24 リッチィさん、幼女の正体を知る
本日1話目です。
「あの、ギルド長……」
あの幼女と別れ、ギルド長に運ばれること暫く。
「緊急事態なのは分かりましたが、そろそろ降ろしてくれませんか?」
あれから何の説明もなく、荷物を運ぶかのようにして担がれていた私は地上に降りる転移ゲート前に来ていた。
「ん」
私のお願いを聞いてくれたのか、ギルド長が優しく地面におろしてくれた。
転移ゲート前では何やら忙しなく数人の職員が動いている。恐らくは転移ゲートの起動の準備でもしているのだろう。
魔王城に入る際は準備なくすんなり入れたが、それは事前に私達が来ることが通知されていて、前もって準備されていたからであり、今回は緊急事態という事で急遽慌てて準備をしているみたいだ。
「はぁ……」
それにしても準備に結構時間が掛かるみたいだ。
こうしてギルド長と一緒に待機して結構な時間が経つ。
これならば急いで帰らなくても、あの幼女とちゃんとお別れの挨拶くらい出来たでしょうに。
「なんだ」
「いえ、なんでも……」
ため息を吐くようにしてギルド長を見詰めていると、真剣な顔をしたギルド長が真顔で聞いてきたので無難に返す。
にしても珍しい。
こんな顔をしたギルド長はここに来る前、ご馳走に釣られた時以来だ。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。この後、本当ならディナーの約束があったはずだ。それを諦めて急遽慌てて帰るという事は何か差し迫った余程の事が起きているのかもしれない。
「それにしても、ギルド長がディナーを諦めて帰るってことは、余程の緊急事態なんでしょうね」
「ああ。だが安心しろ。ディナーの食事なら後でギルドに送って貰えるよう料理長と話はつけた。心配するな、お前の分も一緒に手配してある」
「誰もディナーの事を心配していないのですが……」
本当に緊急事態なのか?
少し心配になってきたんですが……いや、別にこの後のディナーが無くなるならそれでもいいんだけどね。
「あ、今思ったんですが……」
「なんだ」
「これって依頼の方はどうなるのでしょうか」
依頼の内容は『アンデッドリッチ、リッカ・エンマは魔王様に会いに来ること。追記、又はディナーを食べて帰る』こと。
「このまま帰ったら依頼未達成になるんじゃないですか?」
前金はもう頂いているし、本当にどうなるのだろうか。
後から『また今度来て下さいね』とか言われたら全力で拒否する自信がある。
二度とこんな面倒な事はごめんだ。
前金は貰ったけど。てか返せって言われても半分はもう漬かったちゃったし、残りの残金2万ちょっとしかないんですけど。無理なんですけど。気付いたら幼女とお菓子ドカ食いして消えてたんですけど。2万分のお菓子ってなんだ。
いっそこのままに有耶無耶になってくれないかなぁと思っていると、
「そんなの保留に決まっているだろ。今度また後日ディナーだ」
やっばりですか。
保留ってことはまたの機会にってことですかね。私はもう行きたくないですよ。
そんな黄昏ていた私であったが、ギルド長が『まぁ、それは先ほどまでの話だがな』と続けて、
「元々の目的は果たしたんだ。これで依頼は達成だ」
と言って小さな布袋を此方に手渡してきた。開けて見れば金貨が5枚程入っている。
「え、どういう事ですか? なんで依頼が達成になるんで……いえ、別に達成ならそれでも構わないんですよ。しかし、唐突すぎてよく分かりません」
ていうか、前払いで貰った報酬って半分だったの? てっきり全額だと思ってました。ぐへへ、やったね。
「お前はあいつと話したんじゃないのか?」
「はい? アイツって誰ですか?」
「テラスで一緒にいただろうが、二人で」
「テラス?」
それってあの幼女の事を言ってるのだろうか。
一体どういう事ですかと聞けば、『お前はなにを言ってるんだ』と、私はギルド長が何を言ってるのかが分からないよ。
そんなこんなしてると、突然に足元が輝きだす。どうらや転移ゲートの準備が完了したらしく、職員の方がいつでもいけますと合図をしてきた。
ギルド長はそれに頷くと私の腕を取り、転移ゲートの上へと歩きだす。
そして、一瞬の浮遊感の後、私達はその場から転移したのだった。
◇◇
「ふぅ」
およそ半日ぶりだろうか。
久しぶりの地上の地面と空気だ。まぁ、それは天空のお城と比べてもあまり変わらないんだけどね。
「やっと帰って来れましたか……」
一時はどうなるかと思ったが、無事に帰れて何よりだ。宰相様のせいで色々と肝を冷やしたが、あの幼女とまた再会出来たのは嬉しかった。また近いうちに会いたいものだ。魔王城以外で。
そこでふと振り返り上空を眺める。
「上から見るのとはまた違って見えますね」
天空に凛として聳え立つ魔王城。
実際は間近で見るとボロボロで外壁はいくつか崩れてはいたが、それでも天空の城、魔王城は何とも言えない素晴らしい光景であり、城下町から見上げる天空の城もまた違って素晴らしい光景だ。
「そう言えば、結局は魔王様はどんな方だったんですかね。せめて顔くらいは拝見したかったです」
もう行く事は二度とないであろう魔王の城。最初は魔王様に会いたくないと駄々を捏ねていた私だが、今思えば少し勿体無いと思ってしまう。
そう感傷に浸りながら呟いた私に、何故かあり得ないとした顔で此方を凝視するギルド長の姿が……なんですか?
「リッカ、お前は本気で言っているのか……」
「?」
よく分からないとして頭を傾げる私に、声にならないとしたギルド長が先ほど渡した布袋、金貨を見てみろと顎で指す。
「金貨、ですね。これがどうしたの──」
「違う。裏を見ろ、裏を」
裏?
「そこに今代の魔王の姿が画かれている筈だ」
まさかそんな所に!
今まで全然気が付かなかった。
ギルド長の言う通り、くるっと金貨を裏返して見るとそこには、
「……これは一体なんの冗談ですか?」
金貨の裏側、そこにはシンプルで簡単に画かれてはいるが、はっきりと今代の魔王の特徴的横顔が刻まれていた。
「あの幼女じゃん」
◇◇
「なんであの時に言ってくれなかったんですか?」
急いで冒険者ギルドに向かう馬車の揺れにお尻を痛めながらも、私はギルド長へと突き刺すような視線で睨んでいた。
「なにがだ」
「ですから、なんであの時あの幼女が魔王様だって言ってくれなかったんですか」
魔王様とは初対面なんだから教えてくれてもいいのに。と、睨む私をギルド長は本当に呆れたとして、
「いや、普通は気付くだろ。いくらあいつが引きこもって滅多に外に出ないっていっても、お金の肖像画だぞ」
「うぐっ」
ギルド長の的確な返答にぐうの音もでない。
この国に住んでいれば誰でもお金は使う。それはどんな世間知らずの田舎者であろうとも、この魔族領土内では全てのお金の硬貨のデザインは統一されており、金貨のみならず銀貨までもが魔王様の肖像が簡単ながらも特徴を捉えて画かれている。
どうりで初めて会った時からあの幼女に凄い田舎者扱いされるわけだ。
金貨を手によく見て見れば、これはよく特徴を捉えて画かれている。
これならばどんな馬鹿でも直ぐにあの幼女が魔王様だって気付く。
「逆にそれを知らないお前が私は信じられないんだがな」
「うぐぐっ」
本当にぐうの音も出ない。
逆に今度はギルド長から突き刺さるような視線が飛んで来るので目線をずらす。
盛大に自爆したのは私だが、あまりの迂闊さに顔がひきつるのが分かる。
「そんな顔をしてやるなよ」
「……え?」
ギルドの手が私に伸びる。
「リッカ、私はお前が別に何者であろうと構わん。素性を詮索するつもりもない」
私の頭に優しく触るようにして置かれた。
「だからあいつの、魔王の前ではそんな顔をするな」
そこには見たことのない優しい表情をしたギルド長の顔があった。
「あいつのあんなに楽しそうな顔は久しぶりだ。ここ数百年は見たことがない」
だから仲良くしてやってくれと頭を撫でるギルド長。あまりの衝撃に思わず私も頷いてしまう。
だってギルド長があんな顔をするとは思っていなかったのだから。
これは反則……いや、アウトです。
自分の顔が少し赤くなっているのが分かる。
「って、ちょっと待って下さい。今、数百年って言いましたか?」
「ん? あぁ、そうだな」
「てことは、あの幼女は今何歳なのですか?」
「あいつの詳しい歳は知らん。だがここ200年はずっとあいつが魔王をやってるな」
今考えてみれば歴代トップの在位期間だなと呟くギルド長。
私からしたら幼女がリアルで魔王をやっている事実にも驚いたのに、実は私よりも年上とか……それなんてエロゲーですか?
魔族とは想像以上に長生きの種族だと思っていると、ギルド長は続けるように言葉を紡いだ。
「あいつに会いたくなったら私に言え。いつでも連れてってやる」
その言葉にまたもや簡単に頷いてしまう私。
最初はなんでこんな人が冒険者ギルドの長をやっているのかと不思議に思ってはいたが、今ならばなんとなく分かる気がする。本当に分かりづらいが。
思わず生暖かい眼差しで見ていると、『なんだその目は』と不快な表情をしたギルド長が、
「誤解するなよ。別に私はあいつを気にかけているわけではない」
ツンデレ乙。
ふふふ、ギルド長も意外と照れたりするのですね。
「なんだその目は。お前が魔王と仲良くしていればまたご馳走がだな……おい、聞いてるのか」
「ええ、分かってますよ。ギルド長も以外と素直じゃなあいだだだだっ!?」
「ほぅ、大した度胸だ。余程その右腕が可愛くないと見える」
「や、やだなーギルド長。ほんの冗談じゃないですかー」
「がぶっ」
「っ!!」
いや、ちょっと待って!
ヤバい、それは本当にヤバいですから! 牙が、牙が腕に食い込んでますからああいだぁああああああ!!
読んでくれてありがとうございます。
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