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ラララ号は青

 ラーメン屋の試験営業は無事終わった。


 2日目の客の半分以上はエチゴヤの関係者。いつも会っている人達なので緊張することもなく終わった。

 抜き打ちで見に行くと言っていた女中頭は来なかった。というか、客は全て男だったわ。これは不公平かも。女性客が来にくいのを何とかするのは今後の課題である。

 一番いい方法は村ではなく町に女性優遇店を建てることだけれど、そうなると男性の店も建てろとめんどくさそうなことになる予感がする。元々は村をオーリンに依怙贔屓させるために始めたラーメン屋だ。ラーメンを普及させたかった訳ではない。

 そして、結構疲れたので毎日営業は無理だと村長に言われて、週2日営業が妥当じゃないかという方向で話し合っている。畑もせにゃならんし、鶏の世話もある。





 さて。


「おおおう、傷がない」

 ガガガの声。



 ピッカピカの青い()()のラララ号。(車種はジムニーのようなもの)

 嬉しい新車に笑顔のラララ。この笑顔だけでも新車を取り寄せた甲斐があるというものだ。ラララは他の車と殆んど同じで知ってる筈なのにあちこち全てのドアを開けて、全てのボックスを開ける。新車納車あるあるだ。知っていても全部見なければ気がすまない。



 傷がないと羨ましがったのはガガガである。

 ガガガ号は元々魔改造された中古車で、既にボッコボコ、荷室どころか助手席まで汚れた工具と道具だらけ。更にはバンパー上に電動ウインチが付けられ、後ろに大型ソリを着けて貨物やら野菜の運搬もしばしば。

 ガガガ号はユキオ号、コユキ号、ガガガ号の中で一番走行距離が少ないのに一番酷使されている。

 因みに全車オートマだ。

『MT以外は認めない!』というジムニーオーナーは異世界には存在しないのでこれでいいのだ。


 ラララに車を与えると言った時にコユキが、『私のを使っていいから』と言ったけれど、あえてラララ号を用意した。エチゴヤに行くときにいつまでも誰かに送ってもらうのでは自立が遠くなる。どっちかというと、コユキの子離れが遅くなる。まあ、少し心配だったからラララ号を導入したのを切っ掛けに全車トランシーバーを装備した。


「使っていいなら俺が使うぞ」

「やめて!傷だらけになる!」

 ガガガがコユキ号を使ってやるとコユキに言ったが、コユキはそれを全力で拒否した。

 コユキは剣を持たせれば魔神か破壊神かといった具合で『師範の通った後には草すら残らない』と言われる程なのに、車とバイクとラララは異常に可愛がる。洗車セットとワックス道具一式にすらピッカピカの専用ケースが与えられるほどだ。


 その割には剣は可愛がらずに次々と容赦なく使い潰すので、今何本目か判らないくらいだ。

 村の野菜切り包丁はコユキの駄目にした剣の使い回しだ。研ぎすぎで細くなった剣、折れた剣を加工して包丁やナイフにするのははガガガの役目。



「ラララ、試運転に行こう」

「あたしが!あたしが!」

「コユキは師範の日(バイト)だろ」


 ラララの教習係をやりたがったコユキを黙らせて、俺とラララで新車で出掛けた。

 勿論運転はラララ。

 いつもは見てるだけだった運転席に緊張して座ったラララだったが、暫くすると慣れてきた。操作もそれほど難しくはないし、コユキの横に座ってある程度覚えていたのだろう。

 覚えなくてはいけないのは、車の操作だけでなく、道を見極める術。

 日本と違って舗装道路なんてない。車が載っても大丈夫な地面かどうかを走りながら見定めて進まなければいけない。晴れた日はいいけれど、雨の日は表面の草と泥が滑るし、ぬかるみにタイヤが沈んだらか弱いラララでは引き上げられない。いずれは通り道の整備もしたいが、それは無理かもしれない。まあ、今日は土地も乾燥しているから割りと平気だ。




「ラララ、止まって」


 指示通りに車を止めるラララ。


「鬼が出た。かなり近いぞ」

「に、逃げましょう!」

「大丈夫。1、2、3、4、5。5体か」


 鬼の反応は右前方50メートル余。

 鬼の団体様だ。車からは未だ見えないが、5体が固まっている。ラララは狂暴な鬼を怖れて逃げようと言うが、俺なら大丈夫。強いし。


「ラララ、ここで待っていて。倒してくる」

「気を付けて下さいね」

「ああ」


 俺は車を降りて鬼の反応のするほうに向かう。

 林に入り、草をかき分け、どんどん進む。

 今日は新車の試運転にうってつけのいい天気。ぬかるみなんてなく、とても歩きやすい。


 いた。

 木々の間に鬼が5体。

 そして・・


「これはラララには見せられないな」



 4体の鬼が1体の鬼を暴行している。



 リンチではない。




 襲っている4体は♂の鬼で被害者の鬼は♀だ。しかも♂同士で獲物を争い殴り合いもたまに起きる。だからといって♀が助かる事はない。♀に味方は居ないのだ。♀は必死に抗ってはいるが、その必死なもがきは♂の順番を狂わす程度にしか効いていない。


 鬼は叫んだり喚いたりするが、何を言っているのか判らない。俺の能力ならどんな言葉も聞き理解出来るのだけれど、鬼の声は言葉ではない、ただの唸り。


 哀れだな。元は何処かの世界の人間だったのに、召喚失敗で言葉も理性も失って、鬼として野生本能のままに生きている。そして鬼は生殖でも増えると聞いたことがある。それはまずい。


「胸糞わるい。終わらせるか」



 俺は全てを終わらせるべく、左手からナタを引き出した。





 ーーーーーーーーー







 鬼退治を終わらせたので、車に向かって歩く。

 来た道を戻るとラララ以外の人の反応がする。俺から見てラララの遥か向こう側、車の助手席方向。それは少しずつラララに近付いている。

 心配症のコユキがつけてきた?


 暫く歩くと、ラララ号が見える。中には暇そうなラララ。車にラジオはついているがラジオ放送なんてない。車の中はつまらないに違いない。いっそ、芋でも掘っていたほうが暇潰しになる。


 もうひとりの人間はどこだ?

 ナビの反応の方を向くと男がいる。確かに居る。距離にして向こう側20メートル。

 そして、車に向かって歩いていた男が止まる。


 誰だ?

 見た目は若い。

 遠いが顔立ちはいいように見える。頭は緑色の髪。そんな不自然な色があるのか? 染めか? そして背中に重そうな両手剣。いや、両手剣なんてもんじゃない、ひとりで持てる大きさじゃない。彼はそれを何も背負ってないかののごとく悠々とと歩いていた。


 奴は人間か?





 まさか転生者?




 敵か味方か。



 大急ぎでラララ号に向かう!

 あれはヤバい!

 大急ぎでラララ号の横に立つ。あの男とラララ号の間に自分を入れる。


 尚も此方を見てくる男。

 男が右手を此方に向けて呟いた。




「鑑定」



 身体にざわりと嫌な感触が走る。

 鑑定?

 やはり異世界人!

 鑑定スキル?

 俺を調べている?

 俺には鑑定スキルは確か無いぞ、どうなる?俺とあいつはどちらが上なんだ?

 向こうが上だったら襲ってくる?


 じわりと嫌な汗が背中を流れる。異世界で初めて味わう危機感。今まで困難は何度か有ったが、それは作戦が成功するかどうかの危機で、俺の命の危機ではなかった。神様は大丈夫と言っていたが、本当だろうか?

 何より俺が死んだら後ろに居るラララがどうなる!ラララは美しく可愛い女だ。そしてラララは弱い。



 バクバクする心臓。

 それでも毅然と立ち男を睨む。弱気になってはいけない。睨むだけで去ってくれないかな・・・・


 男にはフレンドリーな表情は見えない。そして睨んでくる。





「ちっ」



 舌打ちして横向きになり、少しずつ歩いて遠ざかる男。

 俺に背を向けて歩くのは嫌らしい。俺の追撃を警戒したのだろう。そしてそれは攻撃されたらまずいと言っているようなものだ。



 つまりは、味方ではないいうことだ。



 そして数分後、姿が見えなくなり、更に数分後、ナビでも捉えられなくなるほど遠退いた。






「びびったああああ」


 へなへなと地面に座る。

 緊張した!

 そして、助手席の窓が下ろされラララが大声で叫ぶ!


「ユキオ様、早く帰りましょう!」


「あ、ああ」


 俺は地面に座ったときに付いたゴミを手で払い、助手席のドアを開けて座る。



「い、行きます!」


 車をUターンさせて帰路につくラララ。

「落ち着いて運転して」

「は、はい!」


 走り出すラララ号。

 少し速い。




 そして俺は何故か意識が途切れた。

遂に現れました

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