達をダンジョンに入れたんだよ。馬鹿なのか? うちの隊長は本当に馬鹿なのか? 正面の門を開けっぱなしにしたらモンスターが侵入するかもとか思わないのか? あのロリコンめ!
「ん、何か挟まってるのか、開かないぞ」
離れにある小さな扉に手を掛けるも動かない。この扉は鍵なんて付いてないから開かないって事はないんだが……ん、向こう側で何かつっかえてんのか?
少し強めに扉を押すと今度は簡単に扉が開い『あんぎゃ!』……あんぎゃ?
「お前、何してんだよ……」
「あぅ、おじさん……」
これは何て言ったらいいのだろうか、俺の目の前には昨日と全く同じ……いや、今度はちゃんと服を着たリッカが寒そうに震えながら涙目でこっちを見ていた。
読んでくれてありがとうございます。
良かっら感想、ブクマ、評価を頂ければとても嬉しいです!




