第三章 コンビニとバーガーショップに入らないやついる?
第三章 コンビニとバーガーショップに入らないやついる?
金貨二十七枚。
自由財布に表示された数字を見ながら、俺はしみじみと思った。
「本当に増えたな……」
異世界へ召喚されてから、数か月。
王城を追放された時は、どうなることかと思った。
だが今は違う。
吉田屋。ディッパーダイ。エコセカンド。
三店舗が並ぶフランチャイズ広場は、毎日大盛況だった。
朝は牛丼。昼はクレープ。午後は中古品。
人の流れまで、出来上がっている。
気づけば、空き地だった場所は、王都のちょっとした名所になっていた。
そして俺の視界には、以前のメニューに追加された次の候補が並んでいる。
契約候補(契約費用:各金貨5枚)
• 【ファミリーアート】コンビニエンスストア
• 【バーガークイーン】ハンバーガーショップ
• 【カレーの王爵】カレーショップ
• 【スターバックスター】コーヒーショップ
• 【幸楽軒】ラーメンチェーン
• 【和幸福】とんかつチェーン
• 【ほっとモットリ】弁当店
どれも強い。
正直、全部欲しい。
だが、まだ資金は限られている。よく考えなければならない。
「どうするかな……」
そんな時だった。
「牛丼大盛!」
「特盛!」
「あと卵!」
今日も、勇者パーティが現れた。
相変わらずである。
ほぼ毎日いる。もう客というより、近所の常連だ。
「また来たのか」
「来ますよ」
蓮が、当然のように答える。
「ここ以外で、日本食というか、元の世界の食べ物が食えないんですから」
まあ、その通りだった。
そこへ、湊がメニューを見ながら言った。
「店長。次は何を作るんです?」
「考え中」
「コンビニ」
即答だった。
「コンビニ?」
「コンビニ」
美月も頷く。
「コンビニですね」
「なんで?」
すると、四人が同時に答えた。
「コンビニエンスですよ、便利さですよ、あれもこれも買えるじゃないですか。
あっちから来た日本人ですから、次はって聞かれたらコンビニ以外ないですよ」
妙に説得力があった。
◇◇◇
その日の夜。
俺は、ファミリーアートの説明を読んでいた。
販売可能商品
弁当/おにぎり/サンドイッチ/インスタント食品/缶詰
ホットスナック(焼き鳥・唐揚げ など)
菓子/飲料/文房具/日用品/雑誌
「これは強い」
思わず呟く。
牛丼とも違う。ハンバーガーとも違う。
生活そのものだ。
この世界にも、雑貨店はある。食料品店もある。
だが全部別々で、一店舗で何でも揃う店は、ほとんど存在しない。
「これは、革命かもしれないな」
俺は迷わず、契約ボタンを押した。
【ファミリーアート】
契約成立
金貨五枚消費。残りは、金貨二十二枚。
後悔はなかった。
◇◇◇
翌朝。
フランチャイズ広場の隣に、新しいコンテナショップを設置する。
光が走った。
現れたのは、見覚えのある青と緑の看板。
「おお……」
店員たちも驚いていた。
「なんですかこれ」
「雑貨屋ですか?」
「食料品店?」
「全部だ」
「全部?」
「全部だ。食糧でも雑貨でもなんでも売ってる店。
コンビニっていうんだ」
みんな首を傾げる。
そりゃそうだ。コンビニという概念が、存在しないのだから。
◇◇◇
開店初日。
最初は、客も少なかった。
だが一時間後、事態が変わる。
「パンがある!」
「お菓子だ!」
「何だこの飲み物!」
「冷えてるぞ!?」
大騒ぎになった。
特に反応が大きかったのは、ペットボトル飲料だった。
冷たい。持ち歩ける。こぼれない。
三拍子揃っている。
冒険者たちが、飛びついた。
「遠征で使える!」
「これ、持って行きたい!」
「何本買える!?」
大量購入が始まった。
ホットスナックのケースの前でも、人だかりができている。
香ばしいタレの匂いに、冒険者たちの鼻がひくひく動いていた。
◇◇◇
さらに数日後。
別の問題が発生した。
「バーガーが食べたい」
勇者たちである。
「コンビニ出来たじゃん」
「違うんです」
蓮が、真剣な顔になる。
「店長」
「何だ」
「ハンバーガーです」
「そんなにか」
「そんなにです」
美月も頷く。
「ポテトも欲しいです」
欲望に忠実だった。
その日の夜、バーガークイーンの説明を開く。
名物商品
クイーンバーガー/クイーンワッパー(大きなハンバーガー)
フライドポテト/シェイク/炭酸飲料
「うわぁ……」
俺も食べたくなった。
正直、ずるい。
牛丼ばかり食べていたからだ。
バーガーも恋しい。ポテトも恋しい。炭酸も恋しい。
結果、十秒で決まった。
【バーガークイーン】
契約成立
金貨五枚消費。残りは、金貨十七枚。
だが気にしない。
どうせ、また増える。
◇◇◇
三日後。
フランチャイズ広場に、五店舗目が現れた。
吉田屋
ディッパーダイ
エコセカンド
ファミリーアート
バーガークイーン
完全に商店街だった。
いや、小型のショッピングモールに近い。
店員も、十五人近くまで増えている。
星型に店を並べ、各店舗の裏が共通のバックヤード。
俺専用の、商品供給センターである。
「ハンバーガー五つ!」
「ポテト三つ!」
「コーラ七本!」
注文が飛ぶ。俺が生成し、店員へ渡す。店員が販売する。
完全な流れ作業だった。
慣れれば、意外と何とかなる。
◇◇◇
そして、バーガークイーンの開店初日。
勇者パーティは、朝から並んでいた。
「お前ら、何やってんの」
「一番乗りです」
「本気か」
「本気です」
美月が、拳を握る。
「私、三か月ぶりのハンバーガーです」
そこまでか。
そこまでなのか。
だが気持ちは分かる。俺も少し嬉しい。
最初のバーガーを受け取った蓮は、一口食べた。
そして、動かなくなった。
「おい?」
返事がない。
数秒後、彼は天を見上げた。
「帰りたい……」
「日本にか?」
「いや」
蓮は、真顔で言った。
「バーガークイーンに」
全員、爆笑した。
◇◇◇
バーガークイーンの開店から、一週間ほど過ぎた頃。
昼のピーク前の広場に、見慣れない一行が現れた。
先頭は、簡素な町娘風のワンピースに、つばの広い帽子をかぶった少女。
だが帽子の下からこぼれる髪は、見事な銀色だった。
その後ろに、三人の男女が続く。
「普段着を着慣れていない」というのが、ひと目で分かる三人だった。
背筋は不自然なほど伸び、視線は鋭く、全員の腰に隠しきれない膨らみがある。
どう見ても、護衛だった。
「……目立ちすぎだろ」
バックヤードの隙間から様子を見て、俺は頭を抱えた。
だが少女は、そんなことは気にもせず、きょろきょろと広場を見回している。
目が、きらきらと輝いていた。
最初に気付いたのは、勇者たちだった。
「セ――」
「しーっ」
叫びかけた蓮の口を、美月が慌てて塞ぐ。
銀髪の少女は、唇に人差し指を当て、にっこりと笑った。
「セラと申します。ただの旅の者です」
「ただの旅の者は、護衛を三人も連れていません」
湊の小声のツッコミは、聞こえなかったことにされた。
◇◇◇
「案内しましょうか、セラさん」
蓮が、ぎこちなく申し出る。
「まあ、よろしいのですか?」
「は、はい。毎日通ってるので」
「では、お願いいたします」
こうして、勇者パーティによる「お忍び王女」の広場ツアーが始まった。
当の王女は、見るもの全てに驚いていた。
「あれは何ですか?」
「ペットボトル飲料です。冷たいやつ」
「冷たい? この季節に?」
「はい」
「あちらの行列は?」
「バーガークイーンです。ハンバーガー」
「あれが、勇者様方の仰っていた……」
「そうです」
「あの甘い香りは?」
「ディッパーダイ。クレープ屋です」
「くれーぷ」
王女は、その単語を大切そうに繰り返した。
一方、護衛の三人はというと。
「…………」
隊長らしき大柄な男は、バーガークイーンの前で石のように固まっていた。
視線の先には、山盛りのフライドポテト。
「隊長。任務中です」
「分かっている」
「よだれが」
「……分かっている」
可哀想なので、後で三人分、差し入れてやろうと思った。
◇◇◇
ディッパーダイの前で、セラは足を止めた。
「ここで、母にお土産を買いたいのです」
「お母様に?」
リナが、緊張した面持ちで応対する。
「はい。母は、とても甘いものが好きで」
「でしたら、イチゴチョコクレープが人気で――」
「ありますか? もっと、こう……たくさん入ったものは」
「たくさん?」
「全部、です」
リナは、固まった。
「全部……ですか?」
「全部です。お店にある物を、全部」
「店長に確認してきます!」
リナがバックヤードへ飛び込んでくる。
「店長! 全部のせ、ってできますか!?」
「全部のせ?」
「お客様が、母上様に、全部入りのクレープを、と!」
母上様。
その言葉で、俺は全てを察した。
窓の隙間から、もう一度、銀髪の少女を見る。
……王女様、本当に来てしまった。
「分かった。俺が出る」
そう言って、俺はバックヤードを飛び出した。
◇◇◇
カウンターの前で、俺とセレスティアの目が合った。
彼女は、ぱっと顔を輝かせる。
次の瞬間、唇に指を当てた。
「……いらっしゃいませ」
俺は、できるだけ自然に頭を下げた。
「店長さん、ですか?」
「はい。相沢と申します」
「セラと申します。ご挨拶が遅れました」
ほんの一瞬、彼女の目が潤んだ気がした。
「あの夜は……ご無事で、何よりでした」
「あの宿のお陰です。銀の鈴亭の女将さんが、よくしてくれました」
「それを聞いて、安心いたしました」
王女は、小さく息を吐く。
それから、声を落とした。
「父は、あなたに会いたがっています」
「……」
「ですが、まだ、あなたが誰かは知りません」
「それは、助かります」
「いずれ、分かってしまうでしょう。その時は……」
彼女は、まっすぐに俺を見た。
「わたくしが、お味方いたします」
その真剣な眼差しに、一瞬、言葉を失う。
だがすぐに、彼女は悪戯っぽく笑った。
「ですから、今日のところは、全部のせクレープを、お願いします」
「……かしこまりました」
◇◇◇
「全部のせ」の注文に、俺は少し本気を出した。
バックヤードで、ディッパーダイの商品一覧を上から順に確認していく。
イチゴ。バナナ。マンゴー。ブルーベリー。
生クリーム。カスタード。チョコソース。キャラメルソース。
バニラアイス。チョコアイス。ブラウニー。クッキー。ナッツ。
「……全部、入るのか?」
試しに、トッピング全指定を押してみる。
ぽんっ。
出てきたのは、クレープというより、ほとんど花束だった。
もしくは鈍器。
片手では持てない。
具材がはみ出しそうなのを、生地が必死で抱きかかえている。
重い。ずっしり、重い。
手で持つと崩れてしまうので、トレイに乗せた。
「できた……」
「店長、これ、名前は?」
リナが、恐る恐る聞く。
「……特製、全部のせデラックス」
「長いです」
「うるさい」
それを折り箱には入らないため、箱を慎重にかぶせてトレイごとカウンターへ運ぶ。
セラは、それを見るなり、両手で口元を覆った。
「まあ……まあ、まあ!」
目が、少女のように輝いている。
「母が、どんなにお喜びになるか……!」
「溶けますので、お早めにお召し上がりください」
「必ず、そのようにお伝えします」
彼女は、嬉しそうに頷いた。
◇◇◇
次は、ファミリーアートだった。
「父には、何を買って帰ればいいのでしょう」
「お父上は、お酒を召し上がりますか?」
「はい。夜に、少しだけ」
「でしたら、これですね」
俺は、ホットスナックのケースを指さした。
「焼き鳥です」
「やきとり?」
「鶏肉を串に刺して、焼いたものです。タレと塩があります」
「まあ。串焼きですか」
王女の目が、また輝く。
「もも、ねぎま、つくね、皮、砂肝。それを、盛り合わせにできます」
「では、それを、お願いします」
俺は、再びバックヤードへ戻った。
もも、ねぎま、つくね、皮、砂肝。それぞれ二本ずつ、十本。
タレと塩を、半分ずつ。
湯気の立つ串を、折り箱へ並べていく。
「焼き鳥盛り合わせ、お待たせしました」
「まあ、いい香り……」
セラは、箱の中を覗き込んだ。
「父は、きっと気に入ると思います」
「口に合えばいいんですが」
「合わないはずがありません」
彼女は、きっぱりと言った。
「あなたのお店のものですから」
少し、照れ臭かった。
◇◇◇
会計の段になって、ひと悶着あった。
「お代は結構です」
「いいえ」
セラは、きっぱりと首を横に振った。
「正当な対価は、お支払いします」
「ですが」
「店主様」
彼女は、まっすぐな目で俺を見た。
「商いとは、そういうものでしょう?」
……ぐうの音も出なかった。
結局、代金はきちんと受け取った。
自由財布へ収納する時、少しだけ、手が震えた。
それから俺は、護衛の三人を呼び止めた。
「そちらの方々も、よろしければ」
三人分のバーガーとポテトを、差し出す。
「い、いや、任務中ゆえ」
隊長が、重々しく首を振る。
「そうですか」
「…………」
「冷めますよ」
「…………いただく」
三人は、無言で食べ始めた。
そして無言のまま、涙ぐんでいた。
「隊長、これは……」
「言うな」
「しかし……」
「……後で、報告書に書く」
「何と書くのですか」
「『警護対象の食事の安全確認のため、同品を試食した』と書く」
護衛たちは、真面目だった。
◇◇◇
その夜、王城。
国王アルフォンス三世は、食堂の席で、ほんの少し不機嫌そうだった。
「城下を見て回るのは構わん。だが、日が落ちるまでに戻れと言ったはずだ」
「日が落ちる、ほんの少し前に戻りましたわ」
セレスティアは、涼しい顔で答えた。
「それで。お前は、何を買ってきた」
「お父様には、こちらを」
彼女が差し出した折り箱の蓋を開けた瞬間、香ばしいタレの香りが食堂に広がった。
「……これは」
王は、串を一本、手に取った。
つくねを、一口。
「…………」
二本目。ねぎま。
「…………」
三本目。皮。
「………………」
「お父様?」
「……酒が、足りん」
「すぐに、持ってこさせましょう」
王妃エリザベートが、微笑みながら合図をする。
ほどなくして、酒が運ばれてきた。
王は串を片手に、杯を傾けた。
「……悪くない」
そう言いながらも、串を持つ手は、全く止まっていなかった。
「あなた、少し分けてくださいな」
「ならん」
「まあ」
「これは、余のものだ」
王妃が、くすりと笑った。
「では、わたくしは、わたくしの分をいただきますわ」
彼女は、セレスティアが差し出した、もう一つの折り箱を受け取る。
蓋を開けた。
白い生クリーム。鮮やかなフルーツ。ソースにアイスにブラウニー。
それらがぎっしりと詰まった、巨大なクレープ。
「まあ……!」
王妃は、両手で頬を押さえた。
「なんて、可愛らしくて、豪華な」
「母上のために、全部のせにしていただきました」
「全部?」
「全部です」
「まあ、まあ、まあ!」
王妃は少女のように目を輝かせ、銀の匙を取った。
一口。
そのまま、目を閉じる。
「……幸せですわ」
「それは何よりです、母上」
「こんなに幸せな甘さは、初めてかもしれません」
その向かいで、串を手に酒を傾けていた王は、ちらりと妻を見た。
「……そんなに、旨いのか」
「ええ、とても」
「少し、寄越せ」
「あなたには、焼き鳥があるでしょう」
「…………」
王は、むくれて串に戻った。
セレスティアは、笑いをこらえるのに必死だった。
やがて、王がぽつりと呟く。
「……この串の味、あの牛丼と、同じ流れを感じる」
「まあ。そうですか?」
「同じ者の手による品か」
「さあ。わたくしには、分かりかねますわ」
王女は、しれっと答えた。
「だが、例の店主。そろそろ素性が分かる頃だ」
「そうでしょうか」
「その時は、余が直々に会う」
「楽しみですわね、お父様」
セレスティアは、静かに微笑んだ。
その手が膝の上でそっと握られていることに、気付いたのは王妃だけだった。
◇◇◇
ファミリーアートとバーガークイーン。
この二店舗が加わったことで、フランチャイズ広場は、完全に別の姿へ変わり始めていた。
朝は、冒険者たちが吉田屋に並ぶ。
昼は、バーガークイーンに行列ができる。
午後は、ファミリーアートで保存食や飲み物が売れる。
夕方は、ディッパーダイで女性客がクレープを買う。
その合間に、エコセカンドで中古品が動く。
気付けば、一日中、人がいる。
そして俺は、バックヤードでひたすら商品を生成していた。
「牛丼並三つ!」
「了解!」
「チーズバーガー二つ!」
「はいよ!」
「おにぎり十個!」
「ちょっと待って!」
忙しい。ものすごく忙しい。
だが、充実していた。
会社員時代の忙しさとは違う。
働けば働くほど、自分の店が成長していく。
その感覚が、楽しかった。
◇◇◇
そんなある日。
バックヤードへ、店員が飛び込んできた。
「店長!」
「どうした!」
「勇者様たちが、また来ました!」
「またか」
最近、そればかりである。
商品の補充を終えて表へ出ると、案の定、勇者パーティの四人がいた。
すでに、常連席まで確保している。
「お前ら、本当に毎日いるな」
「大事なことなので」
蓮が、真顔で頷いた。
「今日は、何を食った?」
「朝は牛丼」
「いつものな」
「昼はバーガー」
「いつものだな」
「おやつにクレープ」
「いつものだな」
「今から、コンビニでアイスを買います」
「お前ら、完全に休日の学生じゃねえか」
勇者である。
……はずだった。
◇◇◇
ただ、彼らは本当に忙しいらしい。
遠征もしている。魔物討伐もしている。前線支援もしている。
その合間に、ここへ来るのだ。
だから自然と、いろいろな話をするようになった。
「前線は、どうなんだ?」
牛丼を食べながら、俺が尋ねる。
すると湊が、顔をしかめた。
「補給が、厳しいですね」
「やっぱりか」
「食糧不足が、よく起きます」
予想通りだった。
軍隊は、強さより補給が重要だ。
これは会社員時代、物流部門の人間に、嫌というほど教えられた。
商品が届かなければ、全てが止まる。
戦争も、同じである。
「うちの弁当とか、売れそうだな」
何気なく言ってみる。
すると、四人が同時にこちらを見た。
「売ってください」
「真面目な話です」
「前線に欲しいです」
「本気で」
目が、本気だった。
少し、怖い。
「あっためられんから、そこまで美味くないだろ」
「パンとかおにぎりだけでも、ありったけ売ってください」
「マジかよ」
◇◇◇
その頃、フランチャイズ広場では、別の変化も起きていた。
「待ち合わせは、広場で」
という文化である。
王都には、広場がいくつもある。
だが最近は、違った。
「吉田屋の前で」
「バーガークイーンに集合」
「ファミリーアートの横で」
そんな会話が、増えていた。
いつの間にか、ランドマークになっていたのだ。
ある意味、当然だった。
毎日、人が集まる。食べ物がある。椅子もある。休憩もできる。
便利すぎるのである。
◇◇◇
さらに、エコセカンドにも変化が起きていた。
「店長」
店員の一人が、古びた箱を持ってくる。
「これ、変なんです」
「どれ」
査定を行う。ウィンドウが現れた。
古代魔導具
推定価値:金貨3枚
「高っ!」
思わず声が出た。
店員も固まる。持ち込んだ冒険者も固まる。
「そんなに価値があるのか?」
「らしい」
査定機能は、相変わらず優秀だった。
おかげでエコセカンドは、今や王都最大級の中古品市場になりつつある。
貴族まで、利用し始めていた。
◇◇◇
そして、問題も起き始めた。
王都の既存商人たちである。
「最近、客が減った」
「またあの広場か」
「牛丼屋のところだ」
当然、面白くない。
特に飲食店。
茹で肉とパンを出していた店は、大打撃を受けていた。
だが困ったことに。
「食ったことあるか?」
「ある」
「どうだった?」
「……美味かった」
敵側ですら認めるほど、美味いのである。
批判しづらい。
◇◇◇
そんなある夜。
俺は一人で、売上を確認していた。
自由財布を開く。
金貨
四十八枚
「は?」
二度見した。
契約費用を払って、十七枚まで減っていたはずだ。
それがもう、四十八枚。
あり得ない速度で増えている。
「コンビニ、強すぎだろ……」
ファミリーアートの利益が、凄まじかった。
飲食店ではない。生活そのものを売っているのだ。
お菓子。飲料。雑貨。文房具。保存食。
全部売れる。
特に、冒険者の需要が異常だった。
◇◇◇
そして、その夜。
新しい通知が現れた。
総資産到達
金貨五十枚まで、あと少し
さらに下に、もう一行。
中規模店舗解放条件:金貨百枚
俺は思わず、息を呑んだ。
「中規模店舗……」
初めて見る表示だった。
内容を開く。
• スーパー
• ドラッグストア
• コインランドリー
• 学習塾
• フィットネスジム
「なるほど」
規模が違う。
今までは、小規模店舗。いわば単独の店だった。
だが次は、違う。
生活インフラそのものだ。
◇◇◇
その時だった。
「店長」
振り返ると、蓮が立っていた。
珍しく、一人だった。
「なんだ?」
「聞いた」
「何を?」
「次は、もっと大きな店が出るんだろ」
噂が早い。本当に早い。
俺は苦笑した。
「まだ先だけどな」
「そうか」
蓮は、少し笑った。
そして、広場を見渡す。
夜なのに、まだ人がいる。
バーガーを食べる者。雑貨を買う者。クレープを片手に歩く者。中古品を眺める者。
「なあ」
蓮が、静かに言った。
「なんだ」
「追放されて、正解だったのかもな」
思わず、固まった。
蓮は続ける。
「王城にいたら、牛丼屋なんて出来なかっただろ?」
「まあな」
「俺たちも、救われてる」
そう言って、笑った。
「日本には帰れなくても」
「少しだけ、帰った気分になれる」
俺は、少し照れ臭くなった。
だが、悪い気はしなかった。
この広場は、ただの商売ではない。
俺たちにとっては、故郷の欠片でもあるのだ。
◇◇◇
そして、その頃。
王城では、ある人物が、フランチャイズ広場についての報告を受けていた。
国王より調査を命じられた、公爵である。
「その商人の名は?」
「相沢恭平、と」
側近が、書類を差し出す。
「商業ギルドの、営業許可の記録から辿りました」
「素性は?」
「不明です。ただ、勇者様方と、ごく親しいようで」
「ほう」
公爵は、静かに報告書を閉じた。
「相沢、恭平……」
その名を、ゆっくりと口の中で転がす。
どこかで聞いたような響きだった。
「一度、会ってみたいものだな」
その一言が、やがて王都全体を巻き込む、大きな転機へと繋がっていくことを。
まだ、誰も知らない。
第三章・完
第四章「公爵との出会い」へ続く




