R.Z.0072 南澪動乱
始まりがいつだったのか――正確な記録は、もう残っていない。
大きな国と、ちいさなちいさな国との戦争は、やがて世界へと広がっていった。
機械が戦場で人を殺す時代の幕開けである。
長い長い戦争の時代は機械とAI技術の発展を促した。
そんなある日突如として機械たちが人類に反旗を翻した。
無尽蔵に増える戦闘機械。
遠方で閃光。
立ち上がってくる不気味な雲。
人類は禁忌である核の力を以て対抗したが無駄であった。
生き残るために巨大な城門へ向かう生気を失った難民。
もはや国という枠組みは崩壊し人類は自ら築いた巨大な城塞の内側で滅亡の時を待つだけだった。
そんな折、一つの転機が訪れた。
戦闘機械のコード解析に成功し、人類はようやく対抗手段を得た。
停止命令を発信したことで世界中で機械の悪魔達は動きを止めた。
しかし、既に疲弊の極みにあった人類の手だけで、荒廃した地球を再生することは不可能だった。
そこで、これまで人類を滅亡の淵まで追い込んだ戦闘機械に目を付けた。
コードを書き換え地球圏の復興に利用したのである。
Zentrale Künstliche Intelligenz MATER
『中央人工知性MATER』
MATERは人類再建の中枢となった。その管理中枢を擁する国家はやがて帝国を名乗った。
帝国はいつしかヨーロッパ全土を版図とする大帝国となっていた。
帝国はこの年を元年と定め、西暦を捨てた。
新たなる紀年法――帝国歴。
R.Z.0001。新しい時代の始まりである。
――そしてR.Z.0070年。私は妻と子を失った。
10歳の誕生日パーティの為に市庁舎に居た妻と息子は、ただ運悪くテロに巻き込まれた。
軍務で向かうのが遅くなっていた私はパーティー会場に向かう途中でその連絡を受けた。その手には息子へのプレゼントを握っていた。
私は自ら望んで換装処置を受けた。
原型は、四肢を失った兵士を社会復帰させるための双方向神経接続義肢だった。
それを軍は、別の方向へ発展させた。
負傷兵をもう一度戦線へ送り返す。
その命の最後の一滴まで使い潰すために。
原型が作られた時代よりは安全になったとはいえ全身の骨格をチタンフレームで強化して手足を義手と義足に換装する…一度受ければ後戻りはできない。
自身の半分を機械とする。それを代償として得られるのが装甲フレーム《パンツァーフラーメン》。
生身の歩兵では到底扱えない重火器を軽々と振り回し車両の突進すら止める。
手術を受けた直後のリハビリは過酷だった。四肢全てを一度に機械化したせいでまったく体が思い通りに動かない。戦闘用マニピュレーターの繊細な操作に慣れるまでに壊したカップの数は覚えていない。
体内に埋め込んだフレームが馴染むまでのあいだは不定期で訪れる痛みに耐えなければならなかった。半年は碌に眠れない日が続いた。
操縦訓練を終えた私は極東の島国『澪央皇国』へ派遣された。
このころは特にテロが活性化していた時期だった。
今から思えば…この時期のテロリストには目的が見えていた。
襲われるのは決まって放送局や警察署それと……市庁舎……とにかく政府関連の施設がほとんどだった。
手口もシンプルで手製の爆弾を送り付けるのが一番多かった。銃火器で武装して蜂起する事もあったが稀だった。
しかし最近は様相が変わってきた。
無人の建設機械を使っての破壊活動。
それも駅や公園などを狙うようになってきた。
駅や公園を狙う理由は分かる。
人を殺すためというより、社会そのものを混乱させるためだ。
だが、一つだけ腑に落ちない。
なぜ建設機械なんだ。
MATERの管理下にある重機には、幾重もの認証機構と安全装置が組み込まれている。
人間一人を轢き殺すだけでも、本来なら機械自身が動作を拒否するはずだ。
それを外部から意図的に殺人機械へ変えた者がいる。
――だとすれば、そいつはMATERの構造を知りすぎている。
先週起きたテロ事件の報告書を読みながらそんな事を考えていた。
コーヒーを入れる為に立ち上がる。
あいにくインスタントしかないが朝から書類と格闘して少し疲れた体にはこれで十分。
義手が滑らかな動きでカップの取っ手を掴む。
昔なら、これだけでカップを一つ割っていた。
テレビではここから少し離れた南澪港で行われている澪央皇国、帝国両国の合同艦艇一般公開日の様子が映し出されている。
外ではフォス先任軍曹が訓練を監督しており、時折怒号が聞こえてくる。
珍しく穏やかな昼下がり。
さてもう一仕事‥‥。
そんな静寂を引き裂くように、けたたましい警報ベルが小隊本部室に鳴り響いた。
――ジリリリリリリリリリッ!
『警報。警報。南澪地区にて大規模機械暴走を確認。即応部隊は第四格納庫へ集合せよ』
少し間を置いて基地全体のスピーカーがそう告げる。
廊下へ出ると、基地は既に動き始めていた。
急いではいるが慌てている者は一人もいない。
中隊長の執務室で正式な出撃命令を受領し、その足で第四格納庫へ向かう。
格納庫ではフォス先任軍曹が既に部下の兵達を整列させ私の到着を待っていた。
フォス先任軍曹と部下たちは一斉に右手を伸ばした。
「マーテル万歳!《ハイル・マーテル》」
帝国軍の正式な敬礼だ。
私も右腕を上げ、規定通り答礼する。
「グレイ少尉、お待ちしておりました。」
「軍曹、準備は?」
「はっ。擲弾兵は出撃準備を完了しております。」
「あとは我々装甲擲弾兵の準備が終わればいつでも出られます。」
「よろしい軍曹。擲弾兵の装備は?」
「暴走機械の相手ですので携行ロケット《パンツァーシュレック》を準備させております。」
「使い捨てロケット《パンツァーファウスト》は?」
「不測の事態に備えて各班に定数より2本多く持たせております。」
「良いだろう。よし、それでは我々も準備するぞ。」
「了解しました。マーテル万歳!」
格納庫の隅に設置された格納架へ向かう。
向かいながらジャケットとズボンを脱ぎ捨てインナーだけの状態になる。
待機中は常に専用インナーを着用しておく規定だ。
装甲フレーム《パンツァーフラーメン》が背面の装甲を開けて主を待っていた。
まず足を差し込み、次は腕を差し込む。
機械義肢を接続。
ガコンという重たいロック音が響く。
振動が直接骨に伝わる嫌な感覚だけは何度やっても慣れない。
装甲板が閉じる。
一瞬だけ視界が暗転し、次の瞬間には正面ディスプレイが立ち上がった。
正面ディスプレイに次々とチェック表示が走る。
動力、音声認識、神経接続、姿勢制御――すべて正常。
最後に残った表示が緑へ変わった。
全身が鋼鉄の殻に包まれる。
そこに立っていたのは、灰色の巨人だった。
整備兵が専用台車で装備を運んで来る。半身が隠れる巨大な盾と『シャベル』と呼ばれる両刃の斧に似た斬撃兵装だ。
盾を装着しシャベルを握る。
柄から伝わる確かな重み。感覚フィードバックも正常だ。
「少尉殿!背面装備装着します!そのまま待機してください!」
整備兵が動かすリフトが背後に迫る。リフトが支えているのは肩ごしに射撃できる20㎜機関砲と歩兵用の使い捨てロケット《パンツァーファウスト》を4本束ねた発射機
接続音が響き、ディスプレイに装備された兵装が表示される。
「少尉。こちらも準備完了いたしました。」
声のした方向へ振り向く。
そこには同じく装甲フレーム《パンツァーフラーメン》を身に着けたフォス先任軍曹の姿があった。
その手には、本来なら擲弾兵3人がかりで扱う対戦車ライフルが握られていた。
「少尉。訓示をお願いします。」
暖機運転を終え出撃準備を整えたワルキューレを背後に我らが精鋭が整列している。
彼らの前に立つ。
「我が精兵諸君!帝国軍人の義務を果たす時間だ!」
「これより我が隊は南澪港へ暴走機械鎮圧に向かう!」
「艦艇の一般公開日につき現地では多数の民間人が確認されている!誤認射撃には十分注意を払うように!」
「憲兵隊も出ている!民間人の避難と救護は彼らに任せて我々は暴走機械の対処に全力を尽くせ!」
「背後組織は不明だが恐らくテロリストの犯行と思われる!昨今の状況を鑑みて想定外の事態が起こる事もありうる!各員十分に警戒せよ!」
「諸君らの能力に疑問は無い!普段通り冷静に行動せよ!」
すぅっと息を吸い込む。
「我らはぁ!!栄光のぉぉ!!――」
兵たちが一斉に唱和する。
『空中強襲擲弾兵隊!』
一拍置いて、フォス先任軍曹が怒鳴った。
「よし、お前ら! 搭乗開始だ! もたもたするな!」
まるで一つの生き物のようにスムーズに三機のワルキューレへ乗り込んでいく。
装備を整えた擲弾兵に続いて支援重火器班が続く。最後に私とフォス先任軍曹と帯同する通信兵と衛生兵が乗り込み出撃準備が整った。
「少尉殿!管制塔から許可が出ました!出撃します!」
コクピットからパイロットがコチラに叫ぶ。
「ああ!頼む!」
エンジン音が甲高いものへと変わる。
わずかな間を置いて機体が浮き上がり、そのまま前進を開始した。
湾に浮かぶ人工島に作られた駐屯地がどんどん小さくなる。
南澪港までは10分程度の距離。
ワルキューレの中では擲弾兵達が各々の方法で最後になるかもしれない時間を過ごしていた。
自分の命を預ける武器の点検、他愛も無い雑談、家族の写真を見る、両掌を組み祈る。
それぞれが、それぞれの方法でその時を待つ。
『オーギュスト隊とブルーノ隊は南澪埠頭で降ろして交戦中の澪央皇国海軍の歩兵と共同で対処にあたれ。』
『お任せください!皇国兵も無事に帰して見せますよ!』
『…了解しました。』
『ブルーノ、オーギュストが無理をしそうなら止めろよ。』
『…またですか。了解いたしました。』
ブルーノのため息が聞こえたような気がした。
『小隊本部とクラーマーの隊は空中待機。不測の事態に備える。』
『りょ…了解です!』
クラーマー軍曹がすこしどもりながら答える。
『クラーマー軍曹!そう緊張するな!訓練通り動け!』
フォス先任軍曹が不器用な激励を飛ばす。
『クラーマー軍曹。貴官は実力を示したからその立場に居るのだ。自信を持て。』
『少尉…!了解しました。せっ…精一杯努めます!』
遠くに南澪港が見えてくる。
数か所、黒い煙が立ち上ってる。
岸壁には澪央皇国海軍と帝国の船が並んで係留されている。
火災を起こしたのか黒煙を上げている。
『グレイ少尉!お先に失礼します!マーテル万歳!』
『オーギュスト!無理はするなよ!』
『ご安心を少尉!作業用の汎用機など相手ではありませんよ!』
『油断もするなよ!』
『それでは我々も行きます…。マーテル万歳。』
抑揚を欠いているブルーノの声が聞こえてきた。
常に冷静沈着。帝国軍人の模範のような奴だ。
『ブルーノ!オーギュストを頼んだぞ!』
『…慣れております。』
短い通信が終わると2機のワルキューレが降下を開始する。
埠頭へ着陸した2機のワルキューレからオーギュストとブルーノの分隊が展開するのが見えた。
澪央皇国海軍の歩兵達と協力して防衛線を張り作業機械を撃退している。
『さて…。軍曹、我々の出番はあるかな?』
『今のところは問題ないでしょう。』
『ですが…嫌な予感がしますな。』
その時帯同していた通信兵が叫んだ。
『グレイ少尉!新たに南澪港駅前の広場に暴走機械が現れました!』
すぐに機長に指示を出し、広場へ向かう。
しばらくすると南澪港駅前の広場が見えてくる。
何台かの作業機械が見えた。周囲には逃げる民間人と、応戦している憲兵隊。
『機長!広場の隅に場所がある!そこに頼む!』
『了解』
『よーしお前ら!出番だ!気を引き締めて行け!』
フォス先任軍曹の檄が飛ぶ。
全身が揺さぶられる荒々しい着地。
一拍置いて機体後部のランプドアが開かれ、擲弾兵が一斉に飛び出し着陸地点を囲むように円陣を組む。
全員が下りたのを確認するとワルキューレはそのまま飛び去って行く。
地上の様子は惨憺たるものだった。我先にと逃げる人々。短機関銃で果敢に応戦し、そのまま倒れた憲兵隊員。彼らが相手しているのは付近の現場で使われていたであろう2足歩行の作業機械。
・・・あれは?有人機ではないのか?
暴走していた作業機械は胴体部にガラス張りコクピットを備えた有人機であった。
しかしそこに搭乗員は居ない。
『擲弾兵!前進!』
クラーマー軍曹の号令と同時に、擲弾兵隊が射撃を浴びせながら前進を開始した。
『やはり小銃では効果が薄いですな。クラーマー軍曹!』
フォス先任軍曹が叫ぶ。
『了解です!携行ロケット!《パンツァーシュレック》射撃用意!』
『撃ぇ!』
重火器班が携行ロケット《パンツァーシュレック》を発射。
バシュウという音とともに発射されたミサイルが飛んでいく。
作業機械の動きに合わせて進路を自ら調整し目標に命中した。
爆炎が晴れたあと、そこに残っていたのは歪んだ残骸だけだった。
その時上空から低い羽音が重なって聞こえてきた。
一機や二機ではない。
見上げれば、配送用の小型ドローンが空を埋めるようにこちらへ向かってくる。
本来なら荷物を吊るして街を飛び回るだけの機械だ。
だが今は、群れを成して真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる。
『注意!上空だ!』
擲弾兵が叫ぶ。
その時、別の轟音が通りの奥から響いた。
無人の大型輸送トラックが、信号も障害物も無視してこちらへ突進してくる。
『クラーマー軍曹! 地上からも来ます!』
別の擲弾兵が叫ぶ。
空にはドローン。
地上には暴走車両。
先ほどまで散発的だった機械の暴走が、まるでこちらを包囲するように一斉に動き始めていた。
配送ドローンが人間を襲う理由などない。
トラックが兵を轢き殺すために進路を変える理由もない。
それでも奴らは、明確にこちらを狙っていた。
『クラーマー、上空は擲弾兵に任せろ。グスタフとシュルツを地上へ回せ』
『少尉!?了解しました!』
『擲弾兵隊は上空のドローンを迎撃!撃ち漏らすな!』
『グスタフ!シュルツ!トラックを迎撃!』
クラーマー軍曹が即座に命令を下す。
擲弾兵隊は一糸乱れぬ射撃でドローンの群れを打ち落としていく。
装甲フレーム《パンツァーフラーメン》を身に着けたグスタフとシュルツはトラックに向けて対戦車ライフルで破砕射撃を始める。
大砲と聞き紛うような轟音が、立て続けに響いた。
轟音が止んだ時には、トラックは原形を留めぬ残骸と化していた。
『これは完全な『攻撃』ですな。』
『考えるのは基地に戻ってからだ。』
それを皮切りに四方八方から様々な機械がこちらを圧殺せんと殺到しだした。
無人機も、本来なら人が操縦するはずの機械も。
『少尉!何かおかしいですよ!』
『明らかに敵の意図が変わったように感じます…。』
オーギュストとブルーノから通信が入る。
『オーギュスト!ブルーノ!そちらもか。対処は可能か?』
『問題ありませんよ。澪央の奴ら、巡洋艦の大砲まで使ってます。おかげで楽ができます。』
『こちらは問題ありません。少尉の方は?』
『こちらも今は大丈夫だ。何とかする。』
『了解しました。埠頭の対処が終わり次第援護に向かいます。』
『そう言ったものの…少々押されてますな。』
言葉とは裏腹に先任軍曹の顔に焦りの色は無い。
『弾薬が心配だな。補給を積んだワルキューレはどこに?』
『さきほど出撃したと連絡がありましたので間もなく到着するかと。』
『…対戦車火器の弾薬が不足しております。思っていたより規模が大きく…予想をはずしてしまいました。申し訳ありません』
フォス先任軍曹は少し視線を下に向けて改め向き直ってからそう付け加えた。
その時遠くからワルキューレの甲高いエンジン音が聞こえて来た。
しかし様子がおかしい。
・・・被弾している?
機体上部に取り付けられている2基ジェットエンジンのうち片方が黒煙を上げているのが見える。
落ちるぞ・・・!
我々を飛び越えビルの隙間に消えたかと思うと爆発音が響いた。
『まずいな…クラーマー軍曹!』
『少尉!どうなさいましたか!?』
『弾薬の残りは?』
『対戦車火器の弾薬が足りません!』
『装甲擲弾兵は対戦車ライフルを撃ち切りました。』
『白兵戦にて大型作業機に対処してますがそろそろ限界です。』
『擲弾兵も残弾残り僅かです!』
その声には焦りが滲んでいた。
『…先任軍曹…追加の補給は?』
『どうやってもあと15分は掛かります』
冷静なように見えて声のトーンがいつもより低かった。
『警戒!新手の機械です!』
最前線で戦線を維持していた擲弾兵から悲鳴のような報告が入る。
『先任軍曹…この場を頼めるか?』
『またお得意の独断専行ですか。』
先任軍曹の声には呆れといったニュアンスが混じっていた。
『しかしこの場は止むをえませんな。』
合理性を欠く判断だがこの場でとれる手だてはそう多くない。
『承知しました。この場は受け持ちましょう!』
『…いつもすまんな軍曹…。』
さて…行くか…。
軽く手足を動かし感覚と動作を確認する。
『ダッシュ』
そう一言呟くと足裏のローラーが高速回転を始める。
そのまま私の体は氷上をすべるように移動を始める。
そのまま作業機械と組みあってるグスタフのもとへ近づく、古の軽騎兵のサーベルのように体の外側に刃がくるよう右手のシャベルを構える。
『グスタフ!下がれ!』
グスタフ伍長が一瞬だけ組みつくのをやめて下がる。
そこにローラーダッシュの勢いのままシャベルで作業機を切りつける。
鉄と鉄がぶつかり合う音が響き作業機は上半身と下半身に両断された。
『少尉!助かりました!』
その声に軽くシャベルを振って答える。
次はドローンの群れに対処している擲弾兵。
弾薬が少なく射撃の頻度が落ちている。
『対空射撃。目標敵ドローン。VT。』
ボイスコマンドに反応して右肩の機関砲が動作する。
ダン、ダン、ダン――と間を置いて20ミリ砲弾が吐き出される。
近接信管は目標の付近で砲弾を爆発させドローンを効率よく叩き落す。
「少尉が来てくれたぞ!」
「やった!俺たち助かったんだな!」
擲弾兵達の一群の傍らでローラーを停止させる。
『皆よく耐えたな。もうすぐ補給が来る!それまで耐えろ!』
『まだまだ先は長いぞ!』
『了解!少尉もお気をつけて!』
それから幾度となく敵の襲撃を退けた。
盾は作業機械のクローアームの一撃を受けて使い物にならなくなった。
4連ロケットはとうに撃ち切っている。
機関砲は弾薬が切れたのでバックパックごと放棄した。
先に事態を終わらせたオーギュスト隊とブルーノ隊が到着してようやく収束した。
・・・終わったか…。
機械の残骸、炎上している車両、火災を起こしたビル。
犠牲者と憲兵隊の遺体。
普段は買い物客や親子で賑わっている様子からは想像できない惨状であった。
我々も無事ではなかった。
私達と共に降りたクラーマー隊は擲弾兵2名が死亡、重傷者1名、ほか軽傷者多数。
グスタフが失った腕の付け根を押さえている。
救護兵が負傷者のそばに膝をついていた。
私もヘッドギアを外ししばしの休息を取ろうとした時。
微かにタタタタタという軽い銃声と何かがコンテナにぶつかる音がした。
音がした方を見てみると憲兵隊の士官が逃げ遅れた親子と黄色い作業機械の間に立っている。
そして逃げ遅れた親子を見た瞬間。鼓動が早くなった。2年前のあの時…俺は守れなかった…!
・・・許せるわけない・・・!
『ダッシュ!急げ!』
すぐさまコマンドに反応して足裏のローラーが高速回転を始める。
しかし
間に合わない・・・・!黄の巨人は腕を振り上げようとしていた!
『シャベル投擲!弾道計算!』
即座にOSが計算を開始する。ローラーダッシュ中、それも本来想定されていない投擲だ。命中率は5割程度であった。しかしこのままでは確実に間に合わない!
『うおぉぉぉぉぉぁぁぁぁああ!』
ローラーダッシュの速度と全身の筋肉とアクチュエーター、すべての力を合わせての投擲。本来なら放物線を描くはずの投擲物はほとんど直線に見える軌道で黄の巨人の胴体を直撃した。
バチっと音がして脚部のローラーが止まる。負荷をかけ過ぎた。
だがそれでいい・・・・ここからなら歩いて行っても間に合う。
黄の巨人に向けてあゆみを進める。
一度派手に転倒していた黄の巨人が再び起き上がった。
しぶとい
『……やはり……完全に破壊しなければ危険か……。』
黄の巨人がこちらに向き直り腕を振り上げ……振り下ろした。
遅い。
左手で受け止める。
全身に衝撃が走った。接続部を介して自身の骨にまで衝撃が伝わる。
嫌な感覚だ。
誰の…。
モニターには腕部過負荷の文字。
『右ナックル』
右手のマニピュレータを保護するためのナックルガードが展開して拳を守る。
黄の巨人の腕関節へ向けて拳を叩き込む。
誰のせいで…。
バキンと音を立てて関節は簡単に砕け散り、あたりに部品をまき散らした。
操縦席に刺さったままのシャベルを引き抜く。
こんな体になってしまったと思ってる!!
『がぁぁぁぁぁあああ!』
ガゴォンッ!! ガゴォンッ!! ガゴォンッ!!
すべての感情をぶつけるようにシャベルを振るう。
すべてが終わった時。
そこには原型をとどめていない作業機械が横たわっていた。
少年と憲兵のほうへ向き直る。
ゆっくりと少年の方へ歩み寄る。
少年は地面にへたり込みガタガタと震えていた。
『…間に合わなくてすまなかった…。』
これは目の前の少年に向けた言葉なのか?
『…少尉、この子を連れて行ってくれ。この先のセクターに救援が来ている。』
「了解しました……グレイ少尉もお気をつけて。」
憲兵少尉の顔に少しだが恐怖の色がにじんでいた。
『さあ……君も早く行きなさい。』
「……嫌だ……嫌だ……嫌だ嫌だ!」
「だってかーさんがまだここにいるじゃないか!一人にできないよ!かーさんも一緒に行くんだ!」
泣きじゃくりながら、年相応の必死さで母親に縋る。
『……いいかい少年……君のおかあさんは死んだんだ。もうここから動けない。』
「嘘だ!血がいっぱいでてるけどお医者さんなら治せるよ!動けないならここにお医者さんを呼べばいいじゃないか!すぐに呼んできてよ!」
『いい加減にしないか!』
どれだけ泣きわめこうが一度失われた命は戻らない。そんなことは、私が誰より知っている。
『このままここに居たら君も危ないんだ!』
『きみのおかあさんはそれを望んでいたと思うか!?』
「ううっ……でもでも……一人になんてできないよ……!」
『リヒター少尉!この子をすぐに連れて行ってくれ!』
これ以上は見ていられない。
少年の悲痛な叫びが聞こえたが振り返らず小隊本部の方へ歩き始めていた。
いや…振り返られなかったのかもしれない。
迎えに来たワルキューレの前で生き残った兵たちが休息をとっていた。
『グレイ少尉…よくお戻りになられました。』
フォス先任軍曹の顔にも疲労の色が浮かぶ。
『少尉・・・あなたが死ねば・・・・ここにいる皆が・・・・いやオーギュストやブルーノの隊も困るんですぞ。』
『……だが、結果としては持ち直した。』
フォス先任軍曹は何か言おうと口を開きかけたが途中で止めて大きく深呼吸した。
『とにかく・・・・独断専行は控えて…いや止めていただきたい。』
『努力する。』
今日は妙に長い一日だった。
さーてお待たせしました!かるーく世界観の説明回!
簡単に書けると思ったら大間違い…!
書き始める前は…世界観の説明して、カッコいい出撃シーン書いて、カッコいい戦闘シーン書いて、あとなんかカッコいいアレを書くだけですよ?
楽勝やろ。
と思ってました。
全然そんなことなかった。
カッコいい場面そのものは頭に浮かぶんですよ。
問題は、そこまで自然に持っていくのが死ぬほど難しい。
そして自称ライトなミリタリーフリークの私、いざ小説にしようとすると知らんことが出るわ出るわ。
「あれ? 軍隊って実際こういう時どうするんだ?」が頻発しまして、そのたびチャッピーに泣きついておりました。
なお遅くなった理由の一部として、趣味でチャッピー相手に猥談をかまして、それを大真面目に添削されていた時間などもございます。
まあこれは無駄のない無駄な動きなので置いておきましょう。
それよりですよ!
前に「心情描写の練習したいから課題くりゃれ」と頼んだところ、これが思いのほか面白くてですね。
その甲斐あってか、今回の後半は以前よりかなりスルッと書けました。
心情練習、効果大です。
そして今回たびたび登場したシャベル。
名前だけ聞いてもたぶん皆さん
「……シャベル?」
となっていると思うので、種明かししますと。アレですよ塹壕戦で縁を研いで使うアレですよ。
ドイツ軍の白兵武器ったらあれでしょうて!
……というわけで、今回はここまで。
ちょっと今は完全に燃料切れなので、次回予告はありません!
次の話は……少し休んでから考えます。
それでは皆さん、また次回!




