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模擬戦

「はい、お弁当」

「有り難う」


 朝、ラララにお弁当を作ってもらった神子は無邪気な子供のように出掛けていった。

 今日も神子は村の畑のお手伝い。村人にはラララがクロマツで貰ってきた男の子で、従順でお手伝いをしてくれる子供と思われている。ガガガにもボロリエにも神子だとは教えていない。


 村では流石に神子と名乗る訳にはいかないので、ククリと名乗っている。名前の由来は知らないけどラララが名付けた。ククリの身体は現在九つか十歳位だそうだ。身長140センチ程度なのだが、親のラララは150センチ越えた程度。二人の身長はかなり近い。

 男親(遺伝子的に)の俺の身長が180センチ程だから、神子がラララを追い越すのは遠くないかも。




 それでククリ(神子)は朝飯と夕飯は母乳なんだぜ?

 食事も食べれるのにさ。実際、今日もお弁当持って出かけたし。


 

 いや、理屈はわかる。

 ククリは0歳児。

 年齢的には母乳が当たり前。母乳の方が栄養としても免疫獲得にも理想的と言ってるけれど・・

 しかしなあ。


 身長150センチのラララが身長140センチのククリをダッコするわけにもいかず、ククリの膝の上にラララが座って()()()()を与える。俺が居ない間、食卓でそんな風景が繰り広げられたらしい。やめてくれ。

 今はコユキが『部屋でやれ!』と食事は部屋でさせて居る。ラララも神子の食事と同時に食べてるとさ。



「夜、気になって寝れないわ」

 コユキが愚痴る。

 コユキとラララは今も相部屋だが、流れでククリも同室。

 んでもって、夜中にククリが腹が減ったと寝ているラララの服を勝手にひんむいて()()()()()()事があるのだそうだ。ラララが起きていてもいなくても御構い無し。

 それで、剣士の性なのか小さな物音でも起きるコユキは起きてしまって寝れなくなる。

 眠っているラララが変なうめき声をあげると余計気になってしょうがない。

 コユキはもう部屋を出ていきたくてしょうがないくらいなのに、ラララはなんとも思っていない。かつてはコユキのわがままで相部屋にしたのに。

 なんせ、村の縦穴式住居では村民集まって雑魚寝だし、授乳もお構い無しだったし、なんなら夜中に声を殺してこっそり致してた夫婦もいる。このくらいはラララにとってどうってことはない。



 ククリの次に仕事に出かけるラララ。

 ラララは今日はラーメン屋の日。


 残された俺とコユキは話し合う。

「もう、離乳できてるよな・・・・普通にモノ食べれるし」

「それは私もそう言ったのよ。でも、神子は飲みたがってるし、ラララもやめる気ないし」


「まさか神子の方がラララより大きくなっても続けるんじゃ?」

「想像しちゃうからヤメテ!」


 確かに想像しただけでナシだ。だが、やってることはアレではない。

 そもそも神子に性欲は無い。



「でも、ラララは幸せなのかもね。我が子にお乳を与える幸せは何よりも代えがたいし」

 コユキがしんみりとする。

 コユキも人の親。

 我が子を腕に抱いて育てる幸せも知っている。

 今我が子に会えないコユキにこの話題は辛いかも。


「この話はやめよう。神子が決めることだよ」

「そうね。あ、気を使った?大丈夫よ、世の中もっと不幸な親も要るし、私は良い方よ」

 気を使ったのはコユキの方だろう。


「さあて、今日は模擬戦でもさせようか」

 コユキが席を立って伸びをして靴を履き替える。バイクブーツではなく、シューズ。

 グローブをして刀を掴む。

 今日は村で師範。

 合宿中の若い衆が待っている。



 今日無職の俺は食器洗いに勤しんだ。





 ーーーーーーーー



 食器洗いの後はガガガ工房。

 工房で補給のガソリンと混合ガソリンを出した。ガガガと二人でガソリンを車に詰めて、予備も貯めて、空き缶を切って切り口潰しをする。


 空き缶の需要はまだまだ尽きない。オーリンに続き、クロマツ、ウエアル、タクトウにも同じ缶が広まっている。四つの町で統一規格になるようだ。

 缶はコユキの所に合宿しているエチゴヤの若い衆が帰りに持っていくという。

 大丈夫か?

 軽いけど結構な体積だぞ。

 まあ、何人か居るからいいか。



 そのあとコユキの剣の練習場所に向かう。何処だろうと思ったら林の中だった。

 コユキの号令が聞こえたからすぐわかった。


「始め!」


 コユキの号令と同時に動き出す四人の男。武器は剣ではなくて棒。

 コユキの説明だと、二対二で、二人組のうちひとりが警護対象。警護される方も戦っていい。そして勝ち負けは相手のチームの警護対象を討ち取ったら勝ち。もうひとりの剣士が死亡判定出されていても勝ち負けには影響しない。あくまで警護対象が討たれるかどうか。審判員は空いている四人がする。

 見ているといろんな戦いがある。

 前衛同士で戦ったり、四人フルで戦ったり、護衛対象をあえて強い方にやらせるとかもあった。ここが林の中というのも面白い。相手だけでなく足元も見てないと、気の根っこでつるっと滑る事もある。

 そしてこの模擬戦の狙いは攻守の経験を積ませる事だと言う。

 戦いの為に戦うのは戦闘凶。実際は目的の為に戦う。何かを攻め落とす、それに対抗する。

 時には一人失っても達成出来ればいい。それも勝ちだ。


 若い衆が走って剣を振り、避けたり逃げたり格闘戦に持ち込んだり不意打ちしたり。みんな頭使って頑張ってるわ。


 んん、若い衆は10人居るけれど、一人強いやつが居るな。ペアが変わってもそいつだけは勝つ。ほほう。


「ユキオ、リエを呼んで来てくれ」

「は?」

「今日はラーメン屋は賄いだけだし、ラララも村長も居るからリエが抜けてもなんとかなるわ。そもそも作ってるのはこいつらの昼食だ」


「わかった」

 俺はボロリエを呼びにラーメン屋に行った。

 合宿で模擬戦してるけれど、コユキがリエも呼んでると言ったら何をさせられるか分かったらしい。

 ボロリエは靴を履き替えて、頭の三角巾を外して髪を後ろにキツめに縛った。





 訓練場所に現れた俺とボロリエ。それを確認したコユキ。この時まで更に数戦やっていたことだろう。


「聞け!今からこのラーメン屋が相手をする。ペアは・・・・ユキオがやれ」


 そう言うとコユキは俺の手を後ろで縛り、足も縛った。

「おいおいおい」


「ユキオは手も足も出ない。せいぜい移動するだけだ、存分に狙え。言っておくがラーメン屋は強いぞ。誰かが勝つまで飯は抜きだ」

 ボロリエって、強いの?

 男時代は金持ちだか貴族だかの用心棒だったらしい。(知らない家)

 たまにコユキに指導と言う名のシゴキをされてボロボロになってるのは知ってる。

 ボロリエの元妻の現在の夫は、鍛える価値無しとコユキに言われた程度の腕前。

 それに比べればボロリエは見込みが有ったのか。


 ボロリエが何本かの棒から好みの棒を選ぶ。身なりを整えて、場を観察する。踏み荒らされて耕されたような所、乾いているところ、木の幹も見る。やたら叩かれた痕があるのは振り易い場所の証拠。ここの若い衆は既に場を把握しているが、今来たばかりのボロリエは観察で把握するしかない。

 そしてボロリエは見た目は女(生えてます)でそんなに強くは見えないだろう。

 だが、師範(コユキ)が強いと言い切った。


「では先ずはハマチ、ニシン組!」


「はい!」

「はい!」


警護対象(マト)は?」

「ハマチがやります!」


「次はアカガイ、イカワタ組。準備しておけ!」


 なにこいつら海産物?

 トロとかサーモンとか居ないだろうな。まさかヤリイカとか、ネコンブとか。

 てか、俺の扱い酷いぞコユキ!

 俺に戦闘するなと言いたいのだろうが、せめて手で頭を守らせろ!手を縛るなら身体の前が良かった!


「あ、ユキオ。助言するの禁止ね」

 そう言って俺に猿轡をするコユキ。

 これじゃ護衛対象でなくて捕虜じゃん。

 でもこれで俺はボロリエに助言どころか『危ない後ろ!』とかも言えなくなった。


「審判はネコンブ、シラス、ツブガイ、ハゼ」

 居たよ、ネコンブ!

 まさかの根昆布!

 今回の合宿にきた者は『角上』とかいう団体じゃないだろな!

 もう考えないことにしよう。



【ハマチ、ニシン 対 リエ、ユキオ】


「始め!」

 コユキの号令と共に一歩前に出るニシン!

 俺の目の前に立つボロリエ。

 僅かな静寂の後、ニシンがさっと右に走り木の死角に入った。しかし、きっと直線距離は詰めてる筈!一方、ハマチ()は左後ろにすこし下がる。直接見える位置だ。ハマチを仕留めに行きたいが離れればきっと横の死界からニシンが来る!

 的の俺は素早い動きができない。一方、向こうの的のハマチは動ける。

 これはボロリエも動きを制限されたようなものだ。

 そしてハマチが投剣の構えをする。

 ボロリエが俺の側を離れニシンを追えば、ハマチが俺に棒を投げつける作戦だろう。

 俺は芋虫状態なので、投げられた棒がいい向きで当たれば討伐したとの判定が出るかもしれない。

 持って居るのは棒だが、刀と想定なら当たったと判定されるのだろう。

 そして距離は走り寄るには遠いが投げるなら近い。

 それこそボロリエとニシンが鍔迫り合いになろうものならハマチは棒を投げずに直接俺を仕留めに来るだろう。


 ニシン、ハマチ組はカウンター攻撃だけでいい。


 しかし、ニシン、ハマチ組も甘々だった。

 素早く右の木の影のニシンに飛びかかったボロリエはニシンを苦もなく剣を軽く叩き、胴を蹴り飛ばし、反動で俺の前に戻ってきた。

 確実性を高めるために俺に数近づいたハマチは急制動!

 そんなハマチに走るボロリエ。ハマチは横に体を引きながら棒を横に振るがボロリエはその剣を真っ向から十文字に受けて更に体を押し込んだ!


 そしてボロリエの()()ハマチの上半身を刈り取った!


「勝負あり!」

 コユキの声が林に響く。





 ハマチの上半身を刈り取った足技。

 そしてその前にニシンを蹴り飛ばした足技。

 あれは・・



 ー竜巻旋風脚ー



 格ゲー技!

 空中で回し蹴りをする。しかも一回転とは限らない。


 見た目に騙されてはいけない。

 ボロリエは女に見えるが男なのだ。蹴りの威力は凄まじい。最初に蹴りを貰ったハマチは女の蹴りくらい耐えられると思ったのだろう。耐えて次の攻撃をすると。だが、甘かった。

 ボロリエは蹴りで仕留めて更には出戻りの反動も作った。

 そして悠々とニシンも仕留めた。

 なんのことはない、ボロリエは近くに居る奴から素早く仕留めたのだ。

 作戦なんて無い。対峙した相手を素早く倒した。最短で倒せば間に合う、それだけだ。

 なんにせよ、ボロリエがスカートでなくズボンで良かった。ついてるし。



「まあまあだな、リエ」

 親疎なコユキ。

 結構すごいと思うんだけど?


「頑張ります」

 ボロリエは喜ぶでもなく落ち込むでもなく冷静な態度。

 そう、まだ途中。これから何戦もするのだ。


「次、アカガイ、イカワタ組!」

「はい!」

「はい!」

「ハマチ、ニシンはすぐ審判!」

「はい!」

「はい!」

 直ぐ次の戦いになったが、このペアは完全に2:1で戦う戦法に出た。

 しかし、これが仇になりマトが簡単にボロリエに落とされた。純粋な剣術での勝利。


 ボロリエってこんなに強かったっけ?

 勝利を積み重ねるボロリエ。


 そして遂に来た。


「次!カツオ、ーーーー」

 あの強い男は名前はカツオ。遂にか!



 カツオかよ。

 ペアの相手はナカジマじゃないだろな?

 と、思ったらまさかのサザエだった。(男です)



【カツオ、サザエ 対 リエ、ユキオ】


「始め!」

 コユキの号令。


 カツオがボロリエに特攻!

 的のサザエが時計回りに走って俺に向かう!

 正攻法か!

 ちいとボロリエも苦戦する。俺は逃げるべく時計回りにピョコピョコ跳ねるがサザエの三分の一も進めない。そして猿轡のせいで息が苦しいわヨダレが汚いわでナニかとピンチ。


 ずっと圧勝だったボロリエが手こずってる。

 外野の若い衆は割れている。圧勝続きのボロリエに期待する者。同じく圧勝続きのカツオに期待する者。逆もある、それは負けろコール。

 ボロリエに誰かが勝たなければ飯抜きなのは誰も気にしてない。何だかんだで食わせて貰えるだろうと思っているらしい。『飯抜き』という言葉はちょいちょい使われてるんだろう。


 剣で仕掛けては離れるを繰り返すカツオ。

 俺に迫るサザエ!

 再び仕掛けるカツオに今までとは違う気迫で大振りな迎撃をするボロリエ!

 打ち合ってばっと離れる二人。だが、ボロリエが離れただけではなく全力でサザエに向かって走り出した!

 カツオは離れるときに圧された力で反応が遅れた!


「寝ろ!」

 ボロリエの言葉を信じて倒れる俺。

 直後、ボロリエの棒がサザエの胴を打ち抜いた!

 直後、倒れてる俺の服をむんずと掴んでカツオから遠ざけるボロリエ!


「勝利あり!」


 ボロリエの勝ちだ。

 ボロリエとカツオの勝負と見るなら決着はついていないように見えるけれど、勝負をサザエに任せて遠慮なくボロリエに打ってでたカツオと常に俺とサザエを気にしながら戦ったボロリエでは負担が違いすぎる。

 しかも勝ったのはボロリエだ。

 強いんだな。

 知らんかった。


 戦いの途中でボロリエに逆走されて勝負を捨てられたカツオは不満そうにしているが、有利なのに勝てなかったのは明らか。



 そんななか、コユキが空気を無視した言葉を吐く。


「このままでは飯抜きだ。私が仇をとってやる」

「師範と戦えるとは光栄です」


 大人げねえ!

 コユキ大人げねえ!

 ボロリエもノってんじゃねえ!


 剣を持たずグローブのみで立つコユキ。お前(リエ)の懐くらい簡単に取れるぞという意思表示。


 一方ボロリエは今までの棒をやめ、20センチ長い棒に変える。

 話の流れからこの戦いは一対一。動きの早さよりリーチと威力を取ったか。そしてボロリエは棒のグリップ部分以外に泥を塗る。奪われ難くするのだろう。



 そして対峙する二人。

 本人達より周りが息を飲む。


「それでは始めよう」


 静かな始まりを宣言するコユキ。

 手刀ではなく掴み手の構えのコユキがザザッ、ザザッと小さな移動を繰り返す。それに合わせてつっかえ棒のように突きの構えを向け続けるボロリエ。

 さっとコユキが木を間に挟むとボロリエが上段に持ちかえる。木の向こうからは右から来るか左から来るかわからない。

 木の向こうの死角からコユキの下段蹴り!ボロリエが迎撃するがすっと逃げる足。コユキは木の小枝に手を引っ掻けて素早く足を引いたのだ。

 また何か来る!

 ボロリエは縦にした剣を防御に使い、その何かに構える。

 低い位置から現れたコユキが地面を蹴りながら両手を伸ばしてくる!

 棒で迎撃しようとしたボロリエは一瞬戸惑う。あの両手は危険だ!師範(コユキ)の手は素手でも武器だ!

 素早く引いたボロリエの身体の上をコユキが通り抜ける!手の下には膝も待っていた!あんなもの食らったらただではすまない、危なくもかわせた。

 一発の蹴りだけでボロリエの頭より高く跳んだコユキをボロリエの足が追う!空中なら避けられない!得意な旋風脚を斜め上にかける!


 ボロリエは驚愕した!

 有利な筈の蹴りを素手で捕まれた!しかも、盛大に引っ張られている、上に!

 引っ張られて狂った重心、上昇するボロリエの代わりに下向きに通りすぎるコユキ。

 真下の地面でダンっと踏み抜く音と共にコユキの蹴りが!しかも連続で!


 竜巻旋風脚?

 いや、ダブルサマーだ!

 ボロリエの頭と背中が蹴られる!

 二発!

 そのまま落下。

 判定を取るためだけの弱い蹴り。怪我はさせてない。

 相変わらず化け物だわ、コユキ。




「飯にしよう」

 師範(コユキ)が終わりを告げた。




 調理人、転がってんですけど。

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