12 リッチィさん、仲間に誘われる
あと1話、閑話が入ります。
「流石に疲れました……」
15人分の洗濯は思ったよりもキツかった。
自分の服ならいざ知らず、宿のお客さんの服ともなれば痛めないように洗うのが大変だった。
「この体、予想以上に貧弱すぎますよ、閻魔大王様……」
そして何よりも大変だったのが水組み。井戸の底から水を引き上げては何度地面にぶちまけたか数えきれない……心が折れそう。
全ての洗濯を時間をかけて完了し、日のよく当たる場所に干していく。
「うん、もう別物みたいにピカピカですね」
気持ちいい風にバタパタと揺れる真っ白なシーツや本来の色を取り戻した衣類。
まさかドス黒い染みが簡単に落ちた時は驚いたが、やはりケチャップだったか。
アリアさんから終わったら食堂に来てと言われていたので、報告の為に戻ると……
「凄い混んでますね……」
アリアさんの宿屋の食堂は人気なのか、全ての席が埋まっていた。
やはりボリュームのある料理が魅力なのか、料理を運ぶアリアさんの手には大盛りの料理が。
「アリアさん、洗い物終わりましたが、忙しそうですね? 手伝いましょうか」
「ありがとう、リッカちゃん! でもここはいいから大丈夫よ。この後にミラの所に行くんでしょう? なら気にしないで行って来なさいな」
慣れているのか、大勢で賑わう食堂のお客さんを軽快に避けながら笑顔で返してくれた。
「はい、じゃあ、お言葉に甘えて行ってきます」
「いってらっしゃい、リッカちゃん!」
◇◇◇
「ようこそ当冒険者ギルドへ、リッカさん」
冒険者ギルドに到着すると、直様にミラさんの所に案内された。
なんでも、昨日はギルド長に絡まれたせいで冒険者ギルドの仕組みや注意事項を説明出来なかったそうな。
ミラさんは今朝の親しい雰囲気とは違い、凛とした受付け嬢の姿で説明していく。
「冒険者登録には本来登録料が必要なのですが、リッカさんにはお父さんからの紹介状があるので不要です。しかし、リッカさんの右手……じゃなく、左手にある冒険者の証を無くした際は再度発行料が必要なので注意して下さい」
「再度発行料? それはいくらくらい必要なのですか?」
「13000ゴールド必要になるのですが、手数料も込みになると13500ゴールドになります」
13500ゴールド?
それってどれくらいの価値なのだろうか。
恥を忍んで聞いてみると、ミラさんは慈しむ目で答えてくれた。
「10000ゴールドは金貨1枚で、そしてこの銀貨が1枚1000ゴールド、銅貨が1枚100ゴールドになります。なので再度発行料は金貨――」
「金貨1枚と銀貨3枚、手数料で銅貨5枚必要な訳ですね」
「は、はい、そうなります、ね」
直ぐに暗算で答えた私に驚くミラさん。もしかして私はアホな子だと思われていたのか。
それにしても銅貨が1枚100ゴールド、おじさんから頂いたお金が銅貨3枚で300ゴールド、それを昨夜チラシに入金したら300円と出ていたので、大して円と差額の為替レートはないようだ。
金貨が1枚1万円札で、銀貨が1枚千円札、銅貨が一枚100円玉って事だろう。
安易で助かります。
「次に冒険者としてお仕事なのですが――」
ミラさんの話では、冒険者とは魔物討伐や依頼クエストを受けたりすることで生計を立てているらしい。
冒険者のランクは特に決まっておらず、魔物討伐のクエストは誰でも受けることが出来るが、怪我や命に関しては全て自己責任みたいだ。流石は異世界、命が軽い。
依頼クエストに関しては、冒険者ギルドからの常時クエストと緊急クエストを除いて、依頼主からのクエスト、特に高額のクエストは基本的に名のある高レベル冒険者にしか依頼主が頼まないので、駆け出しの無名冒険者には安上がりなクエスト、皿洗いや家の掃除、町の雑務等の一般からのクエストにしか縁がないらしい。
「――以上になりますが、他に何かご質問はありますか?」
「私みたいな駆け出しの冒険者に受けられるクエストは何があるでしょうか?」
「リッカさんは何か魔物を討伐した経験はありますか?」
「いえ、ありません」
「なら、一般からの雑務等のクエストを受けてみてはどうですか? 安上がりですけど、リッカさんのレベルではこれが一番妥当だと思います」
ミラさん曰く、レベル1での魔物討伐は自殺行為らしい。
「まずはあそこにある掲示板でクエストを探してみてはどうですか? 今の時期は結構人手不足の所が多いので、一般からのクエストが多々あると思いますよ」
受付け嬢として事務的に進めるミラさんだが、その顔は色々と複雑そうだ。
「分かりました、ミラさん。少しあそこで自分に出来る仕事を探してみます」
「あ、あの、リッカさん……」
お礼を言って立ち去ろうした私をミラさんが呼び止める。
「あんまり無茶なことはしないでくださいね?」
なんでも、冒険者ギルドの職員は過多に冒険者に私情を挟んではいけないらしく、レベル1の私が無茶をしないか心配らしい。
大丈夫ですとミラさんに伝えた私は、クエストを探して冒険者で溢れる掲示板へと向かった。
「おう、どうしたリッチの嬢ちゃん、クエストを探していんのか?」
掲示板を覗いていると、頭に2本の角を生やした大男が話し掛けて来た。
牙があるとこからして鬼の種族だろうか? 中々の強面だ。
「はい、一般の雑務のクエストを受けようと思っているのですが……」
「なんだよ、嬢ちゃん。『リッチ』なんだからもっとデカイ仕事受けないのか?」
「リッチと言っても、私、まだレベル1ですよ? 流石にそれは無理ですよ」
ちなみに私が『リッチ』だと言うのは全冒険者が知っている。
昨日の騒ぎの後、ギルド長が冒険者全員に私の種族が『リッチ』だと発表した。
その事実に最初は皆が信じなかったが、私がアンデッドであり、冒険証に記載されている種族がリッチであると確認されてからは大騒ぎになった。
珍しいと私に触る者もいれば、何処か私を『主よ』と拝みだす者もいた。マジ止めろ。
中には色々と欲望の籠った目で見てくる者もいたが、ギルド長が『私の食料に手をつけた奴は絶対に許さん』としてくれたお陰で、変な奴が私に絡んでくる者はいない。
対価は右手1本ですか?
鬼の男性は忘れていたと頭をかきながら、
「あー、そうか、そうだったな。リッチがレベル1ってのも少し変な話なんだが……どうだ、よかったら俺達とクエスト受けねぇか?」
「一緒に、ですか?」
「あぁ、俺達はこれから――おう、お前ら、こっちだ、こっち」
手を振る鬼の男性の仲間なのか、3人の男女がやってきた。
「うっさいのよ、あんたは! そんな大声で喋らなくても聞こえてるっての! って、この娘、確か昨日ギルド長が言ってた……」
「リッチの御方じゃないっすか! 初めまして、俺は鼠人族のユーリって言います! 是非俺とお付きあ――」
「リッチィちゃんだぁああ!!」
なんか騒がしくなってきた。
「おう、お前ら、やっと来たか」
「あんたが早すぎるのよ、全く……それにしてもガウル、あんたもしかしてこのリッチの娘に絡んでたんじゃないでしょうね」
「あぁ? んなことしねぇよ、お前も分かってんだろ。手を出したらギルド長に喰われちまうぜ」
「それもそうね……あ、私はリズって言うの、種族は魔人族よ」
突然の展開に固まっていた私に、赤い髪の女性、魔人族のリズさんが自己紹介してきた。
「魔人、ですか?」
「うん、そうだよ。見てみる?」
「……っ!?」
何を思ったのか、急にリズさんは胸元を開けて見せ、
「ほら、この魔石がそうよ」
そう言って指差す先には、小さな綺麗な蒼い石が胸元に埋まっている。
「ま、魔石、ですか……?」
「そうよ、魔石……って、何を恥ずかしがってるのよ、女同士なんだから別にどうってことないでしょう?」
思わず赤面してしまった私に、リズさんが聞いてくる。
あ、そうだ、私は女の子だったんだ。ヤダー、忘れてた、アンデッド。
「わお! 姉さんのおっぱい俺にも見せてくださ――ぐはっ!」
「死ね、エロネズミ!」
リズさんの鋭い蹴りで鼠人族のユーリって自己紹介していた人が壁にめり込む。
それをいつもの事だと無視するように鬼の人が、
「俺は鬼人族のガウルだ。こっちが――」
「リッチィィちゃぁああん!!」
「あぶっ!」
突如、私の視界は真っ暗になった。なんだ、この柔らかい物体は。
「離れろ、バカ野郎」
「あー、もー、何するのよ、ガウル!」
鬼のガウルさんが引き離そうとしてくれたのか、私の目に微かに巨大な山がそびえたっているのが見えた。
「すまねぇ、うちの仲間が。ちなみにこいつは魔女のマリーだ」
「はーい、マリーだよー! よろしくね、リッチィちゃん!」
ギュッと此方を抱き締めながら挨拶してくれたマリーさん。
山の頂上から覗く紫の瞳が何処か幻想的だ。
「は、はい、私はリッチのリッカって言います。よろしくお願いします」
「よろしくねー、リッカちゃん!」
「いい加減にしろ、このバカ野郎!」
「――うんぎゃっ!?」
抱き締めるだけでは飽きたらなかったのか、頬をスリスリしだしてきたマリーさんの頭に拳が落ちた。
「本当にすまねぇ、うちの仲間が……」
「いえ、別に気にしてませんよ」
ゴロゴロと頭を抱えて転がるマリーさんを無視して、ガウルさんが申し訳ないと謝ってくるが、私にとっては役得です。ご馳走様でした。
「……あの、何してるのですか?」
いつの間に復活していたのか、ユーリさんが私の長めのジャケットをガッツリと捲っている。
「いやぁ、今日は裸じゃないんだなと思っ――あぶしっ!!」
「死ね、このドスケベ野郎!」
リズさんの廻し蹴りが入る。
「殺す、私のリッカちゃんに、この薄汚いドブネズミがぁ!」
同時に地面に転がっていた筈のマリーさんから風を纏った何かが放たれ、ユーリさんが壁に叩き付けられる。
今のはもしかして魔法か?
そして、またまた申し訳ないと鬼のガウルさんが、
「すまねぇ、大丈夫か」
「はい、今日はちゃんと服を着てますから大丈夫ですよ」
「いや、そうじゃなくて、うちの仲間がまた……」
「あれくらい別に気にしてませんよ? 少しユーリさんの手が太股に触れていたくらいですから」
「いや、流石にそれは少しは気にしろよ」
呆れるガウルさんの後ろからは更に壁が崩れる音が響くが、逆にあれだけ真っ直ぐな馬鹿だと感心が湧いてくる。
「愉快な仲間達ですね……」
見ていると日本に居た頃の職場の仲間達を思い出す。
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