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なんでもない毎日

全くわかんない。コイツが何を考えてるか。


親元を離れて、誰かに引き取られることもなくここへ流れ着いてから――ずっとずっと騙され続けてきた。


ニコニコしながら児童保護だなんだと言って近づいてきた奴。

物陰で服をひん剥かれそうになった。


飯をやるから簡単な仕事をやってくれと言ってきたジジィ。

貰ったパウチは開けた瞬間捨てた。


仲間にしてやると言ってきたあのクソガキ。

ただの雑用係だった。


ここに善意なんてない。


だがこの目の前で寝息を立ててるやつはどうだ。


捕まってた私を助けて。

生きるために必要なことを教えて。

熱を出して死にそうになってた私を看病して。


本当になんだろうなぁこいつ。


その気になればここにある物、全部持って逃げられるんだけど。


「ん…。」


あ、起きた。


お人好しがむくりと起き上がる。

「…先に起きてたか。」


ズタ袋からパンを取り出して投げて寄越す。


すこしこちらの方が大きい。


「なあこれ…そっちのより大きくない?」


モソモソとパンを口に入れながら、そいつは答えた。

「気のせいだろ?さっさと食べろよ。」


あまり借りを作りたくないのだけど。


毎日そんな調子だからしばらくすると気にならなくなった。


私はいつもこいつより遅く寝て早く起きていた。


一週間ほど経った頃には、こいつが起きるまでにその日の準備を整えてやるようになった。


最初こそ不気味がられたが、それもしばらくすれば気にしなくなってた。


二週間も経つ頃には、廃墟を漁る役割も自然に決まっていた。

こいつが扉をこじ開け、私が中を調べる。

こいつが物音を聞きつけ、私が逃げ道を決める。

「左」

「分かった」

それだけで通じるようになったのが、いつからだったのか。

もう覚えていない。


気づけば寝床も一つになっていた。

寒いからだ、と二人とも言った。

たぶん最初は、本当にそうだった。


気が付けば私はルイを完全に信用していた。


ヘマをしてジャンク屋のオッサンに捕まった時は、身代わりになって逃がしてくれた。

そのあと帰って来たルイはボロ雑巾みたくなってた。


なんで私なんかの為に…。


手当をしてやったら。


「そんなの要らねぇよほっときゃ治るって…痛っ…。」


「いいから!いつも世話になってるんだから!大人しくして!ルイ兄ぃ《にぃ》!」

…あ。

今、なんて呼んだ、私?


その時の心底驚いたルイ兄ぃの顔…二度と拝めないだろう。


そんなある日、助け合ってた別のグループで風邪が流行っていた。

どうも普通の風邪じゃなかったようで数日たってもそいつらの調子が戻らなかった。


「薬を探しに行くか。」


ルイ兄ぃがそんなことを言い出した。


「ルイ兄ぃ。さすがにお人好しすぎない?それに薬なんてどこに?」


「病院に忍び込めば…なんとかならねぇかな?」


「どうしても必要?これまで相手してきたノロマな店主共とは話が違うよ?」


「何とかしてやりてぇじゃねえか…!」


全くルイ兄ぃときたら…そういやあのグループは小さい子が多かったな。


でも病院に忍び込むのは絶対無理だ。


「どうしても必要?」


「ああ」


仕方ないなぁ。


「もしかしたら薬があるかもしれない場所。知ってるよ。」


「本当か?ナギ!」


「今私とルイ兄ぃが居るこの地下街。もっと奥があるの知ってるでしょ?」


「ああ…でも道が崩れてて…。」


「もしかしたら別の入り口があるかも。」


偶然拾った金属のプレートを差し出す。

そこには錆びて所々読めなくなっているが地下街の地図らしきものが書いてある。


「錆びてて読めないけど…昔の人が作ったシェルターみたい。」

「1番街の入り口に崩れた塔あるでしょ?あれはたぶん換気口。もしかしたらそこからなら中に入れるかも。」

「でも止めといた方が良いよ。危ないかもしれないし。」


「もし薬が手に入れば俺たちが困った時にも役に立つだろ?」


「ほんとに行くの?」


「行く。」


ルイ兄ぃは一度言い出したら聞かないからなぁ。


ロープを用意して二人で換気口へ向かう。

ひしゃげたカバーを鉄パイプでこじ開けて中に入ってみる。


「入れたな。」


「入れたね。」


ロープを伝って降りた先には自分たちが隠れ家にしている地下街と同じような光景が広がっていた。

決定的に違うのは昔の物がそのまま残っていたことだ。


これなら何か残ってるかもしれない。


しばらく奥へ進んでいくと金属の大きなドアが見えた。シェルターの入り口だろう。

しかしそのドアはとてもじゃないけど鉄パイプでどうにかなる物じゃない。

ドアの横には小さく赤いランプが点滅していた。


「っあーーここまで来たのにこれかよー!」


うーんやっぱりそう簡単には行かないかぁ…?


あれ?あれって…?


横の通路に目をやると壁にもたれ掛かったまま装備も服も…肉さえも風化して骨だけになった兵士が居た。


あそこに落ちてるの…カードキー?


拾い上げて書かれてる文字を読んでみる。

陸上自…隊?

中…方面、非常…集積…?

AUTHORIZED PERSONNEL ONLY


うーんほとんど掠れてて古い文字だから読めないけど…この奥になにかあるのは間違いなさそう。


もしかしてこれで開くかな?


「ルイ兄ぃちょっとどいて。」


――ピッ。


んーまさかねー動く訳ないよね。


一秒。

二秒。

何も起きない。


「…壊れてんじゃね?」


その瞬間。


『認証――確認』


『中部方面隊非常物資集積場。隔壁を解放します』


ゴ…ゴゴゴゴ…

埃が天井から降る。

巨大な防爆扉がゆっくり開く。


開いた…!開いちゃった!


「ナギ…これ…!」


しかし、その中は想像と違っていた。

崩れた棚

腐食したコンテナ

水没した区画

黒く死んだ端末

中身が駄目になった保存食

破損した医療設備


「…なんにも無かったな。」


ルイ兄ぃも落胆している。


――しかし。


「…あれ?ナギ…?なんか聞こえねぇか?」


音のする方へ向かう。

ほとんどが壊れた金属の箱の群れの中に


たった一つだけ。


緑色のランプ。


「生きてる…?」


ルイが扉に手を掛け引っ張る。


少しの抵抗のあとドアが開いて中から冷気が流れて来た。


真空・窒素封入された長期保存薬

凍結乾燥された抗生物質

使用時に溶媒と混ぜる二剤式の注射

自己診断機能付きの軍用救急カートリッジ

基本的な物が纏めてパッケージングされたファーストエイドキット


大昔の戦争のために備蓄されていた医療品だった。


「ナギ!これって…!」


「やったねルイ兄ぃ!」


そこから薬をズタ袋に詰めていく。


「なあナギ?これ全部持って行くのか?」


「うん。」


「この効きそうなやつだけ持って行くんじゃだめか?」


「分からない。分からないなら、選ばない方がいい。」


「そっか…そうだな。」


薬を詰め終え、私たちは立ち去ろうとした。

その時、ルイは一番下に収納されてた小さいコンテナに目を留めた。


「ルイ兄ぃどうしたの?」


一目で医薬品ではないと分かる見た目だったので、私たちは置いていこうとしていた。

しかし、なにか引っかかったのか、ルイはそのコンテナを開ける。


その中には黒光りするくの字をした鉄の塊が入っていた。

傍らのプレートには『40式9㎜自動拳銃』の文字。


「ルイ兄ぃ…それって…!」


「昔のピストルだな…使えるのかな?」

「仕組みは…今のとそんなに変わんねぇ。」


ジャンクヤードにはときどきこういうものが捨てられている。

ほとんど生体認証で撃てないから鉄屑にしかならない。


「…古くせぇ銃だな。」


一緒に保管されてた弾を銃に込める。


壁に向かってトリガーを引く。


ぱぁんと乾いた音を立てて銃弾が発射される。


私は『キャッ』と小さい悲鳴を上げた。


予想外の反動に銃を落としかけて慌ててグリップを握り直すルイ。


「…撃てた」

ルイ兄ぃは、しばらく拳銃を見つめていた。

「認証も何もねぇ。ただ引き金を引いただけで…。」

そして、私には意味の分からない言葉を小さく漏らした。

「…これさえ、あの時あれば…。」


「ルイ兄ぃ…それ持って行くの?」


ルイは何も言わずポケットにそれをしまい込んだ。


私たちはその場所を後にする。


立ち去りかけて、私は一度だけ振り返った。

防爆扉の脇に横たわる兵士へ、ほんの少し頭を下げる。


「行くよ、ルイ兄ぃ」

それだけ言って、先に歩き出した。


地上へ戻るころには私たちの足取りも軽くなってた。


「今日は何食う?」


「何でもいいよ。」


「じゃあ今日は豪勢に…肉でも食べるか!」


「あの最後の肉!?だめだよ取っとかないと。勿体ないよ!」


「今日のお宝があればあれくらいいくらでも手に入る!」


「もう…ルイ兄ぃはほんとに後先考えないよね!」


その夜、私たちはささやかなパーティを開いた。

まだ新しいパン、パウチされた人工肉、駅の売店からくすねてきたチョコレートバー


ルイ兄ぃが肉を切り分ける。相変わらず私の方が多い。


二人で食べたチョコレート。甘い物なんてめったに食べられない。


ルイ兄ぃがにかっとこちらに笑顔を向ける。


私も微笑み返す。


ルイ兄ぃに会えて本当に良かったなぁ。


腹いっぱい食べた私たちはそのまま寝床にもぐりこんだ。

辛く厳しいスラムでの生活だがこの時だけは幸せな時間が流れていた。

私は満たされた腹を抱えたまま、ゆっくりまどろみに落ちていった。




その夜


大きな爆発音。


私たちは飛び起きて地上へ駆け出した。

そこで見たものは――


町が…町が燃えていた。


熱気と煙が頬を撫でた。


遠くで建物が燃えている。いや、一か所ではない。あちらでも、こちらでも赤い炎が夜空を染めていた。


悲鳴。怒鳴り声。何かが砕ける音。


人々は荷物も持たず、互いにぶつかりながら四方八方へ逃げていく。

倒れた露店を飛び越える者もいれば、転んだ子供を抱き起こそうと立ち止まる者もいる。


「なんなんだよこれ…!」


ルイ兄ぃが呟いた、その時――


また一つ、腹の底まで響く爆発音が鳴った。


「ルイ兄ぃ…。」


私はルイ兄ぃの腕をぎゅうっと抱きしめた。



はーい。みなさんぐーてんもるげーん。辰城ナオでございます。


第2話の投稿から間を開けず第3話でございます。

もともと2話と3話は一つのお話にするつもりでしたが途中で疲れすぎていったん区切りました。


個人的にスラム編は特に書きたいシーンがそんなに無かったので苦戦しましたねぇ。

最低限の要素だけ詰めたのでだいぶん淡白な話になりました。

でも良いんです!書きたいのはそこじゃないから!



さて登場しました。月城ナギ。

もともと彼女はChatGPTでセンシティブなイラストをなんとか出力しようと四苦八苦してた時。

ルイくんと抱き合ってるイラストが偶然出力されたんですわ。



その子の切なそうな表情がなんともたまらなかったのでキャラクターとして採用したんですわ。


本当は金髪ショートのショタだったんですけどキャラ策定の段階であえて性別を女性にしてやりましたわ。


その理由は・・・最後まで読めば明かされるかもしれないし、明かされないかもしれませんわ。


この作者!ラストのエモさだけを目指してそれ以外の物を配してるので結果的にすべてに必然が付きまとう・・・・!


しかしたまに洗練された無駄のない無駄な動きをするので要注意ですぞ。


今回世界の謎が少しだけ垣間見えましたがどうでしょうか?次回はちゃんとした大人目線なので世界の謎も描画しやすいので今から楽しみです。


作者の脳内ワールドがあふれ出します。多分。


40式9㎜自動拳銃のディティールは皆様の想像にオマカセします。HK45あたりの見た目を想像してください。



さて次回予告。


ついにあの男が登場だっ!

弾けろ筋肉!飛び散れ汗!

戦車に撥ねられても!飛行機から落ちてもビクともしねぇ!

タフネス設計!鉄壁!不屈の軍人!

邪魔するやつはぁみんなまとめて掛かってきやがれ!

これぞ豪快!スーパーバトルアクション!

次回ーKommandoー読まねぇやつは後悔するぜぇ!?


こうご期待

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