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World of Utopia ―万種界―  作者: 鯱島
第1章 始まりの世界
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第9話 五人の初パーティー


 始まりの街の中央広場。


 多くのプレイヤーが行き交うその場所で、ナイトとサツキは一つの画面を眺めていた。


「えーっと……次に会うときは五人で冒険、だったよね」


「ああ。ガルドから連絡が来てる」


 ナイトがフレンドリストを開く。


 そこには、以前始まりの草原で出会った三人の名前が並んでいた。


 ガルド。ミリア。レン。


 そのうち、ガルドからメッセージが届いている。


《ガルド:今日、時間あるか? よかったら五人で一緒に冒険しようぜ!》


「ちょうどいいな。俺たちも今日は特に予定を決めてなかったし」


「じゃあ、行こうよ!」


 ナイトは返信を送る。


《ナイト:大丈夫だ。今から中央広場に向かう》


 すぐに返事が届いた。


《ガルド:了解! 俺たちも向かうぜ!》


「よし、決まりだな」


「五人で冒険かぁ。楽しみだね!」


 サツキは嬉しそうに笑った。


 これまで二人で冒険してきたナイトとサツキにとって、他のプレイヤーと本格的なパーティーを組むのは初めての経験だった。


 ガルドたちとは以前にも会話をしたことがある。互いのジョブや戦い方についても知っている。


 それでも、実際に一緒に戦うとなれば話は別だ。


 五人でどのように動くのか。誰が前に出て、誰が援護するのか。互いの動きを理解しなければ、うまく連携することはできない。


「今日はお互いの戦い方を確認する感じかな」


「そうだな。最初から難しい場所に行く必要はないだろうし」


「でも、せっかく五人なんだから、いつもより強い魔物にも挑戦してみたいな」


「その辺りはガルドたちと相談して決めよう」


 二人は広場の噴水近くへ移動した。


 しばらくすると、向こうから見覚えのある三人が歩いてくる。


「おーい! ナイト! サツキ!」


 大きな両手斧を背負ったガルドが、こちらに向かって手を振っていた。


「おはよう、二人とも!」


「こんにちは。待たせてしまいましたか?」


 ミリアが軽く頭を下げる。


 レンも隣で小さく手を上げた。


「いや、今来たところだよ」


「よし! じゃあ、早速冒険に行こうぜ!」


 ガルドは元気よく言った。


「その前に、今日はどこへ行くか決めようよ」


 サツキが提案する。


「そうだな。俺たちもまだ始まりの森を中心に活動してるんだ。少し奥まで進んでみるのはどうだ?」


 ガルドが腕を組んだ。


「始まりの森の奥か……」


「入口付近より強い魔物が出る可能性もありますね」


 ミリアが付け加える。


「昨日、森の奥へ続く道を見つけた。まだその先は調べてない」


 レンが短く説明した。


「そこに行ってみる?」


「いいんじゃねえか? 五人いるんだ。二人のときよりもできることは多いだろ!」


「ただ、無理はしないようにしましょう。初めての五人パーティーですから」


「分かってるって!」


 ガルドは笑った。


 ナイトも頷く。


「まずは一度、五人で戦ってみたい。お互いの動きが分からないまま奥へ進むのは危険だからな」


「それなら、最初は弱めの魔物を相手にしてみよう!」


 サツキの提案に、全員が賛成した。


 ◇


 五人はパーティーを組むため、メニューを開いた。


《パーティー》

・パーティー作成

・メンバー招待

・パーティー設定


 ナイトがパーティー作成を選択する。


《パーティーを作成しました》


 続いて、フレンドリストから四人を招待した。


《ガルドがパーティーに加入しました》

《ミリアがパーティーに加入しました》

《レンがパーティーに加入しました》

《サツキがパーティーに加入しました》


《パーティーメンバー》

・ナイト

・サツキ

・ガルド

・ミリア

・レン


「おお、これで正式にパーティーだな!」


 ガルドが自分のメニューを確認する。


「パーティーを組むと、メンバーの状態や位置が確認できるんだな」


「そうみたいだね」


 サツキも画面を眺めていた。


 パーティーを組んだことで、メンバーの名前やHP、MPなどが一覧で表示されるようになった。


 離れた場所にいるメンバーの位置も、一定範囲内であればマップ上に表示される。


「これなら仲間の状態も分かりやすいですね」


「HPが減ったらすぐに分かるのか。便利だな」


 ミリアとガルドも確認している。


「パーティーのリーダーはナイトでいいか?」


 ガルドが尋ねた。


「俺でいいのか?」


「最初にパーティーを作ったのはナイトだしな。それに、戦闘中の指示も出してくれそうだ」


「分かった。必要なときは声をかけるよ」


 ナイトはパーティーリーダーの設定を確認した。


 これで準備は整った。


「じゃあ、行こうぜ!」


 ガルドの声に合わせて、五人は街の北門へ向かった。


 ◇


 始まりの草原を抜け、始まりの森へ。


 森の入口に到着すると、五人は一度立ち止まった。


「さて、どう動くかだな」


 ナイトが言った。


「俺が前に出て敵を引きつける。レンも前衛だ。サツキは動きやすい位置から攻撃してくれ」


「了解!」


「俺はナイトと一緒に前に出ればいいか?」


 ガルドが尋ねる。


「ああ。ただ、俺が盾で攻撃を受け止めるから、ガルドはその隙に攻撃してくれると助かる」


「分かった! 任せろ!」


「私は後ろから魔法で援護しますね。敵が複数いる場合は、まとめて攻撃することもできます」


 ミリアが杖を持ち直す。


「レンは?」


 ナイトが尋ねると、レンは槍を軽く構えた。


「敵の隙を狙う。正面から突くより、横や後ろから攻撃する方が得意」


「分かった。じゃあ、俺が敵を引きつけて、ガルドが攻撃。サツキとレンは左右から隙を狙う。ミリアは後方から援護だ」


「おう!」


「分かったよ!」


「はい」


 五人はそれぞれの位置についた。


 ナイトが前衛の中央。ガルドはその隣。サツキとレンは少し後ろの左右に分かれ、ミリアはさらに後方へ下がる。


「よし、まずは魔物を探そう」


 森の中へ進んでいく。


 しばらく歩くと、木々の間から二体のフォレストウルフが姿を現した。


《フォレストウルフ》

・レベル:3

・種族:魔物


《フォレストウルフ》

・レベル:3

・種族:魔物


「ちょうどいい相手だな!」


 ガルドが斧を構える。


「待て。まずは俺が前に出る」


 ナイトが盾を構えた。


 フォレストウルフの一体がこちらに気づき、唸り声を上げる。


 次の瞬間、二体が同時に走り出した。


「来るぞ!」


 ナイトは盾を前に出す。


 一体目の牙が盾にぶつかった。


 ガンッ!


 衝撃が腕に伝わる。


 ナイトは踏ん張りながら、もう一体の動きにも注意を向けた。


「ガルド!」


「おう!」


 ガルドが斧を振り上げ、ナイトが受け止めている狼へ向かって踏み込む。


「でりゃあっ!」


 大きな斧が横薙ぎに振るわれた。


 フォレストウルフは攻撃を受け、地面を転がる。


「よし!」


 しかし、もう一体がナイトの横を抜けようとしていた。


「行かせない!」


 サツキが進路を塞ぐ。


 狼がサツキに向かって飛びかかる。


 サツキは横へ避け、剣を振るった。


「はあっ!」


 刃が狼の胴体に当たる。


 その隙に、レンが槍を突き出した。


「そこ」


 槍の穂先が狼の身体を捉える。


 フォレストウルフは体勢を崩し、その場に倒れ込んだ。


「いいぞ、レン!」


 ナイトが声をかける。


 レンは小さく頷いた。


 一方、ガルドが攻撃した狼は、まだ立ち上がろうとしていた。


「まだ動くか!」


「私が援護します!」


 ミリアが杖を掲げる。


「ファイアボール!」


 杖の先に赤い光が集まり、小さな火球が生み出される。


 火球は一直線に飛び、フォレストウルフの身体に命中した。


 ボンッ!


 小さな爆発とともに、狼の身体が光の粒子となって消えた。


《フォレストウルフを討伐しました》

《経験値を獲得しました》


「おお! 魔法ってすげえな!」


 ガルドが感心したように声を上げる。


「ありがとうございます。でも、まだ初級魔法ですから」


「いやいや、十分強いって!」


 残ったフォレストウルフも、ナイトとサツキ、レンの連携によって討伐された。


《フォレストウルフを討伐しました》

《経験値を獲得しました》

《フォレストウルフの魔石×2を入手しました》

《狼の毛皮×2を入手しました》


「よし、まずは二体討伐だな」


 ナイトが周囲を確認する。


「どうだった?」


 サツキが尋ねた。


「思ったよりうまくいったんじゃねえか?」


 ガルドは斧を肩に担いだ。


「ガルドの攻撃力はすごかったね!」


「だろ? 俺の自慢の斧だからな!」


「でも、少し前に出すぎていましたね」


 ミリアが苦笑する。


「そうか?」


「はい。ナイトさんが敵を引きつけていたのに、もう一体まで引きつけてしまいそうになっていました」


「うっ……。それは気をつける」


「私も、敵がサツキさんの方へ向かったとき、少し判断が遅れました」


 ミリアは自分の杖を見つめる。


「もっと早く援護できるようにしたいです」


「最初から完璧に動くのは難しいよ。今の戦いで分かったこともあるし、次に活かせばいいんじゃないかな」


 サツキが笑顔で言った。


「そうですね。ありがとうございます」


「よし! 次も行こうぜ!」


 ガルドの声に、五人は再び森の奥へ進んだ。


 ◇


 それから五人は、何度か魔物と戦った。


 フォレストウルフが一体だけのときは、ナイトが攻撃を引き受け、ガルドとサツキが攻撃する。


 複数の敵が現れたときは、レンが敵の側面へ回り込み、ミリアが魔法で援護した。


 戦闘を重ねるうちに、少しずつ互いの動きが分かってきた。


「ナイト、左!」


「分かった!」


 ナイトが盾を構え、フォレストウルフの攻撃を受け止める。


「今だ!」


 ガルドの斧が振り下ろされる。


「援護します!」


 ミリアのファイアボールが飛び、敵の動きを鈍らせる。


「はあっ!」


 サツキの剣が横から斬りつける。


 最後にレンの槍が鋭く突き出され、魔物を討伐した。


《フォレストウルフを討伐しました》


「いい連携だったな!」


 ガルドが笑う。


「うん! 五人だとできることが増えるね!」


「一人で戦うより、敵の動きを抑えやすいです」


 ミリアも嬉しそうに話した。


 ナイトは自分の盾を見下ろした。


 これまで二人で冒険していたときは、攻撃を防ぐことも、反撃することも、すべて自分たちで考えなければならなかった。


 しかし、今は違う。


 自分が敵を引きつければ、ガルドが強力な一撃を叩き込む。サツキとレンが敵の隙を狙い、ミリアが魔法で援護する。


 自分一人ではできないことが、仲間とならできる。


「……パーティーって、いいな」


 ナイトがぽつりと呟く。


「ん? 何か言ったか?」


「いや、何でもない」


 ナイトは小さく笑った。


 ◇


 森の中での探索を続けていた五人は、やがて少し開けた場所に出た。


 そこには、大きな岩がいくつも転がっている。


「ここ、前に来たことある?」


 サツキが尋ねる。


「いや。俺たちも初めてだ」


 ガルドが答える。


「少し先に、洞窟のような場所がありますね」


 ミリアが指差した。


 岩場の奥には、木々に囲まれた小さな洞窟が口を開けていた。


「何かいるかもしれない」


 レンが槍を構える。


 そのときだった。


 洞窟の奥から、低い唸り声が聞こえてきた。


 グルルル……。


「おいおい、何だ?」


 ガルドが斧を構える。


 暗闇の中から、二つの目が光った。


 そして、ゆっくりと姿を現したのは、これまで戦ったフォレストウルフよりも一回り大きな狼だった。


 灰色の毛並み。鋭い牙。そして、額には小さな角のような突起がある。


《グレイファング》

・レベル:5

・種族:魔物

・状態:警戒


「レベル五……!」


 ナイトは思わず声を上げた。


「今までの魔物より強そうだな」


 ガルドが斧を握り直す。


「どうする?」


 サツキが尋ねる。


 ナイトは魔物の動きを観察した。


 グレイファングはすぐに飛びかかってくる様子はない。しかし、こちらの動きをじっと見つめている。


「……今は戦わない」


「えっ?」


「俺たちは初めて五人で組んだばかりだ。まだ連携を確認している途中だし、相手はレベル五。無理をする必要はない」


 ナイトの言葉に、ガルドは少し残念そうな顔をした。


「まあ、そうだな。確かに初日から無茶する必要はないか」


「今回は場所と魔物を確認できただけでも十分だと思います」


 ミリアも賛成した。


 レンはグレイファングから視線を外さず、ゆっくりと後退する。


「戻ろう」


 ナイトが声をかける。


 五人は互いに距離を保ちながら、来た道を戻り始めた。


 グレイファングは追いかけてこなかった。


 洞窟の入口で立ち止まり、五人が遠ざかるのを見送っていた。


 ◇


 始まりの街へ戻った五人は、冒険者ギルドの近くで一度集まった。


「今日はなかなか楽しかったな!」


 ガルドが満足そうに言った。


「うん! 五人で戦うのって、二人のときとは全然違うね!」


「私も勉強になりました。魔法を使うタイミングや位置取りについて、もっと考えないといけませんね」


 ミリアが杖を持ち直す。


「俺も、もう少し前衛の動きを見ておく」


 レンが短く言った。


「俺も盾の使い方をもっと練習しないとな」


 ナイトは自分の盾を見た。


 五人で戦ったことで、自分の役割がより明確になった。


 仲間の攻撃を活かすために敵の動きを止めること。


 仲間が危険なときには、すぐに助けに入ること。


 騎士としてできることは、まだまだあるはずだ。


「また一緒に冒険しようぜ!」


 ガルドが手を差し出した。


「ああ。ぜひ」


 ナイトはその手を握る。


「私も!」


 サツキも手を重ねる。


 ミリアとレンも続いた。


「次はもっと奥まで行きましょう」


「うん」


 五人は笑い合った。


 こうして、ナイトたちの初めての五人パーティーによる冒険は終わった。


 まだ互いの動きを完全に理解できたわけではない。


 それでも、今日の冒険で確かな手応えを感じていた。


 そして、森の奥にいたグレイファング。


 あの魔物と戦う日も、そう遠くはないかもしれない。


 ナイトは森の方角を振り返った。


 まだ知らない魔物がいる。


 まだ見たことのない場所がある。


 そして、一緒に冒険する仲間も増えた。


 この世界は、思っていた以上に広い。


 ナイトはそのことを、改めて実感していた。

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