第5話 二日目の冒険
翌日。
「――よし、準備完了!」
自室でVRギアを装着したサツキは、勢いよく声を上げた。
その声に、隣で同じように準備をしていたナイトが苦笑する。
「ずいぶん気合いが入ってるな」
「当たり前でしょ! 今日は昨日よりもっと冒険するんだから!」
「昨日だって、結構長い時間遊んでたと思うけどな」
「まだまだ足りないよ!」
サツキは両手を握り、やる気に満ちた表情を見せた。
昨日、二人は初めて『World of Utopia ―万種界―』の世界に降り立った。
キャラクターを作り、始まりの街を歩き、冒険者ギルドで初めての依頼を受けた。そして、草原で魔物と戦い、ゴブリンの討伐依頼を達成した。
ゲームを始めたばかりの二人にとって、すべてが新鮮な体験だった。
そして何より、ナイトは久しぶりに何かを楽しみにしている自分に気づいていた。
「今日は何をする?」
「まずはレベル上げかな。昨日はゴブリンを倒すので精いっぱいだったし、もう少し戦闘に慣れておきたい」
「うん! それから、昨日見られなかった場所にも行ってみたい!」
「いきなり遠くまで行くのは危ないから、まずは始まりの草原を探索しよう」
「分かった!」
二人は準備を終えると、同時にログイン操作を行った。
視界が白く染まり、身体の感覚が現実からゲームの世界へと切り替わっていく。
そして――。
「おおっ!」
目を開けた二人の前に、昨日と同じ広大な草原が広がっていた。
青い空。遠くまで続く緑の大地。頬を撫でる柔らかな風。
ここは万種界。
様々な世界や領域が混ざり合い、多種多様な種族が暮らす広大な世界。
その一角に存在する、始まりの街周辺のフィールド。
「やっぱり綺麗だね!」
サツキは大きく伸びをしながら、周囲を見渡した。
「昨日と同じ場所なのに、何度見ても飽きないな」
ナイトも草原を眺める。
現実世界では見ることのできない景色。
ゲームの中だと分かっていても、風の感触や草の匂いまで再現されたこの世界は、まるで本当に別の場所へ来たかのようだった。
「さて、まずは昨日の続きだな」
ナイトはメニューを開いた。
《ステータス》
名前:ナイト
種族:人間族
ジョブ:騎士
レベル:1
HP:100/100
MP:100/100
「レベルはまだ一か」
「私もレベル1のままだよ」
サツキもステータスを確認する。
「昨日はゴブリンを五匹倒したけど、まだレベルは上がらなかったな」
「最初のうちは経験値も少ないのかもね」
「まあ、焦っても仕方ない。今日はレベル上げを中心に頑張ろう」
「うん!」
ナイトは続けてスキル画面を開いた。
《スキル》
剣術 Lv1
盾術 Lv1
身体強化 Lv1
「スキルのレベルも変わってないな」
「スキルって、使っていればレベルが上がるのかな?」
「昨日の戦闘で少しは経験が入っているかもしれないけど、まだ上がるほどじゃないんだろうな」
「なるほど。じゃあ、今日はいっぱい使ってみよう!」
「そうだな。ただ、スキルを使うにはMPも必要になるみたいだから、そのあたりも確認しないと」
「了解!」
二人はステータス画面を閉じ、武器を確認した。
ナイトは初心者用の片手剣と小型盾。
サツキは初心者用の片手剣。
どちらも昨日と同じ装備だ。
「じゃあ、行こうか」
「出発!」
二人は始まりの草原の奥へと歩き始めた。
⸻
草原をしばらく進むと、最初に見つけたのは青い身体をした小さな魔物だった。
ぷるぷると身体を揺らしながら、草の上をゆっくり移動している。
「スライムだね」
「昨日も倒したやつだな」
ナイトは魔物を確認する。
《スライム Lv1》
「レベル1か。昨日と同じだな」
「どうする? 倒してみる?」
「もちろん。まずは肩慣らしだ」
ナイトが盾を構える。
サツキも剣を持ち直した。
「今回は私が先に攻撃してみてもいい?」
「いいぞ。俺は横から援護する」
「ありがとう!」
サツキはスライムに向かって歩き出した。
スライムは二人に気づくと、身体を大きく揺らしながら近づいてくる。
その動きは遅い。
だが、油断はできない。
「いくよ!」
サツキは剣を構え、スライムの正面に立った。
スライムが身体の一部を伸ばし、サツキに向かって飛ばしてくる。
「わっ!」
サツキは横へ飛び退いた。
伸びた身体が地面にぶつかり、ぷるんと跳ね返る。
「攻撃は単純だけど、意外と伸びてくるんだね」
「距離には気をつけろよ!」
「分かってる!」
サツキはスライムの動きが止まった瞬間を狙い、剣を振るった。
ザシュッ!
刃がスライムの身体に沈み込む。
「えいっ!」
続けてもう一撃。
スライムの身体が大きく揺れ、淡い光に包まれた。
『スライムを討伐しました』
「よし!」
サツキは剣を下ろし、笑顔を見せた。
「昨日より簡単に倒せた気がする!」
「動きに慣れたんだろうな」
「うん。次はもう少し速く倒せるようにしたいな」
「焦らずいこう」
二人はドロップアイテムを回収した。
『スライムの魔石×1を入手しました』
『スライムゼリー×1を入手しました』
「昨日と同じだね」
「スライムの素材は、何かに使えるのかな?」
「道具屋か素材屋に聞いてみるのもいいかもしれないな」
「うん。後で確認してみよう!」
二人はさらに草原を進んだ。
⸻
しばらくすると、今度は白い毛並みの小動物が見えてきた。
長い耳に、額から一本の角が生えている。
「……あれは?」
サツキが目を細める。
「ホーンラビットだな」
昨日、冒険者ギルドで見た魔物の情報を思い出す。
始まりの草原に出現する魔物の一種。
小型の獣だが、額の角を使って突進してくる。
「かわいい見た目だけど、攻撃してくるんだよね」
「そうみたいだな」
ナイトはホーンラビットを確認した。
《ホーンラビット Lv2》
「レベル2か。ゴブリンと同じくらいだな」
「じゃあ、今度は私が一人で戦ってみてもいい?」
「一人で?」
「うん。昨日はナイトに守ってもらうことが多かったし、自分だけでどこまで戦えるか試してみたいんだ」
サツキは剣を握りしめる。
「もちろん、危なくなったら助けてほしいけどね」
「分かった。俺はすぐに動ける距離で見ている」
「ありがとう!」
サツキはホーンラビットへ近づいていった。
ホーンラビットは耳をぴくりと動かすと、サツキの方を向いた。
そして、前脚を地面につけ、身体を低くする。
「来る……!」
次の瞬間、ホーンラビットが地面を蹴った。
一瞬で距離が縮まる。
「速いっ!」
サツキは横へ飛び退く。
ホーンラビットの角が、彼女のすぐ横を通り過ぎた。
「危なかった……!」
ホーンラビットは勢いを殺しきれず、少し先まで走っていく。
「突進してくるタイプか」
ナイトは戦い方を観察する。
ホーンラビットは一度距離を取ると、再び身体を低くした。
「また来る!」
サツキは剣を構える。
今度は正面から避けるのではなく、突進してくる瞬間を待っていた。
ホーンラビットが地面を蹴る。
その動きを見たサツキは、すぐに身体を横へずらした。
そして、ホーンラビットが通り過ぎる直前に剣を振るう。
「そこっ!」
剣が横腹に命中した。
ホーンラビットが短い鳴き声を上げる。
「やった!」
だが、まだ倒れてはいない。
ホーンラビットは振り返ると、再びサツキへ向かってきた。
「もう一回!」
今度はサツキも前へ踏み込んだ。
突進してくるホーンラビットの角を剣で受け流し、すれ違いざまに一撃を加える。
「はあっ!」
剣が命中する。
ホーンラビットは地面に倒れ、光となって消えていった。
『ホーンラビットを討伐しました』
「やったあ!」
サツキは両手を上げた。
「一人で倒せたよ!」
「おめでとう。さっきより動きがよくなってたな」
「えへへ。突進してくるタイミングが分かれば、結構戦いやすかったよ」
「相手の動きを見て、攻撃の後に反撃する。いい戦い方だったと思う」
「ありがとう!」
サツキは嬉しそうに笑った。
「でも、結構疲れたなあ」
「ステータスを確認してみたらどうだ?」
「そうだね」
サツキはステータス画面を開いた。
「HPは……96。ほとんど減ってない!」
「攻撃を避けられたからな」
「よし、この調子で頑張ろう!」
二人はホーンラビットのドロップアイテムを回収した。
『ホーンラビットの魔石×1を入手しました』
『ホーンラビットの角×1を入手しました』
『ホーンラビットの毛皮×1を入手しました』
「角と毛皮だって」
「素材として使えそうだな」
「武器屋で買い取ってくれるかな?」
「たぶんな。後で持っていってみよう」
サツキはアイテム欄を確認しながら、満足そうに頷いた。
「魔物によってドロップする素材も違うんだね」
「そうみたいだな。いろいろ集めてみるのも面白そうだ」
「採集依頼とかにも使えるかもしれないね」
「そうだな」
二人は再び歩き出した。
⸻
草原の奥へ進むにつれて、周囲の景色も少しずつ変化していった。
なだらかな丘が増え、ところどころに岩が転がっている。
遠くには小さな森が見えた。
その手前には、何匹かのホーンラビットが草を食べている。
「この辺りはホーンラビットが多いね」
「そうだな。ゴブリンより見つけやすい」
「じゃあ、もう少し戦ってみようよ」
「いいぞ。今度は俺も一人で戦ってみる」
「おっ、ナイトも?」
「ああ。騎士の戦い方をもう少し試したい」
ナイトは盾を持ち直した。
「じゃあ、私は見てるね!」
二人は近くにいたホーンラビットを一匹ずつ相手にすることにした。
ナイトが狙いを定めたホーンラビットは、こちらに気づくと身体を低くした。
「来るか……」
ホーンラビットが突進してくる。
ナイトは盾を構えたまま、相手の動きを見た。
真正面から受け止めるのは危険だ。
角のある頭で突っ込んでくるのだから、盾で受け止めても衝撃は大きいだろう。
ならば、攻撃を受け流す。
「よし……!」
ホーンラビットが目の前まで迫った瞬間、ナイトは盾を斜めに構えた。
ガッ!
角が盾にぶつかる。
衝撃が腕に伝わるが、真正面から受けたときほどではない。
ホーンラビットの身体が横へ流れる。
「今だ!」
ナイトは一歩踏み込み、剣を振るった。
しかし、ホーンラビットは素早く身をひねり、攻撃を避けた。
「なっ……!」
剣は空を切る。
ホーンラビットはすぐに距離を取り、再び突進の構えを見せた。
「思ったより動きが速いな……」
ナイトは盾を構え直す。
今度は焦らず、相手の動きを待つ。
ホーンラビットが突進してくる。
ナイトは盾で攻撃を受け流した。
そして、相手の身体が横へ流れた瞬間、剣を振るう。
「はっ!」
今度は剣が横腹に命中した。
ホーンラビットが鳴き声を上げる。
「よし!」
ナイトは追撃しようとした。
しかし、ホーンラビットはすぐに距離を取ってしまう。
「逃げるのか!」
ホーンラビットは少し離れた場所で、再び身体を低くした。
どうやら、何度も突進を繰り返す戦い方のようだ。
ナイトは盾を構え、相手が近づいてくるのを待つ。
今度は攻撃を受け流した直後、剣を振るうのではなく、先に盾で相手の身体を押し返す。
ホーンラビットの動きが止まる。
その隙を逃さず、剣を振り下ろした。
「これで……!」
剣が命中する。
ホーンラビットは地面に倒れ、光の粒となって消えた。
『ホーンラビットを討伐しました』
「ふう……」
ナイトは盾を下ろした。
「お疲れ!」
サツキが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「思ったより難しかった。攻撃を受け流すところまではできたけど、そこから剣で攻撃するタイミングがなかなか合わなかった」
「でも、最後はうまくできてたよ!」
「何度か試して、ようやくって感じだな」
ナイトは自分のステータスを確認した。
HP:92/100
「HPは少し減ったか」
「でも、最初より盾の使い方が上手になってると思うよ」
「そうだといいな」
ナイトは小さく笑った。
盾を使って攻撃を受け流し、相手の隙を作る。
騎士というジョブの特徴を、少しだけ理解できた気がした。
「スキルも確認してみようか」
ナイトはスキル画面を開いた。
《スキル》
剣術 Lv1
盾術 Lv1
身体強化 Lv1
「まだレベルは上がってないな」
「私も同じだよ」
「スキルレベルを上げるには、もっと使い込む必要があるのかもしれない」
「じゃあ、もっと練習しないとね!」
二人は自分たちのスキルを確認し、画面を閉じた。
そのとき、ナイトの視界に小さな通知が表示された。
『経験値を獲得しました』
「ん?」
ナイトは通知を確認する。
続けて、もう一つメッセージが表示された。
『レベルが上昇しました』
「おっ!」
「えっ!? ナイト、レベル上がったの!?」
「ああ。レベル2になった」
サツキも慌てて自分のステータスを確認する。
「あっ、私も!」
二人は顔を見合わせた。
「やったな!」
「うん! 初めてのレベルアップだ!」
ナイトはステータス画面を開く。
《ステータス》
名前:ナイト
種族:人間族
ジョブ:騎士
レベル:2
HP:120/120
MP:110/110
「HPとMPが増えてる」
「私も増えてるよ!」
サツキもステータスを確認する。
「レベルが上がると、能力値も上がるんだね」
「これなら、昨日より強くなったって実感できるな」
ナイトは剣を握り直した。
ほんの少しの成長かもしれない。
しかし、昨日までレベル1だった自分が、今はレベル2になっている。
ゲームの中であっても、自分の努力が数字として表れるのは嬉しかった。
「次はレベル3を目指そう!」
サツキが元気よく言う。
「そうだな。でも、そろそろ一度街に戻ろう」
「えー、もう?」
「HPも減ってるし、アイテムも確認したい。ついでに素材を売って、装備を買うためのお金を貯めよう」
「確かに! 私も毛皮とか角とか、いろいろ集まったしね」
「一度整理しておくのも大事だ」
「じゃあ、街に戻ろう!」
二人は草原を引き返し始めた。
⸻
始まりの街へ戻った二人は、まず道具屋へ向かった。
昨日見かけたスライムゼリーやホーンラビットの素材が、どのように使われるのかを確認するためだ。
道具屋の店内には、様々な薬品や冒険道具が並んでいた。
カウンターの向こうには、眼鏡をかけた女性の店員が立っている。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「魔物から手に入れた素材を持っているんですが、これらは何かに使えますか?」
ナイトはアイテム欄からスライムゼリーとホーンラビットの毛皮を取り出した。
店員はそれぞれを手に取り、確認する。
「こちらのスライムゼリーは、簡単な薬品や道具の材料になりますね。ホーンラビットの毛皮は、防具の素材として使われることが多いですよ」
「そうなんですね」
「また、ホーンラビットの角は武器の装飾や加工素材として利用されます。素材によって使い道が異なりますので、街の工房や職人に相談するとよいでしょう」
「工房もあるんですか?」
「はい。鍛冶工房や裁縫工房、錬金術の工房などがございます」
「へえ……!」
サツキの目が輝いた。
「錬金術って、薬を作ったりするんですか?」
「ええ。薬品の調合や素材の加工などを行います。冒険者の方が自分で調合を学ぶこともできますよ」
「自分で作れるんだ!」
「もちろんです。必要な知識や道具はございますが、興味があれば挑戦してみてくださいね」
サツキはナイトの方を向いた。
「ねえ、ナイト。私たちもいつか作ってみようよ!」
「錬金術か。面白そうだな」
「でしょ!」
二人は新しい目標を見つけたような気分になった。
この世界では、魔物を倒すだけが冒険ではない。
素材を集め、道具を作り、武器や防具を整える。
様々な方法で自分たちを成長させることができる。
「ありがとうございました」
「またのお越しをお待ちしております」
二人は道具屋を後にした。
次に向かったのは、昨日訪れた武器屋だった。
「おう、昨日の冒険者か」
店主は二人の顔を見ると、気さくに声をかけてきた。
「こんにちは。今日は魔物の素材を持ってきたんですが、買い取ってもらえますか?」
「もちろんだ。見せてみな」
二人はホーンラビットの角や毛皮、余った魔石などを取り出した。
店主は素材を一つずつ確認していく。
「ホーンラビットの角に毛皮か。どれも状態は悪くないな。まとめて買い取ってやろう」
店主が提示した金額は、二人にとって十分なものだった。
「お願いします!」
「よし、買い取り成立だ」
二人の所持金に銅貨が加算される。
「これで少しはお金が貯まったね!」
サツキが嬉しそうに言った。
「まだ鉄の剣を買うには足りないけどな」
「うーん、やっぱり高いね」
「少しずつ貯めていこう」
店主はそんな二人を見て、顎に手を当てた。
「お前さんたち、まだ冒険者になったばかりだろう?」
「はい」
「なら、最初から高い武器を買う必要はない。まずは今の武器を使いこなせるようになれ。武器を変えるのは、それからでも遅くない」
「昨日も同じようなことを言われました」
ナイトが答える。
「ははっ。なら、よく覚えておくことだ。武器は使い手次第だ。高い剣を持ったからといって、急に強くなれるわけじゃない」
「分かりました」
ナイトは頷いた。
「ありがとうございます!」
サツキも頭を下げる。
店を出た二人は、広場へ向かって歩き始めた。
「武器を買うのは、もう少し先になりそうだね」
「そうだな。今の装備でも、しばらくは問題ないと思う」
「でも、いつかはもっと強い剣を使いたいなあ」
「そのためにも、依頼をこなしてお金を貯めないとな」
「よし! 次は冒険者ギルドに行こう!」
サツキは先頭に立って歩き出した。
ナイトもその後を追う。
昨日と同じ街並み。
昨日と同じ建物。
それでも、今日は少し違って見えた。
自分たちのレベルが上がり、新しい魔物と戦い、素材を手に入れた。
少しずつではあるが、この世界でできることが増えている。
ナイトはそれを確かに感じていた。
⸻
冒険者ギルドに到着すると、二人は依頼掲示板の前に立った。
掲示板には、昨日と同じように様々な依頼書が貼られている。
薬草採集、荷物運搬、街道の見回り、魔物討伐。
その中に、昨日は見かけなかった依頼書があった。
「ねえ、これ見て」
サツキが一枚の依頼書を指差す。
そこには、始まりの草原の北側にある小さな森で、薬草を採集する依頼が書かれていた。
「薬草採集か」
「昨日、道具屋で薬品の材料になるって聞いたよね」
「ああ。薬草も集めれば何かに使えるかもしれないな」
依頼書には、採集する薬草の特徴や必要な数、報酬が記されていた。
「これなら、戦闘だけじゃなくて採集もできるね!」
「ただ、森の中は草原より魔物が強い可能性がある。周辺の情報を確認してからにしよう」
「そうだね。無理はしないって約束したし」
二人は依頼書を手に取り、受付カウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢が微笑む。
「この薬草採集の依頼について、詳しく教えてもらえますか?」
ナイトが依頼書を差し出す。
「はい。こちらは始まりの草原北側にある小さな森で、指定された薬草を十本採集していただく依頼です」
「森には魔物もいるんですか?」
「ええ。草原に比べると、少し危険な魔物が出現することもあります。初心者の冒険者の方には、十分に注意していただきたい場所ですね」
「どんな魔物が出るんですか?」
「確認されているのは、ゴブリンや小型の獣型魔物などです。奥へ進むと、さらに強い魔物が現れる可能性もあります」
ナイトはサツキと顔を見合わせた。
「どうする?」
「森の探索もしてみたいけど、今日はまだ草原で戦闘の練習をしたいかな」
「俺もそう思う。まずはレベルを上げてから挑戦しよう」
「うん!」
受付嬢は二人の様子を見て、穏やかに微笑んだ。
「良い判断だと思います。冒険者にとって、無理をしないことも大切ですから」
「ありがとうございます。もう少し実力をつけてから受けてみます」
「はい。お待ちしておりますね」
二人は依頼書を掲示板へ戻した。
「じゃあ、次はどんな依頼にしようか?」
サツキが尋ねる。
「今日はもう少し草原でレベル上げをして、それから考えよう」
「分かった!」
二人は冒険者ギルドを後にした。
始まりの街の外には、まだ見ぬ冒険が待っている。
そして、二人が目指す場所も、まだ遠い。
それでも、今は一歩ずつ進めばいい。
ナイトは剣を握り、隣を歩くサツキを見た。
「サツキ」
「なに?」
「明日も、その次も、一緒に冒険しような」
サツキは一瞬きょとんとしたあと、満面の笑みを浮かべた。
「もちろん! 最強のギルドを作るんだから、これからもずっと一緒だよ!」
「……そうだな」
二人は笑いながら、街の門へと向かった。
まだ誰も知らない世界へ。
まだ誰も見たことのない景色へ。
二人の冒険は、始まったばかりだった。




