21 リッチィさん、幼女と再会する
ちょっと修正してたので遅れました。
改めて息子を取り戻すと宣言した私は、現在テラスの手摺に項垂れるように突っ伏していた。
「とは言うものの、どうしたらいいのでしょうか……」
この異世界に来てまだ二日。
私はこの世界の事を全く知らないし、現代日本のように性転換手術等があるのかどうかも分からない。
いや、別にそういった方法で息子を取り戻そうとか思ってませんよ?
流石に手術とかではなく……あの、その、あれです、自然療法的な?
「ご飯をたくさん食べたら生えてきますかね、あはは……」
ファンタジー的なナニかで。
そんな馬鹿な考えしか頭に浮かばない私はやはり糖分が足りないのであろう。
ならばとチラシを展開してもう一つチョコレート菓子を購入していく。
……いや、決して甘い物が食べたいとかって誘惑に負けた訳じゃないですよ? これは、その、あれです、必要経費です。
「ぁう……」
とろけるような可愛い声が意図せずに自分の口から漏れる。
一口食べるとチョコレート独特の良い香りと甘味が口の中一杯に広がる。
ヤバい、これはヤバい、まじヤバです。
下手をするとチョコレートという麻薬に取り付かれてしまいそうです。
「も、もう一つ……」
袋菓子から更に一つ開封しては口にする。
あと一つ、もう一つ、最後の一つと誘惑に負け、チラシを展開してはチョコレートを購入しては口にするそんな時だった。
「……!?」
背後でなにか気配を感じる。
いや、これは気配と言うよりも凄い熱視線を感じる。
あれ、この感じまさか……銀髪幽霊少女再び? 成仏したのではなかったのか? それともチョコレートの匂いに釣られてまた来ちゃったとか?
「じゅるり」
なんだー、ギルド長でしたかー。
背後からポタポタと頭にヨダレを垂らさないで下さいよー。
……って、あれ?
もしかしてチラシのスキルでチョコレートを購入したのが見られた?
あ、いや、別にいいのか?
チラシのスキルはギルド長にステータスを見られた時に確認されてるし……特に問題ない、のかな?
そう思い恐る恐る後ろを振り返って見れば、
「じゅるり」
なんとそこには、キラキラとした目でヨダレを垂らしながら此方をガン見する幼女がいた。
「……って、あれ?」
黒髪黒目、片牙の覗くこの幼女の特徴……確かどこかで……
「……あっ」
思い出した!
あの時の人拐い(いいじゃん男)から助けてくれた幼女だ!
「お嬢ちゃんは確か、あの時の助けてくれた子だよね?」
「……じゅるり」
ヤダー、久しぶりーと声を掛けるも、反応がない。
どうしてこんな所に幼女がいるのだろうか。
確かここは人嫌いな魔王様に出入りを制限され、ある一定の人物しかやって来れない筈だ。
という事はやはり、この幼女はお偉いさんの子供かなにかと言う事なのだろうか。
そう疑問に思い幼女を観察すると、幼女の熱視線はある地点に固定されている事に気付く。
試しにとチョコレートを持つ右手を持ち上げて見ると……幼女の視線がそこに向く。
「食べますか?」
「いいのかや!?」
はい、どうぞと幼女の口にチョコレートを突っ込む。
「うひゃあ!?」
突如、驚嘆の声をあげる幼女。
「な、なんじゃ、これは? 口に入れた瞬間に爆発的に濃厚な甘味が口一杯にひろがったのじゃ。それにこの幸せのかおりはいったい……」
コロコロと口の中でチョコレートを転がし、グルメリポーターみたいな感想を述べた幼女は私に振り返り、
「これはなんなのじゃ!?」
唐突に問い掛けて来た。
「なにって、これはお菓子ですよ」
「お菓子?」
「はい、お菓子です」
「ば、馬鹿な、ワシは未だかつてこのような菓子は食べたことがないのじゃ」
まさかこのようなお菓子が存在してるなどとはと口にする幼女は、物凄い勢いで私に迫り掛かった。
「こ、これは、なんと言うお菓子なのじゃ!? いったいどこで手に入れ……ま、まさか、主が、お主がこれをつくったのかや!?」
「ちょっ、待って、近い近い、近いですよ!?」
余程なまでに興奮してるのか、私との顔と顔の距離がとんでもなく近い。
興奮さめやらぬ幼女をなんとか少し離すと、
「このお菓子はチョコレートって言います」
棒状のチョコレートを手に説明する。
その言葉に幼女はちょこんと首を傾げながら、
「ジョゴレート?」
ん、あれ?
少し発音が違う。
「いえ、チョコです」
「ジョゴ?」
少し違う。
「チョコ」
「ジョゴ」
…………
「チ・ョ・コ・レ・ィ・ト」
「ジ・ョ・ゴ・レ・ィ・ト」
……まぁ、いっか。
この年齢の子供ならまだ舌足らずで言えない発音もあるよね。
例えばスパゲッティとか。
「ん、お主、よく見ればあの時の娘かや? たしか変な男にかどわかされそうになっておった……」
「はい、その節は本当にありがとうございました」
あの時と同じように幼女目線に屈み、精一杯のお礼を込めた言葉と笑顔で幼女の頭を撫でる。
「むぅ。そ、それはもういいのじゃ。それよりも……」
照れくさかったのか、幼女は顔をほんのりと赤く染めて恥ずかしそうに言った。
「これはお主がつくったのかや?」
「ん、んー、そうですねー」
どうしょう。
これは素直に言った方がいいのだろうか。
正直、チラシからただ購入しただけなのだが、それを話そうにもそもそも異世界人にチラシってなんだと言う話だ。
ここは馬鹿正直に話すよりも真実に少し虚偽を混ぜたほうが分かりやすいだろう。
どっちみち、チラシを使ってチョコレートを取り出した所はばっちり見られているだろうし。
「作ったと言えば作ったんだけど、正確に言えば『スキル』で作ったって言えば分かるかな」
「『スキル』じゃと?」
一体どんなスキルなのじゃと興奮する幼女を宥め、チラシのスキルを発動する。
突然目の前に現れた半透明状のチラシにビクッと驚いた幼女をよそに、二枚チラシの内容から先程と同じお菓子をタップして購入していく。
お支払いが完了しましたと同時にお菓子が私の手の平に現れ、待ちきれないとした幼女のお口にお菓子の袋を開封したチョコレートを『どうぞ』と入れる。
「うひゃあ~!?」
と、奇妙な叫び声を上げた幼女はじたばたと『甘々なのじゃ~』『これがジョゴレートかや~』『お菓子の革命じゃ~』等と全身で喜びを露にしている。
「美味しいですか?」
と聞いてみれば、
「げきうまなのじゃ!!」
見惚れるくらいの満開の笑顔で答えてくれた。
思わず赤面しそうな、何ともいえないこの奇妙な感覚を押さえながら『もっと食べますか』と聞けば『いいのかや!?』とやはり凄い純粋な笑顔で返ってくる。
なんだろう、自分の心が浄化されそうだ。アンデッドだけに。ロリコンちゃうよ。
その後は暫くして、自身の所持金があわや半分を切るかと言うところで我に帰った私は、目の前で無限にお菓子を食さんとする幼女からの『もっかい』とするチラシ要求に身を悶えているのだが、だんだんと幼女の表情にうっすらと赤身を帯び、興奮度合いが洒落にならなくなって来ていたのを見て少し嫌な予感を隠せなくなってきていた。
そう言えばチョコレートは脳を4倍に興奮させる作用があるとか聞いたことがあるような。確か古代中国では媚薬の効果もあったとか。
幼女の様子からしてこの異世界にチョコレート、その原料であるカカオも存在して無さそうだし。もしくは知られてないか、発見されてないかのどっちかだろう。
そんな初めて食べる未知の味、知らない刺激を受けた幼女はどうなるのか?
恐らく見た目からしてお酒等も飲めるような歳でもないし、もしかしたら……
「もっかい! もっかい!」
とりあえずは、この幼女の様子からして凄くまずい事態になりそうな予感がひしひしと感じるので早急に止めよう。
なに事も程々が一番なようだ。
そう学んだ私は、幼女と一緒にドカ食いしていた残りのお菓子を慌てて返品することにした。
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