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第2話 二人の芳乃

まだ、今よりもずっとずっと昔。

その頃から、一本の木が立っていた。

今ほど大きくはなかったけれど、幼い芳乃にとっては、見上げなければてっぺんが見えないほどの大きな木だった。

五歳くらいだった芳乃は、その日も一人で木のそばにいた。

何をして遊んでいたのかは、もう誰にも分からない。

ただ、その日。

いつもと同じはずの木の下に、見たことのない少女が立っていた。


「……だれ?」


芳乃が尋ねると、少女も驚いたようにこちらを見た。

少し変わった服を着ていた。

この辺りでは見たことのない服だった。

けれど、不思議と怖くはなかった。

少女は辺りを見回した。

まるで、ほんの少し前までまったく違う場所にいたように。


「ここ……どこ?」


芳乃は首をかしげた。

少女の方こそ、どこから来たのだろう。

家の人とはぐれたのかもしれない。


「お名前は?」


幼い芳乃が尋ねる。

少女は少し迷ってから答えた。


「芳乃」


「……え?」


「私、芳乃っていうの」


芳乃は目を丸くした。

そして、自分を指さした。


「わたしも、よしの」


今度は少女の方が驚いた。

二人はしばらく顔を見合わせ――やがて、どちらからともなく笑った。


同じ名前。

ただ、それだけだった。

それなのに、ずっと前から知っていたような、不思議な感じがした。

二人は木の下で話した。

何を話したのか。

どれくらい一緒にいたのか。

そのすべてを、後の芳乃が覚えていたわけではない。

けれど、一つだけ。

別れ際に交わした言葉だけは、いつまでも忘れなかった。


「また会えるかな」


少女が言った。

幼い芳乃は、大きくうなずいた。


「うん。また会おうね」


その直後だった。

風が吹いた。

木の葉が大きく揺れた。

芳乃は思わず目を閉じた。

そして、もう一度目を開けたとき――

少女はいなくなっていた。


「……芳乃ちゃん?」


呼んでも返事はない。

残っていたのは、いつもの木だけだった。

幼い芳乃は、その木を見上げた。

また会おう。

たった一度出会った、自分と同じ名前の少女との約束。

一方――。

消えた少女は、再び流れる時間の中にいた。

どこへ向かっているのか。

今どこにいるのか。

自分でも分からない。

ただ、遠ざかっていく意識の中で、少女は誰かの声を聞いた気がした。

――また会おうね。

その声も、木の下で過ごした時間も、やがて深い霧に包まれるように遠ざかっていった。

けれど、すべてが消えたわけではなかった。

名前を呼ばれたこと。

誰かと笑ったこと。

そして――大切な誰かと、約束を交わしたこと。

理由の分からない懐かしさだけが、少女の心の奥深くに残った。

そして長い時を経ても。

あの日、二人の芳乃を見ていた一本の木だけは、

その約束を忘れなかった。

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