10 リッチィさん、チラシのスキルを試す
あと1話、閑話が入ると思います。
「……知ってる天井」
どうやら地獄から帰ってきたみたいだ。
「そう言えば、チラシってなんでしょうか」
閻魔大王の最後の言葉を思い出し、あの時に渡されたチラシを探してみる。
しかし、この部屋に私の私物など何一つとして存在しない。
「……もしかして、あの墓地のお墓の中に一緒に埋葬されていたって展開じゃないですよね?」
あの墓地は意外と広い。
私がおじさんのいた門を見付けるまで軽く三十分は歩いた記憶がある。
「確か自分の墓石が建っていて……蹴り転がして何処かに捨てましたっけ……」
あんな広大な墓地で名無しのお墓を見付けるなんて不可能だ。
「詰んだ? いや、待って、確かギルド長が私のステータスにチラシがあるとか言ってたような……」
左手についた腕輪を触って見る。冒険者の証と言っていたからもしかして……出来た!
名前:リッカ・エンマ
年齢:16
種族:リッチィ
レベル:1
スキル:なし
固有スキル:チラシ
加護:▲◆◇★
称号:わぁれの娘だぁ
「なんか増えてる」
誰の娘ですか。
「あ、固有スキルの所にチラシってありますね」
称号以外は変化していない。
「固有スキルってどう使うんだろう……」
てかチラシって何だ。
渡すときに特売スーパーのとは言っていたが、本当にそのままなのだろか。
「なんか出てきた」
頭の中で特売チラシを思い浮かべると、手にはいつの間にか一枚のチラシが。
「まんまチラシですね」
東友(TOUYU)
全国展開を果たしている有名スーパーだ。
チラシは表と裏に商品が載っており、食材から日用品までもがカラーでプリントされている。流石は東友、種類が多い。
「……この表示は」
東友のチラシの上に妙な数字がカウントされているのに気付いた。現在の数字は21:58で、一秒後に右端の数字が減っている。
「うん、どうみてもチラシの掲載期間ですね」
頭の中で他のチラシを思い浮かべたりするも変わらないので、もしかすると掲載期間毎に一つのスーパー限定なのかもしれない。
チラシに乗っているミカンをタップしてみると、
『ミカン 97(1)』
もう一度押してみると、
『ミカン 194(2)』
「左から商品名と値段と個数ですか」
意外と分かりやすい仕様で助かるが、しかしこの世界の単価が分からない。
チラシに表示されている数字の値段はまんま円の表示だろう。大体が東友さんで売られていたミカンの相場そのまんまだ。
「そうだ。確かおじさんから少し貰ったお金が……」
墓地で助けてもらい、ミラさんの所に向かう前におじさんから『足しにしろ』と渡された数枚の茶色い銅貨のお金。
試しにとチラシの上に乗せてみればそれは吸い込まれるようにして消え、チラシの右端の上部に『300』と出ている。
残金300円って事なのかな?
そこでミカンを一つ試しにと手が伸びるが、
「お腹がはち切れそう……」
これ以上食べたらリバースしてしまう自信がある。
「おじさんからせっかく頂いたお金ですからね、無駄遣いは止めておきましょう」
胃酸が胸に込み上げて胸焼けを起こしているのを我慢し、このまま朝まで寝ることにした。
朝までに多少は消化されてたらいいな。明日の朝ごはんは気合いが入っていそうだ。
◇◇◇
「リッカさん、起きてますか?」
ドアをノックする音と共に、ミラさんの声が聞こえる。
「ふぁい、起きて、ます……よ……」
「おはようございます、リッカさん。少し眠そうですけど、あまり眠れなかったんですか?」
返事をするとミラさんが入って来た。
「いえ、元々……朝は、少し……ふぁ……」
胸焼けで何度も夜中に起きてしまったせいもあるが、私は人間だった時から朝が弱い。
そう言えば上司の西さんには無理を言って毎回遅番のシフトに回してもらっていたなぁ。
霞む目を擦りながらベッドを後にし、ふらつく体をミラさんに支えられながら部屋を出た。
「……ぁう」
意図せずに自分の口から可愛い声が漏れる。
「おはよう、リッカちゃん! まだ眠そうね、朝ごはん出来てるわよ!」
「ぁう……」
分かってはいたが、朝からこのボリュームはキツいです。
朝の食卓は昨日と同じ肉入りスープとパン。パニーニにされて挟まれたパンには、これでもかとはみ出す程のベーコンが……。
「冗談よ、リッカちゃん。はい、これがリッカちゃんの分」
「……ぅえ?」
いたずらっ子の笑みを浮かべたアリアさんが、成功したと私の前の朝食を入れ替える。
「昨日はごめんなさいね。ついウッカリして私達獣人と同じ量のご飯を出しちゃったんだけど……無理して食べるリッカちゃんが可愛くて止められなかったわ!」
アリアさん曰く、昨日の晩ご飯の量は獣人ならば普通の量らしい。どうやらアリアさんは最初私の事を獣人だと思っていたらしく、食事の途中で私の頭に獣人種特有の獣耳が無いことに気付いたみたいだ。
「まさかリッカちゃんがアンデッド種だったなんてね。全然匂わなかったから気付かなかったわ!」
匂いか……。
ギルド長も言っていたけど、アンデッド種って本当に腐っているのか。一体アンデッド種って魔族の中ではどういった立ち位置になるのか気になる。
「リッカさんは今日はどうするんですか? このまま私と一緒に冒険者ギルドに行きます?」
私の向かい側でボリューミィな量の朝ごはんを食べるミラさんが聞いてきた。どうやら今日もお仕事みたいだ。
「はい、早く仕事を探さないといけないのでお願いしたいのですが……」
「どうしたの、リッカちゃん?」
「いえ、このままお世話になりっぱなしは悪いので、少し何かお手伝いでも出来ればと思いまして……」
昨日はご厚意でタダで一泊させてもらったが、流石にそれは常識的に考えて流石に悪いと感じてしまう。なので午前中だけでも宿の、アリアさんのお手伝いが出来ればと思うのだが、
「別にそんなの気にしなくても大丈夫なのに……でも、リッカちゃんがそこまで言うなら少し手伝ってもらおうかしら」
「はい、お願いします」
「はい、お願いされました!」
◇◇◇
「じゃあ、リッカちゃん。このお洋服の洗濯をお願いね」
アリアさんから籠一杯の洗濯物を受け取る。
冒険者ギルドには午後から顔を出しますとミラさんに伝えた私は、宿屋の裏の井戸にやって来ていた。
「全部洗い終えたらあっちの物干しに干して置けばいいからね」
「はい、分かりました」
「宿屋に泊まっているお客さん全員の分だから結構な量があるけど……大丈夫?」
男性物と女性物に分けられた籠一杯の洗濯物。
見た限りでは十五人分くらいはあるが、これくらいなら問題ない。昔、実家に住んでいた子供の頃は両親共に働いていたので、基本家事などは兄弟で分担してやってたし、毎日の洗濯は親兄弟の祖父母含めた十人分を毎日私が担当していたので慣れている。
「無理しないでね。終わったら食堂の方に一声かけてもらえれば大丈夫だから」
「任せて下さい、アリアさん」
こんな事で一泊の恩を返せるとは思わないが、今は出来ることを精一杯頑張ろう。
「……リッカちゃん」
「何ですか、アリアさん?」
気合いを入れる私に、アリアさんが話かけて来た。
「私の事はお母さんと呼んでもいいのよ?」
「それは、ちょっと……」
勘弁して下さい。
昨夜のあれからアリアさんだけでなく、ミラさんまでもが『私の事もお姉ちゃんって呼んでみますか?』と、慈しみにあふれた目をして聞いてくるので恥ずかしくて困っているのだ。
更には何故かおじさんまでもが『俺の事もお父さんと呼ぶか?』と聞いてくるので思わず『お、おじさんは私にそう呼んでもらった方が嬉しいですか?』と、恥じらい込めて返した私は悪くない。冗談だったのに。アリアさんが凄い恐かった。次からはおじ様と呼ぼう。
他の仕事があるからと去り際にアリアさんに抱き締められた私は、早速と洗濯を開始する事にした。
「そうか、そうでした。ここは異世界なんでしたね」
井戸の前で佇む私の前には、丸い桶と波状の段が多数ついてる板が……。
「洗濯機などの便利道具はここには無かった……」
テレビでしか見たことがないような昔の洗濯道具を前に軽く落胆を隠せない私だが、
「まぁ、使い方が分かるだけマシですね」
異世界も地球も基本的に洗濯の仕方は変わらないようで安心だ。
アリアさんに自信満々に任せて下さいと言い出した手前、洗濯の仕方が分かりません等と口が裂けても恥ずかしくて言えない。
「あれ、洗剤は何処にあるのでしょうか……?」
とりあえずと井戸水を何とか丸い桶に貯めて洗濯を開始しようとしたのだが、ここで大事な物がここに無いことに気付いた。
アリアさんの所に聞きに言ってもいいのだが、私の頭にはふとある事が浮かんだ。
「そう言えば、チラシの中に洗剤が記載されていたような……ありました!」
何もない所から取り出した東友のチラシに洗剤を発見。
値段は147円、たっぷり入ってこの価格。安い、流石は東友さんだ。
昨夜はおじさんから頂いたお金を無駄に使うのはどうかと躊躇したが、宿屋の仕事の為に使うのなら問題ない。
早速と試しに購入してみると目の前に箱状の洗剤が現れた。
残金は何故か300円から150円と減ったが……消費税なのだろうか? いや、税率がおかしい。もしかすると四捨五入しているのか?
「おおぅ、落ちる、落ちる」
昔作法のやり方で洗濯を開始すると、予想以上に服が汚れていたのか、桶の水が濁っていくと同時に服本来の色が見えてきた。
「と言うか、こんなに色が変わるものなのでしょうか。いくらなんでも汚れすぎでは……?」
茶色く黄ばんだシャツが真っ白に染まっていく。
もしかして色落ちしたのかと思ったが、他の服を洗ってみると同様に汚れが落ちて本来の色を取り戻した。
「この世界の人は滅多に洗濯をしないのでしょうか?」
しかし、アリアさん達の服は割りと綺麗だった。所々に解れているところはあったが、アリアさんに抱き締められた時に変な匂いはしなかった。
「ま、まぁ、人それぞれ何でしょうね……」
ドス黒い血糊みたいな染みがこびり付いた服を手に『これは血じゃない、ケチャップです』と、気にせずゴシゴシ洗うことにした。男性物の中には一部カピカピになった衣類もあったが……気にしない。
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