冷凍チャーハンとクラス転移
地方都市のとある高校。
その三年二組の昼休み。
僕は机に伏せて寝た振り。
「佐々木のやつ、佳子と遂にだってさ」
「やっぱり?」
「あの部活中止だった日?」
「そう」
バスケ部とその取り巻きのひそひそ話が聞こえる。
佐々木というのは隣のクラスのバスケ部の男で僕とは接点はない。僕と違って成績、運動、性格が良いので女子から人気だ。一方の佳子は僕の知り合い。中学時代は告白こそしてないけれどほぼ彼氏彼女のような存在だった。あの頃はクラス中でもそう思われてたし、実際仲は良くてアニメの話したりマンガの貸し借りしたりもしてた。
関係が変わったのは高校に入って、佳子が女子バスケ部に入ってから。
一方僕は相変わらずマンガアニメ浸け。スマホを手に入れてからはオンラインゲームにどはまりした。
僕らの道が別れていく。
同じ高校に入ったから今までと同じ関係を続けられると思ってたのは俺だけだったらしい。
「佳子、G×Gの31巻買ったよ。読む?」
「あ、それ部で買った人からもう読ませてもらったから」
「昨日、盾の魔王観た?」
「ごめん。バスケで疲れて夜はすぐ寝ちゃうの」
佳子が遠くなった。
今日も佳子は女バス仲間と中庭。もうすっかり佳子は向こうの世界の人。ボッチの俺は机で寝た振り。
そんな僕に聞こえる佐々木と佳子の噂話。
集団は俺の真後ろ。
同中の奴なら僕と佳子の事は知ってる筈。多分こいつらも知ってる。
わざと聞かせて・・る?
佐々木と佳子が付き合ってるらしいという噂は聞いた。それは心臓が張り裂けるような衝撃だった。すぐ真実を確かめたかったが、もしもの答が出るのが怖くて佳子に聞けない。そして俺は佳子のスマホ番号も普段使うアプリも知らなかった。
このままでは佳子が取られる。心ばかりが焦るが何も出来ない。
「へえ~佳子の部屋でね~」
「そのあと佳子の家で夕飯まで食べたらしいよ。母親も絶対聞こえてた筈だろ。凄いな」
「やっぱ揺れるの?」
「公認かあ」
「結婚か?」
「まだ早いだろ」
「でも、それなら佳子は玉の輿よね。将来の社長婦人?」
「まさか母親が佐々木獲得に協力?」
「あたしが母親だったら逃さないように網張るわ。あんな優良物件ないわよ」
「くう~またいい女が一人消えた!」
僕の心臓を抉る会話は小声でされているけれど、ハッキリと聞こえる。
僕は寝た振りしながら耐える。
こいつら僕を見ながら話してやがる!
佳子に棄てられた僕を!
「きゃあ!」
「眩しっ!」
「なんだこれ!」
瞼越しでもわかる眩しさに起きると、皆が天井を見て騒いでいる。
天井には金色の線で不思議な模様が!これが光の正体か。
これは魔方陣!
初めて見るが直感的に確信した。ゲームとアニメで使いふるされた二重の円形に読めない模様。
ヴォン!
なんとも言えない音と肌を震わす空気の波を感じて僕らは魔方陣に引き込まれた。
これはきっと異世界召喚・・・
ーーーーーーーー
模擬戦終わってラーメン屋で昼食。
合宿参加者10人の滞在費は奉行所から支払われている。そのうち食費が村の収入源。
因みに宿泊は村の外側に新たな小屋を奉行所が建てた。基礎はともかく建物自体は中古住宅。オーリンの街中にあった建物をばらして再度組み立てたものだ。
わりかし山林が近いオーリンは木造住宅が多いので、こういうことも可能だし、よく行われている。レンガとか土壁が多いと出来ない。
そもそもなんで中古?
それはお金を使いたくないからだ。昔より良くなったとはいえ、オーリンもまだまだ貧乏。
さて、首が痛いというボロリエに10秒ヒールをかけて治して、とある食品を調理しろと、大量に渡した。
それは冷凍チャーハン。
袋破って鉄鍋でジャカジャカ炒めればチャーハンの出来上がり!
冷凍と侮るなかれ。
旨いんだよ。
熱々の鍋にどんどん冷凍チャーハン突っ込んでボロリエがかき混ぜる!
量が量なので鍋が冷えるから遠慮なく追い火かます!
そしてラーメン食べ始めた若造どものどんぶりの脇にどんどん置いてゆく。
そして当然若造以外の人達にも。
そして俺は店内で声を上げた。
「皆さん、これは試作品のチャーハンというものです。評判が良ければメニューに加えたいと考えております。食べて見てください」
「チャーハン?」
「どれどれ?」
一緒に置かれたスプーンで食べ出す一同。
「お!」
「うまい!」
「イケル!」
オーリンでは米はあんまり普及していない。そもそも米はオーリンでは作ってなくてウエアルから仕入れたものしかない。オーリンの町民が白米にして主食にするほどの量はないのだ。
高級食材だし、そこまで白くはない。
だからご飯として食べる習慣がない。食べなれてないからご飯の人気もない。
以前、コユキやラララに白ご飯を食べさせてみたがいまいちな反応だった。
「もう一杯!」
おかわり自由と言ってないにも関わらず追加を要求する若造ども。
チャーハンは大成功だ。
若造達はよく食べる!
更に追加を炒めるボロリエ。
チャーハンを半分食べて半分をまじまじと観察する村長。恐らくもう分かった筈だ。今回は俺が左手から出したけど、米さえあれば後の材料はなんとかなるし、俺に頼らなくても作れるということ。塩とか油とかは昔なら村には無かったが、今は現金があるので手に入る。
あとは米さえあれば。
チャーハンの評判は上々。
ラーメンとの相性もいい。
そして俺はこのチャーハンを作るには米が大事だと説明した。それは何故か。
今回の合宿班は、10人中8人がウエアルへの派遣組だからだ。(残り2人はオーリン配属)
これも、ウエアルの穀物をオーリンに普及させる為の布石。この村まで米が届くようにとの投資だ。
この村に来ればラーメンが食べれて、チャーハンが食べれる。そしてこの村を守って欲しいとの思い。俺が居なくてもこの村の経済と治安が守られるようにとの想い。
だがしかし。
「師範とユキオ様はどちらが強いのですか?」
この空気を読まない発言。
声の主を探す。
カツオ!
お前か!
自分を棚にあげて師範コユキとか俺とかを焚き付けるのは小物の浅はかな悪知恵!
こいつ、ちょっと強いだけでいい気になってるな!
そこにコユキが挟まる。
「私がユキオに勝てるわけ無いだろう。戦ったら命がいくつあっても足りないわ」
有り難うコユキ。
これでカツオが大人しくなってくれれば御の字だ。
「ですが」
カツオが食い下がる。
「静かに」
コユキが席を立つ。
静かにと言ったコユキもじっとしている。最初はカツオを黙らせるのかと思ったが様子が変だ。コユキが見つめる先は窓の先。
なんだ?
「出たか」
コユキが腰のホルダーから携帯探査機を出す。
それを出したということは鬼か!
俺も頭のなかにナビを立ち上げると、村とオーリンの間にある山に鬼の反応がある。
しかも28体も。
そこには村も畑もないが通り道が近くにある。ほおってはおけない。なにしろ28体だ。
すぐ鬼退治しなければ。
「ユキオ出るぞ!」
「お、おう」
「師範!」
「お前達は待機」
「しかし!」
「ならば手を出すなよ、そして近寄るな。見てるだけならいい」
「はい!」
「ユキオはリエを乗せて来い!」
「なんで?」
「リエはこの村の守り人だ。早く成長してもらわないとな」
「俺も!」
そう食い下がったのはカツオ。
今回の班で一番の自信家カツオ。恐らくはボロリエに負けを認めたくない意地がそう言わせているのだろう。
「またお前か」
問題児に苛つくコユキ。
だが、こういう意地っ張りの説得は時間ばかり浪費する。
「君も俺の車の後ろに」
「はい!」
「仕方ない。後の者は自力で来い。場所はツボヒサ小屋跡地の山側だ!」
コユキは我が儘を言うカツオに苛ついてたがこれでいい。
コユキはバイクで出るだろう。俺はボロリエとカツオを乗せる。あとは足で向かう。
そういやコユキ、道具も無しに鬼を察知しなかったか?それとも神子が教えた?




