第6話 新たな出会い
始まりの街の北門を抜けると、目の前には見慣れた草原が広がっていた。
青い空の下、風に揺れる緑の草。
遠くには小さな丘があり、その向こうには森が見える。
昨日初めて訪れたときには、何もかもが新鮮だった景色も、今日で二度目となると少しだけ見慣れてきた気がする。
「さて、もう一度草原でレベル上げだな」
ナイトは腰に下げた片手剣を確認しながら言った。
「うん! 今日はレベル3を目指そう!」
隣を歩くサツキは、いつも通り元気いっぱいだ。
「レベル3か。どれくらい経験値が必要なんだろうな」
「たくさん魔物を倒せば、そのうち上がるよ!」
「まあ、そうなんだけどな」
ナイトは苦笑する。
二人は昨日、ゴブリンの討伐依頼を達成し、今日はスライムとホーンラビットを倒してレベル2になった。
まだまだ初心者ではあるものの、少しずつ戦闘にも慣れてきている。
「そういえば、今日はどんな魔物を狙う?」
サツキが尋ねた。
「昨日戦ったゴブリンとホーンラビットがいいんじゃないか? 今の俺たちでも無理なく戦える相手だし」
「うーん……」
サツキは少し考えるように首を傾げた。
「せっかくだから、まだ戦ったことのない魔物も探してみたいな」
「新しい魔物か」
「うん! この草原にはスライムとホーンラビットとゴブリン以外にも魔物がいるんでしょ?」
「そうだな。フィールド情報にも『その他』って書いてあったし」
「だったら、探索してみようよ!」
「分かった。ただし、強そうな魔物を見つけたら無理せず引き返すぞ」
「はーい!」
二人は草原の中を歩き始めた。
⸻
しばらく進むと、遠くに何人かのプレイヤーの姿が見えた。
そのうちの三人は、魔物と戦っているようだった。
「おっ、あそこも戦闘してるみたいだな」
ナイトが指差す。
「本当だ。パーティーかな?」
三人のプレイヤーは、それぞれ異なる武器を持っていた。
一人は大きな両手斧を持った男性。
もう一人は杖を持った女性。
そして、最後の一人は短い槍を持った小柄なプレイヤーだった。
彼らの前には、二匹のゴブリンがいる。
「魔法使いもいるね!」
サツキが興味深そうに言った。
「杖を持ってるし、魔法系のジョブなのかもしれないな」
「私たちも、いつか魔法を使えるようになるのかな?」
「ジョブ次第じゃないか? 騎士や剣士でも、何かしらの魔法スキルを覚えられる可能性はあるかもしれないけど」
「そっか。どんなスキルがあるのかも気になるね」
二人がそんな話をしていると、戦闘を終えた三人がこちらに気づいた。
「あれ? そこの二人!」
両手斧を持った男性が声をかけてくる。
「こんにちは!」
サツキが元気よく返事をした。
「お前たち、プレイヤーか?」
「はい。まだ始めたばかりです」
ナイトが答える。
「やっぱりそうか! 俺たちも昨日始めたばかりなんだ」
男性は豪快に笑った。
「俺はガルド。よろしくな!」
「私はミリアです。よろしくお願いします」
杖を持った女性が、柔らかい笑顔で頭を下げる。
「……レン」
槍を持った小柄なプレイヤーも、短く名乗った。
「俺はナイトです。こっちはサツキ」
「よろしく!」
サツキも笑顔で挨拶する。
「へえ、二人組か。パーティーを組んでるのか?」
「はい。二人で冒険しています」
「そうか! 俺たちも三人でパーティーを組んでるんだ」
ガルドは斧を肩に担いだ。
「せっかくだし、少し話さないか? 同じ初心者同士、情報交換でもしようぜ」
「いいですね!」
サツキはすぐに頷いた。
ナイトも特に断る理由はなかった。
「そうですね。俺たちもまだ知らないことが多いので、ぜひ」
「よし、決まりだ!」
ガルドは満足そうに笑った。
⸻
四人は近くの大きな岩に腰を下ろし、少し離れた場所に立っていたレンも会話に加わった。
「それで、二人はどのくらい進んだんだ?」
ガルドが尋ねる。
「昨日、冒険者登録をして、ゴブリン討伐の依頼を達成しました。今日は草原で魔物を倒して、レベル2になったところです」
ナイトが答える。
「おお、もうゴブリンを倒したのか!」
「はい。五匹だけですけど」
「十分すごいと思うぞ。俺たちも最初はスライムから始めたからな」
ガルドは豪快に笑う。
「俺は戦士っていうジョブなんだ。斧を使って前で戦うタイプだな」
「私は魔術師です。火や水などの属性魔法を使えます」
ミリアが杖を軽く持ち上げた。
「レンは?」
サツキが尋ねる。
「槍使い」
レンは短く答えた。
「へえ、槍使いなんだ!」
「うん。槍を使うのが好きだから」
「現実でも槍を使ったことがあるんですか?」
ナイトが尋ねると、レンは少し考えてから答えた。
「ない。でも、槍を使うゲームは好き」
「なるほど」
それぞれが自分の好きな武器やジョブを選んでいるようだった。
「二人はどうなんだ?」
ガルドが尋ねる。
「俺は騎士です。剣と盾を使います」
「私は剣士! 剣で戦うよ!」
「騎士と剣士か。いい組み合わせだな」
「そうなんですか?」
「騎士が前で敵の攻撃を受け止めて、剣士が攻撃する。役割が分かりやすいからな」
「俺たちも、そんな感じで戦ってます」
ナイトが頷く。
「いいじゃないか。俺たちも前衛二人に後衛一人って構成だ。ミリアが魔法で援護して、俺とレンが前に出る」
「魔法って、どんな感じなんですか?」
サツキが身を乗り出す。
「見てみるか?」
ミリアは杖を持ち直した。
「小さな魔法なら、ここでも使えますよ」
彼女は少し離れた場所にある岩へ杖を向けた。
「ファイアボール」
杖の先に赤い光が集まる。
次の瞬間、小さな火の玉が飛び出し、岩にぶつかった。
ボンッ!
軽い爆発音とともに、岩の表面に焦げ跡が残る。
「おおっ!」
サツキが目を輝かせた。
「すごい!」
「これが魔法……」
ナイトも思わず見入っていた。
現実では、特別な道具でも使わない限り、こんなことはできない。
しかし、この世界ではそれが当たり前のように行われている。
「魔法って、MPを消費するんですよね?」
ナイトが尋ねる。
「はい。魔法の種類や威力によって消費量が変わります。今のファイアボールは、そこまで消費しません」
「詠唱は必要なんですか?」
「今の魔法は短い詠唱だけで使えます。もっと強力な魔法になると、長い詠唱が必要になることもありますね」
「へえ……」
ナイトは興味深そうに頷いた。
「ちなみに、魔術師以外でも魔法は使えるのか?」
「使える場合もありますよ。ただ、ジョブや取得しているスキルによって違います。魔術師は魔法の習得や扱いに長けているので、魔法を中心に戦うなら向いていると思います」
「なるほど。ジョブによって得意分野が違うんだな」
「そうですね」
それぞれのジョブには、それぞれの役割や強みがある。
騎士は防御や味方の護衛に向き、剣士は近接攻撃に優れる。
戦士は力強い攻撃を得意とし、魔術師は魔法による遠距離攻撃を行う。
槍使いは槍の間合いを活かした戦闘を得意とする。
まだ見ぬジョブも数多く存在するのだろう。
「俺たちも、もっといろんなジョブについて調べてみたいな」
ナイトが呟く。
「うん! 他の人がどんな戦い方をするのかも見てみたい!」
サツキも頷いた。
⸻
「そういえば、二人はこの後どうするんだ?」
ガルドが尋ねた。
「草原でレベル上げをするつもりです。まだ戦ったことのない魔物も探してみようと思って」
「なるほどな。それなら、少し先に行ったところに小さな岩場があるぞ」
ガルドは草原の奥を指差した。
「あの辺りには、ストーンタートルが出るらしい」
「ストーンタートル?」
「岩みたいな甲羅を持った亀の魔物だ。動きは遅いらしいが、防御力が高いらしいぞ」
「へえ、そんな魔物もいるんだ」
サツキが興味を示す。
「ただ、俺たちはまだ戦ってない。防御力が高いって話だから、倒すのに時間がかかるかもしれないな」
「レベルはどのくらいなんですか?」
ナイトが尋ねる。
「確かレベル3だったはずだ」
「レベル3か……」
今の二人より一つ上。
決して大きな差ではないが、まだ初心者の二人にとっては未知の相手だった。
「まあ、無理に戦う必要はないぞ。俺たちも今日はゴブリンを狩る予定だしな」
「ありがとうございます。参考にします」
ナイトは礼を言った。
「そうだ!」
サツキが突然声を上げる。
「よかったら、今度一緒にパーティーを組みませんか?」
その言葉に、ガルドたちは一瞬顔を見合わせた。
「おっ、いいな!」
ガルドはすぐに笑顔になった。
「俺たちも人数が増えたら、もっといろんな場所に行けると思ってたんだ」
「私も賛成です。魔物によっては、人数が多い方が安全ですから」
ミリアも頷く。
レンは少しだけ考えたあと、静かに口を開いた。
「……いいと思う」
「本当ですか?」
サツキが嬉しそうに尋ねる。
「ああ。ただ、今日はそれぞれやることもあるだろうし、また今度にしようぜ」
ガルドが言った。
「そうですね。まずはフレンド登録をしておきませんか?」
ミリアが提案する。
「フレンド登録?」
ナイトが聞き返した。
「メニューのフレンドから登録できますよ。プレイヤー同士で登録しておけば、オンライン状態を確認したり、連絡を取ったりできます」
「なるほど」
二人はメニューを開き、フレンドの項目を選択した。
ガルドたちから申請が届く。
『ガルドからフレンド申請が届きました』
『ミリアからフレンド申請が届きました』
『レンからフレンド申請が届きました』
「承認っと」
ナイトは三人の申請を受け入れた。
サツキも同じように操作する。
『フレンド登録が完了しました』
「これでいつでも連絡できるな!」
ガルドは満足そうに頷いた。
「また一緒に冒険しようぜ!」
「はい! よろしくお願いします!」
サツキは嬉しそうに答えた。
ナイトも軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
こうして、ナイトとサツキに初めてのゲーム内の知り合いができた。
⸻
「じゃあ、俺たちはそろそろ行くわ!」
ガルドが立ち上がった。
「俺たちはあっちのゴブリンを狩ってくる」
「また会いましょうね」
ミリアが微笑む。
レンも小さく手を振った。
「うん! またね!」
サツキが手を振り返す。
三人が草原の奥へ向かって歩き出す。
ナイトはその背中を見送りながら、ふと思った。
「……パーティーか」
「どうしたの?」
「いや。俺たち以外のプレイヤーと話したのは初めてだったなと思って」
「そうだね。ゲームの中には、ああいう人たちがたくさんいるんだね」
「それぞれ違うジョブを選んで、それぞれの楽しみ方をしてる」
「うん。なんだか、これからもっと面白くなりそう!」
サツキは嬉しそうに笑った。
「いつか私たちも、あんなふうに仲間を増やしていくんだよね」
「ああ」
「最初は二人だけだったけど、少しずつ仲間を増やして、みんなで冒険して……」
「ギルドを作る」
「そう!」
サツキは力強く頷いた。
「まだまだ先の話だけどね」
「分かってるよ。でも、目標があるっていいでしょ?」
「……そうだな」
ナイトは空を見上げた。
昨日までは、この世界に何があるのかも分からなかった。
けれど、今日だけでも新しい魔物の情報を知り、魔法を見て、初めて他のプレイヤーと交流した。
世界は思っていたよりもずっと広い。
そして、まだ知らないことが山ほどある。
「よし、俺たちも頑張ろう」
「うん!」
二人は再び草原の奥へ向かって歩き始めた。
⸻
ガルドから聞いた岩場は、草原をさらに進んだ先にあった。
周囲には大小様々な岩が転がり、地面も少しずつ硬くなっている。
「この辺りかな?」
サツキが周囲を見渡した。
「たぶんそうだな」
ナイトはマップを開いた。
《フィールド:始まりの草原》
現在地:北東部・岩場付近
推奨レベル:1~5
出現魔物:スライム、ホーンラビット、ゴブリン、ストーンタートル
「マップにも表示されてるな」
「ストーンタートル、いるかな?」
二人は岩場の周辺を注意深く探した。
すると、少し離れた場所に、奇妙な岩が転がっているのが見えた。
「……あれ?」
ナイトが足を止める。
「どうしたの?」
「あの岩、少し変じゃないか?」
二人は目を凝らす。
その岩は、他の岩と比べて少し丸みを帯びていた。
さらに、ゆっくりと動いているようにも見える。
「もしかして……」
その瞬間。
岩の下から、四本の短い脚が現れた。
ゆっくりと首が伸び、二つの目がこちらを向く。
《ストーンタートル Lv3》
「いた!」
サツキが声を上げた。
ストーンタートル。
灰色の硬い甲羅を持つ、亀のような魔物。
その身体は小柄だが、甲羅は岩のように硬そうだった。
「本当に岩みたいだな」
「かわいい……けど、強そう!」
ストーンタートルは二人を見つめると、ゆっくりと首を引っ込めた。
そして、甲羅の表面にわずかな光が走る。
「ん?」
ナイトが眉をひそめた。
次の瞬間、ストーンタートルの甲羅が淡く輝いた。
「防御態勢か?」
「どうする? 攻撃してみる?」
ナイトは剣を構えた。
「まずは様子を見よう。甲羅がどれくらい硬いのか分からない」
「分かった」
二人は慎重に距離を詰める。
ナイトが剣を構え、ストーンタートルの甲羅へ向けて振り下ろした。
ガキンッ!
「っ!?」
剣が甲羅に弾かれた。
まるで岩を叩いたような硬い感触が腕に伝わる。
「全然効いてない!?」
サツキが驚いた声を上げた。
「いや、少しは削れてるかもしれない。でも、普通に攻撃しても効果は薄そうだ」
ナイトは剣を握り直した。
ストーンタートルは甲羅から首を出し、ゆっくりとナイトの方へ向き直る。
そして、短い脚で地面を蹴った。
「来る!」
ストーンタートルが予想以上の速さで突進してきた。
「うおっ!」
ナイトは盾を構える。
ドンッ!
鈍い衝撃が身体に伝わった。
「くっ……!」
ストーンタートルは小柄な身体からは想像できないほどの力で、ナイトを押し込んでくる。
「ナイト!」
「大丈夫だ!」
ナイトは足を踏ん張り、盾を押し返した。
しかし、ストーンタートルはすぐには止まらない。
「なんて力だ……!」
そのとき、サツキが横から回り込んだ。
「えいっ!」
剣を振り下ろす。
だが、攻撃は甲羅に当たり、弾かれてしまった。
「こっちも駄目か!」
「甲羅はやっぱり硬いみたいだな!」
ナイトはストーンタートルを押し返しながら答える。
「じゃあ、どこを攻撃すればいいの!?」
「首か、脚か……!」
ストーンタートルは一度後退すると、再び甲羅の中に首を引っ込めた。
「また防御態勢だ……」
二人は距離を取った。
今の攻撃では、ほとんどダメージを与えられなかった。
「どうする、ナイト?」
サツキが尋ねる。
ナイトはストーンタートルを見つめた。
相手は動きが遅い。
しかし、甲羅は硬く、突進にはかなりの力がある。
正面から攻撃しても効果が薄い。
ならば、甲羅の外に出ている部分を狙うしかない。
「首や脚が出ているときに攻撃するんだ。甲羅に隠れている間は無理に攻めない」
「なるほど!」
「俺が正面から注意を引く。サツキは横から脚を狙ってくれ」
「分かった!」
ナイトは盾を構え、再びストーンタートルに近づいた。
「こっちだ!」
盾を軽く叩き、注意を引く。
ストーンタートルが首を伸ばし、ナイトの方へ向き直った。
その瞬間、サツキが横へ回り込む。
「そこっ!」
剣が脚に命中する。
「キュウッ!」
ストーンタートルが小さな声を上げ、身体を揺らした。
「効いた!」
「よし、その調子だ!」
ナイトは盾を構えながら、ストーンタートルの正面に立ち続ける。
サツキはその隙に、何度か脚を狙って攻撃を加えた。
やがて、ストーンタートルの動きが鈍くなる。
「あと少し!」
サツキが剣を振り上げる。
しかし、その瞬間、ストーンタートルが急に身体を縮めた。
「えっ?」
甲羅が大きく揺れる。
次の瞬間、ストーンタートルは身体を丸めたまま、サツキに向かって転がり始めた。
「うわっ!?」
「サツキ!」
サツキは咄嗟に横へ飛び退いた。
巨大な岩のような甲羅が、すぐ目の前を通り過ぎていく。
「びっくりした……!」
ストーンタートルは少し先で止まり、ゆっくりと身体を起こした。
「転がってくるのか……!」
ナイトは相手の動きを見ながら、盾を構え直す。
「サツキ、今の攻撃には気をつけろ!」
「うん!」
ストーンタートルは再び身体を丸めた。
「また来る!」
今度は二人とも、余裕を持って距離を取る。
ストーンタートルが転がってきた。
ナイトは盾を構え、真正面から受け止めるのではなく、直前で横へ避けた。
そのままストーンタートルの側面に回り込む。
「今だ!」
サツキが駆け寄り、剣を振り下ろした。
「はあっ!」
剣が脚に命中する。
ストーンタートルは体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。
『ストーンタートルを討伐しました』
「……倒した?」
ナイトはメッセージを確認した。
「やったあ!」
サツキが大きく声を上げる。
「初めてのストーンタートル討伐だ!」
「思ったより苦戦したな……」
ナイトは盾を下ろし、息を吐いた。
「でも、ちゃんと倒せたよ!」
「そうだな。攻撃する場所を考えないといけない相手だった」
「魔物によって、戦い方を変えないといけないんだね」
「それが分かっただけでも、収穫だな」
二人はドロップアイテムを回収した。
『ストーンタートルの魔石×1を入手しました』
『ストーンタートルの甲羅の欠片×1を入手しました』
『ストーンタートルの硬い爪×1を入手しました』
「甲羅の欠片だって!」
サツキはアイテムを確認する。
「防具の材料になりそうだな」
「硬い爪もあるよ。武器に使えるのかな?」
「今度、武器屋で聞いてみよう」
ナイトはアイテムをしまった。
「それにしても、初めての魔物を倒すのって面白いな」
「うん! まだまだ知らない魔物がたくさんいるんだよね」
「これから、どんな魔物と戦うことになるんだろうな」
二人は草原の先に広がる森を見つめた。
その奥には、まだ見たことのない世界が広がっている。
⸻
その後、二人は岩場の周辺で何度か魔物と戦った。
スライムやホーンラビット、ゴブリン。
そして、ストーンタートル。
それぞれの魔物には異なる特徴があり、戦い方も違っていた。
ナイトは盾を使って敵の攻撃を受け流すことに慣れ始め、サツキも剣の間合いや攻撃のタイミングを少しずつ掴んでいった。
何度か戦闘を繰り返した頃、二人の視界に通知が表示された。
『経験値を獲得しました』
『レベルが上昇しました』
「おっ!」
ナイトが声を上げる。
「ナイト、またレベルが上がったの!?」
「ああ。レベル3だ」
「やった! 私も!」
二人はステータスを確認した。
《ステータス》
名前:ナイト
種族:人間族
ジョブ:騎士
レベル:3
HP:140/140
MP:120/120
「レベル3になったな」
「私もレベル3!」
サツキも嬉しそうに画面を見せる。
「これで、昨日よりもっと強くなったね!」
「ああ。少しずつだけど、確実に成長してる」
ナイトはステータス画面を閉じた。
そのとき、スキル画面にも変化があることに気づいた。
《スキル》
剣術 Lv1
盾術 Lv1
身体強化 Lv1
「スキルはまだ変わってないな」
「私も剣術と身体強化のままだよ」
「レベルとは別に、スキルも鍛えていかないといけないみたいだな」
「スキルポイントを使う方法もあったよね?」
「そうだったな。確かステータス画面で確認できるはずだ」
ナイトはメニューを開き、スキルの項目を調べてみた。
しかし、今のところスキルポイントはまだ獲得していないようだった。
「まだポイントはないな」
「レベルが上がったら必ずもらえるわけじゃないのかな?」
「詳しい条件は分からないな。もう少し調べてみる必要がありそうだ」
「じゃあ、冒険者ギルドで聞いてみようよ」
「ゲームのシステムについては、説明書やメニューにも情報があるかもしれない。後で確認してみよう」
二人はそう話しながら、街へ戻ることにした。
⸻
始まりの街へ戻る頃には、空が夕焼けに染まり始めていた。
街の門をくぐると、冒険者たちの姿が増えている。
中には、武器や防具を新調したプレイヤーもいた。
「今日は結構頑張ったね!」
サツキが満足そうに言った。
「そうだな。レベルも上がったし、新しい魔物とも戦えた」
「それに、ガルドたちともフレンドになれたし!」
「ああ。今度は一緒に冒険できるといいな」
「うん!」
二人は広場を通り、冒険者ギルドへ向かった。
今日のところは新しい依頼を受けず、次の冒険に備えて情報を集めるつもりだった。
「そういえば、明日はどうする?」
サツキが尋ねる。
「今日の続きでもいいし、森の薬草採集に挑戦してみてもいい」
「森かあ。ちょっと楽しみだね」
「ただ、森の魔物についてはまだ分からないことが多い。ギルドで情報を集めてから判断しよう」
「了解!」
二人は冒険者ギルドの扉を開けた。
中では、受付嬢がいつものように冒険者たちの対応をしている。
「いらっしゃいませ。ナイト様、サツキ様。本日もお疲れさまです」
「こんにちは」
「今日は少し聞きたいことがあって来ました」
ナイトがそう言うと、受付嬢は微笑んだ。
「どのようなことでしょうか?」
「この近くの森について、詳しい情報を知りたいんです」
「森、ですか?」
「はい。薬草採集の依頼があったので、挑戦してみようと思っているんですが」
受付嬢は少し考えると、カウンターの下から一枚の資料を取り出した。
「それでしたら、こちらをご覧ください。始まりの街の北東にある小さな森について、現在分かっている情報をまとめたものです」
ナイトは資料を受け取った。
そこには、森の名前や地形、確認されている魔物などが記載されている。
《フィールド情報:始まりの森》
推奨レベル:3~8
確認されている魔物:ゴブリン、フォレストウルフ、ポイズンスネーク、その他
採集可能な素材:薬草、木の実、樹皮など
「フォレストウルフ……」
サツキが文字を読み上げる。
「ポイズンスネークもいるんだね」
「はい。草原よりも危険な魔物が確認されていますので、十分に注意してください」
「毒を使う魔物もいるんですか?」
ナイトが尋ねた。
「ええ。ポイズンスネークは名前の通り、毒を持つ魔物です。噛まれると状態異常になる可能性があります」
「状態異常……」
「この世界には、毒や麻痺、睡眠など、様々な状態異常が存在します。冒険者の方は、回復手段も用意しておくことをおすすめします」
ナイトは資料を見つめた。
草原で戦った魔物とは違い、森には毒を持つ魔物もいる。
今の二人にとって、まだ知らない危険があるということだ。
「回復薬なども準備した方がいいですね」
「そうですね。無理をせず、準備を整えてから挑戦してください」
「分かりました。ありがとうございます」
二人は資料を返した。
「森に行くのは、もう少し準備してからにしようか」
ナイトが言う。
「そうだね。毒があるなら、対策を考えないと」
「まずは道具屋で状態異常を回復するアイテムがあるか確認してみよう」
「うん!」
二人は受付嬢に礼を言い、カウンターから離れた。
ギルドを出ると、街は夕暮れに包まれていた。
「明日は始まりの森に挑戦かな?」
サツキが尋ねる。
「準備ができればな」
「よし! じゃあ、明日までにしっかり準備しておこう!」
「そうだな」
ナイトは頷いた。
昨日はゴブリンと戦い、今日はホーンラビットやストーンタートルと戦った。
そして、初めて他のプレイヤーと知り合い、フレンドにもなった。
冒険を重ねるたびに、できることが少しずつ増えていく。
それが、今のナイトには嬉しかった。
「なあ、サツキ」
「なに?」
「このゲーム、思ってた以上に面白いな」
サツキは一瞬目を丸くした。
そして、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「でしょ!」
「ああ。まだ始めたばかりだけど、もっといろんなことをしてみたい」
「じゃあ、これからもいっぱい冒険しよう!」
「そうだな」
二人は並んで歩き出した。
この世界には、まだ見たことのない場所がある。
まだ出会ったことのない人々がいる。
まだ戦ったことのない魔物がいる。
そして、まだ知らない自分たちの可能性がある。
二人の冒険は、少しずつ広がり始めていた。




