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失ったもの、拾ったもの

今日はおかーさんと、久しぶりに帰ってくるおとーさんを迎えに行く日だ。

おとーさんの船が帰ってくるから、南澪《なんれい》まで迎えに行く。

おとーさんは、みおうのたたかうお船の偉い人なんだ!

自慢のおとーさん。

早く会いたいなぁ。


そだ!


友達のユウが今日、南澪《なんれい》に遊びに行くって言ってたから、おとーさんの船が帰ってきてるか聞いてみよう!


「友達のユウに電話をかけて」

「わかりました」


柔らかい女性の声で携帯端末がそう答えると、ホログラム通話モードが起動する。

淡い光が空中に立ち上がり、友達のユウが映った。

その向こうには、港に停泊する灰色の船もよく見える。


「ユウ! こんちわー! そっちはどう? おとーさんの船、帰ってきてる?」


「ルイじゃん! ルイの親父の船、もう着いてるよ! やっぱみおうの船はでっかいよなぁ。隣のらいひの船なんか比べ物になんない。でもどっちもすげーカッコいいよね!」


「もうおとーさん帰ってきてるんだ! 早くそっちに行かなきゃ!」


「早く来いよー! 一緒にすいぞっ――」

ブツリ、とホログラムが消滅した。


端末の画面に浮かんだのは、ただ一言。

――SIGNAL LOST――


「あれ? ユウ? ユウ?」

途中で切れた?

ユウ、間違って機械壊しちゃったのかな?

まあいいや。

はやくおとーさんを迎えに行かなきゃ!

ハンガーから服をつかみ取り、急いで着る。

特別な時しか着ない、お気に入りだ。


そのまま駆け足で階段を下りて、リビングへ飛び込んだ。

おかーさんはテレビを見ていた。

「おかーさん! おとーさん、もう帰ってきてるんだって。ユウが言ってた! 早く迎えに行こうよ!」


「そんなに急かさないでよぉ。さっき掃除終わったばっかなんだからぁ」

おかーさんはソファに深く沈み込む。


「おかーさん充電モード入りまーす」


「もー、なに言ってんのさー! いつもは急げ急げうるさいのにぃ!」


「はいはい、わかりました。でもおとーさんはまだお仕事あるから、今行っても会えないわよー」


「かんけーないよ! おとーさんのかっこいい船を早く見たい!」


「しかたないねー。あっ、おかーさん充電終わりましたー。動けまーす」

「行こっか!」


「うん!」


家を出て駅まで歩き、迷都区《めいとく》方面へ向かう電車に乗る。

余渡《よと》運河を渡れば、もう迷都区《めいとく》だ。

ルイは窓に張りつくようにして車窓を眺めていた。

その時、遠くで何かが光った。


あれ?

この先って南澪《なんれい》だよね?

なんか光がチカチカしてる。

花火でもやってるのかな?


運河を渡り終える頃には、建物に隠れて見えなくなった。

そこからしばらく電車に揺られれば、南澪《なんれい》港はもう近い。

でも、さっきまでと電車の中の雰囲気が違っていた。

大人たちはみんな端末を見ている。

顔をしかめる人。

何度も画面を触っている人。

誰かに電話をかけている人。

泣いているおばさんもいた。


……なんだろう。

おとーさんの船が帰ってきたから、もっとみんな嬉しそうにしてると思ったのに。

南澪《なんれい》駅に着いた時、いよいよ様子がおかしくなった。

列車の扉が開く。

代わりに入ってきたのは、黒い服を着た男が三人。

一人は制帽をかぶり、他の二人はヘルメットを被っている。

その手には短機関銃が握られていた。

帝国《ライヒ》の憲兵だ。

「乗客の皆さん。南澪《なんれい》港でテロが発生しました。安全確保のため、皆様にはこのまま引き返していただきます。異議申し立ては受け付けておりません。」

抑揚のない声が、車内に響いた。


えー。

ってことは、おとーさんに会えないの?

そんなの嫌だ!


ん?

あれって……?


ふと窓の外を見る。

大勢の人が、我先にと何かから逃げている。

その向こうには、黄色と黒のストライプ塗装が目立つ港湾作業用の荷役機械が何台か見えた。


そして、逃げ惑う人たちをかき分けるようにして、逆方向へ進む一団がいる。

みんな同じデザインの紺色の服を着て、その手にはライフルを握っていた。

その中に、一人だけ。

黒い服をまとい、制帽を被った男がいる。

一団の先頭に立って、荷役機械の方へ向かっていた。


あ……!

おとーさんだ!

……なんだか、へんな感じがする。


このままだと――もう一生、会えなくなる気がする。


考えるより先に身体が動いた。

憲兵の隙をついて、ルイは車外へ飛び出した。

「ルイ! 待ちなさい!」

おかーさんに呼び止められた。

嫌なこった。

後ろでおかーさんと憲兵さんが何か大きな声で話していたけど、よく聞こえなかった。


おとーさんに会える……!

なんだろう……!

ここで頑張らなきゃ、絶対後悔する気がする……!


「おとーさーん!!」

黒い服の男が、こちらを振り返った。


「ルイ!」

男はすぐにしゃがみ、両手を大きく広げる。

ルイはその胸へ飛び込んだ。

強い腕が、我が子を抱きしめる。


「ハァ……ハァ……ハァ……えへへ……会いたかったよ、おとーさん」


「ルイ……ああ……俺もだ……」


「あなた!」


「ナギサ!」

ルイの母、月城ナギサがこちらへ走ってくる。

さっきの憲兵も、その後を追っていた。


「あなた……!」


「ナギサ……!」


ルイの父、月城カイルは立ち上がると、今度は妻を強く抱きしめた。

「中佐のご子息でしたか……。」


若い憲兵士官は、ルイとカイルを交互に見た。

「そちらの女性がおっしゃっていたことは事実だったのですね。ですが――規則は規則です。民間人をこれ以上、港湾区画へ入れることはできません。」


カイルは一瞬だけ眉をひそめた。


「……それについては君が正しい。すまなかった。」


「あなた?」


「だが、もう会えた。それで十分だ。」


カイルはそう言って、ルイの頭をくしゃりと撫でた。


「失礼だが、君は?」

「カール・リヒター。帝国《ライヒ》憲兵少尉であります、月城中佐。」


「リヒター少尉、と言ったな。」


「はっ」


「妻と息子を安全区域まで頼めるか」


リヒターは一瞬だけ目を見開き、すぐに踵を揃えた。

「……承知しました、月城中佐。ご武運を。」


カイルはもう一度、ルイへ向き直った。


「ルイ。とうさん、すぐに仕事を終わらせてくる。それまでかあさんと待っていてくれ。わかったな?」


「うん! 早く終わらせて帰ってきてね!」

「あっ! とうさんが僕を待たせたんだから、今日の晩御飯は僕の好きな物にするよ! いいよね!」


「ああ。なんでも好きな物をご馳走してやるよ。」


「やった!」


「ナギサ。この子を頼むぞ」


「あなたも……。さっき憲兵さんから聞いたんだけど、大変なことになったね。」

ナギサは笑おうとした。


けれど、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「ほんとに……怪我なんてしないで帰ってきてね。」


「ああ。」


二人はもう一度、強く、強く抱き合う。

ルイには、それが少しだけ不思議に見えた。


だって、おとーさんはすぐ帰ってくるのに。

今日の晩ごはんだって、約束したのに。


「さあ、行った行った! とーさんはこれから仕事の時間だ!」


とーさんはそう言うと紺色の服を着た人たちと一緒に歩いて行った。

なんでかはわからないけど寂しい気持ちになった。


「さあ二人とも駅までご同行願います。」


「……わかりました……。ルイ。行くよ。」

かあさんに手を引かれ歩き出す。



一行が駅に向かって少し移動したところで異変が起きた。


キュルキュルキュルキュル……ヴォォォォンン。


排気管から黒い煙を吐き出し黄色い巨人が立ち上がった。


傍らに停めてあった荷役用重機が動き出したのである。

操縦席には誰も座っていない。


異常を察知した憲兵の動きは速かった。ヘルメットを被った憲兵が二人の前に立ち、手にした短機関銃を黄色い巨人に向ける。


「リヒター少尉! これが……報告にあった!」

憲兵の一人が叫ぶ。


「……恐らくそうでしょう! 二人とも走ってください!」


「……! わかりました!」

「ルイ!」


かあさんが僕を抱きかかえて走り出した。後ろの方ではパンパンパンと聞いたことのない音が響いた。


「かーさんどうしたの? なんでそんなに急いでるの?」


「……いいから……! 早くここから逃げるのよ……!」


怒ってる時の声だ。ぼく何か悪い事したかな?


ヒュンと何かが飛んできてすぐそばのコンテナに当たって大きな音がした。


えっ……?

さっきのヘルメットの憲兵さん?

何が……起きてるの……?

あの赤いのは……血……?


「ルイ! 見ちゃダメ!」

かーさんは僕を強く抱きしめた。


黄色い巨人が腕を振った。

何か黒いものが飛んでくる。

ドンっ!


すぐ近くで大きな音がしてかーさんは僕を抱いたまま倒れた。


「かーさんどうしたの。重いよぅ。」


あれ?なんだかあったかいのが顔に……?これは……血……?

だれの?ぼくは怪我してないのに。どこも痛くないのに……。


「かーさん?どうしたの?重いからどいてくれない?逃げなくていいの?」


「……るい……ごめんね……かーさん……失敗しちゃった……とーさんとの約束……守れな……いかも……。」


かーさんのからだを押しのけて這い出した。


「かーさん! 頭から血がいっぱい出てるよ!」

「かーさん……待ってて! すぐに大人の人を呼んでくるから……! ちょっとの間我慢しててね……!」

かーさんが弱々しく僕の頬に手を当てた。


「んーん……もう……良いの……かーさんは……もう……だめだから……。」


「るい……よく……聞いてね……かーさんの分まで……生きて……困って……る……人を……見捨て……ない……優しい……子に……育つのよ……。」


「わかった! わかったから!」

「すぐにお医者さんを呼んでくるから!それまで……それまで……。」


あれ?涙が……とまんない。


「つよいこ……なんだから……ないちゃだめ……。」

「はやく……ほかの人の……ところに……。」


「ダメだよ……かーさんを置いていけないよ……! 僕も……ここにいる……!」


「言う事を……聞きなさい……最後の……お願いよ……逃げ……。」


頬を撫でてたかーさんの手がストンと落ちた……。


嘘だ……嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!


「うわぁぁぁぁぁかーさーん!」


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!


「死んだふりなんかやらなくていいから! 一緒に逃げようよ! 一人は嫌だよぉ!!」

「とーさんとご飯食べに行く約束したでしょ!! 約束破るのはダメだっていつも言ってるじゃない!」


悲しくて悲しくて涙が止まらない。


ゆるさない……ゆるさない……ゆるさない……ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない!


あの……黄色い巨人がかーさんを……かーさんを!


「きみ! 早く逃げますよ!」


あっ……帽子の憲兵さん……。あの腰に付けてるの……たしかてっぽう……。


ホルスターに手を伸ばしルイはその拳銃を握りしめた。


「あっ! きみ! 止めなさい!」


こわしてやる……こわしてやる……こわしてやる……こわしてやるこわしてやるこわしてやるこわしてやる!


渾身の力を込めてトリガーを引いたルイ。


しかし銃弾は発射されず、代わりに生体認証に失敗した旨のメッセージが流れるだけだった。


何度も何度もトリガーを引くが拳銃は応えてくれない。


ルイの目の前まで来た黄色い巨人は右腕を大きく天に掲げ、ルイ目掛けて振り下ろす。


ごぅぅぅぅん!


鉄と鉄のぶつかる音。たまらず体勢を崩し倒れる黄色い巨人。

本来ならば人が座っている場所に巨大な斧が突き刺さっていた。


なに……今の?


ルイはその鉄塊が飛んできた方向に視線をやる。

そこには別の巨人がいた。ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

一歩、足を進めるたびにズシンと重い音が響く。シリンダーが伸縮するたびに空気が漏れ、アクチュエーターがキュウ、と鳴く。

その色は暗いグレー。頭部のセンサーアイはまるで怒りを湛えているように赤く揺らめいていた。

その肩には帝国《ライヒ》の国章とひび割れたルークを模したエンブレムがあった。


ギリギリと嫌な音を立てて黄の巨人が起き上がった。

足元には作動油が溜まっている。


『……やはり……完全に破壊しなければ危険か……。』


そう呟くと灰の巨人はゆっくりと黄の巨人へあゆみを進める。


黄の巨人が腕を振り上げ……振り下ろした。

灰の巨人は左手で受け止める。


鉄と鉄のぶつかる重々しい音が響いた。

灰の巨人の足元のアスファルトがひび割れている。

ギリギリと腕が軋む音がする。相当な力が掛かっているのだろう。


灰の巨人は右手を固く握り込むと黄の巨人の腕関節へ向けて拳を叩き込んだ。


バキンと音を立てて関節は簡単に砕け散り、あたりに部品をまき散らした。


そのまま灰の巨人は操縦席に刺さったままの斧を引き抜く。


『……ふー……フンッッッ!』


ガゴォンッ!!

左腕が根元から切断される。


ガゴォンッ!!

右腕が。


ガゴォンッ!!

左足が。


ガゴォンッ!!

右足が。


ガゴォンッ!!

最後に胴体を。


全てが終わったあとには返り血のようにも見える機械油を全身に浴びた灰の巨人とただの鉄屑だけが残っていた。


うわ……うわ……。

なんだあれ……?

あんなに大きな機械を……玩具みたいにバラバラにしちゃった……。

……怖い……。


灰の巨人がルイのもとへゆっくり近づく。


『……間に合わなくて……すまなかった……。』

その声にはどこか慙愧の念が籠っていた。


『……少尉、この子を連れて行ってくれ。この先のセクターに救援が来ている。』


「了解しました……グレイ少尉もお気をつけて。」


『さあ……君も早く行きなさい。』


「……嫌だ……嫌だ……嫌だ嫌だ!」

「だってかーさんがまだここにいるじゃないか!一人にできないよ!かーさんも一緒に行くんだ!」


『……いいかい少年……君のおかあさんは死んだんだ。もうここから動けない。』


「嘘だ!血がいっぱいでてるけどお医者さんなら治せるよ!動けないならここにお医者さんを呼べばいいじゃないか!すぐに呼んできてよ!」


『いい加減にしないか!』

灰の巨人が吠えた。

あたりの空気が震える。


『このままここに居たら君も危ないんだ!』

『きみのおかあさんはそれを望んでいたと思うか!?』


「ううっ……でもでも……一人になんてできないよ……!」


わかってる。もうおかーさんは死んじゃったことを。

もうぼくにどうにもできないのはわかってる。


『リヒター少尉!この子をすぐに連れて行ってくれ!』


リヒターがルイの腕をガッシリと掴む。


「……! 何するんだよ!離せよ!バカ憲兵!ぼくにさわるな!」


「……いいから行きますよ……。」


「離せよ!離せって!おとーさんは澪央《みおう》の偉い人なんだぞ!言いつけてやるぞ!」


「もう諦めなさい!」


「ううっ……うわあああああああああん!おかーさーん!!」






「かあさん!」


ルイは叫んだ。

返事はなかった。


「…………」

暗い天井。所々破れているマットレス。

地下特有のよどんだ空気。


ルイは荒い息を繰り返しながら思い出した。

あの日じゃなかった。


クソっ・・・なんであの日の夢を今頃……。


身の回りを確認する……何も盗られてない。

特に大事な食料は……無事だ。靴も……無事だ。


ここに来た頃は何もわかってなかった。雨風をしのげる廃墟で寝ていたらそこを根城にするグループに叩き起こされて殴られるわ蹴られるわで……やっと見つけた毛布も奪われていた。


それからは迷都区《めいとく》の地下に広がる大昔の地下街で暮らしている。

地元の人間でも迷うから立ち寄る者はほとんどいない。

なぜだか俺は迷ったことが無い。


あっ……水が切れていた。汲みに行くか。


地下街の隠れ家から俺しか知らないルートを使って地上へ出る。

地下の暗さに慣れた目にはひときわまぶしい。


遠くには澪央《みおう》中央駅とひときわ大きな塔が見える。

俺は……前はあっち側の人間だった。この2年で何もかもが変わった。


一度でも空を飛んだことのある者は空を見上げて生きて行く。

なぜならもう一度そこに戻りたいと願わずにはいられないからだ。


廃墟と大差ないような小屋が並ぶスラムを歩く。

壊れた配達ドローンからモーターを取り出してる子供たちが居た。

あれは手軽でいい。道具が無くても取り出せるし需要もある。


そろそろジャンク品もたまってきてるな……あのジジィの所に売りに行くか。

あのジジィ……平気でだましてくるから油断できねぇ……ジャンクを買い取ってくれるのはあのジジィしかこの辺に居ねぇから仕方ねぇが……思い出したらイライラしてきた。


埃で汚れた大型ディスプレイから帝国《ライヒ》の国営放送が流れている。


『子供たちは、帝国《ライヒ》の宝です。』

『すべての子供に教育を。』

『すべての子供に温かな食事を。』

『すべての子供に、安心して眠れる家を。』


音声が空しく響く。

それを気にも留めずゴミを漁る子供が居る。


まったく皮肉が効いている。


ん……?あれは……?


数人のグループに囲まれた子供が一人。

薄汚れた金髪の子供が壁を背に座り込み、その周りを数人の子供が囲んでいる。


俺にはかんけーねーよ。ここじゃ弱いやつは生きられねぇ。


傍を通り過ぎようとしたとき。


金髪の子供が殴られて地面に倒れる。

ルイの足が一瞬止まる。


『かーさんどうしたの。重いよぅ。』


っ……!


いや……関係ない……。


そのまま歩き出す。


『困ってる人を……見捨てないで……』


「……クソッ!」


「おめぇら何やってんだよ!」


「やっべ! ルイだ。関わったら碌なことがねぇ……おい、お前ら! 行くぞ。」


「いや待てや! こんな年下をよってたかって何やってたんだよ!」


「……こいつが俺らの飯を盗んで逃げたんだよ……明日の分まで一人で全部食いやがった。」


「いや、そりゃおめえらが悪いよ。盗られるようなヘマしてたらここじゃ生きて行けねぇのはよーくわかってるだろ!」


「でもよぉルイ! ここのルールも知らねぇ新参者だぜ?こんなやつが居てもおれらの飯が減るだけで良い事ねぇよ!こんなやつさっさとくたばっちまえばいいんだ!」


座り込んでる金髪の少年の体がビクッとする。震えてるようだ。


「……っ……仕方ねぇなぁ……3番街の入り口の食堂があるだろ?今日は最近入ったノロマしか居ねぇ。今から行けばちょうど残飯捨ててる時間だ。お前らなら上手くやれるだろうよ。」


「……マジかよルイ……ホントだろうな?」


「俺が嘘言ったことあるか?」


「っ……仕方ねぇ! おい!金髪のおまえ!今度やったらただじゃおかねぇからな!行くぞ!」

リーダー格のガキがそう言うと手下を纏めて帰っていった。


「……お前、あいつらの飯盗んだのか?捕まるなんてドジな奴だな。」


そっと手を差し伸べる。


「立てるか? 立てるんだったらさっさと動けよ。またあいつらが戻ってくるぞ。」


金髪の少年がルイに視線を向ける。

頬はわずかにこけ、目の下には濃い影が落ちていた。

乾いた唇は白くひび割れ、こちらを見る目は濁っていた。


俺がここに来た頃にソックリだな……あの頃の俺に。


「……はぁー、しょうがねぇなぁ……。こっち来いよ。」


少々強引に腕を引っ張り立たせる。


――ここの店のゴミ捨て場な?この前鍵ぶっ壊してやったから朝と夕方にくりゃあなにか食い物は手に入るー


――あの公園、普段は人が居ねぇがたまに炊き出しやってる。他よりも人が集まらねぇから並ぶならあそこだなー


――水は飲む前に臭いを嗅いでみろよ変な臭いがしなきゃ飲める。口に含んですこしでもおかしいと思ったらすぐに吐き出せよー


「今教えたところはオメェみたいなのろまでも楽に食い物が手に入るから覚えとけよ。」


金髪の少年を引っ張りまわしてとりあえず食べ物が手に入る場所を教えた。

ほんとは教えたくないんだけどなぁ


「そんでココはおれの水飲み場だ。」


クレーターの中に折れた水道管が見えた。そこからチョロチョロと、少量だが水が流れ出ている。


「あーお前もここ使っていいよ。一人くらいなら大丈夫だから。」

そう言いながら、途中で露店の店頭からくすねてきたパンを齧る。


「……おなかすいた……。」

少し高い澄んだ声が聞こえた。


初めて少年が喋ったのだ。

あ……あいつ! 口が利けたのか!


「なんだ……喋れんのかよ……しゃあねぇな。」


齧っていたパンを半分千切って渡す。


「ほれ。今日はサービスだ。明日からは自分で手に入れろよな。」


受け取ったパンを少年はガツガツと貪り食う。


「そんなに慌てて食うとのどに詰まるぞ。」


……ほら言わんこっちゃない。


「ほらよ。」


使い古されてボコボコになったアルミカップに水を注いで渡す。


一息に飲み干すと、少年が一言。


「……ありがとう……。」

それだけ言うとどこかへ走り去っていった。


一応……礼も言えたんだな。

しっかし……一日無駄にしたなぁ……今日は帰って寝るか。


次の日……一日の日課を終えて水飲み場に寄ったらあいつが居た。

手にはパンと人工肉のパウチが一つ。


その両方をこちらに差し出す。

「……ん!」


「んって、お前……自分の食う分はどうするんだよ!」


「昨日のお礼!」


「いや、そんなの受け取れねぇって……!」


「じゃあ、ここに置いていく!」


そう言うと足元に食料を置いて走り去っていった。

脚は速えんだな。


また次の日も。


また次の日も。


毎日毎日食料を持ってくるそいつと、俺はいつの間にか行動を共にするようになってた。


そんな日々を繰り返し、しばらく経ったある雨の日……あいつが来なかった。

まあそんな日もあるかと思ったが次の日も来なかった。


さすがに気になって探しに出かけた。とりあえず雨を防げる場所を――と思い、心当たりのあるガード下をしらみつぶしに探していく。


居た。


ガード下の壁際で、膝を抱えるようにしてうずくまっていた。

濡れた髪が額に張りつき、肩は小刻みに震えている。

手に触れると指先はひどく冷たい。けれど、首筋にはじっとりと熱がこもっていた。


「おい! どうしたんだよ! 熱があるじゃねえか!」


ぜぇぜぇと苦しそうに息をするだけで返事はない。


ああもう……!


肩に手を回し隠れ家まで連れて帰った。

薬など無いし医者の当てもない。

とりあえずずぶ濡れの服を脱がして体を乾かしてできるだけ厚着をさせて……飯を食わせて……あとは本人次第だ。ここではただの風邪で死ぬのは珍しくない。


濡れた上着をどうにか脱がせ、ルイは拾ってきた布で肩や腕の水気を拭っていく。

シャツに手をかけたところで、動きが止まった。

服の下。胸元には、古びた布がきつく巻かれていた。

一瞬、何のためのものか分からなかった。

だが、少し考えて――ルイは目を見開く。

「……お前」

そいつが薄く目を開けた。

「……女、だったのか?」


「……見るな」


そう言って弱々しく手を伸ばす。

さっきまでろくに動かなかった腕で、胸元だけは必死に隠そうとした。


「わ、わかった! 見ねぇから!」

慌てて毛布を引っかける。


「でも、そのままじゃ死ぬぞ!服だけは替えろ!見られるのが嫌なら自分でやれよ!」


返事はなかった。


っ……どうすんだよこれ。



数日もすると熱はほとんど引いていた。まだ足元は覚束ないものの、支えなしで数歩なら歩ける。

顔色はまだ悪い。

だが峠は越えたようだ。


「おい……。」


「ん?」


「なんで助けた?」

ガラガラの声でそう問いかけてくる。


「さーな。よくわかんねぇや。ただ……死なれちゃ気分が良くないからかな……?」


「お人好しめ……それよりあのこと、もしバラしたら……。」


「何のことだ?俺は何も見てねぇよ。」


「……それならいい。」


「なあ・・・?」


「げほっ……なんだよ?」


「お前……ここで暮らさねぇか?」


「はぁ?なんで?」


「帰るとこねぇんだろ?」


「ここなら雨風もしのげるし、人もめったに来ねぇから安心だぜ。」

「お前なら自分の食い物くらいなら自分で探せるからここにいてもいいぜ?」

何日か一緒に行動したがこいつは優秀だ。

こういうやつが一人でも仲間に居ると助かる。


……それに……あの頃の俺みたいで……捨てておけない……。


「……わかった……ここでくらす……。」


「そーかい」

「じゃあ名前を教えろよ。いつまでも『おまえ』とか『あんた』じゃやりにくいだろ?」


「……嫌っ……」


「嫌って……それくらい教えてくれても良いだろうが……。」


「嫌なものは嫌なの。」


まいったなぁ……。

……しゃあねえか……。


「……ナギ……。」


「えっ……?」


「今日から俺はお前のことを『ナギ』って呼ぶから! 嫌かどうかは知らん! せめて呼ばれたら返事くらいしろよな!」


ナギは小さく頷いた。


「じゃあもう寝ろ! 明日も忙しいんだから!」


――次は・・・次こそは絶対に最後まで守り抜いてやる――


サテサテ第2話です。


カクヨムでは4話まで投稿してますがそれまでの間に描画練習を繰り返したし、話の作り方がおぼろげながらわかってきたので今の目で見ると稚拙ですね・・・・いや今もそんなに変わりないか?


今回のお話は主人公、月城ルイの生い立ちと簡単な世界観の設定を散りばめてみましたがどうでしたでしょうか?



初めて小説を書いておりますが、ダラダラと説明を記述するのは悪手であるのは私のこれまでの読書経験から明らかでしたのでその点は気を使ってます。

読者の皆様におかれましては疑問が尽きないかもしれませんがその疑問は後々解消される・・・・かもしれません。


第1話はとりあえずお試しという事でカッコいいアクションの書き方の練習のつもりで書きましたのでストーリーも単調でしたが第2話はガッツリストーリーを書かなければいけないので慣れない事に四苦八苦でした。


途中5000文字くらいまで書いたタイミングで”いやこれおもんねぇな?”と考えて全部消して書き直したのはいい思い出です。



実際、最初の草案だと山もなく谷もなく平坦な道を飾り立てただけのたいへん面白みに欠ける話で・・・そのくせグロ描写だけはじっくりねっとり書き込むという・・・グロ描写にだけ異様な熱量が注がれた、作者の性癖だけ元気な原稿でした。



そこでいろいろギミックを盛り込み始めた所・・・大したセリフもなく序盤に死んでルイのトラウマになるだけだった月城ナギサはルイの今後の性格形成に大きな影響を残すキャラクターとなりました。


更に父親の月城カイル!これは個人的に創作の楽しさを存分に味わえてたキャラクターですよ!

最初の草案ではちょっと喋って車に潰されるだけの存在でしたが作者の悪乗りが重なって最後には


”ミオウ皇国海軍1等巡洋艦”新高山”艦長で南澪地区で起きた事件の際に陸戦隊を率いて事件終息に尽力した。”


ここまで膨らみましたからね!あっ船の名前はとかは仮です。めっちゃ近未来な高雄型のイメージです。ホタルの墓かよ。


そしてここまでやって・・・当初の着地点の半分くらいまでしか進んでません。

あまりにこの前半が面白すぎて、筆が乗りすぎて・・・後半に分割せざるを得ませんでした。


ほんとは次の話で作者肝いりの新キャラ出す予定でしたがそれはまた今度。


さて次回予告。


南澪から生き延びた月城ルイを待っていたのは、また地獄だった。

破壊の跡に住みついた欲望と暴力。

併合戦争が産み落としたソドムの街。

悪徳と野心、退廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけた。

ここは澪央皇国のゴモラ。


次回「迷都”メイト”」

来週もルイと地獄につきあってもらう。


ご期待ください。

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