17 リッチィさん、ついに魔王城へと降り立つ
試しに投稿時間を変えてみたいと思います。
「じ~ご~く~へ~か~え~ろ~を~」
「何を言っているのですか、リッカさん?」
さてさて、馬車に運ばれること長い時間。私はついに念願たる宿敵になるはずだった魔王の住む城、魔王城の真下にたどり着いた。レベルは1である。
「もうここまで来たんだ。リッカもいい加減、納得して諦めたんだろ」
「…………」
「リッカさん?」
「やだぁ……」
「あの、ギルド長。リッカさん凄く納得してません」
お家帰りたい。お家ないけど。
「……あれ?」
「どうかしたんですか、リッカさん」
現実逃避しながら外を眺めていると、不可解な光景が目に入ってきた。
「あの、なんでお城がこんなに沢山あるんですか?」
魔王城はここからでも視認できる場所、天空に浮かんでいるのが確認できた。だけど、私の視線の先には何故か地上に沢山のお城が乱立するように建っているのが見える。
不思議に思い、ミラさんに尋ねてみたんだけど……
「リッカさんは知らなくてもいいんですよ」
明らかに優しい目をして誤魔化された。
何故か凄く子供を見るような目で言われたのだけど、私は大人です。
ならばとギルド長に尋ねる、
「あぁ、サキュバス達の住処か」
「ギルド長!!」
ギルド長の言葉にミラさんが『止めてください』と声をあらげた。リッカさんは純粋な娘なのでとか聞こえるが……ごめんなさい。私はギルド長の一言で全て理解しました。
「ラブホだこれ」
◇◇◇
「近くで見ると、凄いですね」
馬車から降り眼前に見えたのは天高く浮かび上がる天空の城、魔王城。てかこれ、何処から入るのだろう。
「ふふふ、そう言えばリッカさんは魔王城を近くで見るのは初めてなんでしたよね」
余りの迫力ある天空の城、魔王城に驚いていると、ミラさんが微笑ましい子を見る顔で近付いて来た。
「お前たち、早く行くぞ」
ミラさんと二人、暫く魔王城を眺めていると、ギルド長が珍しく真面目な顔で急かすように呼んでいる。
「珍しいですね、ギルド長でも流石に魔王城に行くとなると少しは緊張でもするのでしょうか?」
流石のあのギルド長でも魔王様に会うのは畏れ多いのだろうか。
「いえ、ギルド長に関してはただ私情が絡んでいるだけだと思うのですが……」
「私情?」
「その、『ご馳走』とか……」
「あぁ、そう言えばそうでしたね。確か私を一緒に連れて来られたら『ご馳走を用意してる』でしたよね」
やっぱりギルド長はギルド長だった。
それから急かすギルド長の後を追い、魔王城の真下付近に到着した。何やら複雑そうな魔法陣が地面真下に記されているが、もしかしてここが入口なのだろうか。
ギルド長が手を出してきた。
「なんですか?」
「早くしろ」
説明をお願いします。
「リッカさん、魔王城に私達が登城するには資格ある人と一緒の必要があるのです」
そう言ってミラさんはギルド長を見た。なるほど。
ミラさんに説明されるがままにギルド長の手を取る。
「バ○ス」
「何を言っているんだ、お前は……諦めろ、そろそろ転移するぞ」
「チクショウ」
ギルド長の片方の手を笑顔のミラさんが握り、もう片方の手を苦虫を噛み潰したような顔の私が手を取ると、地面の魔法陣が勢いよく輝き始める。
一瞬、全身が浮遊感に包まれたと思うと、私達はその場から転移したのだった。
◇◇
「……凄いですね」
一瞬の浮遊感の後、魔王城に直接転移した私は目の前の光景に驚いていた。
「はい、凄いです……」
私が呟くと同時に、ミラさんもが目を見開いて驚きを隠せなく同調する。
魔族の象徴たる魔王城。
その魔族の誰もが羨む魔王の住む城、天空の城は、城下の真下から見る光景とは全くもって異なっていた。
「……古城。いや、これは廃墟でしょうか?」
誰がこんな光景を予測できたのだろうか。
私達三人の眼前には荒れ果てた廃墟……いや、崩壊寸前の魔王城が佇んでいた。
……なんだ、これは。
もしかしてバ○スか?
バ○スが効いたのか?
「早くしろ、行くぞ」
そんな驚き固まる私を尻目に、目の前のこの光景が当然とばかりに歩き出すギルド長。
「はい」
ミラさんもまた、一瞬目の前の光景に驚きはしたも、一言返事をすると直ぐ様に至極当然の様に歩き出す。
「えぇ……」
誰か説明をお願いしたい。
本当に、なんだこれ。
呆気に取られながらギルド長とミラさんの後を追うも、魔王城周囲の光景……いや、城の残骸に目を奪われてしまう。
「……合戦場の跡?」
前に歩き進むにつれ、周囲には幾つもの武器――大剣・槍・弓・斧・ハンマー・クロスボウ・刺又・ギロチン等々、多種多様のオンパレードな武器が地面に突き刺さり、又は半壊した状態で無造作に転がっている。
てか、ギロチンってなんだこれ。なんでこんな処刑道具みたいな殺意満々な道具が転がってるんだ? もうやだ、本当帰りたい。どんな世紀末だ。
「あの、なんかあの辺、物凄く崩れてるんですけど……」
この崩壊した魔王城の中でも特に損壊が激しく、恐らくはこの魔王城の最上塔があったであろう場所を指差し、煎餅を齧りながら前を進むギルド長に問い掛ける。
ギルド長は私が指差す方をチラリと見ると、
「……知らん」
興味がないと煎餅をかじる。
知ってた。
なのでミラさんに視線を向ける。
「恐らくは勇者との戦闘で崩れたのかも知れませんね」
「……勇者? そう言えば、四日前に勇者が魔王様に敗れたと冒険者ギルドで聞きましたが……」
一般クエストを受けようとギルド掲示板に張り付いていた時、偶然知り合った鬼族のガウルさんに一緒にどうかと誘われた指名クエストを断った際に少し聞いた話だ。
今だ緊張が続く魔王軍と人族の軍が、境界線上で睨み会っているらしいが……ガウルさん達は今頃もう向かっている頃だろうか。
そんな事を考えていると、少し難しい顔をしたミラさんが、
「はい、四日前にパーティー仲間率いる勇者が魔王城へと奇襲を掛けて攻めて来ましたが、見事に魔王様が撃退されました。しかし、魔王城の損壊具合から見ると、今代の勇者はかなり手強い相手だったのかも知れません」
話を聞けば、パーティー仲間率いる勇者が四日前の深夜遅くに魔王城に侵入。
これまでの戦いから、城内の魔族はまさか夜遅くに勇者が奇襲を仕掛けてくるとは思わず(歴代の勇者は皆、力押しで正面から出向いていた)、油断していた警備を勇者は突破し(夜も遅いのでと城内の警備兵は皆寝てた)、いとも簡単に魔王城の内部、中央の侵入に成功。
後は魔王様が眠る玉座の奥、寝室へともう一歩のところで魔王様に気付かれ(夜食を食べようと起きていた)、数時間の戦闘の末、勇者は敗れたそうだ。
「…………」
『流石は魔王様です』と語るミラさんに色々と突っ込みを入れたい所はいくつかあるが、どうしても気になる事があるのでスルーすることに。
「ちなみに、その後の、敗れた勇者達ってどうなったんですか……」
勇者と言う事は、私と同じ異世界人。又は日本人な筈なのでどうしても気になる。
「んー、どうでしょうか。深夜の出来事でしたので、何分詳しくは知らないのですが……上から今のところ上がって来た話では、魔王城から勇者の仲間が逃走したと報告がありました」
恐らくは人間領に逃げ帰ったのではと語るミラさん。
過去の勇者との戦いから見ても、魔王様は敗北し逃走する者を追うことはせず、見逃す事が多々あるそうだ。
『流石は魔王様ですね』と連呼するミラさんに、『あいつは甘いだけだ』と呟くギルド長。
話を聞いていると、本当は魔王様と言う人物は優しい魔王様なのかもしれない。
そう深い印象を抱く私であったが、
「だが、勇者だけは生きて魔王城から出たと言う報告は聞いた事がないがな」
…………
「それは仕方がないことですよ、ギルド長。魔王様は勇者嫌いで有名ですから」
やはり魔王様は魔王様なんだと改めて理解した。
イヤーーーーー!!
◇◇◇
それから魔王城内に入り歩くこと数分。
ギルド長に案内されるがまま進む私達であったが、
「それにしても、あまり人が居ませんね」
この広い城内で今まですれ違ったのは僅かに三、四人。
全てメイドさんの格好をした人達だ。
不思議に思ってミラさんを見てみれば、これまた『フィッ』と視線を反らされた。なぜに?
「あいつは……今代の魔王は、勇者嫌いの他にも人嫌いって事でも世間では有名で知られているからな」
そんな疑問にギルド長が口を開いた。
「人嫌い、ですか? だから滅多に公の場にも顔を見せないんでしょうか」
少し前にギルド長が言っていた引きこもりワードを思い出す。
「まぁ、人嫌いと言うのはただの世間体だ。……本当はただの引きこもりなんだがな」
「ギルド長!? だから魔王様は引きこもりではありませんと言ってるではないですか!」
「どっちも一緒だろ」
「違います!」
「だが、元を辿れば引きこもっているのも人嫌いを拗らせたからだろうが。違うか?」
「…………」
もの言いたげな目をするギルド長の言葉にまたもや『プイッ』と顔を反らすミラさん。
押し黙るミラさんの反応からするに、なにやら魔王様が引きこもっているという事実は本当のようだ。
そしてその原因がミラさんにあると……
「違いますよ!?」
密かに無言で距離を取る私に突っ込みが返ってきた。
まだなにも言ってないのに……まさか、またいつの間にか精神系統魔法をかけて心を――
「読んでませんよ!? それにそもそも心を読む魔法なんて存在しません。リッカさんは顔に出過ぎなだけなんです」
「なん、だと……?」
10年近く某携帯ショップで販売員をしてたきた私が?
クレーマー然り、ヤーさんから宗教関係者、原価マンまで笑顔で対応してきた私が?
あはははは、そんな馬鹿なとギルド長を見てみれば、『お前は本当に馬鹿だな』と言いたいような顔で返ってきた。
チクショウ
「まぁ、なんだ。だからこそ、今回リッカを直接呼んだって聞いた時は驚いたぞ」
ん?
「初対面の相手にあいつが、魔王が自分から会いたいなんてな……変な物でも拾って食ったか?」
やだなぁーもー、ギルド長じゃないんですからー。
「――ふんっ」
「あんぎゃっ!」
突然に拳骨が飛んできた。
何も言ってない筈なのに何故だ。
「それは確かに。私もギルドで魔王城からリッカさんへの登城許可を貰った時は驚きました。まさか魔王様がお菓子と勇者関連以外で興味を持つとは……」
よくよく考えてみれば少し変ですねと考え込むミラさんとギルド長。
やだもー、それフラグじゃないですかー。
お菓子という謎の単語は置いといて、引きこもりの魔王様が顔も知らぬ赤の他人に興味を持つとか、私が元勇者だと勘づいてるじゃないですかー。
「まぁ、お前が何を気にしてるのかは知らんが、恐らくは単純に新種の魔族『リッチ』が少し気になって見てみたいって所だろうがな」
くるっと引き返そうとするも突然に襟首を掴まれ空を切る私の足。目の前には逃がさんと持ち上げるギルド長が語っていた。
「そうですね。一応はお伽噺としか知られ存在していないと言われていた種族ですから、流石の魔王様も少し興味を持っただけなのかも知れませんね」
必死にジタバタと暴れる私に『だから心配ないですよ』と諭すミラさん。
んー、そう言う事なら確かに……。てっきり私が元勇者って事がバレてるのかと思って焦ったじゃないですかー。
まぁ、いくら何でも勇者がリッチ、アンデッドになってるなんて誰にも分からないですもんねー。
いや、でもしかし、元々はこの世界に存在すらしていなかったリッチがなんでこんなに広く、魔族領のみならず人間領にまでお伽噺として語られ知られるようになったのだろうか?
「ちなみにそのお伽噺は誰が広めたんですか?」
「えっと、確か大昔の勇者が広めた話しだとか聞いてます」
「あ、すみません。私やっぱりキャンセルで……って、ちょっ、放してくださいギルド長! 私は、私は行きませんよ! いや、放し……放せこらぁあああああ!!」
読んでくれてありがとうございます!
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