25 リッチィさん、初めての冒険に挑む
本日2話目です。
「うぅっ、酷いめにあいました……」
「お前が馬鹿な事を言うからだ」
歯形がくっきりと残った腕を摩りながら言うと、ギルド長が不機嫌気味に答えた。
割りと真剣にマジ齧りしてきたギルド長に、今度からかう時は慎重にやろうと思い立っていると、
「ギルド長、そろそろ冒険者ギルドに到着します」
馬車の御者から声が掛かって来た。
どうやらギルド長とそんなこんなしてるうちに結構な時間が経っていたようだ。
「そうか。じゃあギルドの裏口に停めてくれ」
「かしこまりました」
裏口?
「どうして裏口なんですか?」
「後で分かる」
そう言って黙るギルド長。
少し馬車が走ると、冒険者ギルドが見えて来た……ってなんですかこれ。
「なんでこんなに大勢の人がギルドに集まっているんですか……お祭り?」
なわけないよね。
どうみたって緊急事態と関係があるのだろう。
全員が剣や槍、弓矢や盾などを武装している時点で厄介事なのは分かる。分かるのだが……
「なんで皆さんあんなに嬉しそうにしているのですかねぇ……」
まるで今からお宝でも掘りにいかんとするくらいに皆が昂っている。
一体どういう事ですかとギルド長に問い掛けようとすると……馬車が止まった。
「ギルド長!!」
馬車のドアが勢いよく開かれる。
「ミラか、どうなっている」
「ギルドで依頼した冒険者が今、再度偵察に行ってます。そろそろ戻って来ると思うのですが……やはり前情報通りかと」
「そうか」
では偵察が戻り次第、再度情報を持ってこいと指示を出すギルド長。
「……あの」
「あ、リッカさんも戻られたんですね。お帰りなさい、リッカさん」
「あ、はい、ただいまです」
重々しい空気の中、一瞬自分が忘れられているのではと思って声を掛けると普通に挨拶が返ってきた。
「ところで、これはどういった事になってるんですか? やけに冒険者の皆さんが集まって来てますが」
「……ギルド長から聞いていないのですか?」
「はい、まったく」
「……もう、ギルド長ったら」
疲れたとしながらもミラさんは説明をしてくれた。
「リッカさんも今朝、ギルド長に警邏から墓場に異変が起きて派遣要請が来たのは知ってますよね」
「はい」
ギルド長のうっかり忘れてたってやつですね。
「あの後、魔王城から帰って直ぐに冒険者を墓場に派遣したのですが……」
難しい顔をしながら『実はですね』と貯めたミラさんは、
「どうやら墓場が『ダンジョン』になってしまわれたようなのです」
「……ダンジョン?」
ダンジョンっていうと、あのラノベとかでいう迷宮?
「何故かは分かりませんが、どうも昨日の夜から迷宮化の兆しがあったらしく、今朝気付けば完全に迷宮、ダンジョンとして根付いてしまったようなのです」
……昨日?
「それに伴ってモンスターが溢れて来ているみたいで、今は墓場の門を閉じて内側から閉じ込めている状態です」
……物凄い嫌な予感がする。
「どんなモンスターが湧いたのかは未だ調査中ですが、もうすぐ偵察に出ている冒険者の方が……あの、リッカさん? どうかしましたか?」
「え、どうもシテマセンヨ?」
「そうですか? 少し顔色が悪いような」
「気のせいです」
……ヤバい、これなんかフラグっぽい。私のせいとかじゃないよね?
「あら、ギルド長」
「キヌエか、どうした」
「今、偵察に出ていた冒険者が戻って来たんだけど……」
冒険者ギルドのオバちゃんこと、ベテラン受付嬢……? のキヌエさんが小走りでやって来た。
「そうか。で、なんて報告だ」
「墓場に溢れて来ているのは野良アンデッド、ゾンビの大軍が殆どみたいね」
野良アンデッド。
これもどうやらこの世界では一般常識らしく、知性がないゾンビは野良アンデッド種に分別されるらしく、大まかに言えば魔物の一種らしい。
そう報告するオバちゃんに聞き耳を立てていたのか、冒険者ギルドに押し寄せていた皆がピクッと反応した。
『『『『ウォオオオオオ!!!!!
』』』』
突如、雄叫びで満たされた冒険者ギルド。
突然の事に訳が分からない。
どうして皆は野良アンデッド、ゾンビの大軍が溢れていると聞いて喜んでるんだ?
「こりゃあ、境界線に行ってる冒険者は災難だね」
そう口にするオバちゃん。
「災難? どうしてそうなるのですか」
それを疑問に思った私がオバちゃんに訪ねると、
「そりゃあ、迷宮っていったらダンジョンだからねぇ。その奥には迷宮の核、ダンジョンコアがあるはずだよ。コアは貴重で珍しいし、滅多に手に入るもんでないから高値で売れる、皆躍起になるさ。ダンジョンは今朝出来たばかりだし、強い魔物もまだコアがそんなに成長してないだろうから出現はしない筈だよ」
本当に境界線に行った冒険者は運が悪かったねぇと語るオバちゃん。
「しかもダンジョンに溢れてるのがまたゾンビときたもんだから……これは早い者勝ちかもしれないねぇ」
だからあんたも早く準備しなよと肩を叩いて去っていくオバちゃんを後目に、周りからも『急げ! 他の奴らに先を越されるぞ』『いやっはぁー! ゾンビとかマジ楽勝だわ』『なんで、なんでよりによってアンデッド……しかもゾンビなんだよちくしょうが!!』『獣人は大変ね、下手に嗅覚が強いからゾンビの臭いに耐えられないでしょうから』『ワレ、スケルトンでヨカタ』等々、あちらこちらから忙しなく聞こえてくる。
「ダンジョン、ですか……」
「リッカさんはどうしますか、参加されるのですか?」
ダンジョンコアが高値で売れると聞き、少し考え込んでいるとミラさんが尋ねてきた。
「えっと、そうですねぇ……」
どうしょうか。
ぶっちゃけて言うと、今の自分のステータスでは少し厳しいと思う。
ミラさんの口調からも『出来れば止めておいた方が……』って感じで伝わって来るのが分かる。
正直、自分の貧弱ボディではゾンビ一体すら倒すのは厳しいだろう。そんな事は自分が一番分かってる。でも、でもしかし、
「私も参加してみます」
やはり何処か嫌な予感するのだ。
絶対に今行かなければ後悔する……というか、絶対に先にダンジョンコアまでたどり着かなければならない。そういった感じがヒシヒシとするのだ。
「……そうですか。冒険者ギルドの受付嬢としては、冒険者さんを、リッカさんが冒険すると決めた事をお止めする事は出来きません。ですが、くれぐれも、くれぐれもムチャな事はしないで下さい。絶対に無事に帰って来てくださいね」
まるで妹を心配するかのように忠告したミラさんに『大丈夫ですよ』と約束し、私はとりあえず墓場、ダンジョンへと急いで向かう事にしたのだ。
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