23 リッチィさん、幼女にでぃすられる
本日2話目です。
「で、今さらながらに思うたのじゃが、お主はなぜここにおるのじゃ? この城は一般人はもちろん、特別な許可がおりていない者しか入れぬはずじゃが……」
はて、と頭を傾げる幼女。
本当に今さらですね。
「私は少し用事があってここに来たんですよ。それよりも、お嬢ちゃんこそなんでここにいるの?」
「お嬢ちゃ……お主、まさか本気で、本当に気が付いていなかったのかや……」
「?」
どういう事?
「いや、まぁ、いいのじゃ。主はものすごい田舎者じゃったな」
何故かな、凄い呆れたとした顔で此方を哀れむように見る幼女。
なんだか物凄い馬鹿にされてる気分。しかもブツブツと『いや、待て、待つのじゃ。それならばなぜここにおるのじゃ? 田舎者ならばなおさら、ここに入れるはずがないじゃろうが』と、確実に馬鹿にしてるよね。
「それで、お嬢ちゃんはなんでここに?」
とりあえず幼女の呟きはスルーして気になっていたことを聞いてみる。
その問いに幼女は少し悩むようにして考え、
「わ、ワシか? ワシはその、少し休憩を、のぅ……」
モジモジしだした。
怪しい。
「い、いや、別にイヤじゃからと逃げたわけじゃないぞ?」
疑わしいとした視線を幼女を向けていると、何故か幼女が次々と喋りだした。
「というか、ワシがなぜあんな奴にあわねばならぬのじゃ? ワシは別に気にはなるとはいうたが、会いたいとは一言もいうてないのじゃぞ」
分かるかやと聞いくる幼女。
正直、分かりません。
もしかしてお見合いとかなにかだろうか?
昔から貴族やお偉いさんは子供の頃から許嫁がいることがあるらしいが、この子もそう言う事なのだろか。
すると、ズイっと幼女が近付き、真剣な表情で、
「お主も気をつけるのじゃぞ」
ん、何を?
「今、この城はとてつもない者を招き入れておるのじゃ」
「とてつもない者?」
危険人物と言う事だろうか。
「うむ。クソ爺のあんぽんたんがな、どうも余計なことを企んで招き入れたようなのじゃ」
ん、クソ爺?
「お伽噺とか伝説の種族とかな。たしかにワシも少し興味はあったのじゃ」
………あれ?
「しかし、しかしだからというてそれを易々と城に招くとはなにを考えているじゃ、あやつは」
……あれれ、これはってもしかしなくても、
「本当に、なぜリッチなんて恐ろしい者を招き入れたのじゃ」
……私の事を言ってるの?
てか、私じゃん。
「ワシは死んでもあいとうないぞ」
……酷くない?
「もし目の前にいるとなるとワシは死んでも逃げる」
あの、既にもう目の前にいるのですが………
それにしてもこれは一体どういう事だろうか。
話を聞くに、どうも誰かがこの幼女と私を会わせようとしているのは間違いない。てか、クソ爺ってもしかしなくても宰相様の事を言ってるよね? ディナーにしつこく誘って来たのもこの為?
まぁ、とりあえずはあれだ。
どうせこの後のディナーでは恐らくこの幼女と顔を会わせる事になるのだろう。ならば、今のうちに誤解を解いておいた方がいい。
「どうしてそんなにリッチを恐がるのかな。私はリッチってとっても良い人だと思うよ」
わたし、こわいアンデッドちがうよ。ぷるぷる。
「確かにお伽噺ではリッチは災厄の不死王なんて語られてるけど、実際はそんな大して取り立てて言うほど本当に恐い人でもないと思うんだ、私は」
リッカ・エンマのステータス。
レベル一、基本スキルなし、筋力・体力・敏捷は全て最低ランク。魔力・知力は割りと高ランクではあるが、魔法スキルなしなのでゴミ箱へ。唯一固有スキル(チラシ)と加護有り(謎の)。総合結果、最低ランクの初心者冒険者。
「それともリッチはただ単純に嫌いですか?」
もしそうなら少し凹む。
「いや、別にな、ワシは取り立ててリッチが特別嫌いとか言うわけではないのじゃぞ?」
その言葉に安心した。
少なくとも今は恐がられてはいるものの、心底嫌いではないと言う幼女にホッと胸を撫で下ろしていると、
「しかし、な……」
目の前の幼女はとても申し訳なさそうな、心底嫌そうな声でこう続けた。
「生理的にちと受け付けんのじゃよ」
え、やだ、生理的に無理って初めて言われたんだけど。しかもこんな純粋そうな幼女、美幼女にゴキブリを見るかのような目で言われるとかどんな追い討ちですか。
「ど、どどど、どうしてそんなに生理的に無理なのかな?」
「だって、リッチって臭いじゃろ? 絶対腐った臭いがするのじゃ」
死体蹴り止めてー!
アンデッドだけど、死体だけど、これ以上は死んじゃう!
「うぅっ……」
「どうしたのじゃ、急に落ちこんで。なにか悩みがあるならワシが力になるぞ?」
力なくその場に崩れ落ちた私を心配そうに介抱してくれる幼女。
「私って、そんなに臭いですかね……」
「はみゃ? お主はなにを突然いうておるのじゃ」
うぅっ、そう言えばギルド長も私から芳ばしい匂いがするって言ってたような。で、でも、ミラさんやアリアさんは臭くないよって言ってたし……もしかして気を使って我慢してたりとかじゃないよね? もしそうならショックで立ち直れない。
「よくはわからぬが、お主は特に臭くはないぞ? それはワシが保証するのじゃ」
「……本当に?」
項垂れる私に寄り添うように励ましてくれる幼女。やだ、本当にこの幼女頼もしい。
思わず泣きそうになる私に幼女は『臭いと言うよりは、どちらかと言えば』と言葉を続け、私の胸元に顔を寄せてクンクンと匂いを嗅ぎ、
「芳ばしいかおりがするのぅ」
止めを刺してきた。
「うぅっ……もうお外を歩けない」
「なんでそうなるのじゃ!? ワシはなにか変なことをいったかや」
……芳ばしいって。
それってあれですよね。
お肉が熟成されて美味しそう匂いがするって意味ですよね。
つまり腐りかけのお肉の匂いがするって事ですよね。
だからギルド長がいつも私を見ながらヨダレを垂らして狙ってるんですよね。
「なにか誤解しているようじゃが、ワシが芳ばしいといったのは気配云々のことじゃぞ?」
「……気配?」
「うむ。お主はどうやら少し芳ば……異質な気配を感じるのじゃ。それがどういうわけか、なぜか人を引き寄せる。人や種族によって感じかたは様々じゃとは思うが、ワシからしたら芳ばしい、美味しそうな匂いがするのじゃ」
決して臭いという意味ではないぞと付け加えて説明してくれる幼女。
「そうですか。私が臭いってわけじゃないんですね」
アフターフォローを忘れない幼女に本当に頭が上がらない。本当に魔族って良い人ばっかりだ。
やっぱり魔族国に飛ばされて良かった。
王国だったら今頃は首輪付きで戦争の最前線に投入されていたかもしれない。最悪は奴隷であんなことやこんなことになってたかも。
「ふむ……」
改めて己の幸運と閻魔大王へ優しさに感謝を捧げていると、なにやら考え込んでいた幼女が重々しく口を開いた。
「のぅ、お主……」
「ん、どうかしましたか?」
「もし、もし良ければなのじゃが、ワシと一緒に──」
と、そんな時だった。
「探したぞ、馬鹿者」
「……ギルド長?」
ズカズカと踏み込むように突然現れたギルド長。
「今すぐ帰るぞ」
「……はい? って、ちょっ、ギルド長、下ろしてください!」
「今は緊急事態だ。話なら後にしろ」
「緊急事態?」
そう言うギルド長の表情は割りと真剣な感じだ。
「久しいのぅ、ギルド長」
「……お前、こんな所でなにをしている」
二人とも顔見知りであったのか、幼女からの問い掛けに驚きで返すギルド長。
暫く二人は無言で見詰め合っていると、ギルド長の視線が私に向いた。
「話しをしたのか?」
「なにをですか?」
「なんでもだ」
「なんでもなら話しました」
相変わらず主語が少ないギルド長の言葉を察し返答すると、『そうか』と短く頷いたギルド長は私を抱えたままズカズカとテラスを後にしょうと歩きだす。
「ちょっ、待って下さい、ギルド長!」
「話は後だ」
本当にこの人はいつも急だ。
私はまだあの幼女にお別れをしていないというのに。
ドナドナと運ばれるようにしてギルド長の脇に抱えられながら、じたばたと暴れ抵抗をしていると、テラスの方から小さく、
「またなのじゃ」
と、幼女の少し寂しそうな声が聞こえて来た。
私もすかさず『また会いましょう』と叫んだが、次に会える日はいつになるのか。
結局は幼女があの時になにを言いかけたのかは分からないままではあるが……なんとなく、本当になんとなくだが、あの幼女にはまた近いうちに会えるような気がする。
ここは魔王の城。
私は簡単に出入り出来ない場所である。もしまた会えるとしたら、それは城の外でと言う事になるだろう。
「あ、また名前を聞き忘れました」
本当に、次に会える日はいつになるのだろうか。
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