18 リッチさん、ついに魔王城の最奥に
「本日はようこそおいで下さいました、リッカ・エンマ殿」
ついにやって来ました魔王城の最奥、ラスボスの場とも呼ばれる謁見の間。
そこで私ことリッカ・エンマ、元勇者♂、アンデッド・リッチ(レベル1)は目の前に佇む初老の男性に声を掛けられていた。
「本日はお招き頂き誠にありがとうございます」
謁見の間に入る前に習った作法で、頭を下げながらとりあえず無難な言葉を返す。
「ふふ、そんなに硬くならずとも宜しいですぞ、リッカ・エンマ殿。今この場には私達しか居られないので楽にしてください」
物腰が柔らかく、優しそうな雰囲気を匂わす男性、年齢的には初老に差し掛かったであろうかという老人が諭すように言う。
いや、無理です。
だってこの人、何て言うか、オーラが半端ないんです。
怖いとか恐ろしいとかではなく、威厳とか貫禄が物凄いんです。
日本で言うと、どこかの大財閥の創設者みたいな感じだろうか。
これが魔族の頂点に立つ魔王か、流石は魔王様と賞賛していると、
「おい、クソ爺。これはどう言うことだ」
隣で煎餅を噛じるギルド長が怒ったように口を開いた。
「貴女は相変わらずですな、ギルド長。一応この場は飲食禁止なのですが……」
やれやれとした感じでギルド長を見詰める初老の男性、恐らくは魔王様であろう。
「そんなことは知らん。それよりも、あいつは、魔王は何処に行った」
少し怒気を滲ませながら言うギルド長に、目の前の初老の魔王は少し困ったようにして……って、あれ?
「え、この方が魔王様じゃないのですか?」
どういうこと?
「ふふふ、私は魔王様ではございませんぞ、リッカ殿」
疑問を口にした私に優しそうに微笑む初老の男性。
ではこの無駄に威厳と貫禄に溢れた人は一体誰なのだと不思議に思っているとミラさんが、
「リッカさん、このお方はこの国の宰相様ですよ」
「宰相様?」
「はい、魔王様の側近にして右腕、この国のNo.2にあたる偉い方です」
宰相様と言えば、朝方に冒険者ギルドで聞いた名だ。確か私を連れて魔王様の元まで来ることが出来ればご馳走を用意していると、ギルド長を餌で釣ってここまで私を呼び出した張本人である。
すなわち、油断ならない人だと言うことだ。
「ふふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですぞ」
「え?」
「今日お呼びしたのは純粋にリッカ殿の人柄は勿論、初めてお目にかかるあの伝説の種族『リッチ』を実際にこの目で直接拝見したかっただけですからな。ですのでそんなに身構えないで下さって結構ですぞ」
別に取って喰うわけではございませんと、ギルド長ではありませんのでと語る宰相様。
くっ、私の心の中を読むとはやはり油断ならない人だ!
「いや、だからお前は顔に出て分かりやすいだけだぞ。まぁ、このクソ爺が見た目よりもタヌキなのは間違いないがな」
「なん、だと……」
呆れたとした顔で口にするギルド長。ミラさんは言わなくとも、よく見れば宰相様も『うむうむ』と頷いている。
チキショウ
「で、魔王は何処に行った」
イライラとした様子で話を戻すギルド長。
その問いに少し困ったと顔をした宰相様は、
「ふむ、逃げられましたな」
あっけらかんと口にした。
「なん、だと………」
その答えに絶句するギルド長。ちなみに私ではないよ。
しかし、少し何故にギルド長がそこまで過剰に反応するのかが分からない。私の知るギルド長であれば、魔王様に会いに来て会えなかったとなっても一言『そうか』で済ませそうなもんだと思っていたのだが……小さく『……ご馳走』と呟くギルド長に理解した。どうやら魔王様に私を合わせる事が出来なかったので、ご馳走はお預けだと思っているみたいだ。
「つい先ほどまでは大人しく玉座に座っておられたのですが、一瞬目を離した隙にまんまと逃げられてしまいました。恐らくはたぶんもう遠くに逃げておられるでしょうな」
いやはや参りましたと宰相様。
「そ、そんな……」
今度は隣でミラさんが崩れ落ちた。よっぽどミラさんは魔王様に会えるのが楽しみだったのか、ぶつぶつと『せっかくリッカさんと同行して魔王様に会える権利を皆から苦労して勝ち取ったのに……』と、少し不穏な空気を醸し出しながら黄昏ていた。
そんな二人を『やれやれ』とした顔で見詰める宰相様。ギルド長には『相変わらずですな』とした顔で呆れ、ミラさんには『……相変わらずですな』と、何故か冷や汗をかいて警戒している。
何故だろう?
いや、あれですね、ギルド長が何故いつも状態異常回復ポーションを持ち歩いているのか……そう言うことです。
正直、謁見の間に入ってからあまり気付かないようにはしてたけど、宰相様、明らかにミラさんを警戒してますよね。
というか確実にミラさんを避けてますよね? 何者なんだろうか、この受付け嬢は。宰相様の懐から緑色な物が見え隠れしているのがもうなんとも言えないです。
「……は?」
そんな微妙な空気がいつまで続いただろうか、いわば空気になりかけていた私であったが……
「…………」
気が付けばいつの間にか、私の隣に見知らぬ銀髪の少女が突っ立って此方をジットと見詰めていた。
「……え?」
どういうこと?
この場、謁見の間にいる宰相様、ギルド長、ミラさんを交互に確認するも誰もがこの少女を気にしていない。というか気付いてない?
ジット此方を半目で見詰める少女。少し眠そうな顔をしている少女を見詰め返していると、
「……見えてる?」
え、なにこれ怖い。
「…………」
慌てて視線をずらす。
そしてすかさず前隣にいたギルド長に、
「ぎ、ギルド長、ギルド長」
「……なんだ」
「銀髪の少女にお知り合いはいますか?」
「……は?」
分かります、何を突然馬鹿な事を言ってるのか、ですね。だとすれば、
「ミラさん、ミラさん」
「……なんですか、リッカさん」
「ごくり」
「……あの、なぜ今ポーションを飲まれたのですか?」
意味が分かりませんとするミラさん。
状態異常回復ポーション効果で一瞬頭が冴えたのを確認してもう一度隣を確認すると、
「…………?」
頭を傾げる銀髪の少女が見える。
なんだー、幽霊でしたかー。
てっきり、ミラさんがまた精神系統魔法を掛けてきたのかと思いましたよー。やだなーもー。
「見えてる?」
見えてませんよー。
「どうかしましたかな、リッカ殿」
「ひゃ、ひゃい!?」
「リッカ殿?」
「な、なんでもございませんです、はい」
突然に宰相様から話を振られて変な声が出てしまった。ビビってないよ。
「ふむ、そうですか。ではなんですが、もうそろそろよい時間ですのでどうですかな。ご一緒にランチでも。今日は魔王城の料理人が腕によりをかけてご馳走をご用意させて頂いてますよ」
「ご馳走!?」
堅苦しい話はここまでにしてと、お昼ご飯に誘う宰相様の言葉にいち早く反応するギルド長。
ギルド長には言ってないのですがねとした宰相様の言葉に、勿論と私は頷く。
「それでは食堂までご案内致します」
宰相様が一言、奥の謁見の間を挟んだ扉に声を掛けると、中から三人のメイドさんが出て来ては食堂まで誘導してくれる。
宰相様が始めに謁見の間を出るのと共に、待ちきれないとしたギルド長と黄昏たミラさんにメイドさんが付き、謁見の間を出る。
次に私も側に来たメイドさんに優しく誘われるようにして出る。
「…………」
そして、その直ぐ後ろをゆっくりと此方を半目で見詰める少女が一人付いてきていた。
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