第10話 初めての連携、初めての強敵
翌日。
ナイトがログインすると、そこはいつもの白い空間ではなく、始まりの街の宿屋だった。
ゲームの中で最後にログアウトした場所から再開する仕組みになっている。
窓の外からは、街の賑やかな音が聞こえてきた。
「さて……」
ナイトはメニューを開き、ステータスを確認した。
《ステータス》
名前:ナイト
種族:人間族
レベル:4
ジョブ:騎士
《スキル》
・剣術Lv1
・盾術Lv1
・身体強化Lv1
前回の冒険でレベルは四になり、剣術の熟練度も少し上昇している。
ステータスに大きな変化はないが、戦闘を重ねたことで動きには少しずつ慣れてきた。
「今日はどこまで行けるかな」
ナイトは装備を確認する。
初心者用の片手剣と小型盾。軽装備。
特別な装備ではないが、今の自分にとっては十分なものだ。
アイテム欄には初心者用ポーションと毒消し薬も入っている。
「よし、準備は大丈夫だな」
ナイトは宿屋を出た。
◇
中央広場へ向かうと、噴水の近くにサツキが立っていた。
「ナイト!」
「おはよう」
「おはよう! 今日はみんなと冒険だよね!」
「ああ。ガルドから連絡が来てる」
ナイトはメッセージを開いた。
《ガルド:昨日話してた冒険、今日やらないか? 俺たちはもう街にいるぜ!》
《ナイト:分かった。今から中央広場に向かう》
ナイトが返信すると、すぐに返事が届いた。
《ガルド:おう! 待ってるぜ!》
「今日は何をするのかな?」
「昨日見つけたグレイファングのこともあるし、まずはガルドたちと相談だな」
「強い魔物だったよね。レベル五だし」
「ああ。五人で戦うなら挑戦できる可能性はあるけど、焦る必要はない」
「そうだね。まずはみんなで相談!」
二人は噴水の前で待つことにした。
やがて、ガルドたち三人が姿を現す。
「おーい!」
「こんにちは!」
「おはようございます」
ガルド、ミリア、レン。
三人は昨日と同じ装備を身につけていた。
「今日はよろしくな!」
「こちらこそ」
「それで、今日はどうする?」
サツキが尋ねる。
「昨日の続きで、森の奥を探索しようと思ってるんだ」
ガルドが答えた。
「昨日のグレイファングですか?」
「いや、まずはその手前までだ。森の奥に何があるのか、もう少し調べてみたい」
「賛成です。まだ行ったことのない場所もありますし」
ミリアが頷く。
「ただ、昨日のグレイファングがいる場所には近づきすぎないようにしよう」
ナイトが言った。
「分かってるって。今日は無理をしない!」
ガルドは胸を張った。
「本当に大丈夫かな……」
サツキが小さく呟く。
「おい、聞こえてるぞ!」
ガルドが抗議する。
その様子を見て、全員が笑った。
◇
五人はパーティーを組み、始まりの森へ向かった。
昨日と同じように、ナイトがパーティーリーダーを務める。
森の入口に到着すると、ナイトは一度全員を集めた。
「昨日の戦いを踏まえて、少し役割を確認しておこう」
「おう!」
「俺は前衛で敵を引きつける。ガルドは攻撃に集中してくれ。ただ、敵の攻撃を受ける必要があるときは無理をしないでほしい」
「分かった」
「サツキとレンは左右から攻撃。敵が俺やガルドを通り抜けようとしたら、そちらの対応も頼む」
「了解!」
「分かった」
「ミリアは後方から援護。魔法を使うときは、できるだけ俺たちの位置を確認してから撃ってくれ」
「はい。味方に当たらないように気をつけます」
「それと、危険だと思ったらすぐに声をかけてくれ。無理に戦い続ける必要はない」
ナイトの言葉に、全員が頷いた。
「よし、行こう!」
ガルドの声とともに、五人は森へ入っていった。
◇
森の中は、昨日と同じように木々が生い茂っていた。
しかし、五人で歩いていると、二人のときよりも心強く感じられる。
前衛と後衛がいることで、周囲を警戒する余裕も生まれていた。
「そういえば、みんなはこのゲームを始めてどれくらいなんだ?」
ナイトが尋ねる。
「俺は三日前だな!」
ガルドが答えた。
「私も同じくらいです」
「俺も」
レンも頷く。
「私たちとあまり変わらないね」
サツキが言った。
「そうだな。みんな始めたばかりなんだ」
「それなのに、もう森の奥まで来てるんだからな!」
ガルドが笑う。
「ガルドさんは、戦士というジョブが合っているんですね」
ミリアが言った。
「まあな! 大きな武器を振り回すのが好きなんだよ!」
「私も剣士は合ってると思う。現実でも剣道をやってるから、剣を使うのは楽しいよ」
「なるほど。だからサツキさんは剣の扱いに慣れているんですね」
「でも、ゲームの剣は剣道とは違うところもあるから、まだまだ練習中だよ」
「そういうものなんですね」
ミリアが感心したように頷いた。
ナイトはその会話を聞きながら、周囲を見回していた。
陸上をやっていた頃の経験が、ゲームの中で役立つこともあるのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、前方の茂みが揺れた。
「止まって」
ナイトが小さく声をかける。
全員が足を止めた。
茂みの中から現れたのは、二体のフォレストウルフだった。
「また狼か」
ガルドが斧を構える。
「今回は二体ですね」
「よし、昨日と同じようにやろう」
ナイトが盾を構える。
フォレストウルフが地面を蹴った。
「来るぞ!」
一体がナイトへ、もう一体がガルドへ向かってくる。
ナイトは盾で攻撃を受け止めた。
ガルドも斧を構え、狼の突進を横へ避ける。
「よし、こっちだ!」
ガルドが大きく斧を振るう。
狼は攻撃を受け、後方へ吹き飛んだ。
「サツキ、右の狼を!」
「分かった!」
サツキが一体の狼へ向かう。
その横からレンが槍を突き出した。
狼は身体をひねって避けるが、サツキがその動きを追い、剣を振るう。
「はあっ!」
刃が命中する。
「ファイアボール!」
ミリアの魔法が飛び、狼の身体に直撃した。
狼は光の粒子となって消えた。
「よし、こっちも!」
ナイトが盾で狼を押し返す。
その隙にガルドが斧を振り下ろした。
大きな衝撃音とともに、狼が地面に倒れる。
《フォレストウルフを討伐しました》
《経験値を獲得しました》
《フォレストウルフを討伐しました》
《経験値を獲得しました》
「いい感じだな!」
「昨日よりも動きが合ってきた気がするね!」
「そうですね。誰がどの敵を相手にするのか、少しずつ分かってきました」
ミリアも笑顔を見せた。
「でも、まだ改善できるところはある」
レンが静かに言う。
「例えば?」
ナイトが尋ねた。
「ガルドが攻撃するとき、敵の動きが大きく変わる。俺はその後に動きたい」
「なるほど。俺の攻撃で敵が吹き飛ぶこともあるからな」
「そう。攻撃するタイミングを合わせれば、もっと戦いやすくなる」
「分かった。次から意識してみるぜ」
五人はそれぞれの戦い方を確認しながら、森の奥へ進んだ。
◇
さらに奥へ進むと、木々の間隔が少し広くなり、地面には大きな岩が目立つようになった。
「昨日の場所に近づいてきたな」
ナイトが言う。
「グレイファングがいた洞窟も、この先だったよね」
サツキが確認する。
「ああ。だが、今日はその周辺を調べるだけにしておこう」
「了解!」
そのとき、レンが足を止めた。
「待って」
全員が立ち止まる。
「何かいる」
レンが槍の穂先を向けた先には、大きな岩があった。
岩の陰から、ゆっくりと何かが動いている。
現れたのは、四本足で歩く大きな魔物だった。
身体は茶色い毛に覆われ、背中には木の枝や葉が絡みついている。頭部には短い角が二本生えていた。
《フォレストボア》
・レベル:4
・種族:魔物
・特徴:突進攻撃を得意とする
「イノシシみたいな魔物だな」
「レベル四か。ちょうどいい相手じゃねえか!」
ガルドが斧を構える。
「油断しないで。突進攻撃が得意みたいだ」
ナイトは盾を構えた。
フォレストボアは五人を見つけると、地面を前脚で掻いた。
次の瞬間、身体を低くして突進してくる。
「来るぞ!」
ナイトは盾を前に出した。
ドンッ!
強い衝撃が盾に伝わる。
「ぐっ……!」
ナイトの身体が少し後ろへ押し戻された。
「ナイト!」
「大丈夫だ!」
フォレストボアは一度距離を取り、再び突進の構えを取った。
「何度も突っ込んでくるみたいだな」
「なら、横から攻撃しよう!」
サツキが剣を構える。
「俺も横に回る」
レンも槍を構え直した。
「ガルド、今は無理に攻撃しなくていい。まずは動きを見よう」
「分かった!」
二度目の突進。
ナイトは盾を斜めに構え、真正面から受け止めるのではなく、身体を少し横へずらした。
フォレストボアの突進が盾に当たり、進行方向がわずかに逸れる。
その瞬間、サツキとレンが左右から攻撃した。
「はあっ!」
「そこ!」
二人の攻撃が命中する。
「今だ!」
ガルドが斧を振り下ろした。
大きな斧がフォレストボアの背中に当たり、魔物が大きくよろめく。
「いいぞ!」
ナイトは盾を構え直した。
しかし、フォレストボアはまだ倒れない。
怒ったように鼻を鳴らし、再び突進の姿勢を取った。
「また来る!」
今度はナイトではなく、ガルドへ向かって走り出す。
「おっと!」
ガルドは斧を構えたまま、横へ飛び退いた。
フォレストボアは勢い余って岩にぶつかる。
ドゴンッ!
大きな音が響いた。
「今だ、全員!」
ナイトが声を上げる。
サツキとレンが左右から攻撃し、ガルドが正面から斧を振るう。
さらにミリアが杖を掲げた。
「ファイアボール!」
火球が飛び、フォレストボアの身体に命中する。
魔物の身体が大きく揺れた。
「これで終わりだ!」
ガルドの斧が最後の一撃を与える。
フォレストボアは光の粒子となって消えた。
《フォレストボアを討伐しました》
《経験値を獲得しました》
《フォレストボアの魔石×1を入手しました》
《硬い毛皮×1を入手しました》
《鋭い牙×1を入手しました》
「よし! 討伐成功!」
ガルドが斧を掲げた。
「思ったより硬かったね」
サツキが剣を確認する。
「突進を正面から受け止めるのは危険ですね。ナイトさん、盾は大丈夫ですか?」
ミリアが心配そうに尋ねた。
「ああ。少し衝撃はあったけど、問題ない」
「よかったです」
「でも、さっきの動きはよかったな。突進を真正面から止めるんじゃなくて、少しだけ方向を変えるんだ」
ガルドが感心したように言う。
「盾で受け止めるだけじゃなく、相手の力を利用できないか考えてみたんだ」
「なるほどな! 俺も次はもっと攻撃しやすい位置を狙ってみるぜ!」
ナイトは頷いた。
五人での戦闘にも、少しずつ慣れてきている。
◇
その後も五人は森の探索を続けた。
フォレストボアを倒した場所から少し離れたところで、薬草や木の実を見つける。
ミリアは採集した素材を確認し、錬金術の材料になりそうなものをアイテム欄にしまっていた。
「こういう素材も集めておくと便利なんですよ」
「ミリアは調合とかにも興味があるのか?」
ナイトが尋ねる。
「はい。魔術師なので、魔法に関係するアイテムも作れるようになりたいと思っています。まだ何もできませんけど」
「そういうのも面白そうだね!」
サツキが言った。
「私もいつか自分で薬を作ってみたいな」
「いいですね。採集した素材は、後で道具屋や工房に持っていけば使い道を教えてもらえると思います」
「今度行ってみようよ!」
サツキの提案に、ナイトも頷いた。
「そうだな。素材の使い道を知っておけば、探索の楽しみも増えそうだ」
五人は採集を続けながら、さらに奥へ進んだ。
やがて、昨日グレイファングを見かけた洞窟の近くまでたどり着いた。
「ここだな」
ナイトが周囲を確認する。
洞窟の入口は静かだった。
昨日と同じように、暗闇が奥へと続いている。
「今日はグレイファングはいないのかな?」
サツキが覗き込む。
「いや、いるかもしれない。あまり近づかない方がいい」
ナイトが注意を促した。
そのとき、洞窟の奥から低い唸り声が響いた。
グルルル……。
「いたな」
ガルドが斧を構える。
暗闇の中から、灰色の大きな狼が姿を現した。
《グレイファング》
・レベル:5
・種族:魔物
・状態:警戒
「やっぱりレベル五か」
「昨日と同じだね」
サツキが剣を構える。
グレイファングは五人を見つめ、ゆっくりと洞窟の外へ出てきた。
その身体は、普通のフォレストウルフよりも大きい。
鋭い牙と爪。しなやかな身体。周囲を警戒するような目つき。
ただの狼とは違う威圧感があった。
「どうする、ナイト?」
ガルドが尋ねる。
ナイトはパーティーメンバーの様子を確認した。
全員のHPは十分に残っている。MPも問題ない。
ただし、グレイファングの強さは未知数だ。
「……戦ってみよう」
「おっ!」
「ただし、危険だと思ったらすぐに撤退する。いいな?」
「もちろん!」
サツキが頷く。
「私も準備できています」
ミリアが杖を構える。
レンも槍を握り直した。
「よし。俺が前に出て攻撃を引きつける。ガルドは隙を狙って攻撃。サツキとレンは左右から。ミリアは後方から援護を頼む」
「了解!」
五人はそれぞれの位置についた。
ナイトが盾を構え、ゆっくりと前へ出る。
グレイファングが低く唸った。
次の瞬間。
その姿が視界から消えた。
「速っ!」
ナイトが反応するより早く、グレイファングが目の前に迫る。
ガキンッ!
鋭い爪が盾にぶつかった。
「くっ!」
ナイトの身体が大きく押し戻される。
「ナイト!」
サツキが駆け寄ろうとする。
「大丈夫だ! 自分の相手を見てくれ!」
グレイファングはすぐに距離を取り、次の攻撃に備えている。
「速すぎる……!」
ナイトは盾を構え直した。
フォレストウルフとは明らかに動きが違う。
攻撃の速さも、力も、一段上だった。
「ガルド、右から!」
「分かった!」
ガルドが斧を構えて踏み込む。
しかし、グレイファングは素早く身体をひねり、攻撃を避けた。
「何っ!?」
そのままガルドの横をすり抜け、ミリアへ向かう。
「えっ!」
「ミリア!」
ナイトが声を上げる。
ミリアは咄嗟に杖を構えたが、魔法を放つには間に合わない。
その前にレンが飛び込んだ。
「させない」
槍を横に構え、グレイファングの進路を塞ぐ。
しかし、狼は地面を蹴り、槍を避けて飛び越えた。
「くっ!」
レンが振り返る。
その瞬間、サツキが横から剣を振るった。
「こっちだよ!」
剣がグレイファングの身体に当たる。
わずかに体勢を崩した狼は、地面に着地して距離を取った。
「ありがとう、サツキ!」
「うん!」
ナイトはグレイファングの動きを見つめた。
どうやら、この魔物は一人の相手だけを狙うのではなく、隙のある相手へ素早く攻撃を仕掛けるようだ。
前衛を無視して後衛を狙う。
そのため、ナイトが攻撃を引きつけるだけでは不十分だった。
「全員、距離を詰めすぎないでくれ! ミリアの周囲にも気を配る!」
「分かった!」
グレイファングが再び動いた。
今度はナイトへ向かってくる。
ナイトは盾を構えた。
爪が盾に当たる。
しかし、グレイファングはすぐに後退し、今度は反対側へ回り込もうとした。
「逃がさない!」
ガルドが斧を振るう。
狼は攻撃を避けるが、その動きに合わせてレンが槍を突き出した。
「そこ」
槍の穂先が狼の後ろ脚をかすめる。
グレイファングが短く唸った。
「当たった!」
「いいぞ、レン!」
サツキも攻撃に加わる。
しかし、グレイファングは素早く後ろへ飛び退いた。
ミリアが杖を掲げる。
「ファイアボール!」
火球が飛ぶ。
グレイファングは身体をひねって避けようとしたが、火球の端が毛並みに触れた。
小さな爆発が起きる。
魔物の身体が揺れた。
「効いてる!」
サツキが声を上げる。
「今だ!」
ナイトが前へ出た。
盾を構え、グレイファングの進路を塞ぐ。
その隙にガルドが斧を振り下ろした。
ドンッ!
大きな衝撃が響く。
グレイファングの身体が地面に転がった。
「やったか!?」
ガルドが声を上げる。
しかし、魔物はすぐに立ち上がった。
そして、これまで以上に低い唸り声を上げた。
「まだだ!」
ナイトは盾を構え直す。
グレイファングは全身に力を込め、こちらを睨みつけた。
その身体が、再び動き出す。
今度の狙いは――。
「ミリア!」
ナイトが叫ぶ。
グレイファングは一気に後方へ飛び込んだ。
ミリアが杖を構える。
だが、狼の動きは速い。
ナイトが助けに入ろうとするが、距離がある。
そのとき、ガルドが斧を地面に叩きつけた。
「こっちを見ろ!」
大きな音が響く。
グレイファングの動きが一瞬だけ止まった。
その隙にレンが槍を突き出す。
「そこ!」
槍が狼の身体を捉えた。
サツキも駆け寄り、剣で攻撃する。
「はあっ!」
グレイファングは大きく後退した。
「ミリア、今だ!」
「はい!」
杖の先に火球が生まれる。
「ファイアボール!」
火球が一直線に飛び、グレイファングに直撃した。
爆発の光が森を照らす。
狼はよろめきながらも、まだ立っていた。
「硬いな……!」
ガルドが息を吐く。
「みんな、HPを確認してくれ!」
ナイトが声をかける。
パーティーの状態を確認すると、ナイトのHPは大きく減っていた。ガルドも少しダメージを受けている。
サツキとレンは軽いダメージ。ミリアはほぼ無傷だった。
「ナイトさん、HPが減っています!」
「まだ大丈夫だ。必要ならポーションを使う」
「でも、無理はしないでくださいね」
「ああ」
グレイファングは少し離れた場所で、再び身を低くしていた。
ナイトは盾を握る手に力を込める。
このまま戦い続ければ、勝てるかもしれない。
しかし、相手の動きは速く、攻撃力も高い。
誰かが大きなダメージを受ければ、一気に崩れる可能性がある。
「……一度、引こう」
ナイトは決断した。
「えっ、撤退か?」
「ああ。今のままでは危険だ。今日は相手の動きも分かった。無理に倒す必要はない」
ガルドは悔しそうにグレイファングを見た。
しかし、すぐに頷いた。
「分かった。ここは引こうぜ」
「私も賛成です」
「了解」
レンも後退する。
「ナイト、先に行って!」
サツキが声をかける。
「いや、俺が最後尾につく。ガルド、サツキとレンを先に行かせてくれ。ミリアはその後ろだ」
「分かった!」
五人は互いに声をかけながら、少しずつ距離を取った。
グレイファングは追いかけてくる様子を見せたが、洞窟の前から離れようとはしなかった。
やがて十分な距離を取ることができ、五人は森の入口へ向かって歩き始めた。
◇
森を抜けた五人は、始まりの草原で休憩することにした。
「はぁ……。なかなか強かったな」
ガルドが地面に腰を下ろす。
「レベル五でも、あんなに違うんですね」
ミリアが杖をしまった。
「フォレストウルフとは速さが全然違った」
サツキも剣を鞘に戻す。
「攻撃の威力も高い」
レンが短く言った。
ナイトは自分のステータスを確認した。
HPは半分近くまで減っている。ポーションを使えば回復できるが、今回はまだ必要なかった。
「俺の盾でも、正面から受け止めるのは難しかった」
「でも、ナイトが前に立ってくれたから、俺たちは攻撃できたんだぜ」
ガルドが言った。
「それに、最後の判断もよかったと思います」
ミリアも続ける。
「危険だと判断したら撤退する。それも大切なことですから」
「そうだね。無理して全滅しちゃったら意味ないもん」
サツキが頷いた。
「ただ、悔しいな!」
ガルドは空を見上げた。
「あと少しで倒せそうだったのによ」
「本当にそう思うか?」
ナイトが尋ねる。
「どういう意味だ?」
「最後の攻撃を見ただろ。あの魔物はまだ余裕があったかもしれない。俺たちは全員で攻撃して、ようやく少しずつダメージを与えられた程度だ」
「……まあ、そうだな」
「今の俺たちでは、まだ実力が足りないんだと思う」
ナイトはグレイファングと戦ったときのことを思い出していた。
自分が盾で攻撃を受け止めても、相手の動きは止められなかった。
ガルドの斧も、サツキとレンの攻撃も、決定打にはならなかった。
ミリアの魔法は有効だったが、それだけで倒せるほどではない。
「もっと強くならないとな」
ナイトの言葉に、ガルドは笑った。
「そうだな! 次は絶対に倒してやる!」
「うん。私ももっと剣の腕を上げたい!」
「私も魔法の練習をします。もっと強力な魔法が使えるようになれば、戦いやすくなるはずです」
「俺も槍の扱いを練習する」
レンも頷いた。
それぞれが次の目標を見つけていた。
◇
その後、五人は始まりの街へ戻った。
冒険者ギルドで依頼の達成を報告し、それぞれ報酬を受け取る。
その後、街の広場で再び集まった。
「今日はこれで解散にするか!」
ガルドが言った。
「そうですね。少し休んでから、また冒険したいです」
ミリアも頷く。
「次はグレイファングを倒すために、準備しておかないとな」
ナイトが言った。
「まずはレベルを上げることかな?」
サツキが尋ねる。
「それもあるけど、戦い方も考えないといけない。レベルだけ上げても、あの速さに対応できなかったら同じだ」
「確かに。俺も攻撃を当てる方法を考えておくぜ!」
「私も魔法の使い方を練習しておきます」
「俺も」
レンが短く答えた。
五人は次に会う約束をして、それぞれの予定に戻ることにした。
「じゃあ、またな!」
「またね!」
「お疲れさまでした」
ガルドたち三人が歩き出す。
ナイトとサツキもその場を離れた。
◇
街の通りを歩きながら、サツキがナイトに話しかけた。
「今日の冒険、どうだった?」
「楽しかったよ。五人での戦い方も少し分かってきたし」
「グレイファングは強かったね」
「ああ。正直、あそこまで強いとは思わなかった」
「でも、次は勝ちたいね!」
「そうだな」
ナイトは空を見上げた。
このゲームには、まだ自分たちよりも強い魔物がたくさんいる。
そして、それらを倒すためには、もっと強くならなければならない。
レベルを上げるだけではない。
武器の扱いを磨き、スキルを成長させ、仲間と連携する。
一つ一つ積み重ねていくことが必要なのだ。
「ねえ、ナイト」
「ん?」
「私たちのギルドを作ったら、今日みたいにみんなで強敵に挑戦するんだよね」
「ああ」
「きっと楽しいだろうな」
サツキは笑顔で空を見上げた。
「ガルドもミリアもレンも、いい仲間になってくれそうだし」
「そうだな。いつか、もっと仲間が増えるかもしれない」
「うん! いろんなジョブの人が集まって、みんなで冒険するんだよ!」
「そのためにも、まずは俺たちが強くならないとな」
「そうだね!」
二人は広場の噴水の前で立ち止まった。
ゲームを始めたばかりの頃、夜はただ何となくこの世界を歩いていた。
しかし、今は違う。
次に何をしたいのか、どこへ行きたいのか、少しずつ自分の中に目標が生まれている。
強くなりたい。
もっと遠くへ行きたい。
仲間と一緒に、まだ見たことのない景色を見てみたい。
そんな気持ちが、確かに芽生え始めていた。
「明日も冒険しようね!」
「ああ。明日もな」
二人は笑い合った。
その日の冒険は終わった。
けれど、五人での挑戦は始まったばかりだ。
いつか、あのグレイファングを倒す日が来るだろう。
そして、その先にはさらに強い魔物や、広大な世界が待っている。
ナイトとサツキは、まだ知らない。
この小さな出会いが、やがて大きな仲間の輪へとつながっていくことを。
彼らの冒険は、少しずつ次の段階へと進み始めていた。




