第43話 『結成』
基地と戦場とを隔てる門の近くにそびえ立つ文化会館の一室を、委員長が押さえて準備してくれた。建物の上の方に掲げられた文字盤をよく見れば、「夜勤会 文化会館」とある。全国各地にある夜勤会の集会施設なのだろう。立派なものだ。一琉たちの部屋は、薄暗く、鉄製のドアの小窓以外には窓のない、館の奥まったところにある集会室だった。長テーブルのある絨毯に、半分は障子で仕切られた畳敷き。そこは一琉たちのかけがえのないアジトとなる。
「よく集まってくれた」
一琉は周囲を見回した。加賀谷、有河、委員長。棟方を抜いて、いつもの一班メンバーたち。椅子もない長テーブルの周りに、薄い座布団を敷いてみんな並んでくれている。
「もっちろーん☆ あーりぃたち一班でまっひるんを救うんだもん! 秘密結社だね!」
有河が楽しそうに身を乗り出して無意味に挙手する。
「死者蘇生装置、派手にぶっ放そうぜ! ついでに、昼の悪事も暴いて晒し挙げ、な!」
加賀谷は両の手の指をL字型にしてつなげて、ばばばばばと口先で効果音を付けて銃撃の真似をしている。
「……先に話した通りだ。まひるは捕えられているし、のんびり構えている余裕はない。でも、本当に、いいんだな」
視線を交わして一琉は、皆が絶望的な顔で集まっているわけじゃないことに気が付いた。背水の陣――だけじゃない。できる。この、仲間なら。
「さて研究所の所在地だが……」
視線を上げ委員長に水を向けた。
「まかせて」
テーブルの端にいた委員長はそういうと立ち上がり、上座に座る一琉の元まで歩いてきた。場所を替われということだろう。一琉は素直にその場を明け渡した。そもそも、どうも自分がリーダー的な立ち位置にいるのは落ち着かない。
「研究所の所在地は、滝本くんの親戚の……佐伯さんの言った通り、社会環境研究所という名目で東京・九段下にたしかにあるわね。実際に現場も確認したわ。突入と逃走のためのルートは今準備中。後で話すわね」
「ああ」上出来だ。「委員長にはすでに話したが、決行は一週間後の今日」
今この瞬間、全員の視線が一琉に集中していた。
「正午きっかりに出撃だ。太陽の下では不利だが、死獣がいては戦況が読めなくなる」
頷く一同は、同時に思考を巡らせる。
「ん……と、思ったんだけど、夜中に侵入して、シェルターを壊して、死獣に襲わせるのはどうかしら。昼生まれに集まる死獣の性質を利用するの」
そうして出た委員長の提案に、一琉は首を横に振った。
「それは被害の規模が想像できないため却下だな。あくまで、狙いは研究施設に収容された少女たちの解放と、死者蘇生装置の破壊、それから、そう、昼生まれの悪行の晒し挙げ。奇襲をかけて、規模を最小限にとどめて、落とす」
委員長が納得したように何度か頷くのを見て、一琉は顔を上げて言った。
「他にも何か疑問や意見はないか」
「一週間後のこの日に決行する……理由は?」
加賀谷の質問に一琉は、
「なるべく早く行動したい。最低限の準備期間として、一週間。まひるが無事なうちにな。それに俺たちだってこのことが露見したら――いや疑惑をもたれるだけでも、何かにかこつけて、上から消される可能性がある。そうならないうちにすぐにやる」
当然の現実だ。でも何度覚悟をしても、その重さに、押しつぶされそうになる。
「それからその日は……」
そこで一琉は、ちょっと苦笑いして明かす。「日食が起きるんだ」
「日食?」
有河がきょとんとして聞き返す。
「ああ。正午からかなり長い時間、夜のように暗くなる。俺たち夜生まれへの日光の打撃も、少しは弱まるだろう。気休め程度ではあるが……」
「へええ……」
一琉の説明に、有河が感心したような呆けた声を上げた。
「まあ、願掛けのようなものだな」
そう付け足す一琉に、
「たとえ昼間でも、空にある月から月夜見様の大御稜威の輝きを少しでも受けられればいいと、私も思うのよ」
と、夜勤会の伝道師が添えた。「月夜見尊の遺し給ひし正道を踏み行はせ給へ。……きっと、研究所は正道を踏み外した。月夜見様は、それを戻そうとする私たちに味方してくれるはずよ」
有河は小首をかしげて言う。
「んー、なんか、ドラマチックかも」
「そうか」
「うん。私たちが昼に突撃して襲うのにぴったりの日だね」
一琉は軽く肩をすくめて頷いた。日を蝕むと書いて日食だ。
「さて。というわけでここからは当日の段取りから決めていく」
「了解!」
「わかったわ」
「おっけー☆」
加賀谷、委員長、有河は立ち上がってめいめいに声を上げる。




