20 リッチィさん、新しい目標を決める
18話、ミラさんの部分だけ少し書き直してます。読み直さなくても大丈夫だと思います。
そろそろ時刻もオヤツの時間を迎えただろうか。
楽しい楽しい宰相様とのランチを終えた私は現在、魔王城のある一室、客間と言われる豪華な部屋でくつろいでいた。
「いや、なんでこうなるの?」
謁見も終わり、ランチも食べ終えた私は直ぐ様に帰ろうと試みた。
しかしどうしてかな。
宰相様は何故か引き留める。
もう少しゆっくりしてはと。
いやいやとするも、いえいえとする宰相様。
どうせなら魔王様が帰って来るまでお待ちなってはどうかと。
直ぐに帰って来るのですかと訪ねるも、
一週間以内には帰って来るかと。
もうね、
アホかと。
忙しいので帰りますとした私だが、
宰相様から『この後、ディナーでも一緒にどうですかな』とのお誘いが。
馬鹿なの?
あのランチの後にディナーに誘うとか本当に馬鹿なの?
そして『喜んで』と『任せろ』としたギルド長はもっと馬鹿なの?
そしてそして、結局了承した私は更に馬鹿なの?
「いや、違うんです。私は悪くない」
貧乏なのが悪い。
「どうしましょうか……」
私の手にはいつの間にか5枚の金貨が握られていた。金額としては5万ゴールド。ミラさんの宿屋の十泊分のお値段であり、大金だ。
「はぁ……」
あの後、買収されたギルド長に無理矢理拘束される私ではあったが、今度こそは絶対帰りますと譲らなかった。
軽いランチでさえあれだったのだ。
ディナーでの宰相様からの追撃など考えたくもない。ボロが出そうだ。もう結構ボロを出してますが。
しかもしかも、ミラさんは冒険者ギルドの仕事があり、尚且つちょっと前のギルド長のうっかり『墓場で異変』を処理しなくてはならず、やむなく帰らないといけないことに。安全地帯消滅。
「あれは流石に断れませんね」
もう本当に無理ですからと断る私ではあったが、今回のクエストの前払いの報酬ですと金貨を数枚渡されれば断れない。
私の現在の所持金、全部で400ゴールド。日本円にして400円。
今日の宿代はおろか、今日の夕飯すら怪しい。
ミラさんのお母さん、アリアさんに土下座して頼み込めば大歓迎として泊めてくれはしそうだが、何となくこれまでの恩もあり、それは悪いので最後の手段として遠慮したい。決して、決してミラさんが恐いわけではない。……本当ですよ?
「世知辛い世の中ですね」
出来れば今すぐにでも逃げ出したい所ではあるが、前払いと称して先にクエストの報酬を受け取ってしまった。
元はと言えば、このクエストの正式な内容は『アンデッドリッチ、リッカ・エンマは魔王様の元へ会いに来ること』だ。
流石にこのままのクエスト内容では、私は魔王様が帰って来るまでずっと永遠とここで待ち続けないといけない。
なので、少しクエストの内容は変更させてもらって『アンデッドリッチ、リッカ・エンマは魔王様に会いに来ること。追記、又はディナーを食べて帰ること』に変わった。
「うぅっ、はやくお家に帰りたい」
お家ないけど。
◇◇◇
「それにしても暇ですね」
ディナーまで待機することになり案内された豪華な客室。
少しちょっと前までは、珍しい家具や調度品、椅子やソファーの座り心地を試してはテンションが上がり、壁に掛けられた立派な謎の人物の肖像画の穴埋め(目の部分が覗き穴だった)を楽しんでいたのだが、流石に飽きてしまった。
「ギルド長はどっかいっちゃうし」
ついさっきまでギルド長も一緒に待機していたのだが、やはりと言うか『腹減った』と一言口にし、私をヨダレを垂らしながら暫く見詰め、程なくして何処かに消えていった。
ほんと、味見されるかと思ったよ。
「少しこの辺りを冒険してみますか」
客室で絶対おとなしく待機してろとは言われてないので、客室のドアをゆっくりと開けて閉め、少しお城の中を見て回る事にする。
「何度も魔王城に来れる機会なんて、ギルド長みたいに立派な役所持ちの人物、またはお偉いさんにしか縁がないですからね」
なので、この機会に色々とお城というものを見てみたい。
「まぁ、次に来る機会が出来ても来ませんが……」
もう厄介事はこりごりです。
◇◇◇
「凄い眺めです」
客室を出て暫く長い廊下歩くと、広いロビーからテラスへと出た。
「流石は天空のお城、といった所でしょうか……」
標高何千メートル。
下手をすれば空を覆う雲よりも高いこの魔王城。
「まさに絶景の光景ですね」
日本に居たときでは絶対に味わえない光景。
一度は飛行機に乗り、大空を小さな航空機の窓から見たことはあるが……これは明らかに迫力が違う。
生で感じる空気と風、視界一杯に広がる地平線の彼方。
少し視界を下に移して見れば、このお城を中心にしてできた城下町、都市がミニチュアサイズで見える。
手を伸ばせば届きそうな届かないこの距離。実に楽しい。こんな気持ちは子供のころ以来かもしれない。
「あ、そう言えば、今のうちにお金をチラシに入金しておきますか」
気付けばポケット越しに金貨を握りしめていたことを思い出す。
この世界に来たときは着の身着のまま、というか丸裸でやって来たので財布なんて物は持ち歩いていない。
ミラさんから借りた御下がりの服(ミラさんからもう小さくて着られないから上げると言われた)、ジャケットのポケットに閉まってはいるが、こんな大金もしも落としてしまっては大変だと、どうしてもポケット越しに金貨を握ってしまう。落としてしまうと主に今日の宿と明日からのご飯がなくなるのだ。
手汗握る金貨を早速とチラシに入金する。
チラシの入金残高、5万と400ゴールド。日本円にして5万400円。そのまんまである。
「ふぅ、これで一安心ですね」
チラシのスキルは固有スキルなのでいつでも自由に取り出し可能だ。
一度入金したお金も、払い戻し機能を使えば直ぐに手元に金貨が戻ってくる。しかも両替も可。実に便利な貯金箱、もといATMである。閻魔大王様ありがとー!!
「安心したら少し小腹が……と言うか甘い物が食べたくなりましたね」
決してギルド長みたいに大食いになったわけではない。と言うよりも少食になったくらいだ。
つい数時間前のランチで出たデザート、実はあれ、私、二口しか食べてない。
宰相様からの追撃を受けて気が付けば、いつの間にかお皿が空になっていたのである。
恐らくはギルド長……ではなく、あの銀髪の少女が食べきったのだと思う。
あの場から跡形もなく消え去っていたし、きっと未練なく逝ったのであろう。成仏してね。
でも、シロップを持って逝くのは止めてほしかった。お陰で、デザートのお代わりが出来ませんでしたよ。流石に、シロップなしであの匂いは少しまだ抵抗があるし、あの時の残金残高では二つ目の購入は厳しかったです。
「んー、どれにしましょうか」
ふふふ、只今の残金残高、5万400ゴールド。なんでも買える金額である。チラシ限定で。
「今の気分的にはガッツリ系、チョコレート系ですかね」
二枚チラシを捲ったり戻したりとしては凄く悩む。先程の貧乏性が嘘のような贅沢な悩みだ。
「よし、今はこれにしましょうか。ゲンを担ぐとも言いますし……」
宰相様曰く、クソ爺にきっと勝つということで棒状のチョコレート、小袋二本入りの袋型、248ゴールドを購入していく。
シロップ購入の時と同様、突如手元に現れたチョコを手にし、残りの残金は5万150ゴールド。うん、四捨五入、四捨五入。もう間違いないね。
「めちゃくちゃ美味しいですね、これは」
この絶景の光景のお陰だろう。
いつもよりも気分が高揚し、お菓子がより美味しく感じる。気持ち的には子供の頃の遠足のお弁当を思い出す。
「これはヤバいです。なんかテンションが上がります」
若返った肉体は精神に影響が出始めると漫画や小説ではよく聞くが、これは実に良いものだ。
昔はそんなに甘い物は食べなかったのだが、今はこのお菓子の甘味が麻薬のように染み渡る。
今ならば下の姪っ子が言ってたことが良く分かる。
『おじさん、甘い物は女の子にとって別腹、麻薬のような物なんだよ』
と、可愛らしく言いながらよくせがまれた想い出が鮮明に思い浮かぶ。
『おじさん、おじさん。次はね、このお店に行きたいな!』
当時は嫌々……ではなかったが、それでも強引に姪っ子に連れ回されては、今流行りのお店と言って色々な場所、高級ホテルのケーキバイキングや某有名スイーツ店に行ったものだ。
『え? 男は入れないんじゃないか? 大丈夫、大丈夫。ここ、見た目はメルヘンちっくだけどとっても美味しいって評判なんだよ!』
時には、明らかに男は場違いなんじゃないかと思えるようなお店などにも。
『ん~~っ!! すんごい美味しい……って、あれ? おじさん、もう食べないの? これ以上はムリ? じゃあ私が食べてあげる!!』
あの時はどうしたらこんな量のスイーツが女の子のお腹の中に収まるのかと不思議に思ったものだ。
『おじさん、今日はありがとね! え? いつもだろって? あはは、うん、そうだね。じゃあね、じゃあね、今度はさぁ、私のおすすめのお店トップ10の食べ歩きツアーしょうよ!』
その時は流石に勘弁してくれと、甘ったるくて死んでしまうと断ったが……ふふふ、今度もし日本に帰れることがあれば、一緒に食べ歩きツアーでもしてみたいものです。
当時の私は無理だったが、今ならば大丈夫な気がする。
だって今の私は──
下を見る。
山あり谷あり息子なし。
「チクショウ」
女の子だからだ。
女の子になってしまったのだからだ。
「はぁ……」
なんだろう。
最近、というかまだ女の子になってしまって二日目ではあるが、転生してからと言うものの、自分が女の子と言う事実に全く違和感を感じていない気がする。
いくら精神は肉体に引っ張られやすいとは言うが、これはなにか作為的なものを感じてしまうのは気のせいなのだうか。
──流石にこのままではまずい事になる。
そんな事を思いながら大空を眺め悪態をついてると、どこからか、
『──っ』
あれ? 心なしか、今あの世から『チッ』と舌打ちが聞こえた気がする。それも『気がつきやがったのか』と、悪意満々な感じのが。
気のせいだろうか?
いや、気のせいではない。
あんにゃろう、閻魔大王!!
もしかして体を移し変える際に精神まで弄ったな!?
「これは、まずいですね」
アンデッドになったことは仕方ないと、王国の貴族達の奴隷になるくらいならと許容はしたが、女の子になったことは受け入れていない。
口調に関しては、この外見に男言葉は流石に似合わないからと意識して変えてはいるが……あれ、何で変えてるんだろう? まあ、いいか。
それはそれとして、今まで30年間という長い時間男やって来たのだ、そう易々と簡単に男を手放すことなんて出来ない。
『どのみち、リッチィは不死なのであるからして、いずれは女の子の一生の方が長くなるのだから諦めろぉ』
んな馬鹿な!?
て言うか普通に会話出来たんですか閻魔大王様。
『────』
またか、またですか。
毎度毎度、言いたい事だけ伝えてブチるのは止めてくれませんかね。
『────』
チクショウ。
「まぁ、とりあえずは良かったかもしれませんね」
ここで気付けたのは本当にラッキーだ。
「この異世界でアンデッドとして生きていく。その覚悟は既に出来ています」
しかし、流石に女の子は抵抗がある。
「決めました」
これからは恐らく、長い長い異世界生活、アンデッドとしての生涯を送る事になるだろう。
「私は絶対に」
その長い生涯の中、ただただまったりと過ごすのも悪くはない。しかし、一つぐらい目標を持つのもまた悪くはないはず。
「息子を取り戻してみせましょう」
贅沢は言わない。
体を元に戻してとは言わない。
せめて、せめて息子だけでも返してくれれば御の字だ。
期限はおおかた長くないと思う。
男として生きた期間の30年。
これを超えてしまえば私は完全に女の子として精神が傾いていくだろう。恐ろしい、本当に恐ろしい。男にときめくなんて事がこの後に起こりうるかも知れないと分かると本当に恐ろしい。精神的なBLは本当に勘弁してほしいです。
「待っていて下さい。私の息子よ」
またいつか会う日まで。
私はこの日、このどこまでも広がる地平線が見える魔王城にて、固く固く誓ったのだった。
「……?」
背後から覗く、ちみっこい存在に気付く事なく。
読んでくれてありがとうございます。
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