11 リッカさんが消えた後の店舗
本日2話目になります。
「なに、まだ一人仕事に来てないだと?」
朝の早朝。
今日のシフトに入る全スタッフ社員が会議室に集まる中で、只一人が欠けていた。
「は、はい、店長。リッカさんがまだ来てません」
「リッカの奴か……」
少し不安げな顔をした研修生の名札を付けた男、林田が報告してくる。
こいつは今リッカが付きっきりで教えている教え子で、まだ入社して一年の半人前だ。
「あいつは相変わらず、朝がとんでもなく弱いからな」
俺とリッカはもう結構な長い付き合いで、この店舗では一番の古株同士だ。俺の方が入社は1年早いが。
「昨日遅くに電話した時もかなり眠そうにしてたし……遅刻だな」
リッカは入社当時から全く変わらない。シフトが早朝の場合は病気なのかと言いたいくらいに決まって遅刻してくる。
今はいないが、当時の職場の上司もあまりのリッカの朝の弱さに呆れて『お前、何処か悪い所でもあるんじゃないか?』と、心配して持病を疑っていたくらいだ。
「はぁ、あいつなら後から遅れて来るだろう。会議を始めるぞ」
まぁ、遅番のあいつを急に朝番に変えた俺も悪いしな。
てかあいつ、遅番しか出来ねぇし。
「皆にも昨夜電話で軽く話したんだが、例の携帯の件だ」
数枚の資料をスタッフに配った所で皆の顔色が曇る。
「マジかよ、嘘だろ」
「ちゃんと販売前にテストしたのかよ、これ」
資料の最初には『製造販売で起きた携帯機種の問題、過程、動作不良、改善策』と書かれている。
「何だよこれ、アップデート後に電源ボタンが入らない事があるって、これ接触不良ってレベルじゃねぇよ」
「更に電波が立たなくて、wifiにも反応しないとか……どうすんだよ、これ」
お前達の言いたい事は分かる。
俺も昨日本社からメールが来たときは驚いたもんだ。
こんなの入社してから久々の当たりだ。
昔は多かったが、最近は見ないと思ったのによぉ……だが、お前らが驚くのはまだこれからだ、何よりこれは
「ちなみにこれら全ては修理対応のみだ。回収及び、交換は無しだ」
『『『『………は?』』』』
想定内の反応だ。
「分かっているとは思うが、初期不良での交換が認められている場合のものは購入してから10日以内までだ」
『『『発売したの20日前なんですけど!?』』』
そうだな。
しかも発売当初はかなり注目されていたから殆んど発売日に完売、後日予約注文取り寄せ対応であり、今現在の店舗在庫はゼロで入荷待ちだ。
10日前に売れた携帯の数などたかが知れている。て言うか発売初日に在庫がゼロになってから今日まで一度も入荷がねぇよ。これも弱小の下請け店舗の宿命か、他の大きい下請け店舗と比べて初期の携帯入荷台数が半分もねぇ。いや、半分の半分もねぇよ。
「俺、朝店舗に入る時、めっちゃお客さんから睨まれたっすよ」
ああ、それは俺も見た。
早朝にも関わらず20人近く並んで待っていたが、凄い殺気立ってたな。
だが、それはうちが弱小の下請け店舗だからこの程度の数で済んでいるんだ。他の大きい下請け店舗はうちよりも初期に入荷してきた台数が半端じゃねぇから、初日に捌いた数も半端じゃねぇ筈だ。一体今頃どれくらいの行列が出来ているのやら。
「おい、誰か今日の朝の受付け代わってくれよ。俺、ちょっと胃が痛くなって来たんだが……」
「バカ野郎、ベテランは全員朝から晩まで受け付けに缶詰めだ。新人はそのサポートに回って、残りは電話対応に当たれ。携帯の予約キャンセルの電話申し込みは受けて構わんが、もしクレームでの電話なら裏にいる俺に全部回せ」
入社したての新人にこれは荷が重い。下手に変な対応をお客さんにでもしたのなら、後日またクレームが返ってくるかもしれねぇ。それなら今俺が全部受ける。
「は、はい、分かりました店長」
「そんなぁ、横暴だ!」
こいつら新人、俺がベテランのサポートに回れと言ったら安心した顔をしてやがる。ベテランは死んだ顔をして俺を非難するように見てるが……お前ら、俺も裏でクレームの電話を全部対応するんだぞ?
クソ、こんなときにリッカがいたら全部押し付けるのに……早く来てくれリッカ!
おっと、もう直ぐで開店時間だな。その前に大事な注意事項を伝えないと。
「皆に気を付けて欲しいのは、二枚目の不具合に書かれているSDからの初期化だ。故障で受け付ける時はくれぐれも注意しろ……って、林田、お前聞いてるのか?」
「は、はい、すみません。聞いています」
今日は朝から何処か落ち着かないと注意散漫としている林田だが、こいつは入社してからそろそろ1年が経つ。
まだ半人前ではあるが、故障の受け付けも最近1人で受け始めているし、こいつも今回受け付けの数に入っている。
そろそろ研修生も卒業の時期なんだが……こいつ大丈夫か?
リッカは『西さんは心配性ですね。林田君は人間身溢れるいい人ですよ』とか意味不明な事を言っていたが、俺は林田の進捗状況を聞いてんだよ。誰が林田の内面を語れと言った!
「西さん、そろそろ開店10分前です。急がないと……」
そんなこんなしてるうちに、いつの間にか時間が立ちすぎていたようだ。
ホールで開店準備をしていたスタッフが慌てて呼びに来た。
「あぁ、もうそんな時間か。よし、各自、皆持ち場に急げ。後、故障修理受け付け班はくれぐれもデータのバックアップに注意しろよ。解散」
その言葉で全スタッフが持ち場の位置に急いで向かう。
「あの、西さん? 先程から電話が鳴りっぱなしですが、取らなくていいのですか?」
朝から鳴り続ける電話に気になったのか、新人のスタッフが聞いてくる。
「本部や支店以外からの着信は全部無視しろ。電話を取るのは開店してからだ」
これは基本の事だ。
電話に出るのは営業時間が始まってからと言うのが社会の常識だ。決してクレームが多いからとかどうこうと言う訳ではない。
「開店します! いらっしゃいませ!」
そうこうしてる内に、どうやら開店したみたいだ。
それと同時にホールで受け付けをしているスタッフから朝の決まり挨拶が聞こえてくる。
『おはようございます!』『いらっしゃいませ』『本日はどのようなご用件でしょうか』『本日は当店にご来店頂き誠にありがとうございます』
そしてその後に、
『おい、一体どうなってるんだよ、このクソ携帯!』『何時まで待たせるのよ、全く』『どのようなご用件かって? ふざけんなよ、こら!』『すみません、僕ちょっと急いでるで早く新しいのと交換して下さい』
……想定内だな。
ピークは恐らく今日から明日までだ。
皆、頑張れ。
「て、店長!? 3番にお客さんから携帯の電源が入らないとお電話が!」
「あ、あぁ、分かった。俺が対応するから此方に回せ」
こっちも想定内だ。
俺、頑張れ。
そして、早く来やがれリッカ!
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