30 リッチィさん、怒られる
あれからどのくらいの時間が経っただろうか。
「うぅぅ、寒いよぉ……」
帰還時に入って来いと言われた扉は押しても引いてもウンともスンともしない。ダンジョンに入るときは確かに開いた筈なのに、門兵さんが鍵を閉めたのだろうか。
もしかして嫌がらせですか?
いや、私を通す時に扉を開けてくれた門兵さんは良い人そうだったし、そんな事をするかな?
「これも地味に酷い嫌がらせだ」
何か温かい物でも食べたいとチラシのスキルを展開してみれば……
「へぇ、コタツが凄い安いですね」
東友さんの掲載期間が過ぎたため、某家電量販店さんのチラシへと変化していたのである。
「2000円ちょっと、凄いお買い得……まぁ、電気がないので意味がありませんけど」
コンセントも無いしね。
Wi-Fiスポット(人物)はあるのに電気が無いとか……探してみればありますかね?(固有スキル持ち)
「……ん?」
背中に僅かな振動を感じる。
扉を背にして座り込んでいたので、ガタガタと衝撃が……
『ん、何か挟まってるのか、開かないぞ』
扉の向こう側から声が聞こえる!!
慌てて背にしていた扉から立ち上がろうと腰を上げると、
「──あんぎゃっ!!」
おでこに鈍い衝撃が……痛い、地味に痛い。
「お前、何してんだよ……」
「あぅ、おじさん……」
私というつっかえ棒が取れたからなのか、割りと勢いよく開いた扉が私のおでこに直撃して疼くまっていると、目の前には最近とてもお世話になったおじさんが……
「さ、寒い……」
「ったく、何度目だよ、このやり取りは……ほら、これ着て早く中に入れ。このままだと風邪を引いちまうぞ」
「あ、ありがとうございます」
初めて出会った時と全く同じ、少し色が変わったローブを借りて上から羽織る。やはり微妙に短いのか、素足が少し寒い。てかこれ、ローブというよりもコートなのでは? おじさんの体格から考えてみれば。
「次は温かい飲み物ですかね?」
「馬鹿野郎」
「ふふふ、冗談ですよ」
軽い冗談を言って門を潜る。
「んでリッカ、本当なら疲れてるだろうし直ぐにでも休ませてやりたいんだが」
「はい、分かってますよ。ダンジョン内部の報告が先なんですよね」
「あぁ、すまんな。宿直室にギルドからのお偉いさん方が待ってるんだ」
お偉いさん方?
てっきり冒険者ギルドまで報告に行くのかと思ってたのだが、ここまで出張ってきたのか?
「それとな、リッカ……」
「なんですか──あんぎゃっ!! なにするんですか!?」
なんか物凄い拳骨が頭に落ちてきた!
「馬鹿野郎!! お前は死にたいのか!? 単独でダンジョンに潜るとか正気じゃないぞ!!」
「いや、それはですね」
「お前がリッチの特性だか何だか知らねぇが、ゾンビに襲われないってのは聞いて知ってる。それをかわれて偵察を任せたのもな。だがな──」
「──あんぎゃっ!!」
またまた脳天に凄い拳骨が落ちてきた。
「こんな長時間もダンジョンに潜る偵察がいるか馬鹿野郎!!」
「うぅぅ、痛い……」
「何でこんな日が暮れるまで潜ってたんだ。冒険者に冒険を止めろとは言わねぇが、これは心配して言ってんだ。せめて日が暮れる前に帰って来い!」
もう拳骨は止めて!!
すんごい痛いの。
マジで、分かったから。
「いや、だからですね、遅くなったのは悪かったんですけど……と言うか私、日が暮れる直前には帰って来てたんですけど……あの、嘘じゃないですよ。だからそれは、拳骨はもう止めてぇ!」
無言で腕を振り上げるのは止めて!
◇◇
「だから言ってるじゃないですか、扉の鍵が掛かってて入れなかったって……」
「お前は何を言ってるんだ、扉に鍵なんて掛かってなかったぞ」
いや、本当ですから。
おじさんが何を言ってるんだですよ。
「そもそもこの扉に鍵なんて付いてないぞ」
「……え?」
どういうこと?
「元々この扉には鍵なんてない。基本的に自由に出入り出来るようになっていて昔からこの造りだ」
「え、でも、私が帰って来た時は確かに閉まって……まさか」
もしかして外側から誰かがわざと閉めていたのか!? なんて陰湿な嫌がらせだ、私じゃなかったらゾンビに襲われ続けて死んでましたよ? いや、もしかしたら何かの陰謀、ダンジョンの利権を巡って偵察に出た私が邪魔で排除しょうと……
「いや、それは全部違うと思うぞ」
「……あれ、私、今口にして考えてましたか?」
「顔を見れば分かる、馬鹿な事を考えてるんだろうなと」
「チクショウ」
何かこの体になってから隠し事が一切出来なくなってませんかね。閻魔大王様直伝の力作、自信作なのは分かりますが、あまり変な機能をつけないでほしいです。地味に日常生活が不便です。
「ん~、じゃあなんで扉が開かなかったんでしょうか……え、あれ、ちょっ」
不可解な事件だと、おじさんが開いてくれた扉を閉めようと押してみたのだが……え、何これ?
「どうした?」
「ん? あれ、あれれ?」
全く微動だにしないんですが……
力の限り精一杯押してるんですがピクリともしないんですけど?
「…………」
あの、おじさん?
無言で扉を閉めて肩に手を置くのは止めてくれませんか? 何ですかね、その可哀想な子を見る目は……本当に辛いから止めて!
本当に、本当に閻魔大王様!!
もう少し考えてこの体を作って下さいよね!!
こんな貧弱設定ボディでどう生きていくんですか、これ下手したらそこら辺の子供達よりも力ないですよ?
あれですか、ナイフやフォークよりも重いものは持った事がない設定ですかね? いたいけな儚げなお嬢様ですか、馬鹿野郎。
「まぁ、なんだ。暫くはうちに泊まってけ。嫁さんも喜ぶ」
「……ありがとうございます」
本当にありがとうございます。
こんなの日常生活に支障が出るレベルです。
「やっぱりおじさんは私の命の恩人、この世界で初めて出来た一番大切な人です」
「おい、それを嫁さんやミラの前では絶対に言うんじゃねぇぞ、絶対だぞ! またややこしい事になるからな!」
◇◇◇
「「「ダスクさん!!」」」
おじさんと並び宿直室に向かっていると、何やら数人の門兵さんが駆け寄って来た。
「おう、お前らか。悪いが門の見張りを変わってくれ。ちょっとコイツをギルドのお偉いさん方に会わせてくるから」
「「「はっ、了解しました!」」」
何だろう、もしかしておじさんって実は結構偉い人なのかな。
目の前の門兵さん達が凄く丁寧な敬礼をしている。
「言っとくが俺はただの門兵だぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、うちの隊長がちょっとあれだからな。そのせいで勤務経歴が少し長い俺が暗黙な形ではあるんだが、代理みたいな感じでこうなってるだけだ」
「そうですか、上司が無能な訳と、大変ですね」
「……せっかく言葉を濁したのにはっきり言うんじゃねぇよ」
どんな世界でも同じなんですね。本当に同情します。
「「「お帰りなさい、リッチさん!!」」」
「ひゃっ、は、はい。ただいま戻りました、です」
急に呼ばれて少し驚いた。
て言うか、よく見ればゾンビパニックの時に救助した人達?
もう、思わずおじさんの後ろに隠れちゃったじゃないですかー。
「思わずじゃねぇよ。さっさと離れろ」
「酷い! さっきは優しくしてくれたのに急に突き放すんですか?」
「おい止めろ。コイツらが変な誤解をするだろうが」
優しくして急に突き放す。そしてまたドン底に落ちた所を優しく拾う。うん、ヤクザのやり口ですね。
「リッチさんはダスクさんとお知り合いだったのですか?」
私とおじさんのやり取りを見てか、門兵さんが若干怪しそうに訪ねくる。
「はい、とてもお世話になってる大切な人です」
「おい、だからそれを止めろと……ってお前ら、違う、違うからな! 勘違いだからな!」
「え、でもさっき、今日も俺んとこに泊まってけって言いましたよね?」
「言い方! 言い方に気を付けろよ!」
「え、ロリコン?」
「おい、誰だ今ロリコンって言った奴、今すぐ名乗り出ろ、ぶっ飛ばししてやる……てかお前、絶対にわざとやってるだろ!?」
「ふふふ」
さぁてね、どうでしょうか。
決して拳骨のお返しだとか思ってませんよ? 一撃目はまぁ納得しましたが、二撃目は明らかに私は悪くなかったですよね。全て重かった扉が悪い。
読んでくれてありがとうございます。
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