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World of Utopia ―万種界―  作者: 鯱島
第1章 始まりの世界
2/3

第2話 もう一人の自分

 真っ白な空間。


 その中に浮かぶ半透明のウィンドウを、笹木夜はじっと見つめていた。


《プレイヤー情報を設定してください》


《名前》

《種族》

《ジョブ》

《外見》


 目の前に並ぶ四つの項目。


 ここで設定した情報が、これからゲームの中で使用する自分の分身となる。


「まずは名前からかな」


 隣に立つ堺皐月が、ウィンドウを操作しながら言った。


「そうだな。名前はゲームの中で使う名前だよな?」


「うん。プレイヤーネームだね。本名を使ってもいいし、好きな名前を設定してもいいよ」


「なるほど」


 夜は少し考えた。


 ゲームの中で使う名前。


 現実の自分とは違う、もう一人の自分。


 せっかくなら、本名とは違う名前にしたい。


 しかし、いざ考えてみると、なかなか思いつかないものだった。


「皐月はもう決めてるのか?」


「もちろん!」


 皐月は自信満々に答えた。


「私のプレイヤーネームは『サツキ』にするよ!」


「そのままなんだな」


「うん。呼び慣れてる名前だし、覚えてもらいやすいでしょ?」


「まあ、そうだな」


「それに、名前を考えるのって意外と難しいんだよね」


 皐月は苦笑した。


 どうやら彼女も、特別な名前を考えたわけではないらしい。


「夜はどうするの?」


「そうだな……」


 夜は再びウィンドウを見つめる。


 しばらく考えた後、ひとつの名前を入力した。


「ナイト、でいいか」


「ナイト?」


「ああ。夜だからナイト」


「ふふっ、分かりやすいね」


「考えるのが面倒だっただけだ」


「いいと思うよ! 騎士っぽくて格好いいし!」


「騎士っぽい?」


「ほら、ナイトって英語で騎士って意味もあるでしょ?」


「ああ、確かに」


 偶然ではあるが、なかなか悪くない名前だった。


 夜は入力した名前を確定する。


《プレイヤーネーム:ナイト》


《登録可能です》


「よし。名前はこれでいいな」


「うん! じゃあ次は種族だね!」


 皐月が次の項目を選択する。


 すると、目の前に大量の種族名が並んだ。


《選択可能種族》


・人間族

・エルフ族

・ドワーフ族

・獣人族

・魔人族

・妖精族

・精霊種

・竜人族

・吸血鬼族

・人魚族

・その他


「……多いな」


「でしょ!」


 一覧を見ただけでも、かなりの種類が存在していることが分かる。


 さらに、各種族の項目を選択すると、詳しい説明や特徴が表示された。


「これ、全部選べるのか?」


「全部じゃないと思うよ。種族によっては条件があるみたいだし」


「条件?」


「うん。例えば特定の種族は、ゲームを進めてから解放されるとか、特定のクエストを達成しないと選べないとか」


「最初から全部使えるわけじゃないんだな」


「そういうこと!」


 皐月は楽しそうに種族一覧を眺めている。


「それぞれの種族には種族特性があるみたいだよ」


「種族特性?」


「種族ごとに最初から持っている能力のこと。例えばエルフなら魔法に適性があったり、ドワーフなら鍛冶や採掘に適性があったりするんだって」


「なるほど」


「獣人なら身体能力が高かったり、精霊種なら魔法に関係する能力が優れていたりね」


 夜は種族一覧をひとつずつ確認していく。


 どの種族にもそれぞれ特徴があり、選択する種族によって初期能力や成長傾向が異なるようだった。


 ただし、種族によって優劣が決まるわけではないらしい。


 どの種族にも長所と短所があり、育成方法によって様々な戦い方ができるという。


「皐月はどの種族にするんだ?」


「私は人間族!」


「人間族か」


「うん! 最初は慣れ親しんだ人間で遊んでみようかなって」


 皐月は人間族の項目を選択した。


《種族:人間族》


《特徴》

 突出した能力はないものの、全体的にバランスが良い種族。

 様々なジョブへの適性を持ち、幅広い成長が可能。


《種族特性》

・適応力

・成長補正


「人間族って、結構普通なんだね」


「バランス型ってことだろ?」


「そうだね。最初に選ぶにはちょうどいいかも!」


 皐月は人間族を確定した。


「夜はどうする?」


「俺も人間族にしておくよ」


「お揃いだね!」


「まあ、最初だしな。変わった種族を選んでも、使いこなせるか分からないし」


「それもそうだね!」


 夜も人間族を選択する。


《種族:人間族》


《選択を確定しました》


 これで二人とも人間族となった。


 次はジョブの選択だ。


「さて、次はジョブだな」


「うん! ここも結構重要だよ!」


 皐月がジョブの項目を選択する。


 すると、再び大量の選択肢が表示された。


《初期選択可能ジョブ》


【戦闘系】

・剣士

・騎士

・槍士

・弓士

・格闘士

・魔法使い

・僧侶

・盗賊


【生産系】

・鍛冶師

・錬金術師

・裁縫師

・木工師

・料理人


【採集系】

・採掘師

・採取師

・漁師

・狩人


【その他】

・商人

・冒険者


「思っていたより多いな」


「これでも初期ジョブの一部みたいだよ。ゲームを進めれば、もっといろんなジョブが解放されるんだって!」


「上位職とかもあるのか?」


「あるみたい! 特定のジョブを育てたり、条件を満たしたりすると転職できるらしいよ!」


「へえ」


 夜はジョブの一覧を確認する。


 剣士や騎士といった戦闘職だけでなく、鍛冶師や料理人といった生産職も存在する。


 それぞれにレベルがあり、ジョブレベルを上げることで新しいスキルを取得できるらしい。


 さらに、ジョブの成長によって上位のジョブに転職することもできるという。


「皐月は剣士だったよな?」


「うん! 剣士にするよ!」


 皐月は迷うことなく剣士を選択した。


《ジョブ:剣士》


《特徴》

 剣を扱うことに特化した戦闘職。

 攻撃と防御のバランスが良く、様々な剣技を習得できる。


《初期スキル》

・剣術Lv1

・身体強化Lv1


「剣道をやってる皐月にはぴったりだな」


「でしょ? せっかくだから、普段から使っている剣を選びたかったんだ!」


「実際に剣を使う感覚も再現されるんだよな?」


「そうみたい! 武器を振ったときの重さとか、手に伝わる感覚も再現されるんだって!」


「それなら、皐月は結構有利なんじゃないか?」


「どうだろうね。ゲームの剣と現実の剣道は違うだろうし、最初は練習しないと!」


 皐月は剣士を確定する。


「よし! これで私のジョブも決まり!」


「早いな」


「迷ってないからね!」


 夜はジョブの一覧を眺めた。


 自分は何を選べばいいだろうか。


 剣士、騎士、槍士、弓士、格闘士。


 戦闘職だけでも様々な種類がある。


 魔法使いという選択肢もあったが、今のところ魔法を使いたいという気持ちはあまりなかった。


 どうせなら、何か武器を使って戦うジョブがいい。


 そう考えながら、夜はひとつの項目に目を留めた。


「騎士……か」


「騎士にするの?」


「ああ。名前がナイトだから、ちょうどいいかなって」


「また名前で決めたの?」


「悪いか?」


「ううん! いいと思うよ!」


 皐月は笑った。


 夜は騎士の項目を選択する。


《ジョブ:騎士》


《特徴》

 剣や盾などの武器を扱い、攻守に優れた戦闘職。

 高い防御能力と安定した戦闘能力を持ち、仲間を守ることにも適している。


《初期スキル》

・剣術Lv1

・盾術Lv1

・身体強化Lv1


「おお、騎士は盾も使えるんだな」


「うん! 防御が得意なジョブみたいだね!」


「剣と盾か……」


 夜は表示された説明を読み込む。


 騎士は攻撃だけでなく、防御にも優れている。


 敵の攻撃を受け止め、仲間を守りながら戦うことができるらしい。


 今まで陸上をやっていた夜にとって、戦闘というものは未知の領域だ。


 それならば、攻撃一辺倒になるよりも、攻守のバランスが取れたジョブの方が扱いやすいだろう。


「よし。俺は騎士にする」


「うん! いいと思う!」


 夜は騎士を確定した。


《ジョブ:騎士》


《選択を確定しました》


 これで二人の種族とジョブが決まった。


 残るは外見の設定である。


「次は見た目だね!」


「見た目か」


「ここは結構自由に設定できるみたいだよ!」


 皐月が外見の項目を選択すると、二人の前に鏡のような画面が現れた。


 そこには、現在の自分たちの姿が映っている。


 ただし、ゲーム内の初期アバターであるため、まだ細かな設定はされていない。


「髪型とか髪色、目の色、身長とかも調整できるみたい!」


「本当に自由なんだな」


「うん! ただし、体格にはある程度制限があるみたい。現実の身体から大きく離れた体格にはできないんだって」


「まあ、その方がいいか」


 夜は外見設定の画面を操作した。


 髪型、髪色、目の色、顔の輪郭。


 様々な項目を調整することができる。


 ただ、夜はあまり外見にこだわりがなかった。


 現実の自分から大きく変えるつもりもない。


「俺はこのままでいいかな」


「えっ、もう決めたの?」


「ああ。髪も黒いままでいいし、目の色も変える必要はないだろ」


「まあ、夜らしいね」


「皐月は?」


「私はちょっとだけ変えるよ!」


 皐月は楽しそうに画面を操作する。


 髪型は現実と同じショートヘア。


 髪色も茶色を基調としたまま、少しだけ明るく調整する。


 目の色は、少し明るい茶色。


 身長や体格はほとんど変えず、全体的に現実の姿に近い外見にした。


「どう?」


 皐月が夜の方を向く。


「いいんじゃないか?」


「本当? ありがとう!」


「ほとんど変わってないけどな」


「いいの! 自分らしい姿が一番!」


 皐月は満足そうに頷いた。


 夜も最後に自分の外見を確認する。


 黒髪に黒い瞳。


 身長や体格も現実の自分とほとんど同じ。


 ゲーム内での姿ではあるが、鏡に映る自分は、いつも見慣れている自分自身だった。


「これで全部かな?」


「そうだな」


 二人は設定画面を確認する。


 プレイヤーネーム、種族、ジョブ、外見。


 すべての項目が埋まっていた。


「じゃあ、最後に確定しよう!」


「ああ」


 夜は確定ボタンに手を伸ばす。


 すると、新しいウィンドウが表示された。


《キャラクター情報》


《プレイヤーネーム:ナイト》

《種族:人間族》

《ジョブ:騎士》


《この内容でキャラクターを作成しますか?》


 夜は一度だけ内容を確認し、確定を選択した。


《キャラクター作成完了》


《ようこそ、ナイト》


 その瞬間、夜の身体が淡い光に包まれた。


 光が収まると、そこには先ほどまでとは少し違う姿の自分が立っていた。


 黒髪に黒い瞳。


 身長や体格は現実とほとんど変わらない。


 服装は、白いシャツに黒を基調とした簡素なズボン。


 腰には何も装備されていない。


「おお……」


 夜は自分の身体を見下ろした。


 手を握り、開く。


 腕を動かし、軽く足踏みをする。


 現実と変わらない感覚だった。


「すごいな。これが俺のアバターか」


「うん! ちゃんと設定した通りになってるね!」


 隣では、皐月も自分の姿を確認していた。


「私もできたよ!」


 茶色のショートヘアに明るい茶色の瞳。


 現実の皐月とよく似た姿だ。


「どう?」


「皐月もほとんど変わらないな」


「だから、これでいいの!」


 二人は互いの姿を確認し、笑い合った。


 こうして、ゲーム内での二人の姿が完成した。


     * * *


 キャラクター作成を終えると、目の前に新しいウィンドウが現れた。


《キャラクター登録が完了しました》


《初期装備を配布します》


 その表示と同時に、二人の目の前に光が集まる。


 やがて光が形を変え、それぞれの装備品となった。


「これが初期装備か」


 夜の前には、簡素な防具と武器が並んでいた。


 騎士の初期装備は、初心者用の片手剣と小型の盾。


 防具は布と革を組み合わせた軽装備だった。


「剣と盾だね!」


「ああ」


 夜は片手剣を手に取った。


 刃渡りはそれほど長くなく、初心者でも扱いやすそうな大きさだ。


 柄を握ると、手のひらにしっかりとした感触が伝わる。


 軽すぎず、重すぎない。


 まるで本物の武器を持っているかのようだった。


「これ、結構リアルだな」


「本当だね。私の武器もあるよ!」


 皐月の前には、剣士用の片手剣が用意されていた。


 騎士のものと比べると、少しだけ細身で軽そうな形状をしている。


「お互い剣だね」


「そうだな」


「二人で剣を使って戦うのか。なんだか楽しみ!」


「まずは操作に慣れないとな」


「それもそうだね!」


 二人は初期装備を身につけた。


 夜は片手剣を腰に装着し、盾を左腕に装備する。


 皐月も自分の剣を腰に装着した。


 装備を終えると、再びウィンドウが表示される。


《初期装備の配布が完了しました》


《チュートリアルを開始しますか?》


「チュートリアルか」


「操作方法とかを教えてくれるんだと思うよ!」


「やっておいた方がよさそうだな」


「うん!」


 二人はチュートリアルの開始を選択した。


《チュートリアルを開始します》


《まずは基本操作を確認しましょう》


 足元に淡い光が広がる。


 そして、二人の周囲の景色がゆっくりと変化し始めた。


 白い空間が消えていく。


 代わりに、青空が広がり、足元には草原が現れた。


「わっ!」


 皐月が声を上げた。


「景色が変わった!」


 目の前には、どこまでも続く草原。


 風が吹き、草花が揺れている。


 遠くには緑豊かな森があり、そのさらに奥には大きな山がそびえていた。


 空には白い雲が流れ、鳥のような生き物が飛んでいる。


「……すごい」


 夜は思わず呟いた。


 先ほどまでの白い空間とは違う。


 ここには風があり、匂いがあり、温度がある。


 肌に触れる風は心地よく、草の香りが鼻をくすぐる。


 足元の草を踏む感触まで伝わってくる。


 ゲームの中だということを忘れてしまいそうだった。


「これ、本当にゲームなんだよね?」


「ああ……」


「すごいね」


 皐月も周囲を見回していた。


 その表情には、隠しきれない興奮が浮かんでいる。


 やがて二人の前に、半透明のウィンドウが現れた。


《基本操作チュートリアル》


《移動》

 視点操作と移動操作を使用して移動できます。


《視点》

 視点操作によって周囲を見渡すことができます。


《メニュー》

 メニュー操作によって各種情報を確認できます。


「なるほど。操作は直感的にできるようになってるんだな」


 夜はウィンドウに従い、実際に身体を動かしてみた。


 前へ進む。


 後ろへ下がる。


 左右に移動する。


 どれも問題なく動かすことができた。


「おお、普通に歩けるな」


「走ることもできるよ!」


 皐月は軽く走り出した。


 草原の中を駆け、少し離れた場所で振り返る。


「夜! こっちだよ!」


「待てって」


 夜も走り出す。


 足を動かす感覚は現実とほとんど変わらない。


 ただし、実際に身体を動かす必要はなく、意識するだけで自然に走ることができる。


 走る速度や身体の動きも、ゲーム内の能力に応じて調整されるらしい。


「これなら、すぐ慣れそうだな」


「でしょ!」


 続いて、メニューの操作を確認する。


 視界の端に表示されるメニューアイコンを意識すると、半透明の画面が現れた。


《メニュー》


・ステータス

・装備

・アイテム

・スキル

・クエスト

・マップ

・フレンド

・パーティー

・設定


「これがメニューか」


「いろいろあるね!」


「ステータスは後で確認するとして、今は操作だな」


「そうだね!」


 二人はチュートリアルに従い、いくつかの基本操作を確認していく。


 移動。

 視点変更。

 メニュー操作。

 アイテムの取り出し。

 装備の変更。


 どれも複雑な操作は必要なく、慣れれば簡単に扱えそうだった。


 次に表示されたのは、戦闘に関する説明だった。


《戦闘チュートリアル》


《武器を構え、攻撃操作を行うことで通常攻撃が可能です》


《スキルはスキルメニューから使用できます》


「いよいよ戦闘か!」


 皐月が嬉しそうに剣を抜く。


「ちょっと試してみようよ!」


「ああ」


 二人の前に木製の訓練用人形が出現した。


《訓練用ターゲット》


《通常攻撃を行ってください》


「じゃあ、まずは俺からだな」


 夜は片手剣を構えた。


 剣の柄を握る感触。


 刃の重さ。


 構えたときの姿勢。


 どれも驚くほど自然だった。


 夜は訓練用人形に向かって剣を振る。


 スパッ。


 乾いた音が響き、人形の身体に剣が当たった。


《通常攻撃を確認しました》


《チュートリアル進行》


「おお、できた」


「次は私!」


 皐月も剣を構える。


 剣道で培った経験があるためか、構えには無駄がない。


 そのまま一歩踏み込み、鋭く剣を振り下ろした。


 スパッ!


 夜よりも勢いのある一撃が訓練用人形に当たる。


「おお、さすがだな」


「えへへ。こういうのは得意だからね!」


 皐月は得意げに笑った。


《通常攻撃を確認しました》


《チュートリアル進行》


 続いて、スキルの使用方法が説明された。


《スキル使用》


《スキルを選択し、使用することで発動します》


「じゃあ、スキルも試してみよう!」


「そうだな」


 夜はスキルメニューを開いた。


《習得スキル》


・剣術Lv1

・盾術Lv1

・身体強化Lv1


 最初から三つのスキルを習得している。


 それぞれのスキルを選択すると、詳しい説明が表示された。


《剣術Lv1》

 剣を扱うための基本的な技術。

 剣による攻撃の命中精度と威力を補正する。


《盾術Lv1》

 盾を扱うための基本的な技術。

 盾による防御の精度と性能を補正する。


《身体強化Lv1》

 身体能力を一時的に強化する。


「へえ。スキルにもレベルがあるんだな」


「ジョブレベルとは別に、スキル自体にもレベルがあるんだね!」


「使っていけば成長するのか?」


「たぶんそうなんじゃないかな」


 夜は身体強化を選択した。


《身体強化Lv1を発動します》


 身体に淡い光が走った。


 少しだけ身体が軽くなったような感覚がある。


「これが身体強化か」


 夜はその場で軽く跳ねてみる。


 先ほどよりも身体が軽く感じられた。


「おお、確かに変わってる」


「私もやってみよう!」


 皐月もスキルを使用する。


 続いて二人は、剣術と盾術の説明を確認した。


 こうして、基本的な戦闘操作についても一通り理解することができた。


《戦闘チュートリアル完了》


《基本操作の確認が終了しました》


《チュートリアル報酬を獲得しました》


《報酬:経験値》


《報酬:初心者用ポーション×5》


「おお、報酬がもらえた!」


「ポーションだって!」


 夜はアイテムメニューを開いた。


《アイテム》


・初心者用ポーション×5


《初心者用ポーション》

 HPを一定量回復する。


「これが回復アイテムか」


「最初は五個もらえるんだね!」


 ゲームの基本的な操作はこれで終了らしい。


 そのとき、二人の前に新しいウィンドウが表示された。


《チュートリアル完了》


《冒険者登録を行います》


《登録先:始まりの街》


「始まりの街?」


 夜が呟くと、皐月が説明する。


「たぶん、最初の拠点になる街だね!」


「そこから冒険が始まるってことか」


「そういうこと!」


 さらに、ウィンドウには新しい選択肢が表示された。


《チュートリアルを終了し、始まりの街へ移動しますか?》


 二人は顔を見合わせた。


「どうする?」


 夜が尋ねる。


「もちろん行くよ!」


 皐月は即答した。


「ここからが本番だからね!」


「そうだな」


 二人は同時に移動を選択した。


 その瞬間、周囲が再び光に包まれる。


 草原の景色が消え、視界が白く染まった。


《始まりの街へ転送します》


 そして――


 二人の冒険の舞台となる街が、その姿を現した。


     * * *


 目の前に広がっていたのは、活気に満ちた巨大な街だった。


「わあああ……!」


 皐月が感嘆の声を上げる。


 石畳で舗装された大通り。


 その両側には、木造や石造りの建物が並んでいる。


 商店や武器屋、防具屋、宿屋。


 街の中央には大きな噴水があり、その周囲には多くの人々が集まっていた。


 建物の間を歩く人々の姿も様々だ。


 人間だけではない。


 長い耳を持つエルフ。

 小柄なドワーフ。

 獣の耳や尻尾を持つ獣人。


 様々な種族が当たり前のように街の中を歩いている。


「ここが始まりの街か」


「うん! すごいね!」


 夜も周囲を見回した。


 建物の細かな装飾や、道を歩く人々の表情まで作り込まれている。


 街の中には生活音が溢れていた。


 商人の呼び声。

 人々の会話。

 遠くから聞こえる鐘の音。


 風に乗って、焼きたてのパンの香りまで漂ってくる。


「本当に人が生活しているみたいだな」


「NPCもかなり自然に動いてるみたいだよ!」


「NPC?」


「ゲーム内の住人のこと。プレイヤーじゃない人たちだね」


「なるほど」


 夜は近くを歩いていた男性に目を向けた。


 男性は荷物を抱え、店の中へと入っていく。


 まるで本当に生活している人間のようだった。


「この人たちにも話しかけられるのかな?」


「できると思うよ! クエストを受けたり、買い物をしたりできるんじゃないかな」


「それなら、後でいろいろ見て回ろう」


「うん!」


 皐月は楽しそうに頷いた。


 そのとき、二人の視界に新しいウィンドウが表示された。


《冒険者登録を完了しました》


《プレイヤー:ナイト》


《プレイヤー:サツキ》


《冒険者ランク:F》


《冒険者登録が完了しました》


「冒険者ランク?」


 夜がウィンドウを確認する。


「最初はFランクなんだね」


「ランクを上げていくと、もっと難しい依頼を受けられるようになるのか?」


「たぶんね!」


 さらに、クエスト一覧が表示された。


《初心者向けクエスト》


・街の案内

・冒険者ギルドの説明

・武器屋の利用方法

・防具屋の利用方法

・道具屋の利用方法

・フィールド探索


「初心者向けのクエストがあるみたいだな」


「まずは街を見て回ろうよ!」


「そうだな。せっかくだし、いろいろ確認しておきたい」


「じゃあ、最初は冒険者ギルド!」


 皐月は街の中央にある大きな建物を指差した。


「あそこが冒険者ギルドだと思う!」


「分かるのか?」


「ほら、看板に剣と盾のマークがあるよ!」


 確かに、建物の入り口には剣と盾を組み合わせた大きな看板が掲げられていた。


「冒険者ギルドって感じだな」


「でしょ!」


 二人は人通りの多い大通りを進み、冒険者ギルドへ向かった。


 歩きながらも、夜は周囲の景色を観察していた。


 街の中には様々な店があり、それぞれに異なる種族の店員がいる。


 武器を背負った冒険者らしき人物もいれば、荷車を引く商人の姿もある。


 街の中だけでも、これほど多くのものが存在している。


 これから先、どんな場所へ行けるのだろう。


 どんな種族と出会うのだろう。


 どんな冒険が待っているのだろう。


 そう考えると、自然と胸が高鳴った。


「夜!」


「ん?」


「楽しみだね!」


 皐月がこちらを振り返る。


「ああ。そうだな」


 夜は素直に頷いた。


 その返事を聞いた皐月は、嬉しそうに笑った。


 やがて、二人は冒険者ギルドの前に到着した。


 大きな両開きの扉。


 その向こうからは、賑やかな話し声が聞こえてくる。


「よし! 入ろう!」


「そうだな」


 二人は扉に手を掛ける。


 そして、新しい世界での最初の一歩を踏み出した。


 まだ見ぬ仲間。

 まだ見ぬ敵。

 まだ見ぬ景色。


 そのすべてが、この先に待っている。


 こうして、ナイトとサツキの冒険は、少しずつ動き始めたのだった。

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